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2030年竣工予定の梅田「大阪マルビル」建替えプロジェクト。設計担当者に計画概要と熱き想いを取材した

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大阪マルビル建替後のイメージ(北側)

昭和から令和へ「大阪マルビル」が刻んだ歴史

1976年竣工当時の大阪マルビル

「大阪マルビル」は、1976年4月に竣工した日本初の円筒形超高層ビルである。
竣工当時の最新技術を結集して建設され、超高層の円筒形状から大阪・梅田周辺のどこからでも視認できる"大阪のランドマーク"として長く親しまれてきた。

高さ約124メートル、直径約30メートルという梅田の中でも存在感あるその姿は、多くの人々の待ち合わせ場所として定着し、大阪の、梅田の、象徴的存在となっていた。

特徴的なのは、ビルの屋上に設置されていた回る電光掲示板であった。全国初の回転式電光掲示板として注目を集め、当時はニュースや天気予報、時刻や気温などの情報を発信していた。一時撤去していた時期もあったが、2005年にLEDを採用した新型として復活し、その後も大阪の街を見守ってきた。

大阪マルビルの跡地。現在は大阪・関西万博のバスターミナルとして活用されている

しかし、竣工から約50年が経過し、建物・設備の老朽化や周辺施設との競争力低下が課題となり、2022年5月に建替えが決定された。2023年6月に全館営業を終了し、2024年9月には地上部分の解体が完了している。

2025年3月末現在は大阪・関西万博の期間中、来場者を会場に運ぶバスのターミナルとして活用されており、万博終了後に新ビルの建設が始まる予定だ。

今回は、大阪マルビルの建替えプロジェクトを主導する大和ハウス工業株式会社、設計を担当する株式会社日建設計、株式会社フジタの各担当者に話を伺ってきた。

大阪・関西万博のバスターミナルの様子。赤と青のポールが印象的だ

建替えプロジェクトのデザインコンセプト「都市再生のシンボルツリー」

株式会社フジタ 大型プロジェクト統括部 M-PJ室 部長 津村氏(右)

新しい大阪マルビルの全体デザインコンセプトは「都市再生のシンボルツリー」である。

株式会社フジタの大型プロジェクト統括部 M-PJ室 部長 津村氏はこう語る。
「この全体コンセプトには、『かつての大阪マルビルを継承する』というものと、『都市再生に貢献する』という2つの大きなテーマがあります」

新しいマルビルは『ここにあつマル、たがいにからマル、ここからはじマル』をテーマに、円筒形デザインを継承しながらも、単一の「マル」ではなく多重に積層する意味をもつ「マル」で表現するという革新的な構想となっている。

大阪マルビル建替後のイメージ(北側)

さらに津村氏はこう続ける。
「都市再生のシンボルツリーという、大樹を象徴するような造形があり、さまざまな形で積層する『マル』が、今の現代社会の多様性を表しています」
つまりこの構想は、多種多様な人や用途、情報が集まり絡み合うことで新たな価値を生み出すという意味を込めたものだ。

“都市再生のシンボルツリー”のコンセプトに従って大樹のような円筒形状はガラスカーテンウォールで構成され、低層部の外装には大樹の枝葉をイメージした緑化ルーバーが計画されている。地上部分には大樹の木陰を感じられるような、半屋外の屋根下空間である「ピロティ」が設けられ、都市と自然の調和を目指した設計となっている。

イノベーション拠点ともなる新たな「大阪マルビル」の施設構成

建替え後の「大阪マルビル」の施設概要 ※2025年3月時点

新しい「大阪マルビル」は、敷地面積約3,246平方メートル、延床面積約74,000平方メートルという規模で、2025年冬に着工し、2030年の竣工を予定している。高さ約192メートル、地上40階・地下4階の複合ビルとなる予定だ。うめきた含む大阪駅周辺エリアで最も高いビルとなり、高さ60メートルを超える超高層ビルでは、現在国内最多の用途が複合する施設になるという。

