ニホンライチョウ 冷凍精液用いた繁殖成功 個体数減少の歯止めに
横浜市繁殖センター(尾形光昭所長)=旭区川井宿町=はこのほど、東京都恩賜上野動物園や富山市ファミリーパーク(富山県)などと協力して、冷蔵した野生ニホンライチョウの精液を用いた人工繁殖に成功した。日本初で、絶滅が危惧される同種の減少に歯止めをかける狙いだ。
ニホンライチョウは日本の固有種で、北アルプスをはじめ、本州中部の高山帯に生息するキジの仲間。環境悪化が原因で個体数を減らしており、2000年代には約1700羽に減少。近い将来、野生での絶滅の危険性が高いとされる絶滅危惧IB類に指定された。
絶滅危惧種を管理する環境省は14年、「生物多様性保全の推進に関する基本協定」を動物園や水族館で組織される(公社)日本動物園水族館協会と締結した。よこはま動物園ズーラシアの敷地内にあり、同協会に加盟する市繁殖センターはニホンライチョウの繁殖に長年取り組んできたとして、「生息域外保全」プロジェクトに2021年から参加。野生のオスから精液を採取し、飼育下の個体に人工授精ができるかを上野動物園と協力して調べることになった。
数年かけデータ収集
プロジェクトに参加した同センターの石井裕之さんは、「1羽から精液がどれほど取れるか、冷蔵でどれくらい持つのか調べる必要がありました」と振り返る。石井さんと同センター獣医師の田坂樹里さんは、キジ科の人工授精に長けたズーラシアの技術を学んだほか、精液採取に関する先行例を調べるなどデータを収集した。
日本各地で飼育されているニホンライチョウは、乗鞍岳に生息していた個体から繁殖させたため、自然に近い状態で計画を進める必要がある。そのため、石井さんと田坂さん、上野動物園、富山ファミリーパーク、環境省のスタッフなど12人は繁殖期の5月25日と26日に乗鞍岳を訪れ、6羽の野生個体から精液を採取した。
この精液は冷蔵された後、乗鞍岳から最も近くでライチョウを飼育している富山市ファミリーパークに4時間かけて輸送され、雌5羽に注入。6月28日に2羽の雛が誕生した。
石井さんは、「精液の採取ができれば上出来と考えていたが、年内に繁殖にまで結びつくとは」と話した。今後の課題として、自然環境と飼育下での受胎率の違いなどあるため、理由を調べて絶滅を防ぐ手段を模索するという。