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強烈な書で知られる井上有一の没後40年を記念した展覧会「井上有一の書と戦後グラフィックデザイン 1970s-1980s」が9月6日~11月3日、『渋谷区立松濤美術館』で開催

さんたつ

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1970年代から80年代にかけて活躍した書家の井上有一(1916-1985)。その特異な書業と来歴に反応し、プロデュースをしていったグラフィックデザイナーたちとの関係性とその書の魅力を伝える「井上有一の書と戦後グラフィックデザイン 1970s-1980s」が、2025年9月6日(土)~11月3日(月・祝)、東京都の『渋谷区立松濤美術館』で開催される。TOP画像=井上有一《母》1961年 墨・紙 『京都国立近代美術館』蔵 (C)UNAC TOKYO。

井上有一の書とグラフィックデザインの連帯の始まりとは

操上和美《井上有一肖像》1984年8月31日撮影 個人蔵 。

昭和10年(1935)に東京・横川尋常小学校に奉職して以降、生涯を教師生活と書に捧げた井上有一。日常を生きる庶民の立場から、自らの芸術をつくりあげようとした井上は、1945年の3月10日、勤務中の小学校でアメリカ軍の爆撃を受け一時仮死状態となったのち、多くの犠牲者のなかから奇跡的に息を吹き返したという。

そんな井上の特異な書業と来歴に鋭く反応したのが、グラフィックデザイナーたちだった。70年代を境に、名だたるデザイナーが井上作品を用いた印刷物に携わるようになり、80年代以降はデザインや広告といった、いわゆるセゾン文化のなかで井上の書が積極的に紹介されていく。井上の書のイメージは、70年代以降のデザイナーとのつながりを通じて、巧みにプロデュースされていった。

「戦後」が曲がり角に差し掛かるその時期において、一見奇妙な井上有一の書とグラフィックデザインの連帯は、いかにして成立したのか。そしてこの連帯が目指すものはいったい何だったのか。カルチャーの一時代を築いた西武とパルコを擁する渋谷の地にて、“井上の書とデザインの関係”を考える構成となっている。

広報担当者の白石咲良さんは、「型に囚われない強烈な井上の書は、彼の生きざまが表れているようで、一度見たら忘れられない力強さがあります。そのすぐそばには井上作品を用いた印刷物。珍しい展示空間になっていますが、並べてみることで、デザイナーたちが井上の書のどこに惹(ひ)かれ、セゾン文化に取り入れたのか分かるかもしれません」と見どころを語る。

井上嗣也「1986年正月/貧」ポスター、1986年AD・D:井上嗣也 A:井上有一(ウナックトウキョウ)C:糸井重里 PL:對馬壽雄 ADV:パルコ 個人蔵。

序章から終章まで、書とともにあった井上の軌跡を振り返る

井上嗣也「COMME des GARÇONS '96-'97AUTUMN WINTER DM」1996年 AD・D:井上嗣也 A:井上有一(ウナックトウキョウ)CD:川久保玲 ADV:COMME des GARÇONS。

序章では、1971年に出版された初の作品集『花の書帖』を取り上げる。この本の装幀に工夫を凝らしたのはデザイナー福田繁雄。それがグラフィックデザイナーとのコラボレーションの幕開けだった。また、第3章では、没後の1986年に渋谷西武シードホールで開催された「生きている井上有一」展と、これに参加した浅葉克己氏、井上嗣也氏、糸井重里氏、副田高行氏、木村勝氏ら「生きている井上有一の会」の面々によるその後のデザイン展開により、素朴で普通の人々の生活に寄り添った井上の書が、一転経済的な豊かさの中で再解釈され、受け入れられ、輝きを増していくことになった展開を数多くの作品とともに追いかける。

また注目したいのが、特集「戦争と井上有一」。1945年3月10日の東京下町への空襲により、知人や同僚、受け持つ生徒たちを含め多くの人が亡くなったという。このときの壮絶な経験をもとに描かれた大作『噫横川国民学校』(1978年)が公開される。

井上有一《噫横川国民学校》1978年 墨・紙 『群馬県立近代美術館』蔵 (C)UNAC TOKYO。

関連イベントも開催

レクチャーB:「『書の解放』はいかにしてなされたか―井上有一とポピュラーカルチャーの交流史」

9月27日(土)、14時~『渋谷区立松濤美術館』学芸員・木原天彦氏によるレクチャーが『渋谷区立松濤美術館』地下2階ホールで開催。定員60名、当日会場にて先着順。

レクチャーA:「モダンデザインの脱構築と感覚への傾斜、そしてポストモダンへ」

10月11日(土)、14時~講師に評論家の塚田優氏を招くレクチャーが『渋谷区立松濤美術館』地下2階ホールで開催。定員60名、当日会場にて先着順。

記念講演会「うごく手」

10月24日(金)、18時~講師にアーティストで東京藝術大学学長でもある日比野克彦氏を招き、記念講演会が『渋谷区立松濤美術館』地下2階ホールで開催。定員70名(要事前申し込み、応募多数の場合抽選)、無料(要入館料)。申し込みは公式HPにて(10月3日〈金〉締め切り)。

開催概要

「井上有一の書と戦後グラフィックデザイン 1970s-1980s」

開催期間:2025年9月6日(土)~11月3日(月・祝)
開催時間:10:00~18:00(金は~20:00。入館は閉館30分前まで)
休館日:月(ただし9月15日・10月13日、11月3日は開館)・9月16日(火)・24日(水)・10月14日(火)
会場:渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区松濤2-14-14)
アクセス:JR・地下鉄・私鉄渋谷駅から徒歩15分、京王電鉄井の頭線神泉駅から徒歩5分
入場料:一般1000円(800円)、大学生800円(640円)、高校生・60歳以上500円(400円)、中学生・小学生100円(80円)
※( )内は区民および団体10名以上。金曜は区民無料。
※土・日・祝は小・中学生無料。
※身体障害者手帳などの手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)無料。

【問い合わせ先】
渋谷区立松濤美術館☏03-3465-9421
公式HP https://shoto-museum.jp/exhibitions/209inoue/

取材・文=前田真紀 画像提供=渋谷区立松濤美術館

前田真紀
ライター
『散歩の達人』『JR時刻表』ほか雑誌・Webで旅・グルメ・イベントなどさまざまなテーマで取材・執筆。10年以上住んだ栃木県那須塩原界隈のおいしいものや作家さんなどを紹介するブログ「那須・塩原いいとこ、みっけ」を運営。美術に興味があり、美術評論家で東京藝術大学教授・布施英利氏の「布施アカデミア」受講4年目に突入。

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