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白鸚が78歳で初役に挑み、猿之助は六変化、海老蔵が2年ぶりに歌舞伎座登場!~『七月大歌舞伎』観劇レポート

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『七月大歌舞伎』

歌舞伎座で、2021年7月4日(日)に『七月大歌舞伎』が、初日を迎えた。歌舞伎座は、1日三部制で、各部が終わるごとに、出演者と観客を総入れ替えし、場内の消毒を行っている。客席数は全体の50%に制限しているが、いずれの部も、それを感じさせない盛り上がりを見せた。全三部をレポートする。

■第一部 11時開演

一、『あんまと泥棒』

第一部は、市川中車にとって4度目の『あんまと泥棒』で幕を開ける。

【あらすじ】
細い月が浮かぶ夜、盲目の秀の市(中車)が、あんまの仕事を終えて、屋敷から出てくる。皆に愛想よく接するが、外に出て独りになるなり、不平不満が止まらない。お金をためることが生きがいのようだ。そんな秀の市がひとり暮らしする長屋に、泥棒の権太郎(尾上松緑)が忍びこんできて……。

『あんまと泥棒』(左から)あんま秀の市=市川中車、泥棒権太郎=尾上松緑 /(C)松竹

中車は、口が達者で抜け目のない秀の市を演じる。松緑の権太郎は、泥棒仲間の中では“ちっとは知られた男”と自称するだけあり、肝がすわった泥棒だ。しかし会話の中から、真っ直ぐでお人好しな人柄も見えてくる。酒を口にしたことをきっかけに、秀の市は、泥棒稼業に意見し始める。その合間に権太郎の「金を出せ」と、秀の市の「金はない」の問答が続く。権太郎が声を荒げるほどに、秀の市の必死さは増す。客席は次第に、権太郎が苛立っても笑いが起き、秀の市が大げさに身の上語り始めても笑いが起きていた。お芝居の後半では、長屋に秀の市の高笑いが響き渡る。声も顔も笑っているのに、その姿は寂しく見えた。めいっぱい笑った後、余韻が残る一幕だった。

二、『蜘蛛の絲宿直噺』

つづく演目は、市川猿之助が六変化を早替りで勤める『蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)』。昨年11月の公演の好評に応え、パワーアップ版で再演される。

【あらすじ】
舞台は、平安時代の武将、源頼光(中村梅玉)の館。物の怪に憑かれた頼光は、病の床に伏している。家臣の坂田金時(坂東亀蔵)と碓井貞光(中村福之助)が警護にあたっていると、女童(猿之助)や小姓(猿之助)、文遣いの番頭新造(猿之助)と、招かれざる客が次々と現われて……。

幕が開くと、金時の女房(市川笑三郎)と貞光の女房(市川笑也)が、雅やかな空気と、可愛げのあるヤキモチで、観客の心をつかむ。2人は、劇中で、太鼓持(猿之助)との踊りも披露し、物の怪退治の一幕に華を添えていた。

『蜘蛛の絲宿直噺』(左から)坂田金時=坂東亀蔵、平井保昌=尾上松緑、傾城薄雲実は女郎蜘蛛の精=市川猿之助、源頼光=中村梅玉、渡辺綱=市川中車 /(C)松竹

猿之助は、それぞれの役で個性の異なる踊りをみせ、あっという間に姿を消す。名残惜しく思うのも束の間、まさに物の怪の変化と思えるスピード感で、猿之助は別の姿となり現れる。亀蔵と福之助は、めくるめくシーンの軸となり、物語を展開させる。梅玉の頼光が、この幕を格上げし、渡辺綱(中車)と卜部季武(市川弘太郎)が加わり、傾城薄雲(猿之助)が本性をあらわし、テンションは高まるばかり。フルコースの最後には、とびきりのデザートのように松緑の平井保昌が登場する。揚幕の中から聞こえてきた第一声は、客席がザワつくほどの迫力だった。現われた姿は、THE荒事! 11月に上演された本作、そして5月に上演された『土蜘』をご覧の方は、一層楽しめる趣向が凝らされていた。クライマックスには、大きな舞台を覆うほどの白い糸が飛び交っていた。

■第二部 14時30分開演

一、新古演劇十種の内『身替座禅』

松本白鸚の挑戦が止まらない。第二部では白鸚が、『身替座禅(みがわりざぜん)』の山蔭右京を、78歳にして初役で勤めている。

【あらすじ】
右京(白鸚)は、花子と会いたいがため、奥方の玉の井(中村芝翫)に嘘をつき、太郎冠者(中村橋之助)を巻き込み、なんとか屋敷を抜け出すのだった。あくる朝、右京は上機嫌で帰ってくるが……。

中村米吉の侍女・千枝と中村莟玉の侍女・小枝は、淑やかでありながら輝くような愛らしさ。橋之助の太郎冠者は清々しいまでに振り回され、その姿が面白可笑しい。玉の井を勤める芝翫も初役。ふだんは時代物で発揮する線の太さや風格を、本作では笑いのアクセントに流用し、客席を大いに盛り上げる。

