会話劇『あの春を迎えに』演出家・佐野大樹の問いかけが導いた、神戸セーラーボーイズ石原月斗×細見奏仁の成長
神戸セーラーボーイズが贈る「Boys☆Act」シリーズ第三弾、『あの春を迎えに』が、2025年10月17日(金)から31日(金)まで、神戸三宮シアター・エートーにて上演される。廃校となる小学校を舞台に、コロナ禍で叶わなかった最後の卒業式を振り返り、置き去りにした「あの春」を取り戻すべく奮闘する卒業生の姿を描く同作。9人のキャストは、まっすぐに芝居と向き合い、青春劇を繰り広げる。このインタビューは、演出の佐野大樹(WBB)、シングルキャストで大谷瞬役を演じる石原月斗(ゆえと)、今泉時生役の細見奏仁(かなと)の3名が参加。19歳の石原が小学生役に挑む苦労や、Wキャストとして時生役を演じる細見と崎元リストのキャラクターの違い、佐野からは指導に奮闘する日々などが明かされた。
――佐野さんは神戸セラボの初期から関わっていらっしゃいますが、彼らはどう成長していると思いますか?
佐野:初期の初期から見ているというわけではないのですが、2023年11月に上演した定期公演vol.1 『ロミオとジュリアス』『Water me! ~我らが水を求めて~』から制作として彼らと関わっています。二人は僕のことを「物販おじさん」だと思ってるんだよね?
石原・細見:絶対思ってません!!(笑)
佐野:(細見を見ながら)で、バカにするんです(笑)。
細見:してない、してない!(笑)
佐野:約2年携わってきて、大人になったというのが一番大きいですね。考え方も生意気になってきた。誰かのせいにしたり(笑)。
――それは細見さんに言ってらっしゃいますか?
佐野:はい。
石原:よかった~。
細見:ちょっとちょっと……!
――お二人は、佐野さんの演出はいかがですか?
細見:めっちゃ面白いし、すごく親身になってくださいます。佐野さんは、自分では気づけない部分に「答えは自分で探してね」みたいな感じで問いかけてくださるので、ある意味自由に、のびのびとお芝居をさせていただいていると思います。
石原:稽古で指摘してくださる部分も理にかなっていて……。
佐野:月斗の役は結構、複雑で難しいんですよ。相手とのやり取りもそうだけど、瞬はずっと不安定な状況にいるから、安定しないようにするというのは、すごく大変だなと思います。
細見:佐野さんはテクニックをポンと教えてくださるというより、そこに行き着くためには、どうやっていけばいいのか考えさせてくださるので、楽しいし、ありがたいなと思います。
――メンバーにキャラクターの深掘りを委ねているのは、成長してほしいという思いがあるからでしょうか?
佐野:自分たちで会話をすると、何かしら頭に入ってくるんですよね。「俺はこれだけ考えたんだ」ということが絶対、芝居に出てきます。考えれば考えるほど、その人の幹の太さとか、逆に弱さとかが見え隠れする。今後の役者人生でも、そういうことがあると思うので、今回がその1回目なのかもしれませんね。
――自分の弱さを知りましたか?
石原:僕は芝居に少しプライドを持っていて。芝居をすると、自分のいいところもあれば、悪い部分も出ちゃうので、そこを自分で認識できると、見えてくるものがたくさんあります。今回の稽古では、プライドをへし折ることも大事だなと思って。佐野さんやメンバーからアドバイスをいただいた時に、へし折って前に進んでいっています。
佐野:僕もプライドが高い方なんですよ。直訳すると誇りとプライドって一緒なんだけど、プライドはマイナス要素として使われますよね。僕は誇りを持つ分にはいいと思っています。
――では、細見さんはいかがですか?
細見:この9月にアンサンブルとして出演させていただいた、ミュージカル『「Fate/Zero」~A Hero of Justice』では、会話だけを追求したといっても過言ではない日々を2ヶ月間、過ごしました。今、それができているかは分かりませんが、あの時は、やっと芝居の上で会話の基盤を築くことができた気がしました。今は、基盤を見つけたけど、「俺はできる」とは考えないようにしようと思っています。
――今回は高校生と小学生時代を演じられるとのことで、演技の難しさや、逆に面白さはありますか?
石原:自分はもう19歳なので、小学生を演じるのはすごく難しくて。
佐野:いや、そのままよ! いけるよ!
石原:ハハハ(笑)。あの頃の無邪気さを取り戻そうと必死です。
細見:月斗くんは、(崎元)リストとか(田中)幸真といる時が誰よりも無邪気。
石原:二人は一緒に遊んでくれる人(笑)。小学生を演じる時はそういう自分も見せつつ、高校生の時はちょっと大人になった部分を見せられたらなと思っています。
細見:僕が演じる時生は、ずっと愛されキャラで。僕は(高校生になっても)「全然変わってないな」というところを楽しめたらなと思ってます。
佐野:キャラクター的には、時生は一番おバカなキャラなんです。でも、誰にでも平等で同じように接するし、偉い人に対しても態度が変わらない役柄です。
――宇都宮麟太郎役であるゲスト、三原大樹さんと宮脇優さんの存在は、いかがですか?
