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木の地産地消で食を支える森林の保全を。村上「大川屋製材所」。

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木の地産地消で食を支える森林の保全を。村上「大川屋製材所」。

県外の人に新潟の魅力を尋ねると、まずお米や魚介、お酒などの「食」が挙がりますが、その背景、源ともいえる水を生み出す森林に目が向けられることは、残念ながらあまり多くありません。森林の保全には適度な間伐、つまり木材の利用促進が不可欠です。木の地産地消を図ることによる地域貢献に、地道に取り組んでいる若手経営者がいます。総面積の8割超を森林が占める県内屈指の木材の産地・村上市で、「川上」の伐り出した原木を建築材に加工し、「川下」の工務店やハウスメーカーに納める、「川中」と呼ばれる製材業を営む「大川屋製材所」の菅原保さんです。今回は菅原さんに、「ウッドショック」の影響から林業の果たす役割、木の地産地消を拡大するために自社で取り組んでいることなどまで、様々なことを伺ってきました。

大川屋製材所

菅原 保 Tamotsu Sugawara

1987年村上市生まれ。大川屋製材所代表取締役社長。大学卒業後、県内の金融機関勤務を経て帰郷し家業に入り、2021年1月から社長に。家としては11代目、商売を始めてからは6代目にあたる。1男1女の父。

「ウッドショック」はチャンス。でも、なかなかひと筋縄にはいかない理由。

­――本日はよろしくお願いします。いきなりですが、昨今ニュースを賑わせている「ウッドショック」って、何なのですか? 解説をお願いしたいのですが。

菅原さん:端的にいうと、巨大市場の米・中などが好況を迎え住宅需要が高まっているところに、コロナ禍による流通の停滞が重なったことで、日本国内への輸入木材の供給が不足し価格が高騰してしまっているんです。それに伴い、国産材の価格も高まっています。

­――と、いうことは、菅原さんの会社にとっては絶好のチャンスということでしょうか。

菅原さん:うちのような製材業だけでなく、国内の林業全体にとって国産材の市場を拡大する好機なのですが、それがなかなかひと筋縄ではいかないんですよ。まず、林業って、商品が足りないからといってすぐに用意できるものではないですから。木を伐るところから始まって、製材し、乾燥させ、納入するまでには、数カ月から場合によっては数年かかることもあります。例えばそこ(指をさす)で乾燥させている材も乾燥の途中で、商品として納めるのは3カ月後です。乾燥機を導入すれば大幅に短縮できますし、実際に海外や国内大手ではそういうサイクルでやっていますが、うちのような小さな製材所ではそのために数千万円もの投資をするのは厳しいものがありますね。また機械乾燥と自然乾燥では材としての質も変わってきますし。

­――なるほど。つまり今は需要が高いからといってどんどん原木を仕入れても、数カ月後にようやく製品化した頃には需要が落ち着いてしまっている可能性もある、という。

菅原さん:まさにその通りです(苦笑)。そのへんが経営者としての腕の見せどころでもあるんでしょうけど……。実際にウッドショックで需要自体は上向いているだけに、歯がゆさは感じています。ただ、輸入材から国産材への転換には、また別の問題もあります。国産材は一般的に、木それぞれの特性、クセがあって、それに精通した職人による在来工法でこそ活かせる建材です。それに対し大量生産で画一的な輸入材はそれが少なく、均質で安価なため市場全体では好まれがちで、国産材がそのまま輸入材に代替できるものでもないんです。質としての良さの基準が国産材と輸入材では違う、というか。均質でクセのない材が良いとされることについては正直、思うところはあります。極端にいえば、それは果たして本当に木といえるのか、と。

­――そうなんですね。

菅原さん:うちもウッドショックを受けて稼働率は上がったとはいえ、取引先は地元の工務店さんが多いのでウッドショックの影響は限定的といえば限定的ですが、個人的には、木に対するイメージや価値観を改めて見つめ直す岐路にきているのかなと思っています。うちでも微力ながら、そのための取り組みを少しずつ進めているところです。

まず地元の木に触れることから。先人がそうしたように、80年先を考えて。

­――木に対するイメージや価値観を見つめ直す取り組みというと?

