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バスと電車と足で行くひろしま山日記 第34回 灰ヶ峰(呉市)

ひろしまリード

正面は鉢巻山、中央左は灰ヶ峰

日曜日の朝。目覚めると、空は厚い雲に覆われて小雨もぱらついていた。天気予報は回復を告げていたが、予定していた中国山地内に分け入ると午前中は雨にたたられる可能性が高い。こういう時は天候が比較的安定している南に向かうが吉だ。呉市のシンボルで登りがいも十分ありそうなのに、なぜか山と渓谷社の「分県登山ガイド33 広島県の山」には掲載されていない灰ヶ峰(736.8メートル)に行ってみることにした。

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ

行き)クレアライン(おとな片道780円)/広島バスセンター(7:55)→呉本通り八丁目(8:53)

帰り)広電バス焼山熊野苗代線(おとな片道260円)松ケ丘団地(14:47)→呉駅(15:03)

JR呉線・山陽線(おとな片道510円)/呉(15:12)→(15:55)広島(16:00)→横川(16:04)

市電の記憶と銘酒を生む伏流水

灰ヶ峰は野呂山とともに山頂まで車で行けるため、夜景の名所としても知られている。徒歩で登山するルートはいくつかあるが、呉市街地から南麓を登る正面登山道を選んだ。

広島バスセンター発阿賀駅行きのクレアライン線バスに乗車、JR呉駅を経て登山口最寄りの呉本通り八丁目の停留所で下車する。休山の北麓の阿賀峠(呉越峠)を越えるこの道路は、かつて広方面と結ぶ呉市電が走っていた。呉市電は前身の会社が広島市の広電よりも3年早い1907年に県内初の路面電車として開業し、1967年まで運転を続けた。峠に向かう道路は結構勾配が急で、この坂道を市電が行き交っていたのかと思うと不思議な気がする。

バス停から100メートルほど下ってセブンイレブンのある交差点まで来ると、東西に大きく裾野を広げ、山頂に白いレーダードームを載せた灰ヶ峰の全容を見渡すことができる。ピラミダルな美しい姿だ。交差点を西に向かうと、左前方に「千福」と壁に大書された建物とレンガ煙突が見えてきた。日本酒メーカーの三宅本店の蔵だ。同社HPによると、灰ヶ峰から流れる伏流水を地下60メートルからくみ上げて醸造の仕込み水として使っているという。これも灰ヶ峰がもたらす恵みだろう。

呉本通り八丁目バス停付近から見た灰ヶ峰

灰ヶ峰の伏流水を仕込み水に使う「千福」の三宅本店

登山道に入る前から急登

登山口までは住宅街の坂を上る。呉らしい急傾斜だ。一気に息が上がる。平原浄水場の横を抜け、気が滅入るような直線の急坂を500メートルほど上ると、左手に「中国自然歩道」「灰ヶ峰山頂2.2km」の標識が見えた。ここが登山口だ。既に標高は190メートルに達している。

住宅街の急坂を上ったところにある登山口

雨上がりでところどころぬかるんではいるが、よく整備された登山道を軽快に歩く。20分ほどで中国自然歩道の案内板のある分岐に。右の道は七曲りコース、左の道は正面登山路とある。迷わず左を選択したが、ここから一気に傾斜が急になり、ペースががくんと落ちた。息を切らせながら、標高差約180メートルを直登すること20分ほどで車道と合流した。
標高は約500メートル。このまま車道を横切って正面登山路を登ることも考えたが、気分的に山道を登り続ける意欲がわかず、中国自然歩道の灰ヶ峰ルートの一部でもある車道を歩くことにする。

鬱蒼とした森の中を行く登山道

最初の登山道分岐。左の正面登山路を選択

傾斜の緩い舗装道路に出てひと息つく

二度のルート選択

傾斜の緩やかな車道歩きで少し体力を回復した。こんな時は舗装路も悪くない。約400メートルで七曲りコースと合流した。あずまやもあり、ひと息入れる。ここから再び山道に入る。すぐに分岐が現れ、選択肢が示された。「左上 昔からの灰ヶ峰への登山路(桧林に沿った登山路)」「左 灰ヶ峰山頂への登山路(中国自然歩道の灰ヶ峰ルート)」。針葉樹林の道は趣味ではないので迷わず「左」を行く。10分ほど歩くと再び分岐。またまた選択肢だ。「左 山頂へのゆるやかな登山路 展望良好で歩きやすいコース」「上側 山頂へ 丸太の階段が多く勾配のきついコース」。今度は少し悩んだ。「展望良好で歩きやすい」にそそられたが、早く登頂できる「上側」を選んだ。確かに木段の多いルートではあったが、舗装路手前の急登ほどではない。途中、呉の市街地と呉湾の風景が木々で額縁のように縁どられて見える場所もあった。岩場をすり抜けながら登り続けていると、突然石垣に囲まれた構造物が現れた。山頂展望台だ。登山口から約1時間20分だった。

七曲りコースとの合流点に立つあずまや

ここから再び山道に入る

勾配がきつい、ということは早く山頂に着く

展望良好は魅力だが距離は長い?

