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天皇杯決勝目前も…日本人選手が「ピリッとしない」キングス桶谷大HC、岸本隆一、ヴィック・ローが多弁に語ったチームに“必要なコト”

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「GO KINGS」と書かれたプラカードを掲げ、声援を送るキングスファン
西地区の上位を争う島根スサノオマジックと対戦したキングスのメンバー=3月12日、沖縄サントリーアリーナ(長嶺真輝撮影)

プロバスケットボールBリーグ西地区首位の琉球ゴールデンキングスが苦境に立っている。 初優勝を目指し、3月7〜9日にマカオで挑んだ東アジアスーパーリーグ(EASL)のプレーオフ「ファイナル4」は準決勝から2連敗で4位。12日には西地区2位の島根スサノオマジックをホームに迎え、延長戦にもつれ込む大接戦の末、84ー87で敗れてゲーム差が1に縮まった。 重要な試合での敗戦が続く中、15日には東京の国立代々木競技場第一体育館で第100回天皇杯全日本選手権決勝があり、こちらも初優勝を懸けてBリーグ中地区2位のアルバルク東京とぶつかる。EASLのタイトルを逃した直後なだけに、天皇杯に懸ける思いはひとしおだろう。 ただ、直近の3連敗の内容からは、ある不安材料がある。オフェンスを中心に日本人選手がピリッとしないことだ。 EASLでは荒川颯のほか、普段はプレータイムが少ない植松義也や平良彰吾が思い切りのいいプレーを見せる場面こそあったが、島根戦では岸本隆一以外の日本人選手は得点無し。チームの得点者はわずか5人のみにとどまった。 言わずもがな、得点者が少人数に限られると相手にとっては守りやすいため、各選手がなんとか調子を上げたいところだ。 天皇杯決勝に向け、総合力を取り戻すために必要なコトは何か。夜遅くまで続いた島根戦後、桶谷大ヘッドコーチ(HC)、“ミスターキングス”こと岸本隆一、キャプテンの一人であるヴィック・ローの3人が、それぞれ10分以上に渡り記者会見席に座り、多弁に語った。

“自信”を求める桶谷大HC「広島の渡部や三谷のような…」

ファンに手を振りながらコートを後にする桶谷大HC

「試合に出ている以上、自信を持ってプレーしてほしい」 島根戦後、桶谷HCは選手たちにそう伝えたという。 この試合では相手に合わせて3BIGのラインナップで戦う時間帯が多く、外国籍選手らはインサイドを中心に体を張り続けた。しかし、岸本以外の日本人選手はドライブや3Pシュートのトライ数自体が少なく、普段は得点面での貢献も多い松脇圭志、脇真大、小野寺祥太らも無得点に終わった。 指揮官は穏やかな口調ながら、強い自覚を求める。 「(EASL直前の)広島戦から時間がなく、練習は1回しかできていませんが、だからこそ一人ひとりが責任を持ってスカウティングを余分にしたりしてほしい。もちろん疲れてるとは思うけど、シュートが入らないなら、シュート練習をしないといけない。今は隆一の負担がすごくあります。若い選手が軽いプレーではなく、責任感を持ったプレーができるように、その辺りを認識してやってほしいと思います」 この「軽いプレー」については、小野寺が横パスをした際にスティールされたり、荒川颯がギャンブル気味なダブルチームを仕掛けられてターンオーバーをしたりする場面があった。延長戦でもケヴェ・アルマが1対1でドライブを仕掛けられた時、相手はフリースロー成功率が高くはない相手だったにも関わらず、ファウルをせずに簡単なスコアを許してしまった。 ファウルを効果的に使いきれない部分についても「ファイトがもう一個足りないという意味で『軽い』のと同じだと思います」と続ける。 若い選手、まだ経験の浅い選手に対しては、EASLで初優勝を果たした広島ドラゴンフライズを引き合いに出し、こう語った。 「若い選手こそ、貪欲に勢いを出していってほしいと思います。広島がEASLを勝った時、1試合目は渡部琉選手が勢いをもたらして、2試合目は三谷桂司朗選手がその役割を果たしました。やっぱり、ああいう選手が必要だと思います。隆一以外の選手も、みんなやれると思います。それを見せてほしいです」

