「僕たちは、みんな負け犬」ジョーダン・ピールが“全力で推す”デヴ・パテル初監督作『モンキーマン』激レアインタビュー
デヴ・パテル×ジョーダン・ピール“激アツ”インタビュー
『ゲット・アウト』『NOPE/ノープ』で世界のド肝を抜いた才人ジョーダン・ピールが、「一人でも多くの観客に観てもらいたい」と自らプロデューサーを買って出たサスペンス・アクション映画『モンキーマン』が8月23日(金)、ついに全国公開を迎える。主演兼“初の”監督を務めるのは、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)や『グリーン・ナイト』(2021年)など数々の話題作に出演してきたデヴ・パテルだ。
あらゆるエンタメやテクノロジーの祭典<サウス・バイ・サウスウエスト>でワールドプレミア上映され、全米公開時には初週の興収ランキングで堂々2位を記録した本作。まさに世界を席巻しているこの注目作の日本上陸を前に、デヴ・パテルとジョーダン・ピールのオフィシャルインタビューが到着した。
俳優として輝かしいキャリアを築いているデヴがなぜ今、自ら監督・主演する映画を撮ったのか? しかも、血で血を洗うような激しいアクション映画を? かたやジョーダンは、なぜ作品を買い取ってまで世界の劇場で公開しようと提案したのか? そしてデヴにどんなアドバイスをし、彼の監督ぶりをどう見たのか?
世界中を爆笑させていた人気コメディアンから気鋭の映画監督に転身したジョーダンと、10代の頃から俳優として様々な作品に出演してきたデヴ。そんな2人が、まるで実の兄弟のように互いの共通点を語り合い、努力を労う様子も垣間見えた、映画愛あふれるインタビューをどうぞ。
ジョーダン「これは、観客が反応する声が聞こえてくる映画」
―あなたが良い俳優であることは誰もが知っていますが、こんなにすばらしいアクション、監督、脚本もできたとは。観た人は驚くことでしょう。そもそも、本作はどんなところから始まったのですか?
デヴ:子どもの頃からアクション映画が大好きだったんです。僕はブルース・リーの映画を観て育ちました。もう寝なきゃいけない時間なのに、『燃えよドラゴン』(1973年)をずっと観たりしていました。あの映画からは大きな影響を受けましたね。僕の部屋の壁は、ブルース・リー関係のもので埋め尽くされていました。彼の影響でマーシャルアーツを習うようになりましたし、もし幸運にも自分の映画を作れることになったらアクション映画だ、と思っていたんです。
―ジョーダンは、どの段階でこの映画にかかわることになったのですか?
ジョーダン:撮影が終わり、編集作業がいくらか終わった頃です。デヴが監督し、主演したこの映画を、僕はすごいと思いました。アクションのレベルが高く、とても楽しく新しいことをやりつつも、感動的なストーリーを犠牲にしていない。キャラクターやストーリーに思い入れができないのなら、アクションがすごくても意味はないと僕は思っています。この映画の中心にあるのは、リベンジ。そこがすばらしいと思いました。
―この映画はもともと配信作品として作られましたが、のちに劇場公開になったとのこと。<サウス・バイ・サウスウエスト>のプレミア上映でも大きな反響を呼びましたが、それはジョーダンのおかげだったのでしょうか? なぜ、本作をビッグスクリーンで観るべきだと思ったのですか?
