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緑間玲貴・前田奈美甫に聞く~沖縄で芸術の灯を守った「トコイリヤ ARt MOViEng』+『トコイリヤ RYOKI to AI vol.6』がもたらした未来への新たな希望

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(左から)前田奈美甫、緑間玲貴 (撮影:真島由佳里)

2020年2月末からコロナ禍で多くの公演が中止・延期となった。沖縄を拠点とするバレエ・アーティスト緑間玲貴(みどりま りょうき)も7月23日(木・祝)、国立劇場おきなわで予定していた公演が難しくなった。だが「芸術の灯は消せない」と訴え、バレエ作品の新規映像制作&劇場からのライブ配信による「トコイリヤ ARt MOViEng(トコイリヤ アート ムーヴィング)」を行い、さらに劇場公演『トコイリヤ RYOKI to AI vol.6』も実現した。7月23日(木・祝)~25日(土)に宜野座村文化センターがらまんホールで催され、沖縄から芸術再生の狼煙を挙げたプロジェクトを緑間と公私のパートナー前田奈美甫(まえだ なみほ)が振り返る。

■新たな形式での活動を探る日々

「トコイリヤ」とは、「バレエ、琉球舞踊、日本古来の巫女舞、観音舞などの各舞踊に共通する「眞・善・美・愛」の世界観を基に、新たな世界観を生みだす舞踊作品を継続的に創造することを追求し、国内外に発信をしている」バレエ企画公演。“踊りとは祈り”を体現する緑間独自の世界を立ち上げ、2015年以来5回にわたって東京・沖縄で催されてきた。平成29年度と令和元年度には文化庁芸術祭参加公演(関東参加公演の部)に選ばれている。

4年ぶりの沖縄公演は前記した通り当初7月23日(木・祝)に国立劇場おきなわで行われる予定だったが、コロナ禍で開催が危ぶまれた。そこで「トコイリヤ ARt MOViEng」として映像を用いた新企画に差し替えることが4月下旬に発表された。

緑間玲貴(以下、緑間) 延期は難しく、それに「中止」とは言いたくなかったんです。芸術をやっている人間が、何かがあったからといって止めることを自分の口から言うなんてあり得ない。私たちは何かを発信し、創り、届けなければいけないという想いが先行していたのですね。そこで、なにがしかの芸術活動に切り替えるという結論に至り、レパートリーを映像作品にしようと考えました。そこから「ARt MOViEng」という言葉が生まれました。

「ARt MOViEng」とは、ART (芸術) 、AUGMENTED REALITY(拡張現実感) 、MOVIE (映像)、 MOVE (動く)、 MOVING (感動を呼び起こす・引越) からなる造語。緑間はポリシーとして無料で何かをするという選択肢はなかったという。そして、まだ国立劇場おきなわでの公演も模索しながら準備を進めた。

前田奈美甫(以下、前田) 緑間と似たようなことを考えていました。劇場公演ができない場合、映像作品を撮ったらいいんじゃないかなと。配信という話が出た時、興味がありました。

『Lumières de l 'Est~東方からの光~』(左から)緑間玲貴、前田奈美甫 (撮影:仲程長治)

沖縄の舞台スタッフに何か月も仕事がない事態を憂慮した。そこで彼らに声をかけ、通常の公演に近いムーブメントを起こすことを願って行動した。

緑間 毎日情勢が変わるので何かを決定するのは難しかったのですが、最終的に映像を撮る流れになりました。国立劇場おきなわを使って撮影ができるかもしれないという話になり、「劇場でも撮影し、そうじゃないところでも撮って映像作品を創る」と言い続けていたのですが、皆からは「無観客上演の生配信のことでしょう?」と思われました。

映像について特段詳しいわけではなく手探り状態だったが、コネクションを活かし短期間で撮影チームを組むことになる。

緑間 撮影・配信は簡単ではないということが分かり始めました。そこで公演のスチール撮影をお願いしている仲程長治さんに相談しました。最小のテクニックでいかに最大限の効果を出せるかを考えてもらい、沖縄のテレビ番組・映画を製作している会社につないでもらいました。結果的に5台くらいのカメラとそれをスイッチする専門家、編集によるチームができました。

