【自民党総裁選】今党員になったら投票できるの?国会議員票で逆転パターンは?で、誰が勝ちそう?
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「自民党総裁選」。先生役は静岡新聞の市川雄一ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年8月26日放送)
(山田)今日は自民党総裁選についての話題です。
(市川)まず、総裁選の基本的な話からしたいと思います。総裁選は、議員投票と党員投票の二つに分かれて行われています。自民党は1955年に結党されましたが、地方の代表の投票という形が1972年から、全党員が投票できるようになったのは1978年の総裁選からなんですね。
(山田)そうなんですね。
(市川)この1978年の総裁選はなかなか面白い総裁選で、昔の静岡新聞を調べてみたら面白い記事が出てきました。静岡新聞一面に「大自在」というコラムがあるんですが、1978年2月28日の大自在で、自民党総裁選のことを取り上げていたんですね。
総裁選自体は12月に行われたので、その9カ月前ぐらいに書かれた大自在になります。ここでは「党員獲得の激しさ」みたいな話を取り上げていました。この総裁選には現職総理大臣の福田赳夫、幹事長の大平正芳、総務会長の中曽根康弘、当時通産大臣だった河本敏夫の計4人が立候補しました。
先ほど話したように、この総裁選から党員全員が投票できるようになったということで、党員を獲得しようという動きが水面下で、実は1年以上前から起きていたことが、この大自在から垣間見えたんです。
その大自在にはこうありました。「党員獲得を巡って派閥活動が復活した。年末の総裁選に向けて激化の一途をたどっている」。つまり12月に行われる総裁選に向けて、党員の獲得が行われているということです。
大自在の中には「あなたも総理総裁が選べます、のキャッチフレーズが魅力で今度の党員拡大になったようだ」という表現もあり、党員が初めて自分で総理総裁を選べることを自民党がキャッチフレーズにして、党員拡大を当時行っていたことが伺える記事でした。
(山田)へえ〜。
(市川)でも、僕らが今回の総裁選に参加しようと思って今自民党員になっても、実は党員の投票資格がないんですよね。
(山田)今なっても駄目、と。
(市川)今の自民党の党則みたいなもので、「2年間の党費の滞納がない」ことが条件になってるんですよ。つまり少なくとも2年間党員であった人しか投票できないんです。今はなぜ「2年間」という縛りを設けているのか。例えば今、総裁選がこれだけテレビで盛り上がってると、投票したいって人はきっと多いですよね。いま党員を募れば、おそらく拡大できますよ。だけど、それをやっていないというところにミソがあります。
実は先ほどの大自在の中には、「企業が党費を立て替え従業員を入党させた」「後援会が関連企業の従業員を入党させたなど企業ぐるみ党員のケースもあって」みたいな表現がありました。党員勧誘合戦が凄まじかったようです。
(山田)やろうと思ったら悪いこともいろいろできてしまう。
(市川)組織ぐるみの党員集めができてしまっていたんですよね。党員投票は、郵便投票で行うんですよ。党員のところに葉書が来て、その返信を投函して投票する形なんです。そうすると、いわゆる名義貸しで企業などが従業員1000人の名前だけで、票を集めて投票するなんてことが、物理的には可能なんですね。
(山田)なるほど。
(市川)選挙には普通、公職選挙法というものがあり、そういったことをすると罰せられます。自民党内部でそうした罰則があるのかもしれませんが、本来の選挙と違って法律で罰することはできず、ある意味ちょっとやりたい放題になってしまう部分もあるため、おそらく今は2年間党費を払っている人に限定しているということなんだと思います。
自民党の党費っていくら?
(市川)これから自民党員になると、次の総裁選には投票できるので、今からなろうかなと思う人にちょっと紹介しておきます。自民党の党費って、年間でどのくらいだと思います?