ジョーダン:僕が初めてこの映画を観たのは、編集作業がある程度終わっていたけれども完成はしていないという段階でした。デヴはこの映画の出来具合についてまだ満足していないようだったので、僕は「良い映画が編集のこの段階にある時は、こういうふうに見えるものだよ」と、彼に自信を持たせようとしました。これは良い調子にあるんだと。
僕が<ユニバーサル・ピクチャーズ>に話を持っていったのは、これは映画館で上映する価値があるというだけでなく、その必要がある映画だから。これは、観客が反応する声が聞こえてくる映画。その手のタイプの映画です。映画がすばらしい時、それは、そこにいる人たちみんなを一緒に惹き込みます。僕たちは違って見えるかもしれないけれど、実は似ているんですよ。みんな、良い映画が好きなんです。
―ジョーダンが作る映画に通じるものがあるということですね。
ジョーダン:デヴは俳優で、映画を監督するのはこれが初めて。そんな彼が作った映画を観ながら、僕たちには共通する部分がたくさんあるんだと気づきました。そのひとつに、僕たちはどちらもジャンルの型にはめられることを望まない、という共通点があります。僕たちは観客にアクションを見せたいし、怖がらせたいし、ドキドキさせたいし、笑わせたい。歓声をあげさせるようなことをやりたい。『モンキーマン』は、特別な形でそれをやる映画なんです。
デヴ「めちゃくちゃ大変でしたよ(笑)」
―初めて監督に挑戦する俳優には、手に負えなくなるかもしれないから主演はしたくないという人もいます。あなたは主演だけでなく、激しいアクションもたっぷりやっていますね。そこまで背負うことに迷いはありましたか?
デヴ:そうなることは早くからわかっていました。このプロジェクトは僕が10年以上温めてきたもの。僕自身が主演するのでなければ、お金も集まらず、実現はしないとわかっていたんです。それに、僕自身がやることで、自分の持つビジョンをある程度守れるという意味もありました。
僕が語りたかったのは、真のアンダードッグ(※負け犬/噛ませ犬)の話。しかも、それは僕のような見た目の人たちです。このジャンルに欠けているのは、そこ。僕みたいな人は出てきませんし、出てきたとしても笑いを取るための脇役です。僕は、僕自身のカルチャー、神話、祖先、そしてジョーダンの作品も含め、僕が観てきた大好きな映画の要素を盛り込んだ映画を作りたいと思いました。それが僕のミッションだったんです。
―あなた自身はすでに有名な俳優です。しかし、他に有名なハリウッドスターが出演していないことで資金集めや、実現にこぎつける上で苦労されたのでしょうか?
デヴ:苦労はそれだけではありませんでした。僕たちはパンデミックにも直面したんです。新型コロナウイルスについて聞いた時、僕たちはインドで最も大きなスラム街にいました。そしてその週の終わりには、街から誰もいなくなってしまったんです。まるで『28日後…』(2002年/監督:ダニー・ボイル)みたいな光景でした。みんな去っていきました。僕は文字通り、最後の日の最後の(飛行機の)席を取りました。その段階で、この映画は死んでしまいました。
しかし僕たちは、インドネシアに自分たちだけの小さな“バブル”を作って撮影する方法を見つけたんです。僕はそこに行ったことがありませんでしたが、(クルーやキャストを不安にさせないように)なんでも知っているふりをして、「これはうまくいくんだ」と見せかけるようにしました。この映画を生むために、なんでもやろうとしたんです。でも、そういった制限や苦労は、本作にふさわしいエッセンスをプラスしたように思っています。
ジョーダン:「すごく大変だったに違いない」と感じさせることも、この映画のアイデンティティの一部だと思います。
デヴ:ええ、めちゃくちゃ大変でしたよ(笑)。
ジョーダン:それを感じるよ。このすばらしい映画を作るために、君が乗り越えたものを僕は感じた。
今日では、自分の心を守るためにも、楽な道を選ぶことがあります。でも、彼はものすごくたくさんの努力をした。特別なものを作るのに、10年かかることが、時にはあるんです。
デヴ:あなたが『ゲット・アウト』を作るのには、どれだけかかりましたか?
ジョーダン:(ゴーサインをもらうまでに)8年かかったよ。それから実際に製作するのに、また2年。
僕とデヴは、人生の同じようなところにいたんだと思います。僕たちはどちらも、「そんな映画が作られることはありえない」と言われてきたような映画を作ってみせる、と決めたんです。それには時間がかかります。そして、戦い続けなければいけません。この2本の映画には、それが見て取れると思います。ですが、それは同時にこれらの映画に自由を与え、他と違うものにしたんです。
デヴ「僕たちは、みんな負け犬なんです」
―インド神話のハヌマーンをテーマに入れてくることは、最初から決めていたのですか?
