【農業振興と食料自給率】日本の農業の現場で起きていることは?先進技術導入と輸出強化で成長産業になる?改正農基法成立を機に考えてみよう!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「農業振興と食料自給率」です。先生役は静岡新聞の高松勝ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年6月10日放送)
(高松)国の農業政策の方向性を示す「改正食料・農業・農村基本法」が5月29日に成立しました。
(山田)今日は改正農基法から静岡県の農業振興と食料自給の今後について学ぼうということですけれども。
(高松)ちょっと難しく聞こえますが、日本の農業の基本となる法律が25年ぶりに改正されました。関連して、今日は特に「食」についての話をしたいと思います。
現在、何が起きているかというと、ロシアによるウクライナ侵攻があって穀物の供給状況が不安定になっています。これにより、世界的に食料の価格が上がっています。さらに地球温暖化による気候変動や世界的な人口増加が進み、食料の需給バランスが崩れてきています。
日本でも人口減少・高齢化が進むなど、食料を巡る環境がこの20数年で激変しています。
なぜ「食料安全保障」が大事なのか?
(高松)このような状況の中で日本はどうすればいいか。国内で消費される食料に対する国内生産の割合を示す「食料自給率」が、日本は2022年度、カロリーベース換算で38%でした。政府は2030年度までにこれを45%まで引き上げる目標を掲げていますが、なかなか厳しい状況です。
日本の食料自給率は世界的に見ても低いです。農業国と言われる欧米の国は、食料分野が輸出超過になっているので、当然食料を自前で確保できます。食料自給率は何を意味しているかと言うと、何か不測の事態があったときに、自国の生産物で食料の確保が成り立つかということです。日本は石油や天然ガスなどエネルギーを輸入に頼っていますし、農産物を含めて食料も輸入が多いというのは、安全保障的にも良くない状況です。
(山田)なるほど。何かというのは戦争だったり大きな災害だったりということですね。
(高松)特に災害ですね。「食料安全保障」というと難しく聞こえますが、簡単な話です。国は今回、「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給される状態」を目指すことを改めて定義し、食料全般をどのように確保して国民生活を安定させていくかということを考えるために法律を改正したということです。これが今後の農業振興と食料自給を考える上での大前提となる話です。
日本国内の農業に目を向けると、農家が減っていて高齢化も進んでいるという現状があります。これをどうするかということを考えなければいけないということです。一方で、農業は先進技術の導入や輸出を進めれば成長産業になるという議論もあります。日本の農産物はアニメなどと同様に、海外にファンが多いんです。
状況としては先細っているけど、そこを先進技術の導入と輸出産業化でどのようにもり立てていくかをまずは考えていきましょうという話になっています。厳しい現実と夢のある話という2つの側面があります。
静岡県の農家は約5万戸あると言われています。農業産出額は約2000億円。お茶やミカンのほか、イチゴ、メロン、ワサビ、花卉など伝統的な農産物がありますし、シイタケなども有名ですよね。ほかにも、畜産物や、マグロ、カツオといった魚介類などさまざまな分野の農林水産物がそろっています。
全般的に見れば農家の高齢化は進んでいて、全国的に7割ぐらいが高齢者だと言われています。国の基本を担う非常に重要な産業であるにもかかわらず、人数もこの20数年の間に国全体で半分ほどに減ってしまっています。
(山田)半分⁉
(高松)日本国内の基幹的農業従事者は現在、約110万人いますが、20年で半分ほどになっています。ただ、小規模農家が減っている一方で、大規模化や企業化が進んでいるので生産額が半分に減っているわけではありません。それでも、自分の周りを見渡したときに、農業に携わっている人は体感的にも減っているのは間違いありません。農業従事者が大幅に減っているというのは大きな問題の一つとしてあります。
(山田)ラジオの仕事に関わっていると、やはり農家さんたちが多くラジオを聞いてくださっているなと思います。ただ、自分の同級生などで思い当たるのは2人ほどしかいないですね。
(高松)僕が小学生ぐらいのときは、茶農家の子供や家でミカンを作っている知り合いが周りに結構いました。親が兼業農家で普段はサラリーマンをしているけど、田んぼがあるから農繁期は田植えをするとか、親戚の家で茶摘みをするという話は普通にあったと思います。それが、今は減っています。
(山田)そう言われると、ありましたね。
価格転嫁、技術継承と課題多く
(高松)法律の話に戻すと、もう1つ大きな論点があります。今、農家はコスト的に非常に厳しい状況に置かれています。肥料や燃料などの調達コストが高騰しているのですが、農産物の価格に転嫁できるかという問題があるんです。
(山田)価格に載せないと仕方ないんじゃないですか。
(高松)私たちが買うさまざまな食料品の価格がじわじわ上がっている背景には、コストの価格転嫁ということもあるということです。農産物も同じです。
(山田)そうなんですね。
(高松)そのことは消費者も理解しなければなりません。輸入コストが上がっていますし、国内の農家の状況を考えると高騰する調達コストの価格転嫁は当然必要な話になっています。今回の法改正でも、食料安全保障という言葉は、海外への対応と、国内の農家をどのように維持していくかという両方を戦略的に考えようという趣旨を含んでいます。ただ、そういう状況は消費者にはなかなか伝わってきていません。
(山田)そうですよね。
(高松)身内に農家がいたり、仕事で農業に関わっている場合は別ですが、普通に都市で生活をしていると、そういうことはわからないですよね。外食したりコンビニで食料を買ったりしますが、食材がどこから来て、どのような産業が関わっていて、どんなコストがかかっているのか、という部分はなかなか見えませんから。
(山田)そうですよね。円安などの影響で海外から輸入する農産物が高くなったので国産のものがより売れるようになるのではないかと思っていましたが、そういうわけじゃないということですよね。国内で生産するのにもよりお金がかかっているという。
(高松)結局、国内の農業も維持しなければならないし、もう一つの大きな観点として環境問題もあります。いわゆるSDGs的な話ですが、環境に負荷をかけない形でどのように農業を回していくかということも考えなければなりません。
農業の今後を考える上で、県内でも進んでいる技術事例があります。例えば、ドローンを飛ばしたり、AIの技術を組み合わせたりして農地や生産の状況を効率的に見るようになっています。ベテラン農家の作業時の物の見方や動きをAIで学習し、それを一つのソフトにする研究も進んでいます。
食卓での会話が農業理解の第一歩!
(高松)ワサビ栽培の分野でも、伝統的に石を組んで作るわさび田の職人が減っているので、これを組める人を育てていくということもしています。農業の技術は一般の人が思っている以上に精緻な職人の世界でもあり、それが「日本の農業は品質が優れている」という評価につながっています。ここの部分をどのようにつないでいくかということも考えなければなりません。
われわれが普段何を食べているのか、その食料の由来はどうなっているのかということを考えるきっかけとして、県産や国産のものを選ぶというのも一つの選択肢です。農産物を作っている人のことを考えながら食べるなど、生活の中でそれを考えるか、考えないかは大きなことです。今回の法律の話でそういうところに少しでも目を向けてもらえれば、と思います。
(山田)確かにそうですね。何か難しく考えたり、SDGsという大きな枠組みの話をする前に、今自分が何を食べているのかについて考えることが第一歩ということですね。
(高松)お子さんがいる家庭であれば、目の前にある食材がどのように作られているのかということを普段の会話の中で思いを巡らすことをしてもらえれば。
(山田)僕も今朝、子供のお弁当を作ったんですけど、そういうことを全くわからずに食材を使っていたりもしますからね。大事かもしれません。今日の勉強はこれでおしまい!