“地域とつながる、劇場のある街づくり”を目指して…札幌駅北口にオープンした「ジョブキタ北八劇場」に込められた思い
2024年5月、再開発が進むJR札幌駅北側エリアに誕生した、複合型再開発ビル「さつきた8.1」。ここの2階に、本格的な民間劇場である「ジョブキタ北八劇場」がオープンしました。
札幌の演劇業界の新たな“顔”になるであろう劇場には、どのような思いが込められているのか!?
お話をしてくれたのは、「ジョブキタ北八劇場」芸術監督の納谷真大さんと、アーティスティックコーディネーターの小島達子さん。お二人は、ご自身も役者でありながら、劇場のプロデュースも担当しています。
今回の取材は、「HBC演劇エンタメ研究会(通称“エンケン”)」のメンバーが担当!「エンケン」は、HBCアナウンサーを中心に、演劇やエンタメが好きなメンバーによって発足した新しい活動です。発足後、第1回目となるこの記事は、“エンケン会長”の堰八紗也佳アナウンサーと、Sitakke編集部YASU子が担当します!
【HBC演劇エンタメ研究会とは】
役者をしながら、「ジョブキタ北八劇場」を裏方としても支える2人。それぞれの役割は?普段はどんなお仕事?
堰八アナ:小島さん、納谷さん、本日はよろしくお願いします!まずお二人の役職は、納谷さんは「芸術監督」、小島さんは「アーティスティックコーディネーター」ということですが、それぞれ具体的にはどんなお仕事なのでしょう?
納谷さん:芸術監督は、ひとことで言うと「演劇のラインナップを決める」のが主な役割です。劇場でどんな演目を展開していくのか、方向性を決めるのがメインの仕事ですね。
僕はほかにも役者だったり、演出家だったり、劇作家だったり、いろんな活動をしてるんですが、今はこの北八劇場の芸術監督をメインに活動しています。
もともと僕は役者になりたくて、大学を出て富良野塾(※)の9期生として1992年に北海道に来たのがスタートでした。役者は、すぐにそれ一本で生活することはなかなか難しい職業です。ほかにも色んなことができたほうがいいのではと思い、自分で脚本を書くようになりました。2001年に、初めて書いた戯曲が『北の戯曲賞』で優秀賞をいただくことができたんです。その戯曲を自分で演出して、それを舞台にするためにチームを作ろうと劇団を作り…そんなふうに道が繋がって、今この北八劇場の芸術監督のお話をいただくに至りました。
※富良野塾とは:1984年に脚本家の倉本聰氏が開設した脚本家や役者の養成施設。2010年25期卒業生をもって閉塾した。
堰八アナ:小島さんの「アーティステックコーディネーター」はどんなお仕事なのでしょう?
小島さん:どちらかというと「プロデューサー」に近いのかなと思います。芸術監督である納谷さんが考える演目を創作するためのキャストやスタッフを集めたり、どうPRしていくのかを一緒に考えていくことがまず中心です。今後は道外から作品を招いたりなども考えていく予定です。
納谷さん:僕がラインナップを考えて提案して、それを本当に実現できるのか、今の時代にそっているのかを小島が一緒に精査する。最終的には、劇場の支配人と事務局長も含めた4人で決定する、というような座組ですね。
堰八アナ:なるほど!お二人は北八劇場ができるより以前からのお付き合いなんですか?
小島さん:私は高校から演劇を始めて、札幌市を中心に活動する劇団で役者をやっていたんです。そこに納谷さんが客演(※)として出演したのが最初の出会いですね。
※客演とは:役者が自分の所属ではない劇団などに出演すること。
納谷さん:そうそう。もともと僕らは「共演者」としての出会いがきっかけだったんです。お互いに別々の劇団に所属していたんですけど、小島は、僕の劇団で公演している舞台にも出てくれていて。その頃の僕は自分の創作活動で色々と悩みが多い時期で…。役者としての自分の成長や、劇団の運営、脚本を書くことなど、考えないといけないことが盛りだくさんだったんです。そんなとき、小島のアドバイスを、演出に取り入れてみたところ、舞台『12人の怒れる男』が成功して、新しい視点が開けたんです。その頃から、小島は僕のアドバイザーとしてとても頼もしい存在になっていったんです。ありがたいことですね。
作品を生みだし、ロングラン公演を実現させるという目標
堰八アナ:ことし5月に「ジョブキタ北八劇場」がオープン、こけら落とし(※)公演も終えて、ここまでの反響はいかがですか?
