夫婦関係にヒビも…発達障害の子育て 家族が抱える「見えないストレス」の正体と専門家の助言
発達障害の子育てはなぜ難しい? 家族が抱えるストレスや夫婦のすれ違い、「困った行動」への対処法、専門家への「頼り方」を言語聴覚士・社会福祉士が解説。【連載最終回】
【▶画像】“痛くない”インフルエンザワクチン「フルミスト」とは?発達障害や発達特性のあるお子さんと保護者の方の関わりについて、言語聴覚士・社会福祉士であり、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表として、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってこられた原哲也先生が解説します。最終回は、発達障害の特性のある子どもを持つ家族が幸せになるために大切なこと。
2023年7月に始まったこのコラムは、第20回の今回をもちまして一区切りとなります。
そこで今回はこれまでの内容を振り返りながら、発達障害の特性のある子と暮らす家族と関わる中で私が考えていることについてお話ししようと思います。
発達障害の特性のある子にとっての「家族」
発達障害の特性のある子どもにとって、もっとも身近でもっとも長い時間をともに過ごす存在である家族には、その子に対して「できること」がたくさんあります。
このコラムでは、その中でも大切なこととして
①子どもの健康を維持すること
②子どもの「自分らしさ」を育てられるように関わること
③ワクワクすること、やりたいことを持てるようにサポートすること
④選択の機会を作ること
についてお話ししてきました。
家族は大きなストレスを抱えがち
第10回のコラムでは同時に、家族自身が生き生きと生活することこそが、子どもの生き生きとした暮らしにとって重要であることをお伝えしました。
しかし、実際には発達障害の特性のある子と暮らす家族は、大きな不安とストレスを抱え、自分らしさや喜び、幸せを感じられなくなっていることがとても多いのです。
母親にとっては、子どもとの関わり方や育て方がわからない、定型発達の子どもとの比較、集団生活での他の子どもとの関わりについての不安、他のきょうだい(きょうだい児)の養育が十分にできないことなどが大きなストレスになります。
さらに子どもの状況について父親との認識の違いから夫婦の関係にヒビが生じ、本来、助け合う関係であるはずの夫婦なのに「助け合う」ことが難しくなることも多々あります。加えて祖父母の思いや意見、感情によって、状況はさらに悪くなったりもします。
きょうだい児はそういった家族の危機を察知して幼いうちから「いい子」にふるまうことが多いものの、それはいつガタガタと崩れ落ちるかわからない危うさをはらんでいます(第16回)。
発達障害特性のある子の子育てはなぜ難しいか
発達障害特性のある子どもを育てる難しさの多くは、脳の機能的特性からくる彼らの「困った行動」に起因します。
例えば、いわゆる「触覚過敏」は極端な偏食や決まった服しか着ないなどの行動につながります。また「コミュニケーションの不器用さ」のせいで、スムーズに人間関係を築きにくいため家族をはじめさまざまな困難が起きてきます。
強い「こだわり」があると、登園中に工事中だからいつもと違う道に行こうとすると「いつもの道でなきゃいやだ」と暴れる、などのことが起きます。
新しい場所やいつもと違う状況が苦手な子、みんなと一緒に活動することに興味がない子だと、運動会などの催しに参加するのが難しく、ひとりでぽつんとしている姿を見たり、隣の子を過剰にかまったり泣き叫ぶのではないか、と行事のたびに身の縮む思いをする保護者はたくさんいます。
衝動性が高い子だと握った手を振りほどいて道路に飛び出しかねないので、外出時は一瞬たりとも気を抜くことができません。
「困った行動」への対処が難しい理由
これらの行動への対処が難しいのは、定型発達の親にとって、発達障害の特性のある子がなぜそういう行動をとるかがわからないからです。自分自身も、定型発達のきょうだい児やよその子もそんなことはしない。なのになぜこの子はこうなのだろう?
