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福原みほが20周年を前に放ったマスターピース「Endless Ride」、出発点となった“疑問”と完成までの道のりを語る

SPICE

福原みほ

福原みほが3月20日にリリースした新曲「Endless Ride」が素晴らしい。これまで日記に綴ってきたという世界への疑問を出発点とした全英語詞を、あたためてきたメロディに乗せることで完成を見た楽曲は、彼女の歌に触れてきた者であれば誰しもが決定打だと感じるであろう、エバーグリーンなポップソングとして2026年の時代に響き渡る。
2020年以来のインタビューとなる本稿では、ここ数年の生活の中で彼女が人として何を感じ、どんなふうにアーティスト活動や歌うことと向き合ってきたかを紐解きながら、「Endless Ride」に込めた想いと完成までの道のり、そして来年に控えたデビュー20周年に向けた“今”の心境についても訊いていきたい。

──前回SPICEでインタビューさせていただたのが2020年でした。当時はまずコロナ禍という特殊な状況下でもあり、あれから活動形態も心境もだいぶ変わってきたと思いますが、福原さんにとってこの5年間はどういうものでしたか?

みなさんに応援いただきながら、コロナの中でも結構頑張ってライブもやってきたんですよね。会えない中で何ができるんだろう?ということで無観客ライブもやりましたし、配信もたくさんやって。それまで全然やってこなかったYouTubeをやるようになったり、2023年には『ドリームガールズ』というミュージカルにも初めて挑戦させていただいて。すごく異様な数年間でしたけど(苦笑)。

──そうでしたね。

その中で田舎の方に移住して……田舎ってスローライフだとか言いますけど、生活してみると全然スローじゃなくて、毎日やることがたくさんあって(笑)。子育てやDIYもしながらで、音楽家だっていうのを忘れてしまいそうになったりしながらも、以前よりもちゃんと練習はするようになりました。楽曲作りは降りてきた時にバーっと書くことが多いので、その時にしっかり歌えるような身体にしておくために、ピアノの前に向かうとか歌の練習、そういうルーティーンをより意識するようになりました。

──その間のライブも何本か観て、ルーツに向き合う部分と新しく生み出した楽曲と、良いバランスで活動されていた印象があります。音楽表現に対する方向性や感じ方の変化はありますか?

その時々の気分によっても変わったりするんですけど、お客さまがこれは聴きたいだろうなとか、ずっと応援してくださってる方にとっては新曲も聴きたいだろうとか。新しいアレンジにしたアプローチを見つけることもライブならではの醍醐味だと思いますし。その時のバンドメンバーの一番良いところ──ジャンル感であったり音のレイヤー、パーソナリティまで想像しながら臨機応変にセットリストは組んでます。

──曲作りについてはどうですか。

聴いてるものはずーっと10代から変わってなくて。ドライブしながらサブスクの新しいプレイリストを聴いたりしても、気付けば10秒くらいで飛ばしていってる感じで(笑)。新しいものを吸収しようという意識よりも、以前から聴いていた自分のバックグラウンドにある音楽をより深く洞察していく方が増えていると思うんですけど、10歳の娘がタイラの「CHANEL」とかを車で流すのを聴いて「かっこいいな」とか思うことはあります。(新しい曲に)興味がないというよりは、似たものが多く感じるというか。サウンドの作り方もボーカルの処理とかもすごく似てきて、誰が何を歌ってるかわからないような曲も多い中で、パーンと出てくるものもあることに娘の影響で気付かされたりもして。

──そういう気づきがご自身の音楽に繋がっていくようなこともあるんでしょうか。

うーん。コラボレーションという形で若手の方たちとも何か作りたい気持ちはあるんですけど、田舎に住んじゃってるとなかなかライブもサッと観に行けなくなっていて。でも、注目している日本人のアーティストの方もいますし、やっぱり今はHIP-HOPがすごく面白いなと思いますね。昔は一部の人しかやってなかった音楽だったのが、今はサラリーマンの人がTikTokでラップしていたりして、普及がすごいなって。そういうものを掘りながら面白いものを探したりはしていて。

