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【静岡県の鈴木康友新知事が上梓した新刊本】選挙直後に自治体経営論を出版!なぜ選挙前に出さなかったのか?刺激的な内容と思惑を読み解く!

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静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「静岡県の鈴木康友新知事が上梓した新刊本」です。先生役は静岡新聞の市川雄一ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年6月3日放送)

(山田)今日は静岡県の鈴木康友新知事が出版した本の話ということですが。

(市川)静岡県知事選はご存知の通り5月26日に投開票が行われ、元浜松市長だった鈴木康友さんが当選されました。鈴木新知事は就任会見を開いたり静岡空港開港15周年記念式典に出席したりと、早速、公務をこなしています。そんな中、5月31日に「市長は社長だ」という本を出版しました。

(山田)びっくりしましたよ。Amazonの本ランキングを見ていたら載っていて。しかも結構上位の方に。

(市川)そうなんです。全国的にも話題になっています。実は選挙の前に本を出すということはよくあります。自分の宣伝になるし、出版記念パーティーを開いたりもできるので。しかし、知事選当選直後に、しかも知事の話ではなく市長時代の話を本にして出すというのは異例だという印象があります。

僕も購入して読んでみました。これが意外と面白くて読む手が止まりませんでした。政治家の本は自慢話や単なる実績をつらつら書いているだけだったり、少し難しい話をしてみたりと、あまり面白くないものが多いんですけど(笑)。僕は康友さんを直接取材したことはないんですが、少し印象が変わりました。

(山田)本の内容も含めて解説してもらえますか。

(市川)知事選の直後に出した割には、知事選に出るという話や知事になりたいということは一言も書いてないんですよ。あくまでも浜松市長16年間の実績にまつわる内容なんです。

(山田)このタイミングで出してるというのに?

県知事選前に出版したら不利になった?

(市川)宣伝になるし、僕のように読んで印象が変わる人もいたはずなのに、なぜ選挙前に出さなかったのかなと考えてみたんですが、割と過激なことも書いていることが一番の理由ではないかと思います。憶測ですが、選挙前に出すこともできたけど、あえて出さなかったのではないでしょうか。「県はいらない」というような話も出てくるので。

(山田)なんか興味深いですね。

(市川)今回の静岡県知事選は、鈴木康友さんと自民党が推薦していた大村慎一さんの事実上の一騎打ちでした。選挙前に出版していたら、選挙戦で自民党側から「本の中でこんなことを書いている」と切り取りで攻撃された可能性もあるような本ではないかと思います。話を戻して、内容についても紹介しますね。

(山田)お願いします。

(市川)「浜松市が1314億円の借金を返せた理由」というサブタイタイトルが付いていて、全般的に「市長は基本的に民間経営者のような感覚でなければならない」ということを言い続けています。

鈴木康友さんは松下電器産業の創業者・松下幸之助さんが作った松下政経塾の第1期生だったということは有名ですが、基本的にはそこでの教えを書き綴り、市長時代にそれを生かして借金や人件費を減らしたという取り組みを振り返っています。

(山田)何か経営論みたいですね。

(市川)ほとんど経営の話になっています。市長が社長というのは面白い発想です。公務員の方々が隠語で市長のことを「社長」、役所のことを「わが社」と呼ぶことはあったりしますが、本人に直接言うのは珍しいです。ところが、本の中では「若手職員やベンチャー企業の社長さんたちは、私のことを『市長』と呼ばずに『社長』と呼びます」と書いているんです。

(山田)へぇー。

(市川)「社長と言われることが褒め言葉だと感じる」とも言っています。

(山田)ギャグ的に言われていたわけではないと。

浜松市長時代に応用した「北風と太陽」

(市川)本気で「市長ではなく社長」だと言っています。松下幸之助さんの「松下政経塾の『政経』は、政治経済の『経』ではない。政経の『経』は、国家経営の経であり、自治体経営の経だ」という言葉も引用し、「この言葉のなかに、松下氏の思いが凝縮されている」と記しています。

(山田)本の中では、実際に鈴木康友新知事がその経営論を基に、浜松市長時代に行ってきたことが書かれているんですね。

(市川)市の借金である「市債」を1300億円以上減らしたり、職員の数を1000人以上減らしたりした実績や、スタートアップ支援の話などが具体的に語られています。

市長時代の一番の功績とされる行政区再編に関するエピソードも面白かったです。12市町が合併して現在の浜松市になった際、7つの区ができました。それに伴って旧浜松市が3つの区に分かれ、もともと市役所が一つだったところに3つの区役所が置かれました。康友さんは、これは無駄でしかないと行政区再編に突き進むことになります。

その中で、当時は自民党の議員を中心に反対の声があったそうです。説得するに当たり、本の中ではイソップ物語の「北風と太陽」を引き合いに出していました。

最初はグイグイと進めていこうとしたけど、話を聞いてみるとそうした自分の態度に反発している議員がいることが分かったと。そこで、そうした議員にはこれまでの非礼を詫びて、再編の意義を改めて説明したー。これを「太陽作戦」と呼んでいます。

そういう柔軟性を持って物事を進めてきたというようなことも紹介しています。

(山田)意外な感じがしますね。「俺が、俺が」というリーダーのイメージがあったんですが。

(市川)そういうイメージのエピソードもあります。コロナ禍の際に、浜松市がくじ引きで飲食代が全額無料になるというキャッシュバックキャンペーンを実施しました。これはギャンブル性もあるので、自治体が行うのはどうかという反対の声もあったと思いますが、考案したのは当時市長だった鈴木康友さんだそうです。

担当職員からはすぐに「面白いですね。やりましょう」という返事があったそうですが、その時に職員は「どうせ答えは『イエス』か『はい』しかないでしょ」と言ったというエピソードを本の中で紹介しています。康友さんは「その通りです」と書いているので、自分の指示したことに「ノー」はないという”オラオラ系”の部分もあるようです。

(山田)僕はそっちのイメージが強いですね。

知事になる前に書いた「県はいらない」。その真意とは?