がらまんホールでの撮影風景 (撮影:トコイリヤ制作)

■がらまんホールとの出会い

5月末、緊急事態宣言が解除される頃に、宜野座村文化センターがらまんホールと出会い、そこで撮影+ライブ配信するとともに当初とは一部演目を変えての劇場公演「トコイリヤ RYOKI to AI vol.6」の開催も決まった。宜野座村は沖縄本島の中央に位置する“水と緑と太陽の里”で、がらまんホールは那覇空港から車で約90分ほどの場所に所在する。

緑間 撮影のための劇場を探していたある日、がらまんホール館長の小越友也さんに相談してみたらと何人かに勧められ、すぐにつなげていただきました。すると小越館長が、がらまんホールの運営組織である宜野座村文化のまちづくり事業実行委員会が共催に入ることを条件に貸してくださいました。「使用料はいただきませんし、何をしてくれても構わない。何日使ってもいいです」と。神様の声かなと思いましたよ。

前田 雰囲気のいいホールです。「トコイリヤ」には客席も舞台もすべてベストなサイズ。空気感が温かくて、入った途端に気に入りました。

がらまんホール外観 (提供:がらまんホール)

■映像表現の面白さと難しさ

まず7月23日(木・祝)19:00から「トコイリヤ ARt MOViEng」として「完全撮り下ろしの映像作品」と「無観客の劇場からの生配信」を行った(1週間アーカイブ配信)。通常の舞台とは違い、映像を通しての表現には苦心したという。

緑間 「トコイリヤ」は主にレパートリーを再演しているので、その映像化が企画の柱でした。カメラ5台をコントロールするのは並大抵のことではなかったです。一台一台に何人も付いていて、この人たちが狙うものや画角をスイッチャーが画面を見ながら秒単位で指示を出し続ける。生配信は一発撮りですが、それ以外の作品は何回も撮り直しました。それに、私たちが劇場で目視している灯りとモニターの灯りは明るさや色味が全然違うんです。メイクも通常のものなら死人みたいに怖い顔になってしまう。テクニカルな問題で時間がかかりました。

前田 映像は舞台とは違い撮り直せます。完璧さを求めるので凄く集中できました。別の立ち位置でモノを創ることができていい経験になりました。

緑間 カメラマンやスイッチャーの方々には哲学と美的センスがあります。私が自分の意見を全部通したからといって映像が美しくなるかというと、それは違うんです。それぞれの世界の熟練した匠たちがまとまるのは大変でした。コロナのことがあって、それでも我々は立ち上がらないといけないという想いがなければ無理でしたね。

前田 最初は相容れませんでした。

緑間 皆一つの想いがあり、同じ方向を向いてくれました。こういうことがなければ新しい世界に飛び込むこともなかった。私たちにとって舞台芸術が一番大切だけれど、映像作品として残せることもうれしかった。劇場が動き、何かが起きているというだけで心が楽になり喜びを感じました。生命を削るような大変な数か月の後だっただけに幸せでした。

がらまんホールでの撮影風景 (撮影:トコイリヤ制作)

がらまんホールでの撮影風景 (撮影:仲程長治)

撮り下ろしの映像作品では野外での撮影も行った。

緑間 野外撮影は基本的に宜野座村で行いました。古い祭祀場の跡や普段は立ち入りできない鍾乳洞、松田集落内にある大きなガジュマルの木の側で撮影しました。深夜の12時から準備を始めて寝ずに朝日を待ったりもしました。また虫が凄くいるなかでパフォーマンスをしなければいけないというハプニングもありました。

「ヒーピィー浜」にて (撮影:トコイリヤ制作)

撮影以上に苦慮したのが編集作業だったという。

緑間 配信の1時間くらい前まで編集が続きました。この作業は思い出したくないですね。何日間も寝ていない状態が続いていたので、どうやって全部終わっていったのか今考えても不思議なくらい体力的に限界でした。精神的にも、制作面、予算の面でも本当に大変でした。限界のレベルが広がったというか、ずいぶん成長させてもらった気がします。

「前ヌ御嶽」にて (撮影:トコイリヤ制作)

「クシ墓」にて (撮影:トコイリヤ制作)

■奇跡的に2日間の劇場公演が実現!