──音楽的に新しさをそこまで求めずにいられるのは、裏を返せばこれまでのキャリアでご自分の表現はこれなんだ、というものを見出せてきたからだとも思います。

流行りに乗ることも良いんですけど、やっぱりその中で自分の持っているメロディとかを表現できなければ、作る意味はないと思っていて。でも、うまく取り入れられたらいいなとは思ってますし、今回の新曲では念願叶ってokaerioくんと一緒にできたことで制作の過程もすごく面白かったし、そういうクリエイターとのコラボレーションはどんどんやっていきたいと思ってます。

■人生の中でずっとあって出し続けている問い──アーティストとして言いたいことは音楽で言わなきゃいけない。

──お話に上がった新曲の「Endless Ride」、素晴らしいと思いました。ディテールの部分には新しさやトレンドの影響も感じさせながら、ジャンルや時代を超えたポップスとして心に届けていける強度を感じて。

ありがとうございます。うれしい!

──特にいま世に放つ作品として、本当に大切なメッセージだと思いました。あらためて、この曲はどのように生み出したんでしょうか。

テーマ的なことは、元を辿れば小学校くらいから意識にあったんですよ。なんで戦争は終わらないんだろう?とか、子どもながらに思っていたことは、大人になってもずっと頭の中にあって。それを今までテーマをちゃんとアウトプットしたことがないな、何か形にしたいなということをここ1年くらいで思うようになったんですね。今年に入ってからタイトルを思いついて、以前に書いていたサビのフックを持ってきて作っていったんですけど、最初は日本語で書いていた伝えたいメッセージを、Googleを使って翻訳しながらライムを踏んで書いていきました。

──戦争ひとつとっても、最近は特に表面化しているとはいえ世界のどこかでは絶えず存在していたものであって。これまでも目を向ける機会はあったと思うんですが、過去にもそういった批評的なメッセージを発しようと思ったことはあったんですか?

そうですね。ここ10年くらいは前向きなメッセージを「JOY」とか「GRACE」といった、宗教の要素を取ったジャンルとしてのゴスペルの曲に落とし込むことをやってきているし、ライブのMCで話したりすることもあるので。過去には恋愛の歌だったり、泣き歌をテーマにして作ったりとか、そういうこともあったんですけど。やっぱり人生の中でずっとあって出し続けている問い──反戦歌とまではいかないにしても、アーティストとして言いたいことは音楽で言わなきゃいけないというか。今回も聴く人によってはそう聴こえるし、でもいろんなシチュエーションの人に響くことを目指しているので、そういった意味でのポップスになったのかなとも思います。

──小学生から抱いてきた疑問といのはどういうもので、どこが変わればいいと感じていたんでしょうか。

自分自身、大人を信用できない子どもだったんですね。大人って嘘を吐くよな、言ってるのに絶対やらないなとか。そうやって育ってきた自分が大人になった時に……この前あった話なんですけど、娘の友達同士が喧嘩し始めて。泣いてた子と話した時に、その友達の5歳くらいの子に「泣いた方がいいんだよ。何があったかわかるから」っていうことをポロッと言われて。

──へえ!

あ、深いな!と思って。その泣くことは悪くないんだっていうのが今回のサビのメッセージに繋がっているんですけど。わたしも小さい頃にあったそういう気持ち──柔らかさや親切さみたいなものが、世の中には足りないよなってずっと思ってきたなって。それに、子どもたちが大人の言うことを聞かないのって、やっぱり信用してないんですよね。今の世の中のリーダーたちがとっている行動を思うと、大きい世界で言えばどっかの大統領もだし、学校の先生にしても、言ってることを本人ができていなかったりする。いま子どもたちと触れ合う中で「そうだよな」「何も変わってないよね」と感じたこともこの曲の発端になってるというか。

──そういう違和感を糾弾したり、戦おうとする方向には行ってないですよね。包み込むような形で、一人ひとりと手を取り合おうとするような。

そうですね。武器もないですし、わたしたちは。子どもたちの世界を見ていると喧嘩をしたり泣いたりはあるけど、でも仲直りするじゃないですか。そういった世界がもっと広がったらいいのになっていうのは、ずっと思ってます。自分の側にいる大切な人を大切にすることが今回の曲のテーマですし、そうありたい、そうあってほしいなという世界へのメッセージでもある。全ては愛に繋がっていて、そこから来ていると思います。

