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再開発で進化した東京都北区「十条」。下町の温かさと新しい利便性が共存する街へ

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昭和の賑わいの中に、新しい景色が生まれた

アーケードの中に威勢の良い呼び声が響き、惣菜や野菜が所狭しと並ぶ。東京都北区・十条は長年、そんな昔ながらの下町の空気をそのままに残してきた街だ。

その十条に、地上39階・高さ約146mのタワーマンションと商業・公共施設が整備された。2024年度に完成した、十条駅西口地区第一種市街地再開発事業による再開発ビルにより、街の景色は変化を遂げているなか、十条銀座商店街の熱気は健在で、昔ながらのアーケードと新しいタワーが隣り合う独特の風景がこの街に生まれている。

今回は北区役所へのインタビューと現地取材、そして北区の公開している資料をもとに、再開発を経た十条の今とこれからに迫る。

十条駅の特徴と再開発の概要

十条駅前の再開発の様子

十条駅の強みは、JR埼京線一本で東京の主要ターミナルに直結する利便性だ。池袋まで約7分、新宿まで約13分、渋谷まで約17分。さらに十条駅から徒歩10分ほどの場所にはJR京浜東北線の東十条駅もあり、上野・東京方面へのアクセスも便利だ。2路線を使い分けることで、都心のあらゆる方向をカバーできる交通環境が整っている。

十条銀座商店街

街の個性として欠かせないのが、全長約375mに及ぶ「十条銀座商店街」の存在だ。200店舗以上が軒を連ねるアーケードは「東京三大銀座商店街」のひとつに数えられ、地元住民の生活を長年支えてきた。2012年放送のドラマ「孤独のグルメ」のロケ地としても知られ、今も聖地巡礼の訪問者が絶えない。近隣には帝京大学・東京家政大学など複数の大学が立地し、若い世代の活気も街に加わっている。

こうした個性豊かな街に2024年度完成したのが、商業・公共・住宅からなる再開発ビルだ。施設建築物は地上39階・地下2階建て、高さ約146m、建築延床面積約81,000m2。住宅棟「ザ・タワー十条」が入居を開始し、低層部の商業施設「J&MALL(ジェイトモール)」にはクイーンズ伊勢丹などが開業し、日常の買い物利便性は大きく向上している。

さらに再開発ビルの3・4階には、北区が整備した多世代交流施設「J&L(ジェイトエル)」が2024年12月にオープンした。「Sports」「University」「Activity」の3つのコンセプトのもと、約1万冊の図書を自由に閲覧できるラウンジ、工作や創作活動ができるクリエイティブルーム、ダンスや音楽・動画編集に対応したスタジオ、定員約160名のホールを備えていて、都内の駅前ではなかなかない規模の複合公共施設となっている。

あわせて駅前広場の整備や地下自転車駐車場の新設など、街の都市基盤も大きく刷新された。

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北区役所で十条の再開発についてインタビュー

北区役所

北区役所の十条・東十条駅周辺まちづくり担当課の方に、十条エリアの再開発について詳しい話を伺ってきた。

ーまずは十条エリアの特徴について教えてください。

十条駅・東十条駅周辺まちづくり担当課:十条エリアは1905年の十条駅開業を契機に市街化の基礎が築かれました。震災や戦災などの被害が少なかったことから移住が進み市街化が加速しました。現在はにぎわいあふれる連続した商店街や、緑豊かな清水坂公園、伝統と歴史ある十条冨士塚や篠原演芸場など、地域資源豊富な魅力あふれる地区となっています。

一方で、狭い路地や入り組んだ道が残る住宅密集地となっており、公園などの広場空間が少ない、鉄道による地域分断が生じているといったハード面の課題も抱えていました。

ー再開発の概要と狙い、特に商店街との共存についてお聞かせください。

十条駅・東十条駅周辺まちづくり担当課:十条駅西口地区第一種市街地再開発事業は、主に十条駅西口地区の防災性向上と、区の「にぎわいの拠点」にふさわしい土地の合理的かつ健全な高度利用、都市機能の更新などを図るために施行されました。

商店街との共存については、駅前に魅力ある商業施設を整備することでまちの魅力を高め来街者を増やすとともに、地元商店街との共存共栄を図り、一体的な地域商業の活性化およびにぎわい創出を目指しています。

ー再開発によって、周辺環境はどのように変化しましたか。

十条駅・東十条駅周辺まちづくり担当課:再開発前の十条駅周辺は、店舗・事務所・住宅などが混在した古くからの駅前商業地を形成していましたが、駅前立地にふさわしい土地の有効・高度利用が図られていませんでした。

再開発により、駅前広場や都市計画道路などの都市基盤の整備、地域生活を支える商業・サービス施設や良質な都市型住宅の整備が行われ、緑化率の向上や空地の増加に伴う街の活力と安全性・防災性の向上が図られました。

また、日常使いが可能な買い物空間における良質なテナント環境も生み出されました。

ー帝京大学・東京家政大学など、学生が多いエリアという特性を踏まえた街づくりのビジョンがあればお聞かせください。

十条駅・東十条駅周辺まちづくり担当課:若い世代の考えや意見をまちづくりに反映すべく、包括協定を締結している近隣大学との間で、各大学の特性や学生のアイデアを活かした連携事業を実施しています。

