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【ヒューマンライブラリー】久しぶりの人数制限なし 対話を通し、人を理解するヒューマンライブラリーが今年も新潟青陵大学・短期大学部で盛況

にいがた経済新聞

「読者」は、真剣に「本」の話を聞く

会場内は今年も多くの来場者で賑わった

生きた人間が本役となり、一般の読者に貸し出す対話型イベント「ヒューマンライブラリー」は、障害者や社会的マイノリティを抱える人に対する偏見を減らし、相互理解を深めることを目的として、世界各地で開催されている。

元々は、2000年にデンマークの若者たちが、北欧最大の音楽祭であるロスキレ・フェスティバルの中での一ブースとして始めたこの小さな輪は、燎原の火の如く、世界中に、日本に、そして新潟県下でも、急速に静かをみせつつある。

ヒューマンライブラリーのイベントが行われた新潟青陵大学・短期大学キャンパス

2023年11月5日も、新潟青陵大学・短期大学キャンパス内にて、ヒューマンライブラリーのイベントが行われた。同学での開催は今年で6年目となる。主催は、同学で活動の研究と普及を行っている関久美子准教授と「青陵学生司書プロジェクト」の学生たちである。

今年も‟ひきこもり“や‟パンセクシャル”など、生きづらさを抱えた20人もの人々が「本」なり、自身の抱える生きづらさや気持ち、想いなどを「読者」として参加した来場者へと伝えていく。

「本」と「読者」の間を取り持つのが、学生たちによる「司書」の仕事である。事前に「本」となる人たちから、生い立ちなどを聞き、あらすじ作成などの準備に当たる。また、イベント当日も受付や案内、運営などに当たる。イベント成功の重要な鍵を握る役割でもある。

当日は、76人の来場者が「読者」として参加し、「本」との対話を楽しんだ。1回の読書におけるセッションは、30分ほど。一つのテーブルに「本」の人を囲んで、3~4人程度の「読者」と対話を行う。

30分という時間は、一冊の「本」と対話するには、余りにも短すぎる時間かもしれない。だが、短い時間での対話もヒューマンライブラリーの魅力の一つだと関係者は語る。時間内で一度に理解しようとしなくても、30分で聞いた内容を一度、自身の中で時間をかけて消化し、物事の見方や自身の行動が変化するきっかけになればよいという。

同学で初めてヒューマンライブラリーが開催されたときから、「司書」の一人としてイベントに参加している高橋麻起さんは、現在、新潟大学医学部保健学研究科の修士課程に通っている。

現在も大学院で研究を続けているという高橋麻起さん

今回、“元看護学生”というカテゴリーで、「本」としても参加している高橋さんにとって、ヒューマンライブラリーに参加することは、自分を見つめ直す良い機会だという。今年は、ウィルス禍中に行われた人数制限がなくなる。「どんな人が来るか楽しみ」と語った。

‟自傷行為“というキーワードで、「本」として参加したはるかさんは、自身が自傷行為を始めたきっかけはちょっとした興味本位からだったと振り返る。勇気をもって友人に相談したとき、頭ごなしに否定されなかったことが安心して友人関係を続けることに繋がったという。身の回りに同じような行為をしている人がいるという読者に対して、「頭ごなしに否定したり、止めようとしたりするのではなく、まずは‟何か困っていることがあるんじゃないの?”と、話を聞いてあげて」と呼びかける。「自身が学生なら、自分の力に頼るのではなく、信頼できる大人に繋げてあげることも大切」と説く。

「読者」は、真剣に「本」の話を聞く

また、「知的障がい・解離性同一障がい」のキーワードで、今回初めて参加した咲桜(さくら)もちさんは、幼少期に自身が受けた壮絶な体験などにより、現在、自身を含め6人の人格と共存している。医者に、「人格を統合することはその人格(苦しみ)を否定することだからしてはいけない」といわれたという。他の人格と平和的に共存していくために、トラウマを癒す治療を、今も続けているという。

壮絶な過去を体験した咲桜もちさんは、現在も5人の人格と“同居”している

今回、「読者」として上越市から参加した金井美希さんは、難聴や脳性麻痺、生活保護、統合失調症の方などの話を聞き、当初自分の抱いていたイメージと違うところがあることに気がついた。話を聞く前に持っていたマイナスのイメージがプラスのイメージに変わっていくことを実感し、「参加して良かった。また参加したい」とコメントした。

参加前と参加後では、「イメージが変わった」という金井美希さん

また今回、学生司書としてイベントの運営にあたっていた同学福祉心理学部臨床心理学科2年生の嶋津美央さんも、「自分の担当と違う本の方ともお会いすることができるので、いろんな方と関わることができて楽しい」と、「司書」としてヒューマンライブラリーを運営する醍醐味を語った。

司書として参加した嶋津美央さん。イベントを心から楽しんでいる様子だった

イベントの主管を務めた関准教授は、「今回久しぶりに(ウィルス禍前の)オリジナルの形に戻せた。当初はどれだけ人が参加してくれるか不安だったが、多くの人が来てくれてよかった」と、胸を撫で下ろす。イベント後に参加者の中に何かしらの変化が起きたということや、感動したという言葉を聞くにつけ、同イベントを続けていかなければならないと身が引き締まるという。「『本』の人にとっても大事な語りの場なんだなと改めて思う」と語った。

毎年同学でヒューマンライブラリーを主管している関久美子准教授。「これからもイベントを続けていきたい」と語る

近年、ますます重要な視点となっている“多様性”と“他者理解”という概念。これらの理解を推し進めていく上で、このヒューマンライブラリーは、ますます重要なイベントになっていくことに違いはない。

(記事・撮影 湯本泰隆)

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