──そういったテーマの根底とも繋がってくる話だと思うんですが、福原さんはマインドフルネスというものを大事にされているそうですね。過去や未来ではなく「今、この瞬間」の心身に意識を向けるという。

はい。日々に追われていろんなことを考えたりしていると、目の前にあることを大事にできなくなったりする。でも、犬とかを見ていると「あ、ああいうふうに生きたいな」って思うんですね。今ここにしかない素晴らしさを楽しむというか、「Endless Ride」もそうですけど、相手と手を取り合って近くにいる人を大切にするには、その前にまず自分を大切にすることが一番大事かなと思っていて。だから、みんな自分を大切にしてほしいなと……小中学生の自殺者がこんなに多いのも、日本だけなんですよね。この状況って何なんだろうな?っていうこともひとりの市民として考えていることで。やっぱりマインドフルネス……それは違う言葉でもいいと思うけど、みんなそういうものを見つけるべき時期に来ているのかなというふうに思うんですよね。

──ここ最近の活動の根底にはその考えがあると。

ライブでもいろんなことを気にせず、ここにあるものを見て歌うことは意識します。“今”に集中するのってすっごく難しいんですよ。常にいろんな意識が入ってくる中で、今ここに自分を置くっていうことは、わたしも日々トライしてることなんです。なかなかできないんですが(笑)。

──確かに、自然と過去や先々のことが頭にありながら、日々を過ごしている気はします。

情報の量も今はすごくないですか? SNSとかもあるので、フェイクニュースなんかも含めて毎日いろんなことが渦巻いていたり、何を食べよう?とか考えてることもある(笑)。そういう意識の中で目の前にあるものを大切にする、集中することって難しくなってると思うんですね。日本人って、元々そういう意識をDNAに持っている民族だと思うんですよ。書道とか剣道とか、いろいろ“道”がつくものがたくさんあるけど、それはそこに集中して何かクリエイティブしたり練習したりすることだと思うので。そういったものをもう一度見直すことが、今の時代で情報に惑わされない力に繋がっていくんじゃないかと。

──そうですよね。うちの子どもにしても、どんどん入ってくる情報をスワイプしながら眺めて消費していくのが当たり前になってしまっているのを感じるし。

そう、すごいですよね! でもそれは彼らのせいではなくて。わたしたちの世代はその変換期に生きてきてるじゃないですか。だから、何でも携帯で調べるんじゃなくて、図鑑で調べるとか、本を選ぶ楽しさとか、そういうものの大切さもちゃんと教えたいというか。そういう時間も今の世の中では大切にされていなくて、ファスト〇〇みたいに便利になったものばかりに需要があるように見えるんですけど、そればかり続けていくと生きていくことの楽しさを失ってしまうんじゃないかと思ったりもして。自分も含め、いま一度見直したいと思っていることですね。

■毎日ものすごい数の曲がネット上に上がってくる中で見つけてもらうってすごいこと。だからこそ丁寧に、悔いのないものを出していく。

──まさにそうですね。消費スピードの速さみたいな部分に対して、ご自身の作品は対極にあるものでいたいと考えますか?

そうですね。時代性を反映したり、ファスト的なものではなくていいと思ってます。ちゃんとクリエイティブに時間をかけてちゃんと納得のいくものを作ったり、届け方も本当はもうちょっとこだわってやるべきなんでしょうけど。昔だったら1年に1枚アルバムを出してツアーをしたり、そういうルーティーンでなければダメだという感じだったんですけど、今は全然そうではなく、音楽なんだから一番良い鳴りのときに観てもらいたいとも思うし。毎日ものすごい数の曲がネット上に上がってくる中で見つけてもらうって、ものすごいことだなと思ったりはしますけど、それはもう止められないので。だからこそ丁寧に、悔いのないものを出していくというのはテーマとしてありますね。

──だからこそ、展開が多くて情報量の詰まった音楽たちの中で、こういった腰の座った音楽というか。

(笑)。

──ちゃんと歌とメロディで勝負している曲を、僕は嬉しく聴けました。

ありがたいです。今回、トラックメイクとプロデュースはokaerioくんですけど、楽曲のベースはピアノと歌だけで作っていて。やっぱりアコースティックで演奏しても良い曲というのは目指していて。どういった形態でやってもメロディが良ければOKだし、そういうものをリリースしていきたいんですね。今回は何もテーマも言わず、どんなふうに上がってくるかは彼に丸投げだったけど、最初に上がってきた音源でもう「Yes!!」という感じで。最初はベースレスで来たんですよ。

──へえ!