納谷さん:思った以上にうまくいった部分、そうじゃない部分がありますね。当初は、劇場が主体となって演劇を創作するのではなく、すでにある作品を外から呼んで上演するというスタイルを想定していました。「ジョブキタ北八劇場」のような、民間が運営する劇場を自立・自走させていくのには、公共劇場とは違い利益を出していかなければならないので、そういった取り組みでお客さんをたくさん呼ばなければと感じていたんです。でも、キャパシティが200ちょっとの小さな劇場で、それを行うにはチケット代の限界もあって、実現するのは難しいということに気づいたんです。外から呼ぶのはお金がかかりますからね。
そこで支配人とも話をして、“外から呼ぶのではなく、自分たちの手で作品を生みだして、ロングラン公演を実現させる”ことができれば、演劇を中心とした劇場として成立させられるのでは、という思いに至りました。
そこで、こけら落としでは過去に僕の劇団でやって、約4000人というお客さんに見て頂いた「あっちこっち佐藤さん」という作品を、約1か月のロングラン上演をしました。結果的にこれは大成功で、5000人を超える方々に来てもらうことができました。
小島さん:こけら落としでロングラン公演を成功させて、5年後の未来に向けた1つの可能性を見せることができました。難しいのは、このあと。次にどんなことができるかを示せるかが重要だと思っています。
※こけら落としとは:新たに建てられた劇場で初めて行われる催しのこと
ジョブキタ北八劇場の中はどんなところ?
堰八アナ:「あっちこっち佐藤さん」、とっても面白かったです!」ぜひ、劇場の中も見せていただきたいです。舞台としての特徴なども教えてください。
納谷さん:ぜひ(劇場内を)見に行きましょう!舞台の広さなども、自由度高めに変えられますし、天井高もあるので演出の幅が凄く広がります。こういう舞台を見ると演出家としては、つい高さを生かしたものを作りたくなっちゃうんですよね(笑)。このサイズ感の劇場で花道を作ったり、背の高い造作を作ったりなど自由度の高い演出ができるっていうのは、札幌ではジョブキタ北八劇場だけだと思います。
あとは、これは実際に公演をしてみてから初めてわかったことなんですが、客席と舞台がシームレスという特徴がありました。
公演のあとはよくアフタートークという公演終了後にステージで役者たちがお話をさせていただくというのをやるんですが、その時にお客さんに「何か質問ありますか?」と聞くと、シーン…となってしまうことが多いんですけど、ジョブキタ北八劇場では客席と舞台に一体感があるからか、質問がバンバン飛んでくるんです!そういう点ではシンポジウムなんかにも向いている会場だと思います。
小島さん:この椅子がすごく好評なんですよ…!固定客席で、長い時間座っていても疲れにくいんです。そして、2階席もあるんですけど、私は2階から見るのも結構好きですね。正面から見たときと上から俯瞰で見た時では、目が行く役者さんが変わったり、違う印象を受けたりして発見が多いです。
納谷さん:そうですね。舞台は、どこに座って、どういう画角で見るのかによって同じ芝居でも受ける印象が変わりますので、ぜひお客さんには何度か足を運んでいただいて、“お気に入りの席”を見つけて頂ければ嬉しいです。
ジョブキタ北八劇場が目指す、「劇場のある街」とは
堰八アナ:北八劇場のHPにもある、「劇場のある街」という言葉がすごく気になっていて、どういうイメージか是非教えてください。
納谷さん:理想は、演劇で劇場がにぎわい、それが街の発展に繋がっていくことですね。
例えば、冬に子どもたちの遊び場になったり、高齢者の憩いの場になったり…年末に紅白のど自慢大会なんかもやりたいっていう夢があります!