7月24日(金)、25日(土)に行った劇場公演ではソーシャルディスタンスに配慮するなど対策を講じ、無事に終えた。

緑間 皆が真剣に体調などに気を使いました。舞台の進め方・創り方もそうですが、お客様をお迎えするにあたっての導線やできる限り接触を避けることに気を使ってやれたと思います。公文協のガイドラインに極めて厳格に近い形で行い、宜野座村の役場の方の監査もありました。新しい体験で大変でしたが、劇場にお客様を迎え入れられた喜びの方が大きかったですね。

前田 前日に無観客のライブ配信をしたので、お客様が物理的に目の前にいないということを体験していました。バレエを始めた時から発表会でもお客様がいるのは当たり前で、そこからこちらに何かエネルギーというか温かいものを届けていただいて、またお返しするという循環があります。その大事さをあらためて感じました。

『四方拝』(左から)緑間玲貴、前田奈美甫 (撮影:仲程長治)

緑間の新作が『四方拝』。沖縄の離島祭祀の記録を復元した舞踊と、宮中で元旦の早朝に執り行われるという東西南北と天地人に感謝を捧げる祭祀に着想を得た。

緑間 以前、皇居に勤労奉仕として掃除に行く機会があり、四方拝という儀式を知りました。645年の大化の改新の頃に確立されたもので、それが始まったのが難波宮でした。ちなみに今回映像収録した上杉真由(大阪在住)の『風儀』の撮影場所が難波宮で、偶然にしても話ができ過ぎていて驚きました。そして沖縄の離島で12年に一度行われていた儀式をたどると、四方拝という名前が残っていて同じことをやっていました。おそらく考え方は大陸からもたらされたのでしょう。沖縄は本土と離れていて歴史と文化が違うので、ともすればいろいろなことを分けて考えてしまいます。でも、そういうものがもっと深いところで繋がっているのかもしれません。

『風儀』(上杉真由作品)を難波宮跡にて撮影 (撮影:トコイリヤ制作)

前田 もともとこの作品は2018年の冬至に浜比嘉島という島の浜辺で奉納して上演したのが始まりです。今回野外撮影も含めた映像と劇場公演の両方で踊りました。映像では外で行う琉球の祭祀のようなイメージから入り、舞台に上がってきた時に平安以降の日本での祭祀の流れを意識しました。人々は古代から同じことをただひたすら祈ってきたんだなということを学びました。何の違和感もなくできました。劇場公演の時は高い台の上で踊りました。

『四方拝』(左から)緑間玲貴、前田奈美甫 (撮影:仲程長治)

■進化&進化するレパートリー作品

宇宙創生の光の誕生と森羅万象を舞台に描く『Lumières de l 'Est ~東方からの光~』は初回から上演し、琉球の民が語り継ぐ世界観をバレエに映し出す『RE BORN「再生」~Bolero~』も上演が続き初演以来4年ぶりに沖縄で上演した。作品を磨き上げ、つねに進化&進化している。

緑間 今回『Lumières de l 'Est』で琉球舞踊の平敷勇也さんが踊ってきたパートを柳元美香さんにも踊ってもらいました。3年前の東京公演のゲネプロで平敷さんの代わりに美香さんが踊ったことがあったのですが美しかったんですね。これもありだなと思ったし、根本的に流れている哲学性は変わりません。『RE BORN「再生」』は、最初に生まれた時とは別の作品かと思うほど違うものになっています。

前田 今回『Lumières de l 'Est』が完成したんだなという感覚がありました。何をもって完成というのは分からないんですが一つの区切りができたなと。『RE BORN「再生」』は毎回毎回玲貴さんのなかで上演する必要性がどんどん変わっていっています。東京で上演を重ね、受け取ることが変わっていきましたが、それが昇華されて沖縄に返せました。

