Yahoo! JAPAN

人生の問いについて考える道筋を、灯台の光にも似た強く優しい光で示す『光であることば』

ソトコトオンライン

1

再生の季節。

今年の元日も、普段と変わらず家族と自宅で過ごしていた。4歳の息子にせがまれてプラモデルを組み立てていると、突然、警告音が鳴り響き、正月気分は一蹴された。激しい揺れが収まり、割れた器を片付け、TVに映し出される映像を沈痛の思いで見続けた。友人の顔が脳裏に浮かぶ。車で2時間と離れていない場所で暮らす彼らに、慰めの言葉もないことが、いたたまれなくて仕方なかった。

『光である言葉』は、随筆家の若松英輔が、自身の苦楽を支えた名著を通して、喜びや希望、悲しみや別れなど、心の片隅にいつもあるけれど、日常に引き寄せて考えることが難しい、多くの人生の問いについて考える道筋を、灯台の光にも似た、強く優しい光で示した一冊だ。

本の中で若松は、自身が悲しみの渦中にいた際、励ましの言葉は胸に響かなかったと吐露し、「悲しさは共に悲しむ者がある時、ぬくもりを覚える」という柳宗悦の言葉を引いている。「慈悲」という言葉があるように、悲しみには慈しみが伴う。一人で抱えている時は冷たい悲しみが、共に悲しむ時にはぬくもりを持っているという真理は、励ましの言葉の無力感に苛まれた気持ちに、寄り添ってくれた。穏やかな日差しが、土の下に眠る生命を呼び覚ます頃、新たな芽吹きと共に、再生の季節は訪れる。冷たい悲しみの果てには、暖かな再生が待っている。そのことをいつまでも忘れずにいたい。

『光であることば』

若松英輔著、小学館刊

text by Keiichi Asakura

朝倉圭一|あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。

記事は雑誌ソトコト2024年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 【神戸】食べ歩きスイーツバーガー新登場!人気菓子店の5周年を記念して

    PrettyOnline
  2. 4コマ海外移住録 アキニッキ出張版|第1話:自己紹介

    NHK出版デジタルマガジン
  3. 23区の端っこで酒を飲む ~東西南北最端鉄道駅の旅~

    さんたつ by 散歩の達人
  4. 『アウトランダー』前日譚ドラマは「2つの時代劇を一度に楽しめる気分」キャストが語る

    海外ドラマNAVI
  5. 初夏の風物詩「どんたく」が今年も開催!「第63回 福岡市民の祭り 博多どんたく港まつり」5月3日(金・祝)~5月4日(土・祝)

    フクリパ
  6. 『ツタロック DIG LIVE Vol.14-OASAKA-』追加出演アーティストにTRACK15、berry meet、moon drop、レトロマイガール!!の4組

    SPICE
  7. 染谷俊之ら出演、舞台『川越ボーイズ・シング』-喝采のクワイア- のミュージックビデオが解禁

    SPICE
  8. 「忍ゲキ」第2弾のタイトルは『舞台「忍たま乱太郎」〜はじめまして!三年生、全員集合の段~』 初登場の忍術学園三年生ら出演キャスト決定

    SPICE
  9. 稽古場で涙があふれる? バレエを通して生まれる絆と成長を描いた、ミュージカル『ナビレラ』三浦宏規&川平慈英にインタビュー 

    SPICE
  10. 【新店】「指導歴30年」のトレーナーに教えてもらい「スイングスピード」はどれだけアップするか?奈良県三郷町にオープンする『Athleteworks(アスリートワークス)』でトレーニング体験をしてみた

    奈良のタウン情報ぱーぷる