私は犬がいないとただの酒好きである【穴澤賢の犬のはなし】
先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで感じた何気ないことを語ります。
この連載を読んでくれている人は、もしかしたら私がアクティブな人間だと思っているかもしれない。突然、八ケ岳にボロ山小屋を手に入れたと思えばせっせと補修したり、雑草が生い茂る敷地を草刈りしてプライベートドッグランを作ったり、ついには山へ完全移住したり、さらに昨年から登山を始めたり、最近はキャンプデビューしたりいろいろやっているから。
大福がいるからアウトドアを楽しめる
けれど、私は全然アクティブでも行動力があるわけでもない。もともとはインドア派でアウトドア的なものにはまったく関心がなかった。体を動かすことが大嫌いで、疲れることはやらない。唯一、若い頃から好んでやっていたのは釣りくらいで、それ以外は家に閉じこもって本を読んだり映画を観たりしていたいタイプである。
なのになぜあれこれやっているのかといえば、大福がいるからだ。山小屋もドッグランも移住も登山もすべて、彼らが喜ぶからしたことであり、彼らがいなければ絶対やってないと断言できる。現に登山を始めたといっても、犬と一緒に登らないなら行く気は一切ない。高くけわしい山に挑戦する気などみじんもない。
犬がいないと、たぶん私は何もしない。その証拠に、妻がたまに大福を連れて1週間くらい実家に帰っている間は料理すらほとんどしない(普段は料理担当)。仕事を終えると、夕食用に買ってきた出来合いのピザなどをオーブンで焼いて終わり。あとはボーッと映画を観ながら白ワインを飲んでいる。
飲んでいるから後半覚えておらず「最終的にどうなったんだっけ?」と翌日途中から見直す。1週間ずっとそんな感じなので「大丈夫か俺」とたまに我に返ったりする。だから本来はそれくらい無気力で、毎晩酒ばかり飲んでいるただの酒好きなのである。
大福のための取り組み
そんな私が今取り組んでいるのが、ドッグランの緑化計画だ。昨年から始めたのだが、種を蒔いても隙間だらけの状態になっている。さらに、ちょっと目を放すとすぐにクマザサやタンポポが育ってくるので、ほぼ毎日、クマザサやタンポポパトロールをして、芽が出ていたら抜いて回る。
そして芝の間にある小さい隙間をスコップで掘り、種と土を混ぜて戻すという作業をしている。これが結構手間で、この黒くなっているところをやるだけで2日かかっている。これを全面やるのにあと何日かかるのか。それでも頑張って、今年の秋には全面きれいな芝生にしたいと思っている。
これも大福のためでなければ絶対やらないことである。正確には、土のままだと雨の後に彼らの足が泥ンコになるのを避けるためだが、芝が生え揃っているところは福助も嬉しそうにゴロゴロしているので、彼らも嬉しいのではないかと思う。
というように、無気力で何もやらないはずの私が、あれこれやるようになっているのはすべて犬がいるからである。たぶん、いや、間違いなく、富士丸と暮らしていなければ、大福を迎えていなければ、こんなことにはなっていなかっただろう。だめ人間を更生させてくれてありがとうと言いたい。そろそろ芝に水をやる時間だ。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。