岸本「恥をかいてでも…」

島根戦で3Pシュートを決め、吠える岸本隆一

続いて会見に登壇したのは岸本だ。 最近はチームとして思い描くようなオフェンスが表現できない時間帯も多く、「いい意味でシンプルに、みんなが前向きにプレーできるように、そういう雰囲気を自分がきっかけになってつくっていきたい」と今後を見通す。 確かに「シンプルさ」は、今のキングスにとっては大きなテーマの一つだろう。 高さと重量のあるインサイド陣を中心にリバウンドを制し、ポゼッションを増やす。中に相手ディフェンスが集中すれば、外に振ってオープンの3Pシュートを打つ。ピック&ロールからのビッグマンへの合わせやハイロー(ハイポストからローポストにパスするプレー)など、最大の武器であるインサイドを主軸としたオフェンスはキングスの強さの根幹を成す。 もちろん相手も対策を講じてくるが、いかにチームコンセプトをやり続けるかは勝利に向けた重要な要素の一つだ。ただ、最近の試合ではなかなか狙い所が定まらず、オフェンスが停滞する時間帯も散見される。 「シンプル」に立ち返るためには、何が必要か。岸本はこう考える。 「EASLを含めると3連敗している状況で、もちろん負けが混んでくると気持ち的にはきついです。ただ、とことん追い込まれたつもりになって、それをしっかり受け止めて、とことん向き合えば、おのずと初心に立ち返ってシンプルになると思います。結果が出なくて歯がゆいですけど、戦い続けていれば自分たちに追い風が吹くタイミングが必ず来る。それを信じてやり続けていきます」 大一番を前に、若手らに伝えたいことを聞かれると、こう答えた。 「必死さみたいなところですね。頭で考えるよりも体が先に動くような状況に持っていけると、一番いいパフォーマンスができると思います。それぞれに特徴があり、必要とされているからこのチームにいます。その部分をもう一回それぞれが思い返して、自信を保ちつつ、チームの力に変えていきたい。練習中からそういう雰囲気をつくっていきたいです」 今はキャプテンという役職にこそ就いていないが、チーム最年長となる34歳となり、強いリーダーシップを発揮すべき時があるということも分かっている。 「(チームにとって)必要なことをやれるように、ということは常日頃思っています。EASLもこういう結果になってしまったので、恥をかいてでも、誰かが何かアクションを起こさないことには状況は変わらないと感じます。言葉で何かを言うというのはあまりないですが、試合の中で絶対に譲れない部分というのを何とか示せたらいいかなと思っています」 2022-23シーズンのBリーグ優勝を経験した数少ない選手(岸本、小野寺、クーリー、松脇)の一人である岸本。大一番で勝ち切るメンタリティをチームに注入してもらいたい。

ロー、重視するのは「ハードなプレーといい判断」

試合中にチームメイトとコミュニケーションを取るヴィック・ロー

最後はローのコメントだ。自身は足のコンディション不良でEASLではロスター入りせず、島根戦が10日ぶりのプレーとなった。プレータイムの制限はあったというが、24分42秒に渡ってコートに立った。 スタッツは11得点3リバウンド3アシスト。ディフェンス面やシュートタッチも含めてまだ万全ではなく、「あまり上手くプレーできなかった」と振り返る。ただ「このような試合もある。大丈夫」と続け、リラックスしている様子だった。 チームがEASLでタイトルを逃したことも踏まえ、「ナーバスになっている部分はあるか?」と問われると、時折ユーモアや笑みも交えながらこう返答した。 「僕はナーバスにはなっていません。緊張することは自然なことです。新しいガールフレンドに会うと緊張するし、新しい仕事を始める時も緊張する。でもバスケットボールの試合は楽しいし、特に(タイトルの懸かったような)試合は期待が高まります。それはポジティブなことです。だから僕はナーバスになっていません」 さらに言葉を続ける。 「もちろん勝てるといいし、シュートも決まるといい。でもそうならなければ仕方がない。時には負けることもある。それが人生であり、バスケットボールです。だから僕がこのチームで重視しているのは、ハードにプレーできているかということと、いい判断ができているかということです。天皇杯は楽しみにしています。ファンの皆さんの前でプレーし、本当に楽しいゲームになると思います」 言わずもがな、ローは「負けてもいい」と言っている訳ではない。試合中、ハードワークと優れた状況判断をやり続けることが最優先で、その先の結果は相手もいる勝負事ではコントロールできない。しかし、遂行すべきことを貫ければ、勝利する可能性が高くなる事は今までの経験から分かっている。 だからこそ、チームメートに対しては「もう少し頑張ろうと強く促しています」と言う。 「マカオにも行って、みんなが疲れていることは理解していますが、もっと頑張る必要がある。自分の中にあるものに目を向けて、チームに少しでも多くのことを与えることが大切です。もしみんなが毎日1%でも多くのことをチームに与えられたら、土曜日(天皇杯決勝の日)には僕たちが望む場所に到達できるはずです」 もちろん、タイトルが懸かる大一番の試合はレギュラーシーズンの1試合とは意味合いが全く異なる。1ポゼッションごとの重みも増す。プロ選手とはいえ、3人の言葉に出てきたような「責任感のあるプレー」「シンプルさ」「いい判断」「ハードワーク」などをその舞台で高精度に体現することは容易ではない。 ただ、この壁を打ち破り、勝利を掴み取ることができれば、必ずチームとしても、個々の選手にとっても進化に向けて大きな一歩を踏み出すきっかけになるはずだ。第100回の記念大会となる天皇杯の最終決戦。沖縄からも多く来場するであろうファンの声援を背に、自信を持って、それぞれの持ち味を存分に発揮してもらいたい。

「GO KINGS」と書かれたプラカードを掲げ、声援を送るキングスファン

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