施設構成は上層階から順に、展望スペース、ミュージアム、ホテル、イノベーションオフィス、コンサートホール・舞台、商業施設、駐車場などが計画されている。

新「大阪マルビル」の施設構成図
商業施設のイメージ

施設として入るホテルは外資系のラグジュアリーホテルと都市型ホテルの2種類が入居し、総客室数約280室となる予定だ。
イノベーションオフィスは約7,000平方メートルの規模で、スタートアップ企業向けの小規模なオフィススペースを提供する。

株式会社日建設計 設計グループ ダイレクター 久下氏は、
「周辺のテナントは大規模なオフィスが大半を占めています。しかし、新しい大阪マルビルの小さいオフィスに様々なスタートアップ企業が集まることで、新しい出会いが生まれるイノベーション拠点になることを期待しています」と語る。

商業施設は、大阪マルビルの伝統的な雰囲気を受け継いだ空間づくりを目指し、施設の用途と親和性のある店舗を展開する計画である。

ミュージアムのイメージ

大阪に親しまれたマルビルの回る電光掲示板の継承

新たな回る電光掲示板のデザインイメージ(現時点のイメージであり、今後の検討・協議などにより変更される可能性あり)

大阪マルビルの象徴的存在だった「回る電光掲示板」も継承に向け、検討を進めている。
旧大阪マルビルでは屋上に設置された回転式電光掲示板「コンピュートサイン」が全国初の試みとして注目を集め、あらゆる情報を発信していた。
新しい大阪マルビルでも、この伝統を現代的にアップデートする形で継承し、うめきたを含む大阪駅周辺からも視認できるデザインを施す検討を進めている。

「大阪マルビルの回る電光掲示板を、ビルのアイデンティティとして継承していきたいと考えています。今の時代にふさわしいデザインを検討中です」と津村氏。

新大阪マルビルにも回る電光掲示板ができれば、単なる情報表示装置としてだけでなく、大阪の新たなシンボルとしての役割も担うことになるだろう。

投影映像に没入できる地下から地上を貫く球体デジタルアトリウム

球体デジタルアトリウムを含む低層階の断面図

新大阪マルビルのもう1つの目玉として、地下2階から地上4階までを貫く巨大な「球体デジタルアトリウム」が計画されている。
この球体の内側にはLEDディスプレイが設置され、360度デジタル映像を投影することで、利用者は没入感のある体験ができる。

ここでは、季節に応じた映像演出や水中風景など、多彩なコンテンツが楽しめる空間となる予定だ。

地下から続く球体デジタルアトリウムの内部イメージ

「ここから地下街『ディアモール大阪』と接続する予定となっています。地下と地上を結ぶ結節点として、大阪駅周辺の新しいスポットになればと考えています」と津村氏は語る。

誰でも自由に利用できる公共空間として設計され、地下から水を引き上げる大樹のように、地下から地上、そしてまちへと賑わいを創出する役割を担う。
また、球体アトリウムを囲むように円形のカフェなど、映像を楽しみながら飲食できる空間も検討中である。

球体デジタルアトリウムでは季節や日本の風景などさまざまなデジタル映像を投影する予定だ

360度から芸術体験ができるコンサートホール・舞台も

株式会社日建設計 デザインフェロー 江副氏

新大阪マルビルには、約1,200席を備えた円形のコンサートホール・舞台が設置される予定だ。
このコンサートホール・舞台は、中央にステージを配置し観客席が360度取り囲む、世界的にみても特徴的な形状となっている。

株式会社日建設計 デザインフェロー 江副氏は
「このコンサートホール・舞台は、最も遠い席でもステージまでの距離が20メートル以内に収まるよう設計されています。そうすることで、観客とステージの距離が近い、親密性があふれるホールになるでしょう」と話す。

コンサートホール・舞台は中央にステージが配置され、観客席が360度を取り囲む形状

このコンサートホール・舞台は主にクラシックコンサートを想定しているが、舞台の規模を変更できる設備を採用することで、演劇や室内楽、ピアノリサイタルなど、多目的イベントに対応可能な空間を目指している。