『Lumières de l 'Est~東方からの光~』(左から)緑間玲貴、柳元美香 (撮影:仲程長治)

『Lumières de l 'Est~東方からの光~』(左から)緑間玲貴、平敷勇也 (撮影:仲程長治)

■「芸術活動を止めることはできない」

公演前後に地元紙やテレビ・ラジオ、ネットニュースが大きく取り上げるなど反響を呼んだ。

緑間 多くの人が希望を見たんじゃないかと思います。「この先どうなっていくのかな?」ということに対し、明るさを見たからこそ大きく取り上げていただけたのでしょう。その人のあり方次第で、誰でも、どういう状況でもできることがあるということを示せました。その反面、何もできなかったという選択肢もあったと思うんです。この結末は想像だにできないものでした。やっぱり、たくさんの人の力は凄いものだなと思います。

今回「芸術活動の存在意義って何なんだろう?」ということを見せつけられる現実がありました。凄い恐怖でもあるんですよ。自分たちの人生に価値がないと言われ、未来が暗いわけですから。ある意味精神的な非常事態に、こうしてこの結論を迎えられて励みになりました。

劇場公演でお客様が座れない座席を「ともしびシート」として販売し支援を募ったのですが、264席分を無条件に購入していただけたんです。頑張って精進していると必ず誰かが見てくれている。中身がどうであるかわからないものに対し、これだけ応援してもらえる。バレエ・ダンサーは皆人生を賭けていますが、国内にいる者は相当苦労しているし、あきらめていく人たちもみてきました。でも、そういうことに対し、こういうことだってあり得るんだよというエビデンスを示せました。それが一番大きな実績であり、誇らしいことであり、これまで活動を続けてきて、やっと死ぬときに持っていける一つのことができました。

がらまんホール公演当日の客席 (撮影:トコイリヤ制作)

前田 「芸術の灯は消せない」というスローガンを掲げましたが、いま分離地点だと思うんです。この先恐らく今までの感覚とは全然違う世の中になり、芸術というかバレエが消えてしまうことも無きにしもあらずの状態で、どうしたら次の世代に繋げていけるかということが頭をよぎります。公演を終え、脈々と続けられてきたバレエの世界、芸術の世界を途絶えさせることがなく、次の世代に繋げることができました。支えてくれる人に感謝したいですし幸せでした。どういう状況であっても絶やすことなく続けていけば次があります。

『I suz U』(左から)緑間玲貴、前田奈美甫 (撮影:仲程長治)

『東雲』(柳元美香作品) (撮影:仲程長治)

今後、厳しい状況下でも沖縄から芸術の灯を、バレエの灯を絶やさないために熱意を見せる。

緑間 契機は探せば必ずあります。今回お客様も含め多くの方々が支えてくれたことは「続けなさい」と言われていることと同じだと思うんですね。この無言のメッセージを受け取ったからには続ける方法を模索していきます。もちろん、じっと耐える時もあるかもしれません。でも、じっとしながらでも先を見据えて成長をみせるためにどうしたらいいかを考え続けることが、お客様に返せることです。公演活動を続けることを前提に進めていく胆力というか腹の強さがバレエを踊ることと同じくらい必要だと思います。

前田 今回、1か月前まで試行錯誤でした。でも試行錯誤すれば、続ける気持ちさえあれば、絶対に何か見つかるはずということが心の支えとなりました。今後もどういう状況であったとしても、絶やすことはできない、消してはならないということをモットーにしていけば続けられると思います。私たちがすべきことが芸術をお届けすることだとしたら、観てくださっている方たちもそれぞれがすべきこと、社会にとって必要なことがあるんだよということをお伝えしていきたい。私たちが活動を止めることは絶対にしてはならないと思います。

『RE BORN「再生」~Bolero~』緑間玲貴 (撮影:がらまんホール)

オンライン取材・文=高橋森彦
協力:宜野座村文化センターがらまんホール、宜野座村立博物館、一般社団法人トコイリヤソサエティー

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