田中哲司、大森南朋、赤堀雅秋の演劇ユニット、新作はコロナ禍で鬱積した空気感を描く~舞台『ケダモノ』初日前会見&公開ゲネプロレポート
赤堀雅秋プロデュース『ケダモノ』が、2022年4月21日(木)~5月8日(日)に東京・本多劇場、5月14日(土)~15日(日)に札幌・かでるホール、5月20日(金)~22日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼで上演される。
田中哲司、大森南朋、赤堀雅秋の演劇ユニットは、2016年2月に『同じ夢』、2019年に『神の子』を上演し、今回が約2年半ぶり3回目の公演となる。ユニットの3名に加えて、門脇麦、荒川良々、あめくみちこ、清水優、新井郁が出演する。
初日に先立ち、初日前会見と公開ゲネプロが行われた。
初日前会見には、大森、門脇、荒川、あめく、赤堀、田中が登場。初日を迎えた今の気持ちを聞かれ、赤堀は「コロナ禍の田舎町の日常を描いた話で、2年間のコロナ禍で鬱積した空気感みたいなものを描ければと思って作劇した。とにかく一生懸命積み上げたものをお客様の前に提示できれば」、大森は「そこはかとない緊張感がある中で楽しめれば」、門脇は「とても楽しみでもあり、緊張もちょっとしている」、荒川は「(公演を)早くやりたいです」、あめくは「ドキドキですけど、一瞬一瞬楽しんでできたらと思う」とそれぞれ述べた。
田中が「初日を迎え、沖縄の言葉でいうと『ちむどんどん』してる。今日から頑張って突っ走っていこうかなと思っている」と、4月からスタートしたNHK朝の連続テレビ小説のタイトルをアピールすると、ヒロインの父役で出演中の大森が「ありがとうございます」と頭を下げて、会場は笑いに包まれた。(注:「ちむどんどん」は沖縄の方言で、胸がわくわくする気持ちを表す)
赤堀との芝居作りについて尋ねられると大森は「ここしばらく赤堀くんとしか舞台をやっていないので、もう習慣化しつつある。毎回、赤堀くんが自分を追い詰めて作品を書き上げている姿を目の当たりにしているが、そこから絞り出される怖さが毎回増している気がする。いつも楽しくも緊張感を持ってやらせてもらっている」と語った。
田中が「毎回素晴らしい作品だが、今回は「あ、そっちで来たか」という、また新しい一面が見えて、自信を持ってお勧めできる作品になった。ユニットの中では僕が56歳で最年長だが、健康だったら70歳くらいまでやれたらな、と思っている」と未来への展望も述べると、大森は少し驚いた表情で「そんなに? 哲さんが70ってことは僕もまあまあいい歳になる」と反応。さらに田中が「年寄りの話とか面白そう」と提案すると、赤堀は「誰も見たくないでしょう」と苦笑いを見せつつも「その歳まで飯が食える目星がついていいですね(笑)」と乗り気な姿勢も見せた。
赤堀作品へは初参加となる門脇は「学生時代に赤堀さんの舞台を見ていた頃からずっとご一緒したかった。本が上がってくるたびに胸が揺さぶられるし、赤堀さんが演出される言葉には共感と言うとおこがましいが、自分の感性的に違和感がない。この一ヶ月、なんて贅沢なんだろう、という時間を稽古場から過ごしてきた」と熱を込めて語った。
赤堀作品へ多数出演経験のある荒川は、赤堀に向かって「毎回全くやったことのない役を書いていただいてありがとうございます。あと、あめくさんとちょっとロマンス的なことがあるんですけど、そういう役もあまり今まで経験して来なかったので、ありがとうございます」と頭を下げた。あめくは「10年ぶりくらいに赤堀さんの演出を受けたが、やはりすごく迫力のある演出。荒川さんがおっしゃったようにちょっとロマンスもあり、ますます嬉しい」と笑顔で答えた。
最後に大森が「今日やっと初日を迎えることができた。ぜひ2回、3回と見に来ていただいて、初日からどんどん変わっていく生々しい芝居を楽しんでいただきたい。今回は大阪と北海道にも行かせてもらうので楽しみにしている」と述べ、会見を締めくくった。
続いて公開ゲネプロが行われた。
田舎町でリサイクルショップを経営する手島(大森)は、自称・映画プロデューサーのマルセル小林(田中)とつるみ、従業員の出口(荒川)と木村(清水優)と一緒に、マイカ(門脇)と美由紀(新井郁)が働くキャバクラで飲むくらいしか楽しみのない日々を送っている。ある日、節子(あめく)から「父が死んだので不用品を引き取って欲しい」と依頼を受け、手島と出口と木村が節子の家に行って家の中を整理していると、木村が蔵の中であるものを発見してしまい……。
赤堀は会見で、今作はコロナ禍で鬱積した空気感を描いたと話していたが、その鬱積したエネルギーが爆発したような作品だ。
コロナ禍でオンライン化が進む中でますます時代に取り残されて、手島のリサイクルショップは存続の危機に瀕している。彼らの行きつけだった飲食店も閉店に追いやられ、増えすぎた鹿の駆除のためにやってきた猟師(赤堀)が経営する居酒屋も苦しいようだ。マイカには出生に複雑な事情があり、美由紀は自分の容姿にコンプレックスを抱き、節子は30歳からずっと父親の介護に人生を費やしてきた。皆がそれぞれに、人生に何かしらの行き詰まりを感じている。
赤堀はこれまでも獣害や介護の問題など、人間の抱える社会問題を題材にしてきたが、今回は新たにコロナ禍が加わった。様々な問題を前にした人間の生きづらさを描くことで、人間が持つ動物的な生々しいおぞましさがむき出しになるところが赤堀作品の真骨頂と言えるだろう。
満たされない思いや苛立ちといったネガティブな感情が鬱積すると、人は感情のコントロールが利かなくなる。自分の置かれた状況に我慢ならなくなり、そこから抜け出そうと必死でもがき、その結果何かを攻撃したり破壊してしまう人が、コロナ禍になりますます後を絶たない。そんな人生に行き詰った「ケダモノ」たちの姿を、赤堀は鋭さと哀しさで描いている。
大森、田中、荒川、あめくといった、赤堀作品にこれまでも出演経験のある面々が、徹底的に生々しさを体現してヒリヒリとした世界観を立ち上げている。今回赤堀作品初参加の門脇がその世界観からほどよい距離で佇む姿が、今作の重要なスパイスになっている。
劇中で何度か登場する「若者たち」という歌が、虚しさを増幅させながらも、一縷の希望の光にも感じられる。果てしなく遠くあてのない道のりだが、希望へと続くことを信じて歩き始められる社会になって欲しいと願わずにはいられない。
取材・文・撮影(会見写真)=久田絢子