デヴ:そうです。これはある意味、宗教へのリベンジを語るものです。宗教は時に武器として利用され、大衆を扇動することがあります。でも同時に、それは美しいものでもありえます。森の中にいる教養のない少年が、道徳、善のために戦うこと、強さといったことなどを学ぶ。宗教は、そんな多くの違ったものを持つんです。
さらに、その神話は、スーパーマンをはじめとするコミックなど、僕がイギリスで遭遇したものに、実は驚くほど似ています。たとえば胸を開いてみせるとか、空を飛べるとか、大きな山を動かせるとか。僕の育った文化のクールな部分をみなさんに見て欲しかったんです。それをアクションのジャンルで、優れたアクション映画として、やる方法があるはずだと思いました。『ブルース・リー/死亡遊戯』(1978年)や『ザ・レイド』(2011年)、『ジャッジ・ドレッド』(1995年/2012年)みたいな感じで。
これは、上に大きなボスがいるところで、下から這い上がろうとしている人の話。インドにおいて、それはカースト制度を象徴もします。貧しい人が底辺にいて、最上部には誰も何も言えない神のような人がいる。ひとりの男が、その人物に迫ることはできるのでしょうか? ほぼ不可能です。
―それは国境を越えて通じることです。悲しいことに、今の世界では貧富の差がどんどん開いていますし、宗教を武器のように使うということも見られます。だからこの映画も共感を得ているのではないでしょうか。
デヴ:そうであってほしいと思います。それ以外にも、間違いをたくさんおかすヒーローにも(共感できるのではないか)。彼(主人公のキッド)はいつも正しい答えを持っているわけではありませんし、自分の感情にきちんと向き合うこともできません。そこは、このキャラクターの大きな部分です。
僕たちは、みんな負け犬です。ひとつの部屋に人がたくさんいたとしても、みんなそれぞれに乗り越えなければならない何かを抱えているもの。それは国境を越えたテーマです。
ジョーダン:これは心の旅の物語。彼は自分のエゴを捨てなければなりません。単なる個人的な仕返しをしようというところから始まった彼は、最後、みんなのためにもっと大きな意味での復讐をすることになります。
これがスーパーヒーローのストーリーになっていくところが、僕は好きです。ハヌマーンとスーパーマンのつながりについては考えませんでしたが。胸を開くとか、空を飛ぶとか。
デヴ:ですよね。そう、そういうこと全部が、実は共通しているんです。
ジョーダン「国境を越えて、すべての観客が共感できるものを作りたい」
―アクションシーンがたっぷりありますが、他と差別化するためにリサーチをしたりしたのでしょうか?
デヴ:リサーチをしたとは言えませんが、僕はもともとアクション映画が大好きで、骨にまで染みています。それにUFCやボクシングなど、スポーツも好きです。僕は、事前にしっかり動きをデザインしてやった、みたいなアクションにはしたくないと思っていました。『モンキーマン』というタイトルにふさわしいアクション、檻に閉じ込められた動物のようにするためには、どうしたらいいかと考えました。
彼は生き延びるために戦います。自己防衛のために戦っている時、それは小綺麗であってはいけない。醜くないと。汗がいっぱい出て、血が出て、唾も出て、まずい方向にも行ってしまう。これはそういう男なのだから。僕は動物的な感じがある映画にしたいと思ったんです。
―あなたたちは、これからどんな映画を作っていきたいですか?
ジョーダン:僕が先に答えましょう。僕は、どんな感情に対しても扉を閉ざしたくはありません。国境を越えて、すべての観客が共感できるものを作りたいと思います。人を笑わせ、泣かせ、喜ばせ、叫ばせるようなものを。
デヴ:また映画を監督させてもらえる幸運を得ることがあればの話ですが。それがあるかどうかわからないけれども、彼(ジョーダン)の答えを拝借させてもらいます。ジャンルにこだわりません。僕が好きなのは“物語”です。心を惹かれている事柄は、いくつかありますよ。
『モンキーマン』は2024年8月23日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開