『身替座禅』(左から)山蔭右京=松本白鸚、奥方玉の井=中村芝翫 /(C)松竹

けしからん話だ。しかし、松羽目の舞台に常磐津と長唄があわさると、眉をひそめる隙もなく、華やかで楽しい気持ちにさせられる。なにより、白鸚の右京が憎めない。名案を思いついた時、それがボツになった時など、台詞のない瞬間も、表情ひとつで観客の目を引き、心をつかみ笑わせる。逢瀬の帰り、花道七三でふり返った時の、極上の笑顔は忘れられない。とろけ落ちるようなデレデレぶりにも、品があり、続く舞踊では多幸感が広がった。よほど美味しいお酒を飲んだのだろう。花子さんは、さぞすてきな人なのだろう。想像し、右京より余程だらしなくニヤけてしまった。

二、『御存 鈴ヶ森』

第二部の2幕目は、中村錦之助の幡随院長兵衛と、尾上菊之助の白井権八の『御存 鈴ヶ森(ごぞんじすずがもり)』だ。2020年のコロナ禍で、あらゆる劇場公演がストップした際、歌舞伎座は「ゆるりと歌舞伎座で会いましょう」のキャッチコピーを添えたポスターを発表した。話題となったこのコピーは、本作の台詞、「ゆるりと江戸で逢いやしょう」に由来する。

【あらすじ】
時代は、江戸。刑場のある鈴ヶ森に、ガラの悪い雲助たちがたむろしている。そこへ、駕籠にのってやってきたのが、権八だ。お尋ね者の権八の首を狙い、雲助たちは、次々と襲いかかる……。

『御存 鈴ヶ森』(左から)白井権八=尾上菊之助、幡随院長兵衛=中村錦之助 /(C)松竹

菊之助の権八は、前髪の若衆だが、不良少年的な鋭さと同時に、女性的ななまめかしさがある。夜の闇の中の立廻りでは、雲助たちにガヤガヤ囲まれるほど、権八の柔らかな美しさと芯の強さが光っていた。それに比例し、雲助たちのコミカルさが際立っていく。河原崎権十郎、市川團蔵、片岡亀蔵、坂東彦三郎、市村橘太郎、中村吉之丞らが、たしかな芸で笑いを繋いだ。幡随院長兵衛役の錦之助は、当初発表の交互出演から全日程出演に変更した経緯がある。劇中の台詞で、「播磨屋の兄貴(=中村吉右衛門)」 への敬意が語られると、場内に大きな拍手が響いた。権八を、そして観客をしっかり受け止める、凛々しい長兵衛だった。

⬛︎第三部 17時40分開演

『雷神不動北山櫻』

第三部では、海老蔵が1人5役の奮闘を見せる『雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)』。成田屋の芸として大切にされる「歌舞伎十八番」のうち、『毛抜』、『鳴神』、『不動』は、もともと『雷神不動北山櫻』の中にあったエピソードが、独立したもの。『毛抜』と『鳴神』は、現在でも人気が高い演目だ。本公演では、感染症対策のために上演時間に配慮しつつも、通し狂言より『毛抜』、『鳴神』、『不動』を織り交ぜた、盛沢山の構成で上演する。​

幕が開くと、広い舞台に海老蔵が一人。まずは口上ではじまった。海老蔵にとって、2年ぶりの歌舞伎座での公演とあり、顔を上げた海老蔵に、熱い拍手が贈られた。感謝を述べた後、海老蔵は、自身が勤める5役を、パネルで示しながら簡単に解説する。物語の舞台は、平安時代。天皇の座を狙う、美しくも冷たい印象の早雲王子(海老蔵)、一人称が「まろ」で、笑いどころも担う安倍清行(海老蔵)が登場。早替りの鮮やかさに、場内がどよめく瞬間があった。『毛抜』にあたる二幕目「小野春道館の場」では、賢さと人間味あふれる、頼もしい男・粂寺弾正(海老蔵)が、お家騒動の解決に挑む。腰元巻絹に中村雀右衛門、八剣玄蕃に市川右團次、小野春道に大谷友右衛門、秦秀太郎に市川門之助らが脇を固め、芝居を彩る。『鳴神』で知られる三幕目「北山岩屋の場」では、真面目な高僧・鳴神上人(海老蔵)に、雲の絶間姫(中村児太郎)が色気たっぷりに近づいて……。

『雷神不動北山櫻』(左から)鳴神上人=市川海老蔵、雲の絶間姫=中村児太郎 /(C)松竹

本作は早替りだけでなく、外郎売さながらの早口あり、謎解きあり、色気と思惑が入り混じる会話の攻防ありと、見どころが続く。中でも客席の興奮が最高潮に達したのは、大詰の第一場「朱雀門王子最期の場」だ。早雲王子の悪だくみが明るみに出て、捕り手たちとの立廻りが繰り広げられる。鮮やかな衣裳の大勢の四天が、舞台を駆けめぐる。海老蔵の名にちなんだエビの形、市川團十郎家の定紋「三升」の形を描きながら、二階席に届く高さの梯子を使った大立廻りを披露。息つく間もなく、拍手に次ぐ拍手で歌舞伎座が揺れた。思い返せば、早雲王子のシーンはそう多くなかったが、衝撃のラストシーンに、悪人とはいえ淋しさが残った。不動明王(海老蔵)の登場は、もはやイリュージョン。歌舞伎をあまり観たことがない方にも、楽しい! カッコよい! すごい! と説明不要で楽しめるステージパフォーマンスとなっていた。

『七月大歌舞伎』は、第一部・第二部は7月29日(木)まで、第三部は16日(金)までの上演となる。

取材・文=塚田史香

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