石原:宮脇さんはこれから稽古に合流されるのですが、三原さんは最初から参加されています。まず、僕は三原さんに圧倒されました。芝居ではナチュラルに会話をしてくださるので、受け止めやすくて。困った時も助けてくれて、たくさんアドバイスをくださって。本当に優しい方です。
細見:みんな、三原さんのことを「大ちゃん」と呼んでいるのですが、人柄も、お芝居に対する思いも、豊かな人だなと思います。月斗くんの言った通り、大ちゃんは芝居でもめっちゃナチュラルに話してくれて、状況を感じ取ってちゃんと渡してくれるので、僕も物語の世界に入りやすいです。これからもどんどん刺激をもらっていけたらと思っています。
――石原さんはシングルキャストで、細見さんと崎元さんの時生を見ていらっしゃると思いますが、同じ役でどう違いますか?
石原:リストは、もう暴れ馬というか……。
佐野:制御しきれてない。モビルスーツで言ったらあれは最新型よ。操縦できないよ。
石原:心のままに(笑)。奏仁は小学校の時にいたようなお調子者だなと感じます。「あ、うざいなぁ」って思うような小学生(笑)。リストは本当に歯止めがかからない。どっちも違くて、面白いです。
細見:時生は「お?」っていう状況でも、その空気感に気づいていなかったり。無我夢中で情報を敏感に感じ取って、何事にも絡んでいって。そういうキャラクターは本当に愛されないと嫌なやつで終わっちゃうので、そこは自分の中で見せ方を考えています。
――teamフラットとteamシャープの2チーム制ですが、それぞれのチームの違いはありますか?
石原:主役の佐伯航を演じるteamフラットの(髙山)晴澄とteamシャープのこうちゃん(津山晄士朗)も演じ方が違って。もちろん、枝野栄作役の(山本)歩夢と(大熊)蒼空も違いがたくさん見られるので、どちらも楽しめます。
佐野:がっつり芝居を構築していくチームと、センスでいくチームかな? という差はありますね。そういう意味では面白いです。あと、どんな学校に通っていて、どんな地域で、家族は何人いるのか、そういう役についてもみんなで話してます。この役のいいところ、嫌いなところとか割と話してるよね? 特に会話劇は周りの人間が動くことによって、一人の人物が見えてくることもあるので。こういうお芝居は初めて?
石原:そうですね。
細見:ストレートプレイは初めてです。芝居だけを考える日々もあまりなかったっていうのもあって、いやー、楽しいですね。
佐野:よかった、その言葉を聞けて。
細見:こういうお芝居は、ちゃんと会話を積み上げていかないと、お客さまの中で話が積み上がっていかないですよね。これまでやったことがなかったからこそ苦戦しているのですが、今、この時に挑戦できたことはすごく嬉しいです。
石原:今回の舞台は、相手の話を真摯に聞いて、受け止めて、言葉を発することが大事なんだと気づいて。僕の悪い癖で、「この次に自分のセリフだな」とか、考え込んじゃうんですよね。
佐野:みんなそうよ。
石原:でも、佐野さんが稽古で「相手の話を聞いて、心で受け止めたら、言葉もちゃんと出てくる」と教えてくださって、相手のことを感じられるようになりました。僕以外はWキャストなので、俳優の違いをちゃんと受け止めて、瞬というキャラをチームによって変えていったら、フラットとシャープで違う面白さを見せられるのではと思います。
細見:このお芝居では、すっごく難しいことしてますよね。本当、ライブですよね。その場でちゃんと受け取らないと、会話が成立しない。
――佐野さんは、お芝居で会話を成立させるにあたって、どんなご指導をされるのでしょうか?
佐野:「会話って何だろう?」という疑問に対して、僕がよく若い子にお伝えするのは、「状況と性格、関係性が必要」ということ。例えば初めてお話しする状況で、僕の性格がお調子者だったら、もっと場が明るいかもしれない。そういうことが理解できてくると、自然と流れるような会話ができるようになります。本気でセリフを言う時は、気持ちが動かないと言葉は出てこないので。ただ、それが頭でわかっていても、すぐにはできないんですよね。ここが難しいといいますか。僕もずっと苦しんでおります……!(笑) できるようになっても、永遠に問いが続くんですよね。ダンスとか音楽も一緒でしょう?
石原・細見:そうですね。
佐野:どこまで追求できるか。今回、彼らがこの若さで会話劇に挑戦していく。そのがむしゃら感も世代に合っていて、それだけでも素敵だなと思います。演じる役はいろんなトラウマを抱えているので、それがみんなに重なっていくことで、さらに成長した姿を観ていただきたいです。
取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