このような円形ホールは日本では珍しく、大阪マルビルを象徴する1つの目玉として期待されている。

プロジェクト担当者たちの想いが集結する「大阪マルビル」

大阪マルビル周辺に緑化スペースを設けて人が集まる環境に整備する予定だ

大阪マルビルの建替プロジェクトでは、ビル単体の建設だけでなく周辺環境の整備も重要な要素として捉えている。都市再生特別地区「梅田一丁目中央地区」の制度を活用し、地域全体の魅力向上に向けた整備を行う予定だ。
「今回、1階をピロティにしてまちに開放するという計画があるので、そこから連続する歩行環境改善や修景を目指しています」と津村氏。

具体的には、地上部分に広場や緑化スペースを設け、人々が集まりやすい環境を整備する。また、地下街との接続性の向上や、新たな地下通路の整備によって歩行環境を改善し、大阪メトロ四つ橋線西梅田駅につながる地下通路や改札口も新設する計画だ。
「地下道だけでなく地上の道路の整備も計画しています」と久下氏。続けて「御堂筋と四つ橋筋をつなぐ東西の道路を整備して、地下の賑わいを地上にも広げることを目指しています」と語る。

これまで車中心だった梅田の地上部分を大阪マルビルの周辺で人中心の空間へ。
さらに施設における環境配慮の取り組みとして、省エネ技術の採用や木材を積極的に活用するなど、サステナブルな建築を目指した設計が進められている。

大阪マルビルでは、地下道だけでなく地上の道路の整備も計画している
担当者たちの情熱によって大阪マルビルはまた新たなシンボルになる

最後に、大阪マルビルの建替えプロジェクトに携わる担当者たちの想いを聞いてみた。

開始当初からプロジェクトに参加している津村氏は、大阪に来て最初の仕事がこのプロジェクトだったことから「最初から関われている。専属で長期間1つのプロジェクトに集中できることは滅多にないので、これほど幸せなことはありません」という特別な思い入れがあるという。また津村氏は大阪マルビルと同学年であることから「自分と同い年の建物を再生することに運命を感じます」とも話す。

株式会社フジタ 大型プロジェクト統括部 M-PJ室 次長 東園氏は「これほど大阪に経済効果を与えるプロジェクトに関われるのは、人生で二度とない貴重な経験です」と話す。
「この建物に魂をうずめるつもりで取り組んでいます」という東園氏は、竣工後に友人や家族を誘い、完成した新しい大阪マルビルを訪れる日を心待ちにしている。

久下氏は、社内で「大阪マルビルの建替えの設計をやってみないか?」という一言に胸が高鳴ったという。
「幼い頃から見慣れた大阪マルビルの再生に、設計者として携われることになり、とても興奮しました」と話す。最後に「完成したら家族や友人を連れて訪れたいと思えるような魅力的な施設にしたい」とも語った。

生まれが大阪だという江副氏は「大阪マルビルの建替プロジェクトに関われるなんて、本当に嬉しいです」と話す。特に力を注いでいるのは、新しく設計される円形のコンサートホールだ。「海外の一流オーケストラに『素晴らしいホールだ』と言ってもらい、観客からも『感動的なコンサートだった』と評価されるような空間をつくりたい」と語った。

大和ハウス工業株式会社 総務部プロパティマネジメント室 PM推進グループ 上席主任 石川氏は、2年前に異動してきた際、大阪マルビルの建て替えプロジェクトを担当することになり「大阪駅前のシンボルタワーを建替えるこのプロジェクトを絶対に成功させたい」と感じたという。「物価上昇や人手不足など、プロジェクトには多くの課題が立ちはだかっていますが、必ず最後までやり切ります」と決意を口にした。

このように、大阪マルビルの建替えプロジェクトに携わる担当者たちは、大阪マルビルへの深い愛着と誇りを持ってそれぞれの業務に取り組んでいる。

新しい大阪マルビルは、大阪の国際競争力を高めるだけでなく、地域の活性化や文化交流の拠点としての役割も担う。2030年春の完成を目指し多くの課題を乗り越えながら進むこのプロジェクトは、設計者たちの想いをのせて、大阪の未来を象徴する新たなシンボルとなるだろう。

■取材協力
大阪マルビル https://www.marubiru.com/

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