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アーティスト・小野愛が目に刻む松戸の街。街角に時間の蓄積と変化を見出す

さんたつ

【散歩の達人】小野愛

都市観察プロジェクト「日日(にちにち)」として、松戸の街を写真と言葉で記録している松戸市在住のアーティスト・小野愛(めぐみ)さん。普段どんな視点で街を見ているのか、お気に入りの場所を歩きながら話を聞いた。

小野愛

1989年、大分県生まれ。松戸市在住。美術家。服飾を学んだ後、布と綿を用いた立体作品の制作を始める。近年は、縫うという行為そのものに着目した立体作品を制作、それらを中心にインスタレーションの展示を行っている。

都市観察プロジェクト「日日」

まちづクリエイティブが運営する松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」の一環として2024年8月からスタート。小野さんが松戸の街を散策して写真や散文で記録し、公式Instagramやサイトで投稿する。

「散歩の可能性を試してみたいと思った」

フィルムカメラを片手に街を眺める小野さんの目はとても優しい。「最近は、道端の落とし物が気になります。あとは、家の窓からこっちを見ているぬいぐるみも」。

大分で生まれ育った小野さんは、福岡や別府で布や綿を使った制作活動を始めたが、2019年に首都圏へ活動拠点を移すことを決意。知人のつてで、クリエイターが多く入居する「MAD City」の物件に出合い松戸で暮らし始めた。

この街にやってきて5年。そんな折にスタートした都市観察プロジェクト「日日」は、改めて松戸という街を知りたいと考えたことが発端だった。「引っ越して来た時がちょうどコロナ禍だったこともあって、はじめての街を散策してわくわくできるようなタイミングを逃してしまっていたんです。制作で行き詰まることもあったので、もう少し軽やかなものづくりがしたい、散歩の可能性を試してみたいと思って相談し、企画しました」。

些細(ささい)なことの積み重ねによる変化に関心があるという小野さん。活動を始めた当初は記憶をテーマにした作品が軸になっていたが、近年は時間の蓄積を「縫う」という行為に重ね、行為そのものを作品化するようになった。

散歩するときはお気に入りの道を歩き、誰かがそこにいたはずの痕跡や「不在」に目がいくという。よく散策するという江戸川の河川敷には、幾人もの散歩道になっているであろう場所に獣道のような踏み跡ができて、くねくねと曲がりながら先へ先へと続いていた。

写真は、江戸川沿いのお気に入りの場所で撮ったものだ。

松戸に越してきてもうすぐ5年。
ここで暮らし、作品を作っている。
時々、近くを歩く。
帰ってこれるくらいのところまで。
引っ越してすぐ、
町の電気屋で透明な電球を買った。
今はもうお店は、取り壊され、
ビルとビルの間にぽっかりと空き地。
朝方、虫の音がし始めたので今は夏。
日が暮れるのが早くなったとか遅くなったとか。
そんなようなこと。
忘れてしまうような今日の事を拾い集める。

*「日日」の投稿の一つ。

「単調な動きが好きで、カメラ越しだと特に視界が狭まるので集中してずっと見てしまいます」と川面を見つめる小野さん。

最近は、亡くなった家族との日常など忘れたくない大切な一場面をトレースするように縫って表現する作品も手掛けている。「以前、スマホに入っていた写真のデータを数年分なくしてしまったんです。写真があるからと思って安心していたけど、それ以来、見ているものを目に焼き付けようと思って始めました。写真をもっと“見る”ことができないか、もっと深く体に刻むことはできないか、って」。

人による見え方の違いと実はあまり違わない街

松戸を歩き、改めて知ることで小野さんが感じたのは、街による違いではなく共通点だ。

「実はあまり違わないんだなって思いました。同じような風景があって、同じように人が暮らしていて、夕方には晩ごはんの支度をする匂いがしてくる。地元の大分にいるような感覚になることもあります」

また、同じものが他の人にはどう見えているかということにも興味があるという。

「同じ道を歩いていてもそれぞれ全く違うものを見ていると感じます。また、同じ人でも天候や環境、気分によって目に入るものはかなり変わると思います。以前、ビニール袋が風に飛ばされて舞い上がった時、あっと思っていたら、一緒に歩いていた友人も『わあ! あれ見て!』って声を上げたことがあって。その瞬間のことが脳裏に焼き付いていて、同じものを見ていいと思ったことがうれしかった。ワークショップとかで、人と一緒に歩きながら話を聞いてみたいです」

凧が木の枝にいくつも引っかかっていた。「前に見たときより増えてるかも」と小野さん。

同じ道、同じ景色でも、1日経てば1日分の時間が積み重なっている。誰かが通れば、その痕跡が残る。それを別の人が見ると、全く違う景色になることもある。ひと針ひと針縫うように歩き、深く刻みこむ小野さんの目に映る松戸の街は、無限に深く、まだまだ広がっていく。

取材・構成=中村こより 撮影=山出高士
『散歩の達人』2025年3月号より

中村こより
もの書き・もの描き
1993年東京生まれ、北海道育ち。中央線沿線に憧れて三鷹で暮らした後、坂のある街に憧れて現在は谷中在住。好きなものは凸凹地形、地図、路上観察、夕立。挑戦したいことは測量と東海道踏破。

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