そこから田中義人さんにギターを弾いてもらって、最終的にベースも入ったんですけど、ベースレスの音源もすごくよくて、そのバージョンもいつか出してもいいかなと思うくらいでした。面白いのが、わたし的にはアリシア(・キーズ)だったりとか、2000年代初期のR&Bのイメージだったんですけど、okaerioくん的にはボン・イヴェールとかシェリル・クロウのイメージもあったみたいで。わたしはR&Bのイメージでも、聴く人によっててはシェリル・クロウなんだ!みたいな、そういったコラボレーションの楽しさもありましたね。

okaerio

──骨格自体が歌とピアノだけでできたものだという部分が、ちゃんと生きたアレンジだと思います。

そうですね。もともとすごくシンプルで、音数も結構少なかったですし。ギターだけは生で入れたいねっていうことで義人さんに録音いただいた後で、ギターが生ならベースが欲しいねということになったんですけど。

──結果としてベースやキックの低音がパワフルに出ているのも躍動感につながっていて。

低音が出ていても割れないとか、音の処理もすごく良い作品になったと思いますね。たぶん10年前だったらこういうMIXは出てこなかったと思うんですよ。当時だったらマニー・マロクィンにしか出せなかった音を誰でも作れるようになったという意味では、AIや技術の進化も面白いなと思います。

■叶えてきたことも叶わなかったこともありますけど、それはこれからやればいいかという感じで、結構楽観的でいます(笑)。

──これだけ力のこもった楽曲が世に出るわけですが、タイミングとしてはそろそろデビュー20周年という節目も見えてきていて。まずはKさんと大黒摩季さんも出演するバースデーライブが6月に控えています。

Kさんとは去年一緒に楽曲を制作してリリースもして、ラジオでも一緒に演奏したんですけど、すごく声の相性が良くて。彼もミュージカルに挑戦していたりという共通点も多いので、またご一緒したいなと思ってました。大黒摩季さんはもともと連絡をいただいていたんですけど、吉川晃司さんの周年ライブの時にコーラスを一緒にしてからは、摩季さんの周年にもフィーチャリングで呼んでいただいたり、地元の先輩という意味でもすごくお世話になっているので。

──わりとお祭り感というか、華やかな感じになりそうですよね。

なると思います。あの二人が来た瞬間に……特に摩季さんがステージに出てくるともう、ラスボス感がすごいので(笑)。39歳ということにかけて“サンキュー”というのと、19周年から20周年に向けてということで、今回は自分のルーツや今までの音楽も混ぜ込みながら、お二人とコラボした曲も披露したいなと思います。

──あらためて20周年を前に振り返ってみて、出発地点と今では変わったこと、変わらないこと色々あると思いますが、どんなことを実感しますか。

20年もやってきた実感はあまりなくて、まだまだ「ここが歌えないな」「こういうふうに歌いたいな」っていう野望もありますし、作ってみたい音楽や夢もあるんですけど。……でもなんか、自分のやりたい方へどんどん進んでいると思います。私生活の部分でお母さんになってみたかったのも含め──それで音楽に割ける時間が少なくなった10年でもありますけど、後悔もないですし、自分のやりたいことをやれている。そんな20年を応援してくださった皆様に感謝ですね。叶えてきたことも叶わなかったこともありますけど、それはこれからやればいいかという感じで、結構楽観的でいます(笑)。

──20周年やその先へ向けては「Endless Ride」の意味通り、この旅路を続けていくんでしょうね。

この間、子どもに「ママ仕事に戻っていいよ」って急に言われて。「え、ずっと仕事してきたんだけど?」って感じなんですけど(笑)。やっぱり彼女も成長していて、自分で友達と約束して遊びに行くようになったり、自立し始めていて。だから、今までやってきた活動と同じルーティーンというよりは、音楽ヒーリングとか他のアーティストのレコーディングやメンタルのサポートとか、違ったアプローチも勉強してみたいなとは思っていて。そういう部分も深めながら音楽を楽しんで届けられる形で、ずっと続けていきたいと思っているところです。

取材・文=風間大洋

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