また、再開発事業で創出された駅前広場などを活用し、若者を含む多世代が集い、憩い、滞留するにぎわいづくりを推進します。

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再開発で生まれ変わった十条駅周辺を歩いてみた

十条駅前の整備された空間

まず感じるのは、駅前の開放感だ。かつて車と歩行者が交錯していた雑然とした駅前に、整備された広場と駐輪場が生まれ、人が自然と立ち寄れる空間になっている。タワー低層部のJ&MALLではクイーンズ伊勢丹をはじめとした店舗が入り、日々の買い物の選択の幅が広がるなど利便性を実感できる。

現時点ではテナントが出店準備であったり、工事中の区画もあるが、敷地面積ベースでいえば十分な活用がされていて、飲食店を中心に活気も感じた。むしろこれからさらに充実していくことへの期待感がある。

一方、少し歩けばすぐにあの十条銀座商店街のアーケードが迎えてくれる。惣菜屋の威勢の良い声、格安のファッションが並ぶ店先、昔ながらの食堂。タワーマンションが建っても、商店街の空気は何ひとつ変わっていないと感じる。

印象的だったのは、お昼過ぎのJ&MALLの飲食店の賑わいだ。周辺に大学が多いこともあり学生の姿が非常に多く、旺盛な需要にしっかりと供給が応えているという感覚があった。こうした学生文化と駅前の新しい商業施設が自然と結びついているのは、十条らしさのひとつだと感じる。

気になったのは、駅のキャパシティだ。実際に歩いてみると、ホームやコンコースが乗降客数に対してやや手狭に感じる瞬間があった。学生が多く、再開発によって街に人が増えていくことを考えると、今後さらなる整備が進めば、より快適なエリアになっていくだろう。

駅前に生まれた新しい交流の場「J&L」

J&Lのおしゃれな内観

J&MALLの3・4階にある公共施設「J&L」も、訪れてみると想像以上の場所だった。約1万冊の蔵書がそろう図書スペースには、ソファやカウンター席などさまざまなスタイルの席が並び、一部の席では飲食もできる。おしゃべりもOKで、貸出はできないが、その場で手に取って読めるスタイルはカフェのような気軽さがある。

選書もユニークだ。利用者の要望に応じて人気の本を集めるのではなく、図書館にはないような珍しくてディープな本も贅沢に置く方針で、近隣の大学生を意識したデザインや服飾などの専門的な本も並ぶ。

。訪れた日にも担当者と相談しながら制作している方がいて、体験イベントは満員御礼が続くほどの人気。年齢に関わらず、新しいものを生み出そうとする力強さに満ち溢れた空間がそこにはあった。

インプットだけで終わらせない設計も特徴で、フロアには3Dプリンターやレーザーカッターなどプロ仕様の機器を備えたクリエイティブルームも併設。

訪れた日にも担当者と相談しながら制作している方がいて、体験イベントは満員御礼が続くほどの人気。年齢に関わらず、新しいものを生み出そうとする力強さに満ち溢れた空間がそこにはあった。

クリエイティブルーム
J&Lの統括責任者の川橋さん

施設の統括責任者・川橋さんはこう語る。「いわゆる図書館とは違っていて、話をしてもいいし、作業をしてもいい。ラウンジで食べたり飲んだりしながら本を読んでもらってもいい。ルールを厳しくするのではなく、自由に活動してもらうことを目指しています」。

その言葉通り、いわゆる公共施設とは一線を画した、人が自然と集まりたくなる空気が確かにここにはある。館内には子どもから大人まで幅広い世代がいて、話し込んでいる人、黙々と作業している人、本に没頭している人と、それぞれが主体的に思い思いの時間を過ごしていた。

ここを起点に、交流や新たな活動が生まれる。何でもごちゃ混ぜなエネルギーが満ちたこの空間は、サードプレイスのひとつの回答だ。このような活気ある施設が駅すぐで無料で使えるのは、この街の新しい魅力になると強く感じた。

J&Lで作られた作品

昔ながらの温かさを残しながら進む十条の再開発

十条銀座商店街の様子

昔ながらの温かさと新しい利便性が、十条ではいま確かに共存している。タワーマンションと商店街が隣り合うこの風景は、均質化が進む都市開発の中で、むしろ際立った個性として映る。

ただ、街が本領を発揮するにはまだ時間が必要だとも感じる。駅のキャパシティが再開発後の人口増加にどこまで対応できるかは今後注目していきたい。それでも、J&Lには多くの人が集まり活動の拠点となり、飲食店には学生たちの活気があふれている。街としてのエネルギーはすでに十分に感じられる。あとは、その勢いがどこまで持続し、広がっていくかだ。

結局のところ、まちの価値を決めるのはシンプルな一言に尽きる。「ここに住んでみたい、住み続けたい」。そう思う人をどれだけ増やせるか。再開発を経てもなお、下町の人情と活気を手放さなかったこの街が、その問いにどう答えていくか。引き続き注目したい。

馬橋 翔
フリーランス
「遊びは、暮らしを映す鏡。」 都市のライフスタイルやまちづくり、住まいの価値観をテーマに、生活文化を編集・発信。 ブログ『チェア活!』では、“休むことからはじまる都市の豊かさ”を探求している。

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