(市川)冒頭で触れた「県はいらない」という辺りについても話したいと思います。これは松下幸之助さんが持論として言っていた「道州制」に関係します。

(山田)道州制?

(市川)道州制というのは、都道府県をなくして一つの基礎自治体の人口を50万人から100万人ぐらいの規模にし、広いエリアの広域自治体を置くという考えです。道州制の議論が盛り上がっていた当時は、日本を9つまたは7つほどに分割して道州を作り、その中に基礎自治体があるという案などが出ていました。今の日本の自治体制度を根本から変えるような話なんですが、康友さんは本の中で道州制をやるべきだと言っています。

県をなくして、静岡市の上には州があり、その上には国があるというような自治体のあり方が最も適切ではないかというようなことを主張しています。

(山田)へえー。知事になった方が。

(市川)浜松市はすでに自立した都市経営を実現しているので、県に頼らなくても独立してやっていけるというようなことも書いています。県に頼らなくても基礎自治体が十分な市民サービスを提供できれば、必然的に県ではなく、もっと広域行政を展開できる道州制に移行できるのではないかと考えていると。

(山田)それは県知事選挙を前にすると結構過激ですよね。

(市川)そうなんですよ。僕は道州制の考え方は割と好きなので気にはならないですが、もし選挙戦で対立候補に「県はいらないと書いているじゃないか。この人で大丈夫か」などと言われたらマイナスになったかもしれません。そういう内容が含まれていることが、あえて出版を選挙後にしたのではないかと思った理由です。

(山田)確かにそう考えると出版時期に影響したかもしれませんね。他にも面白い話はありますか。

(市川)本の中では何かを非難するような文言はあまり出てこないんですが、その中で少し静岡市批判と受け取れる箇所があります。ただ、「静岡市」とは名指しせず、「浜松市と同規模の自治体」という言い方をしています。

(山田)それも何か言い方が(笑)。

(市川)これは新型コロナ対策の話なんですが、静岡市が市内の飲食店に補助金を10万円ずつ配るという政策をしました。静岡市内には対象店舗が4000店ほどあるので、4億円の費用がかかります。康友さんはこれを「一見『すごいな』と思います。自治体側も飲食店対策の『やった感』をアピールできます。しかし、効果のないバラまきは、税金の無駄遣いだというのが、私の考えです」と書いています。

その代わりに考え出したのが、先ほども触れた1億円キャッシュバックキャンペーンだということです。全員が無料になるわけではないけど、その可能性があるということで飲食店に行く人が増え、本の中では経済効果が50億円を超えたと書かれています。

キャッシュバックキャンペーンでは総額3億円を拠出しているのですが、「片や4000店舗に10万円の補助金を配り、4億円の予算を使う政策と、片や1億円も少ない約3億円の予算で、50億円の経済波及効果を生み出す政策の、どちらが税金の使い方として有効なのでしょうか。自ずと答えは明らかだと思います」と記し、当時の静岡市の政策を批判しているんです。この辺りもなかなか面白かったです。

本に綴った主張と就任会見の発言にズレ⁉

(山田)面白いですね。でも、それを踏まえて知事としてどういう静岡県にしていくのかというのが気になるところですね。

(市川)本を読んだ後に先日の就任会見の内容を改めて見返すと、本で主張していたことと違うなと感じる部分もいくつかありました。

本ではトヨタ自動車の経営方針である「巧遅より拙速」という言葉を引用していました。いくら良い考えであっても遅かったら意味がない、多少拙速と言われてもスピーディーに物事を進めることの方が大事だという意味です。この考え方を称賛しています。

一方で、就任会見では浜松の野球場の問題について記者から問われた際、はっきりと物を言わずに「拙速にここは決めないほうがいい」ということを言ってしまっているんです。

(山田)そこはスピーディーじゃないのね。

(市川)さらに本の中では、マニフェスト、公約の実現が政治家にとって最も大事だというようなことを言っていますが、選挙戦で訴えた県東部地域への医大誘致について、就任会見では「ちょっと実現ができそうもない」と答えました。公約が大事だと書いておきながら、早速公約の話が反故にされようとしています。

(山田)早くもギャップが⁉

(市川)まだわかりませんけどね。

(山田)でも、この本が康友さんの県政運営にどのように影響するかも楽しみですね。Amazonのランキングに載ってましたから、この後もまだ読む方は多いと思いますから。

(市川)そうですね。本を読むと、何かやってくれるのではないかという期待感は増しますけどね。

(山田)楽しみを込めて紹介したということでいいですか?

(市川)そうですね。

(山田)また、本に書いてあることと違うことがあったら教えてくださいね。

(市川)それはチェックしていきたいと思います。

(山田)今日の勉強はこれでおしまい!

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