(山田)予想言っていいですか。10万円。
(市川)それでは誰も入らないですよね(笑)年間4000円なんですよ。しかも家族党員という制度があって、例えば夫が入ってると妻は2000円で入れる。高くもないけど安くもないですよね。月に換算すると300円ちょっとなので、確かにAmazonプライムとかNetflixよりは安いんですけど。ただ入ってたからといって、何をもらえるってわけでもない。
(山田)何か資格みたいなものはもらえないんですか。
(市川)総裁選の投票権ということですね。
劇的結末の1978年総裁選
(市川)1978年の総裁選の話に戻ります。初めて党員による投票が行われた総裁選、これは劇的な結末を迎えるんです。
(山田)どうなるんですか。
(市川)総理総裁だった福田赳夫が最初は有利とされていたんですが、党員票で、当時幹事長だった大平正芳が勝ったんですよ。
これって結構意外な結果でもあったんですが、4人立候補していて、1位が大平正芳で、2位が福田赳夫でした。この2人が次の、国会議員による決選投票に行くことになったんですが、2位の福田赳夫が辞退しました。
当時の静岡新聞の記事にも載っています。福田赳夫は国会議員投票の前に「予備選の結果が尊重されるべきだ」ということを言っていました。「党員というのは民意である」ということで、「国会議員よりもそっちの意向の方が大事なんじゃないか」と当時、選挙をやる前から発言していたんですよ。そして、国会議員投票前にそれを尊重して降りたんです。
(山田)かっこいい去り際。
(市川)ちょっとかっこいいですよね。先程、自民党が「あなたも総理総裁を選べます」ということをキャッチフレーズとして言っていた話をしましたが、まさにその通りになったんです。国会議員投票がなく、総理総裁を決めた、おそらく最初で最後のケースだと思います。
ただ、今「潔いな、かっこいいな」って思ったかもしれませんが、ちょっと裏があって、実は国会議員投票になったら、大平が有利と言われてたんです。 つまり福田赳夫は、決選投票に進んだとしても勝てないなら、降りた方が潔いだろうと考えた。
(山田)イメージもアップできるし。
(市川)そういう裏があったっていうのもあるんです。
党員票の結果が国会議員票で変わるケースは少ない!
(山田)僕がちゃんと意識し始めてから、今回は、一番注目度が高い総裁選のような気がします。
(市川)そうですよね。やはり表面的には派閥の解消があってから行われる選挙でもありますしね。立候補者の人数は今まで5人が最高でしたが、今、最多で11人、12人とも言われています。最終的にどうなるかは分かりませんが、相当な混戦になるとは思います。
党員票ってやっぱりすごく大事なんですよね。今まで何回もやってる中で、実は党員票の結果と最終的な結果が違った、つまり国会議員票で逆転されたケースは、調べた限りでは今まで2回しかありません。
最初が2012年の石破茂さん。この時は安倍晋三さんが逆転勝利しています。それと、前回の2021年に岸田さんが総裁になったときです。党員票は河野太郎さんの方が上だったんですが、国会議員票で岸田さんが逆転しました。
党員票の結果が今回もそのまま反映される可能性があるのかなと思います。そう考えると、新聞各紙の世論調査で、小泉進次郎さんが1位、それに石破さんが続いているというような状況から、やっぱりこの2人が軸になって総裁選が進んでいくのかなということは予想されますね。
(山田)上川陽子さんは20人の推薦人ってところがポイントになっているという話を聞きました。でもこれもクリアできるんじゃないかっていう話も出てますよね。
(市川)微妙なところではあるんですが、仮に推薦人20人集めて立候補するということになれば、僕は上川さんも相当有力候補になると思います。僕がズバリ予想すると、僕は本命小泉さんだと思っているんですが、対抗が上川さん。穴、石破さん。
(山田)うわー(笑)でも、まだ選挙が近づくにつれて、いろんなことが出てくるでしょうからね。
単純な疑問なんですが、今回11人と言われていて、これだけ出ると、自民党の中のまとまりが悪くならないんですか。もうちょっと絞って出た方がいいんじゃないかなと思ったんですが。
(市川)そうですね。ただやはり今までの総裁選は派閥単位で動いていて、実は1人1人の国会議員の意思というものがあまり尊重されてなかったんですよね。
派閥のリーダーが「この人に入れろ」と言えば、右向け右でそれをやっていた。そういったしがらみがなくなって、自分の「この人が総裁にふさわしいんじゃないか」という判断や、自分の地元の声を参考に投票する。僕は、多少投票がバラバラになったとしても、その方が健全だと思うんですよね。
ある意味、自民党は総裁選のときはバラバラに見えるかもしれませんが、逆に選挙が終わった後は結束が固くなるんじゃないかなと思います。
(山田)そういう見方もあるわけですね。まだ一カ月ほどありますが、答え合わせも楽しみです。今日の勉強はこれでおしまい!