木段の道はこんな感じ

毒キノコっぽい。ドクベニタケ?

緑の額縁の中に呉湾と市街地

山頂の展望台。台座部分は戦時中の高射砲陣地

麓からでもよく見える気象庁灰ケ峰気象レーダー観測所のドーム

天候も回復、すばらしい眺望

展望台に上がった。眼下に呉の市街地と港、工場群が一望の下に見渡せる。休山の左側には阿賀・広の町並みが広がる。戦時中、ここには高射砲陣地が置かれていた。呉海軍工廠、広海軍工廠、呉軍港を防備する拠点としては最適の場所だっただろう。
心配していた天候はすっかり回復した。時折ガスに包まれる時間があるものの、ほぼ360度の眺望を楽しめた。登ってきた南斜面は急坂の連続だったが、それだけに市街地との距離が近く、遮るものがない。少し雲が多いが、四国の山々もしっかり見えた。800メートル近い標高と適度な風のおかげでとても涼しい。車で来ることもできるが、やはり自分の足で登って味わう景色は格別だ。少し時間が早いが、絶景を満喫しながら昼食を取った。

呉市街地を一望する
広・阿賀方面を望む。四国の山並みも見えた
北側の郷原方面を見る
呉市街地の東側を仕切る休山

「九嶺」の盟主から西へ

呉市の市章(https://www.city.kure.lg.jp/soshiki/8/kuresisyou.html)は、市の周囲が九つの峰(九嶺)で囲まれていることにあやかり,九つのカタカナの「レ」で星形をかたどったのだそうだ。九つの峰は「向尾山、鉢巻山、傘松山、大迫山、灰ヶ峰、尾島山、休山、日佐護山、三津峰山」の9座。呉(くれ)の地名の由来と結び付ける説もあるが、ちょっと怪しいような気がする。ただ、灰ヶ峰は高さといい、山容といい九嶺の盟主といって差し支えないだろう。山名の由来は、広島藩の地誌「芸藩通志」に「灰峰(はいのみね)、名義詳(つまびらか)ならず、或は云、山頂の土、灰のごとし、故に名づく」と書かれている。(「角川日本地名大辞典 34 広島県」)白亜紀の火山岩である高田流紋岩類で構成されており、灰色っぽい岩石の色から名付けられたのかもしれない。

灰ヶ峰は「九嶺」うち西から5番目にあたる。尾根伝いに歩いて両城に下山すれば、あと4座を制覇することができる計算だ。このまま下山するのもつまらないので、とりあえず行ってみよう。

尾根ルートの途中にあった呉要塞の石標

絶景の八畳岩で撤退を決断

灰ヶ峰から西の神山峠へは比較的なだらかな道だ。草が伸びて少し歩きにくいところもあるが、特に問題はない。神山峠を少し下ったところから4嶺目の大迫山(445.5メートル)に登り返す。尾根に出てしまえば縦走路はアップダウンも少ないし、ほぼ林間で快適だ。ただ、さすがに午後になって気温が上がってきたため、少しずつ体力を削られる。

神山峠の分岐
「九嶺」の第4峰・大迫山の山頂。眺望無し
快適な縦走路

名所の八畳岩に着いたのは14時過ぎ。知らなかったのだが、なかなかの絶景ポイントだ。灰ヶ峰から続く山並み、眼前には鉢巻山(399.8メートル)。北側の焼山地区の住宅団地の向こうには巨大なテレビ塔がシンボルの絵下山(593メートル)が存在感を放つ。大きな岩に腰を下ろして鉢巻山を眺めていると、体力的に峠まで下ってまた登り返すのは難しいように思えてきた。ここは潔く撤退しよう。松ヶ丘団地に下山し、JR呉駅行きのバスに乗った。総歩行距離は9.2キロだった。

八畳岩のピーク
正面は鉢巻山、中央左は灰ヶ峰
配置畳岩からのパノラマ写真
焼山の住宅地とテレビ塔の立つ絵下山

20226.26(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」

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