男女混合チーム、練習強度や戦術、試合のメンバー選出において注意点はある? 指導の注意点を教えて
男女混合チーム。小学生だから女子の方が身体も大きく上手いが、練習の強度や戦術を教える時に気を付けることはある? とのご相談。
さらに、試合出場においてもとある学年では大会規定により2人登録できないから、3人いる女子全員外すというチームの選択にも疑問が......。男女混合チームの指導者の皆さんはどうしていますか。
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、こどもの人権や心を守ることなど指導者が気を付けないといけないことをお伝えします。
(取材・文 島沢優子)
池上正さんの指導を動画で見られるCOACH UNITED ACADEMY>>
<<ずっと一人で練習してきたから足技は抜群に上手いがサッカー経験なし、今回チーム入団が決まったが、何から教えれば良いか教えて
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。サカイクのSNSなどで記事を拝見しています。
スポ少でコーチとしてサッカーに関わっています。見ているのはU-11です。
近くにクラブチームはなく、女子チームもない男女混合チームです。とはいえ、男子の方が圧倒的に多く、1学年男子12~3人、女子2~3人程度です。
当然ながら女子の方が身長も高いし上手いです。今のところコンタクトプレーも嫌がっていないのですが、練習の強度や戦術など男女混合チームならではの注意点などはありますか?
また、一番多い学年で18名いますが、大会は16名登録なのでどうしても2名登録できません。コーチたちに相談すると、今回女子3名を外したらいいんじゃない?(男子のみ15名登録)ということでした。
このような場合、2名だけ外すとショックが大きいから女子を全員外す方が良いという考えのようですが、池上さんはどう思われますか?
チーム編成のやりかたで大事な考え方なども教えてください。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
まず最初に、ご相談文の2番目に書かれた質問からお答えします。
■女子3人中2人だけ外すとショックだから全員外す、というのは時代錯誤
まずは、マインドセットを整えます。コーチの方からそのお子さんに、口頭でサッカーの成り立ちを教えてあげてください。
「2名だけ外すとショックが大きいから女子を全員外す方が良いという考えのようですが、池上さんはどう思われますか?」とのことですが、それ以前になぜ「チームにいる3人の女子全員外せばいい」という結論になったのでしょうか? この女子全員外すという決定に至るまで、どうも皆さんでさまざま議論してはいないようです。
日本でも遅まきながらジェンダーフリーの声が叫ばれ始めた今、時代錯誤ではありませんか? この時代に許される話ではありません。なぜこのような思考になってしまったのか、その点を聞いてみたいところです。理解に苦しみます。
しかも「女子の方が身長も高いし上手いです。今のところコンタクトプレーも嫌がっていない」と書いてあります。まったく遜色なさそうです。男子より身長も高くて上手いのに、なぜ女子というだけで外すのでしょうか。
全員を平等に見るのが指導者の責任であり、資格ではないでしょうか。少年サッカーと言ってしまいますが、正しくは少年少女サッカーです。性差によって差別をしてはいけません。例え男子チームであろうともそこに女子が含まれているのであれば、全員平等に見ることが指導者には求められます。平等に扱われることは「子どもの人権」でもあります。
サカイク公式LINEアカウントで
子どもを伸ばす親の心得をお届け!
■前の大会で登録できなかった子は次の大会で必ずメンバーに入れるなど、全員試合に出せるようにする
では、どうするべきか。
大会の規定上、16人登録は仕方のないことです。チーム全員を均等に見たときに、誰を入れて誰をを外すのかはを、コーチ全員で話し合えばよいことです。そして、次の大会は漏れた2人を必ずメンバーに入れることです。もっと言えば、ひとつの学年で大会に参加するのならば、全員出られるよう考えるべきでしょう。
実際、子どもたちのレベルを見極めるのは難しい作業です。どういう方法で選ぶのかわかりませんが、せっかくきた子どもたちは全員試合に出してあげるよう努めてください。そうなると頻繁に交替があるので、途中出場の選手は実は大変です。
ずっと同じメンバーで出ているほうがやりやすいのも事実です。しかし、そんなことは置いておいて、どんどん交替させてください。プレータイムは同じにしましょう。
例えば2チームにすることも考えられます。大会によって登録人数はわかっているのですから、この大会は2チームにしよう。そのために下の学年から足りない分の選手を呼ぶといった工夫をしましょう。また、11歳以下なので5年生の大会のようですが、大会規定はどうなっているのでしょうか? 1試合ごとにエントリーメンバーを替えられるのか否か。登録を替えられるのなら、そうすべきです。予選リーグはそのままで、決勝に行くときにメンバー変更可というケースは多いです。
■全員に目を配るには指導者と選手の人数のバランスを見ることが大事
それともうひとつ。そもそも入団募集をする際に、指導者の数とのバランスを考慮しているでしょうか?
私が運営しているサッカークラブは、1学年6人までとしています。なぜならば、コーチが私ひとりだからです。皆さん、より多くの子どもに来て欲しい。民間のクラブであれば経営上の問題もありますし、基本的にボランティアコーチが集まる少年団も少子化のいま存続させるために子どもを多く集めたい。
そういった気持ちはわかりますが、まずは今いる目の前の子どもたちのことをコーチみんなで考える時間を設けてください。
■オシムさんはメンバーから外した選手に理由をきちんと説明していた
私がジェフ時代にお世話になった元日本代表監督でもあるイビチャ・オシムさんは、いつも「外した選手にちゃんと説明する必要がある」とおっしゃっていました。言葉通り、選手にはなぜ出られないのかなど、きちんと説明していました。
それを考えると、コーチの皆さんは選手たちにどうして大会に出られないのかを説明できるでしょうか? プロは説明が必要だけど、子どもは不要でしょうか? 子どもだからこそ丁寧にこころを扱わなくてはいけません。
その点からすると「女子3人外せばいい」という判断は、周囲から見ても安易な「女子外し」にしか見えません。繰り返しになりますが、今の時代許されることではありません。
■男女混合チームでも練習の強度を変える必要はない
最初の質問である「練習の強度や戦術など男女混合チームならではの注意点」についてです。私は男子だけのチームと何ら変える必要はないと思います。ご相談者様も「今のところコンタクトプレーも嫌がっていない」と書かれています。
最後に、重要なことをお伝えします。練習の強度は、プレースピードやプレスをかける距離の近さなど幾つかの要素があります。体をぶつけ合うことだけがサッカーの強度ではありません。女子は男子と長い距離を一緒に走ると追いつかれるかもしれませんが、8人制のコートでプレーする場合問題ありません。
高学年になるとアジリティや、ターンのスピードなどは男子のほうが上回る様子を見かけますが、「相手はこうだから次はこうしよう」と頭を使ってプレーを読み切る能力が養われます。もっと早く準備しようとします。
そして、それは男子だけのチームでも同じことが言えます。6年生くらいでは体格や走力に差があるので、遅い子は工夫します。決して男女差だけの話ではありません。
池上正さんの指導を動画で見られるCOACH UNITED ACADEMY>>
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。