地域の方々に、「あの劇場に行くとなんだか楽しいことがある」と思ってもらえるような場所にしていきたいですね。“地元のお祭り”のような場所になれたらいいなと思います。演劇を「観に行く」だけじゃなく、「みんなが参加する」ような集いの場になっていくことで、劇場がにぎわって、それがさらに街の発展にも繋がっていくと理想だなと思います。自由な発想で、“地域の方々”に寄り添った取り組みをしていきたいです!
オープニング企画「ワレワレのモロモロ」とは
堰八アナ:8月8日から始まる「ワレワレのモロモロ2024 札幌東京編」。オープニング企画ということですが、どんな企画なんですか?
小島さん:2024年度は「オープニング年間」として、さまざまな企画を打ち出していまして、そのメイン企画の中の一つです。
納谷さん:簡単に言うと、自分の身に実際に起きた“ヒデ―めにあった話”を自分で脚本におこして、さらに自分が本人役になって主演の舞台に立つんです。今回は札幌と東京から4人の脚本を上演します。
東京で「ハイバイ」を主宰する岩井秀人さんという、僕も小島も個人的にファンなまさに業界トップランカーと言える劇作家・演出家さんがやっている企画なんですが、札幌でワークショップをして、もし面白い話があったらぜひ採用して欲しい!とお願いして、今回実現にこぎつけました。
堰八アナ:納谷さんの脚本も採用されていますね。「恵比寿発札幌、仕方なき弁」は、どんなお話なんですか?
納谷さん:そうなんです、いくつか出していて、まさかこの脚本になるとは思ってなかったんですけど…本当にあった話ですが、ネタバレしないように言うと「僕が恵比寿ガーデンプレイスで、“やっちまった”話」です(笑)。
今回は役者としても舞台に立ちますが、たくさん指摘を受けて、ショックも受けるし落ち込むし…新しい発見・勉強の連続です。今日もこのあと稽古があるんですが、行くのが楽しみだけど怖いです(笑)。
今回の舞台は、ノンフィクションどころか、本人の身に起こったことを自分自身で演じます。「ちょっと聞いてよ!こんなことがあって…」と、身の上話を聞くように見ることができるので、普段演劇に馴染みのない人にも入りやすい作品だと思います。観客の想像力を掻き立てるので、若い人たちにとっても興味深いものになりますよ!
中でも僕の話は本当に飲み会の小ネタのような話で…それが、岩井さんの演出を受けてどう舞台に昇華されているのか!?ぜひ見ていただきたいです!
堰八アナ:一体どんな舞台になるのか…とっても気になります!!納谷さん、小島さん、ありがとうございました!
「ワレワレのモロモロ」札幌東京編
札幌公演
・公演日:8/8(木)~8/11(日)
・会場:ジョブキタ北八劇場
・住所:北海道札幌市北区北8条西1丁目3番地「さつきた8・1」2階
・チケット料金(税込)
前売 一般:4800円 ペア:9000円 U30:4000円 U20:3000円
当日 一般:5000円
・公式HP:https://hi-bye.net/play/waremoro2024
※舞台の詳細、チケットの購入については公式HPからご確認ください。
取材を終えて(堰八アナコメント)
私は演劇を観ると、物語の中にいつの間にか入り込んでいて、まるで自分の人生経験が豊かになったかのような気持ちになれるのです。ナマで生み出されるのもだから、いつ見ても違う発見がありますし、同じ作品でも違う席から見るとまた違った見方ができるのも魅力です。
2人の熱い想いを聞いて、こんな熱量で演劇という世界に向き合っている人たちと一緒に、私もジョブキタ北八劇場の舞台に立って朗読劇をやってみたい!
そんな贅沢な夢まで生まれた、今回のインタビューでした。
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文・編集:Sitakke編集部YASU子