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【京都「やっこ」のきつね】お揚げを炊くのは、甘みを少し足したうどんだし。味のベースが一緒だから、調和のとれた一杯に ― やっこ(京都市中京区・夷川通)

デジスタイル京都

熱々のおいしいおだしとなめらかな麺。

食べてほっこりとする〝京都のおうどん〟を愛する人は少なくないはず。なかでも「きつねうどん」といえば、誰もが一度は食べたことがある、定番メニューでしょう。…でも、私は気付いてしまったのです。「きつねうどん」とひとくちに言っても、お店によってあんがい味も姿も違うぞ、と。

そこで、京うどんを味わえるあちこちのお店へ出向いて、それぞれの〝きつね〟とその兄弟分(?)の〝たぬき〟を徹底調査することを決意。さあ、おいしい自由研究の始まりです。

昭和初期から続く〝普段使いのうどん屋〟さん

創業は昭和5年(1930年)。お店の前に立った瞬間、すでに懐かしい「やっこ」。のれんをくぐると、期待に違わず、昭和の雰囲気が色濃く残る空間が広がっています。「外の看板は朽ちたので危なくないよう取り替えたり、内装は約50年前に手を入れたりもしていますが、昔ながらの普段使いのうどん屋です」と話すのは、創業者である西尾忠一郎さんの孫・川畑法子さん。現在、3代目店主の川畑宗生さんと、夫婦でお店を切り盛りしています。

こちらの特徴のひとつは、メニューの豊富さ。めん類だけでも、うどん、そば、中華そば。そして丼のほかにも、やきめし、だしまきなど、さまざまな料理名が並び、注文を決めかねてしまうほど。

「昔は、今みたいに近隣に飲食店が多くなく、コンビニも無かったでしょう。うちは近くにテレビ局や新聞社があり、時間を問わず食事に来てくださるので、数十年前は夜中までお店を開けていました。出前担当の人も多いときで8人くらい居て、お休みも月一回くらいしか無かった。なかには三食ここで召し上がる方もいて、メニューに載ってないものでも『こんなん、できる?』とか、しょっちゅう言われてましたね」と、学生時代から両親を手伝ってお店に立っていた法子さんは振り返ります。

なるほど! この充実したお品書きのラインナップは、常連さんの好き勝手な(笑)リクエストに応えた結果だと聞き、納得。文字通り、普段使いのお店として長年親しまれてきたのだろうと、改めて感じました。

きつね(580円)。少し小ぶりのどんぶり鉢で提供されるのも、昔ながらの雰囲気で良い

きつねをあんかけにした、たぬき(680円)。おろししょうがが乗っている

先代から引き継いだ製麺・だし炊きは店主の仕事

こちらのめん類は、全て自家製。うどんは、細からず太からず、ほどよく柔らかな歯ごたえ。昆布とカツオ節のうまみが存分に感じられるおだしと共に、するすると食べ進めていくと、気付いたら器が空に…。きっと、毎日いただいても飽きないんだろうな、という味わいです。

素材などについて尋ねると、「うちのは、ごくごく庶民のうどん。こだわりというほどのものは、特にないかな。使っている粉も調味料も、乾物も、昔のまま。業者さんに届けてもらっています」と、法子さん。きつねとたぬきに欠かせないお揚げは、現在は、竹屋町通りにお店を構える豆腐店「嶌本(しまもと)商店」のものを使用。近所の個人店の豆腐屋さんが次々と廃業され、そのたび、お揚げ探しに苦労するそうです。

さらに訊いていくと、「そういえば、これはこだわりといえるかどうか分かりませんが、うちの調理場は完全に分担制で、麺とだしは夫。88歳の母が仕込みをし、私はごはんものを担当しています」とのお答え。

実は宗生さんの前職はサラリーマン。今は亡き2代目が引退されるタイミングでお店に入り、製麺とだし炊きを引き継いだとか。「おじいさんの頃から、麺とだしは男の仕事と決まっているんです」と法子さんは微笑みます。余談になりますが、その昔は法子さんのお母さんがお店の一角で得意な中華料理を担当し、着物姿で中華鍋を振っていたそう。それで今も人気のやきめしが、メニューに登場したというから面白いですね。

文字だけの潔さがシブいお品書き

内容を尋ねられることが多いものは、写真入りでの解説も

そうそう、本題に戻り、こちらのきつねについて考察しなければ。

お揚げは、太めに刻まれたタイプ。もちろんとても美味しいのですが、お揚げがさほど強く主張してこないのが特徴という、なんだか不思議な感覚。

「お揚げはうどんだしに、甘みなどを少し足して炊くんです。だしや調味料などのベースが全部一緒なので、よく合います」と聞いて、合点がいきます。これぞ、チームワークの素晴らしさ。いつのまにか完食してしまうような一杯の秘密は、ここにもありました。

とはいえ、おだしがあんかけになったたぬきは、もう少し、お揚げの食感が前に出てくるように私には感じられます。ほんと、組み合わせの妙だな~。

組み合わせといえば、やっこの常連さんがメニュー化したという「キーシマ」にも触れておかねばなりません。「キー」は黄色い中華麺、「シマ」はかけそばを意味し、おじいさんがそう呼んでいたのだと法子さんはいいます(ちなみにうどんは「ハク」)。

和のおだしに中華麺の組み合わせは、かけうどんとも中華そばとも、またひとあじ違う一杯に。これまた、すごいチームワーク!!

お品書きのめん類は、基本、何でもキーに変更可能だというから、幾通りの楽しみがあるのか。いやはや、膨大過ぎる…が、それを考えるヒマがあったら、今、何を食べたいのかと、自分の心と真剣に向き合いたい(笑)。

通いたくなるほど飽きないおいしさが、100年近いお店の歴史を支えています。

カレーうどんの麺をキーに変更すると、キーカレー(680円)に

店内のようす。座面が畳敷きになっている椅子もいい感じ

昔はよく見かけた、レトロな看板

お店は、夷川通に面しています。通し営業で、いつでも気軽に入れるのがうれしい

―「やっこ」さん、ごちそうさまでした!

〈記事内容・情報は2023年11月時点のものです〉

■スポット情報
店舗名:やっこ
住所:京都市中京区夷川通室町東入ル冷泉町76
電話番号:075-231-1522
営業時間:11:30~19:00(土曜は14:30まで)
定休日 日曜・祝日(その他、臨時休業あり)

交通:地下鉄「丸太町」駅から徒歩約3分

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