菅原さん:数年前から直接、エンドユーザーに地元の木の良さを知ってもらう働きかけをしています。まずは身近なところから、地元の木に触れて親しんでもらおうと。商品としては、異業種の同世代とコラボした「むすび箸」、キャンプやBBQでの使用を想定した焚き付け材の「焚きスギ」、動物飼育時の敷材や廃油処理、脱臭などに使えるおが粉「スギの子」があります。これらはすべて村上市産のスギが原材料です。それと、地元の保育園や体験教室に端材を提供したりもしています。村上市も「木育」に力を入れるようになって、新生児全員に市産スギ材の積み木をプレゼントしたりしていますね。これらはすぐに結果が出るものではありませんが、幼い頃から地元の木に慣れ親しんで育った子どもたちが将来、建て主になったとき、自然と地元産の木材を選んでくれるようになればいいな、という取り組みです。

­――将来への種まき、ということですね。

菅原さん:そもそも林業自体、そういう産業ですからね。先ほども少し触れましたが、いま材として提供されるものは、それこそ80年前に木を植えたところから始まるわけです。自分の代はもちろん、次の代でもまだ直接的な儲けにはならないことをやるのは、目先のことだけを考えていたらとてもできません。現在自分たちが使わせてもらっている木は何十年も前に、これを将来役に立ててほしいという意志を持って植えた人が確実にいたんです。そう考えると、端材やおが粉であっても無駄にはできないし、地域の将来のために「第二の人生」を送ってもらいたい。先に挙げたエンドユーザー向けの商品には、そういった思いも込めています。

­――スケールの大きな話……!

菅原さん:地元の木を活用することは、それだけ地元の森林の整備が進むことであり、そしてそれは結果的に、森林から川や田圃に流れ込む水を守ることになり、そこから生み出される地域の食を保全することにもつながります。取組を通じて、そういったことまで伝わればいいと思っています。最終的に大切なのは郷土愛の醸成なのかもしれませんね。

林業は「恵まれた仕事」。自然に後継が育つような会社・業界に。

­――菅原さんご自身のことも少し教えてください。もともと後を継ぐつもりだったんですか?

菅原さん:いえ、実はまったく(笑)。進学や就職の際に、父や家族から特に何か言われたこともありません。大学を出た後は県内の金融機関に就職したのですが、そこでお客さんである融資先の会社の経営者の方々と日々お付き合いを重ねていく中で、経営者に対する漠然とした憧れのようなものを抱いたのかもしれません。仕事上、商売していくこと、会社を経営していくことの難しさ・厳しさを教えられるような実例は多く見聞きしましたが、逆にその分、やりがい、喜びも大きい。それで、翻って自分の将来について考えたとき、そういえばうちも商売していたな、当事者なんだな、と。

­――実際に家業に入られて、いかがでしたか。

菅原さん:先ほどの話とも重なりますが、この仕事って、すごく恵まれていると思っています。仕事量が多ければ多いほど、地域貢献できていることになるわけですから。すごく公共性が高い仕事だという自負はあります。

­――林業は未来への投資、というお話もありましたが、やっぱりお子さんには後を継いでほしいと思いますか?

菅原さん:それは本人たちの自由なので、任せます。無理に継げとは決して言いません。ただ、子どもたちが将来、後を継ぎたいと自然と思ってくれるような会社、業界にしていかなければならないとは思っていて、そのために日々がんばっているところはありますね。

­――今後の展望などを教えていただければ。

菅原さん:森林環境税ってご存知ですか?現在は森林環境譲与税という名前で、地域の森林整備を促進する目的で2年ほど前から各自治体に交付されているものです。2024年から、私たち納税者は1000円ずつ収めることになります。これを納税者が納得のいくかたちで有効活用してもらうためには、行政だけでなく、我々現場の声をもっと聞いてもらう必要があると思っています。そのために今、同業の若い人間で一緒になって、地元の行政に提言していこうと取り組んでいます。これまでお話してきたように森林の環境保全は、すべての方の暮らしに関わるものですから、行政と民間の区別なく、みんなで考えていければいいなと思っています。

­――そうですか。今後に期待ですね。本日はお忙しいところ、詳しくありがとうございました!

大川屋製材所

《本社》〒958-0876 村上市塩町1-19

《工場》〒958-0802 村上市四日市935

0254-52-2045

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