新品も自由にめくってくつろいで!笑顔で迎えてくれるちいさな絵本専門店 2500タイトルすべてへの「愛」あふれ30周年
子どもだけでなく大人も楽しめる絵本を、絵本セラピスト協会認定「大人に絵本ひろめ隊員」、そして2児の母でもある、HBCアナウンサーの堰八紗也佳(せきはち・さやか)がご紹介します。
札幌に、地域に愛され、人に愛され続けてきた「絵本の専門店」があるのをご存じですか?
札幌市・手稲区にある『ちいさなえほんや ひだまり』はこの春、開店30周年を迎えます。
店主の青田正徳(あおた・まさのり)さんは、絵本の神様にも愛されているんだろうなぁって思えるお人柄なんです。
これまでテレビやラジオや、この「Sitakke」でも、何度も取材させていただきました。
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あったかくて大好きになる場所「ちいさなえほんや ひだまり」の歩み
1994年4月、「ひだまり」は店主の青田正徳さん42歳の誕生日に、札幌で唯一の絵本専門店として産声をあげました。
喫茶店の一角を間借りしてのスタートでしたが、今では店舗兼住宅の一軒家に、自ら厳選した約2500タイトルの絵本を並べています。
もちろん、大きな書店も閉店するこの時代…「ひだまり」もこれまで何度も危機に見舞われたそうです。
でも、この時代になってもお店が続いているのは、青田さんの人柄と情熱に魅せられた人たちが大勢いる証拠ではないでしょうか。
もちろん、私もそのひとりです。
開店前から発行してきたという青田さん手作りの「絵本通信ひだまり」は400号を数えます。
用紙全面に、青田さんの伝えたいことがぎっしりと詰め込まれ、この味わい深さがたまりません。
インターネットやスマートフォンを使用しない青田さん。
今でも変わらずこの形で毎月5000枚を印刷し、全国約150人のファンと30以上の保育園・幼稚園に配布しています。(年会費2000円)
私もこの「絵本通信ひだまり」で“30周年”ということを知り、2年ぶりに、1歳と5歳の息子たちを連れてお店を訪ねてみました。
畳の上でくつろいで
「お邪魔しまーす」と中に入ると、「わー!大きくなったねー!!」と、相変わらずよく通る声と満面の笑みで迎えてくださった青田さん。
息子も青田さんの笑顔を見て安心したみたい!
まるで祖父の家に遊びにきたような感覚で、さっそく奥へ入っていきました。
「この絵本は読んだことある!」とか
「これを読んで」
なーんて言いながら、色々な絵本を取り出して持ってきます。
実は、「ひだまり」では、ビニールがかかった状態の絵本はありません。
自由に絵本を開いて触って、読んで良いんです。
図書館のようですが、全てが新品の絵本ですよ⁉
しかも畳の上で寝そべって読んでも良いんです。
親としてはつい「お行儀悪いから座って読みなさい」なんて言いたくなるところ…。
でも、すかさず青田さんが「くつろいで読んでもらうために畳のスペースがあるのだから、どんな格好でも良いんだよ!」と言ってくれます。
こんなサービスの書店、なかなかありませんよね。
『もじもじこぶくん ピンクのぼうし』(福音館書店)文・小野寺悦子 絵・きくちちき
「ひだまり」の壁一面に、飾られていたのが、可愛らしいブタの絵。
桜の花びらが舞う、優しいピンク色が印象的です。
これは、30周年感謝企画の第一弾『もじもじこぶくんピンクのぼうし 習作絵本原画展』です。
青田さんが「世界で一番大好き」と宣言する北海道出身の絵本作家、きくちちきさんの習作原画です。
“習作”とは、実際に絵本に採用された原画の、一歩手前の作品のこと。
つまりなかなかお目にかかることができない特別な絵なんです。
青田さんは自信をもって、「習作原画展なんて、世界でうちだけの特別公開ですよ!」と胸を張ります。
きくちちきさんの最大の魅力は、絵本の4倍~5倍のサイズで、大きな筆を使ってダイナミックに描くのびやかさ。
この描き方が、物語の世界観を広げてくれています。
『もじもじこぶくん ピンクのぼうし』は、恥ずかしがりやの“こぶくん”が勇気を出して自分の気持ちを伝える姿がとても健気で愛らしく、思わず応援したくなる物語です。
30周年感謝企画は、この先も、朗読音楽会など色々計画中とのこと!
楽しみですね!
2500タイトルへの「愛」 伝えたい絵本文化
青田さんはいつも、大人との会話を楽しみつつ、子どもの言葉にもしっかりと耳を傾けてくれます。
話の中からその子の好きなものを見極め、年齢や嗜好にあった絵本をサッと取り出してくれるんです。
そしてページをめくりながら、その絵本の魅力をわかりやすく、子どもも大人も引き込まれるように語ってくれます。
自ら厳選して並べている2500もの絵本。
青田さんの頭の中にはそのすべてへの熱い思いや、おすすめポイントがあります。
その情報量にはいつも驚かされます。
そして、青田さんの元気の源はきっとお客さんとの“会話”と“笑い”にあるのだろうと思うのです。
そんな明るいこの青田さんが、少し不安げな表情で話してくれたことがあります。
「絵本文化って、これからどうなっていくのでしょう」
でも、私が訪れたときにも、毎週末お店に来ているという50代後半の2人組の姿が。
「大きな書店とはまったく違う良さがある」と話してくれました。そしてこんな一言も。
「青田さんの話を聞いたら色々ほしくなって買っちゃうの。でも置き場所に困るから、本当に気に入ったものだけ買っているのよ」
その言葉通り、この日も何時間も滞在し、絵本を吟味していました。
その姿を見つめ、笑顔があふれる青田さん。
「大人にこそ、もっと絵本をおすすめしたい。絵本は“美術”や“芸術”として考えると、とてもレベルが高いものですから」と話します。
もし、「子どもが一緒じゃないと行きづらい…」なんて思っている人がいたら、ぜひその概念を捨ててほしいと思います。
「ちいさなえほんや ひだまり」の世界へ、気軽に飛び込んでみてくださいね。
【取材協力】
「ちいさまえほんや ひだまり」
住所 札幌市手稲区新発寒6条5丁目14-3
電話FAX 011-695-2120
営業時間 午前10時~午後7時
営業日 金・土・日・月・祝
『もじもじこぶくんピンクのぼうし 習作絵本原画展』
開催期間 2024年2月2日(金)~3月31日(日)
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「連載コラム・今月の絵本通信」
文|HBCアナウンサー 堰八紗也佳
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編集:Sitakke編集部あい