子どもの行動の理由がわからなければ、どう対処していいかわからないのは当然です。しかし、わからないとはいえ、とにかくこの子を育てなくてはならない。
だから両親や家族は、𠮟ったり、なだめたり、放置したり、いろいろやってみるけれど上手くいかない。その繰り返しの中で、家族は消耗します。そして本来の親子のあたたかいつながり、家庭の安心感といったものがくもってしまうこともあります。親も人間である以上、それは無理からぬことでもあります。
「困った行動」にどう対処するか
しかし、「困った行動」に対処する方法はあるのです。それは発達障害の特性のある子について理解を含め、彼らが学びやすい方法を探り、彼らに理解できる方法で伝えることです。これまで連載でもその方法をお伝えしてきました。
そうすれば彼らは多くを学び、その結果、生活の中の「困った行動」は回数も規模も「小さく」なっていきます。
これは逆にいうと、発達障害の特性のある子が理解できない方法では、何度繰り返しても、𠮟っても叩いても、彼らは学ぶことはできないということでもあります。
私は言語聴覚士として、数千人の発達障害の特性のある子と関わる中でこのことを確信しています。
発達障害の専門職の助言を得ることの大切さ
では、家族が「発達障害の特性のある子について理解を含め、彼らが学びやすい方法を探り、彼らに理解できる方法で伝える」にはどうしたらいいか。
それは、専門家の助言をもらうことです。発達障害の診療を標榜する小児科医、児童精神科医、心療内科医などの医師は発達障害の特性についての知識を持っています。
受診にためらいがあれば、保健センター(乳幼児健診を行う場)の保健師、行政の発達相談やことばの相談、市区町村の担当課(児童福祉関係課、障害者福祉課)に問い合わせると適切な相談機関を案内してくれます。
また、近年は、児童発達支援事業所や放課後等デイサービスなども多く設置されています。中には公認心理師、言語聴覚士、作業療法士など専門知識を持つ専門職が在籍する事業所もあります。
ただ、忘れてはならないのは、あくまでも子育ての主体は家族だということです。
「発達障害の特性のある子と暮らす家族の生活」をよりよくする、そのために必要で適切な助言をもらい、実際に子どもの行動に対処できるようになる、生活がよくなる、親子の関係がよくなることが大事です。
専門職の技量はさまざまです。もちろん生活が変わるという結果はすぐに表れるものではありません。そのことを考慮したうえで「助言を得て生活はよくなったか、親子の関係はよくなったか」を振り返ってみることは大事なのではないかと思います。
頼りながら自立するという考え
発達障害の特性のある子の療育では「援助要求ができる力」を育てることを大切にしています。やりたいことがひとりではできなければ助けを求める。助けてもらってやりたいことができればそれでいいのです。
私は発達障害の特性のある子の子育てに悩む保護者の方にも同じことを思います。助けを求めて、助けてもらってほしいのです。
今の日本社会を見ていると、制度や人に頼ることを弱さと考え、中には「他人に迷惑をかけるな」と主張する人もいますが、私はそれはおかしいと思います。
子育てに限らず、私たち人間はそもそも互いに助けられ、頼り合って生きるものです。海外には「子どもは村全体の智慧(ちえ)で育てる」ということわざもあるといいます。
実際、子育ては大変な営みです。ましてや発達障害の特性のある子の子育ては、より大変です。
ですから子どものためにも、家族のためにも、自分のためにも、あらゆる制度を使い、知識と経験を持った人や機関を使い、周囲に大いに頼りましょう。
そうして発達障害の特性のある子の子育ての不安やストレスを少しでも軽くし、家族それぞれが少しでもご自身の喜びや幸せを感じてほしいと思います。
終わりに
発達障害の特性のある子の課題は、子どもを取り巻く家族や周囲の人の理解が深まり、物的な環境や周りの人の関わり方が変わることで大きく変わります。この連載がその一助になればうれしい限りです。
助け、助けられる中で、その子らしさが尊重され、多様な出会いを喜びあい、成長を支えあえる人の繫がりが、皆さんの周りで拡がることを切に願います。今までお読みくださいましてありがとうございました。
原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。
2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。
著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。
「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著
わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。