10m以上のクジラや北の巨獣も? 東京湾で目撃例のある海生哺乳類たち<野生の海獣出没記録>
海を眺めてこのように思ったことはないですか?
「世界の海はつながっている。それなら目の前の海にイルカやアシカがやって来る可能性もあるのだろう」と。
大都会・東京、そして神奈川、千葉に囲まれる「東京湾」。ここにはどのような海生哺乳類が来たことがあるのでしょうか。
アザラシやアシカはメディアでも注目?
まず、アザラシやアシカの仲間(鰭脚類)についてみてみましょう。
現在、日常的に東京湾にすみついているアザラシやアシカは確認されていませんが、迷い込んできたケースを含めると、じつはかなりの種類が目撃されているのです。
漫画のキャラクターになった個体も
例えば、アゴヒゲアザラシ。
本来は北極海やオホーツク海など寒い海にいるアザラシですが、東京湾でも目撃例があります。
そう、多摩川に現れた「タマちゃん」です。2002年に話題になったあと行方不明になりましたが、果たしてもといた海へ帰っていったのでしょうか。
漫画のキャラクターとして人気になった「ゴマちゃん」のモデルであるゴマフアザラシも、2011年に埼玉県志木市で目撃されました。でも、なぜ内陸の埼玉県で目撃されたのでしょうか?
実は、東京湾からつながる荒川に迷い込んで、はるばる遡って来たのです。
また、キタオットセイは1981年に千葉県船橋市、2006年には埼玉県川越市に出現。この時も荒川に迷い込みました。
ゴマフアザラシにせよキタオットセイにせよ、海なし県である埼玉まで来てしまうとは、彼らも戸惑ったことでしょう。
絶滅した?ニホンアシカ
かつて日本近海に生息していたニホンアシカは、1975年の目撃を最後に正式な報告がありません。
東京湾における正式な記録は、1884年の神奈川県横浜市での捕獲例。明治時代までの東京湾は「アシカがすむ海」だったのかもしれませんね。
羽田空港に現れた北の巨獣「トド」
トドは体重1トンを超えることもある“北の巨獣”です。
1966年には隅田川に現れて大騒ぎを引き起こし、東京湾へ逃亡。どうやら漁船の網にかかって連れてこられた個体が逃げ出したらしく、野生個体の目撃例とはいえないようです。
時は流れて2023年、羽田空港の滑走路の土台で野生のトドが目撃されています。
また、東京湾ではありませんが、2001年には東京湾の水域の境目に位置する千葉県館山市で、キタゾウアザラシが出現しています。大きなオスは2トンを超えるという、トドを凌駕する巨獣です。
主な生息域は北アメリカの太平洋岸ですが、日本まで来るとは、海はつながっていると実感しますね!
マイルカ科の鯨類
次にイルカの仲間(マイルカ科)についてみてみましょう。
マイルカ科も普段から東京湾にすみついてはいないようですが、迷い込んできた、または漂着・漂流した例がある種類は少なくありません。
比較的よく見られるマイルカ科
1974年、4頭のマイルカが現れた場所は、なんと隅田川。彼らはさらに荒川をさかのぼり、残念ながら海へは戻らずに死亡しました。
その後も、神奈川県の横須賀市や横浜市の沿岸で少なくとも5回の目撃例があり、東京湾では比較的よく目撃されるイルカのようです。
カマイルカも、横浜市や横須賀市、千葉県木更津市、荒川などで1985年以降に5回以上の目撃例があります。東京湾の隣の相模湾では1975年以降の目撃例が50回を超えており、関東地方の海で特に多く見られるイルカです。
ハナゴンドウも、1965年以降東京湾で6回以上の目撃記録があります。横浜市・横須賀市・千葉県千葉市のほか、1999年には東京都港区のレインボーブリッジの近くに出現。2015年には横須賀の海上自衛隊基地に漂着しました。
シャチの目撃例も
このほか、ハンドウイルカが船橋市と横須賀市、ハセイルカが横浜市、セミイルカが東京都品川区、マダライルカが千葉県市原市でそれぞれ生きたまま目撃されています。また、横須賀市ではミナミバンドウイルカが漂着したことがあります。
さらに海の王者・シャチも、1970年には市原市で11頭、1999年には横須賀市で2頭が目撃されています。2015年、2021年には群れで現れ、船舶とシャチが衝突しないよう海上保安庁からの注意喚起がされることもありました。
マイルカ科以外のハクジラ類
マイルカ科以外のハクジラも目撃例があります。
まず、イシイルカ。名前にイルカとつくものの、マイルカ科ではなくネズミイルカ科というグループです。寒い海にすみ、国内でよく見られるのは北海道ですが、東京湾でも1994年に横浜市、1998年には港区のお台場海浜公園で目撃されています。
東京湾にすむスナメリ
体長2m前後のネズミイルカ科のハクジラ類、スナメリの目撃例の多さは圧倒的です。1935年以降、生存個体・漂着含めて東京湾で50回以上目撃されています。
近年、特によく見られるようになっており、2024年には千葉県富津市の沖に30頭の大群が出現。どうやら千葉県浦安市から市原市にかけての沿岸を中心に、東京湾に生息していると考えられています。
東京湾にクジラがすんでいるとは、なんともロマンのある話ですね!
最大のハクジラ・マッコウクジラも
コマッコウは1927年に千葉県習志野市に漂着し、2000年以降にも横浜市で2回目撃されています。2009年には、体長約5mのハッブスオウギハクジラが羽田空港に漂着しました。
さらに、最大のハクジラであるマッコウクジラも、1991年には横浜の本牧ふ頭、2008年には横須賀の海上自衛隊基地で、それぞれ体長約11mかそれ以上の個体が目撃されました。
どちらも死亡個体の漂流でしたが、いずれにせよ東京湾にはこんな巨獣が入り込むこともあるわけです。
千葉県や東京都でも見つかるヒゲクジラ類
最後にヒゲクジラの目撃例を見てみましょう。
明治時代の1876年、富津市で体長約12mのニタリクジラが漂流。近年では、2007年以降に千葉県袖ケ浦市や羽田空港沖、東京都江東区などでニタリクジラの漂着や漂流が報告されています。
2018年、千葉県浦安市で目撃されたのは体長約15mのザトウクジラ。同じ個体と思われるクジラが、東京ゲートブリッジや海ほたるパーキングエリアの近くでも目撃されました。
ザトウクジラはその後、横須賀市での漂着や川崎市での目撃も報告されています。
小型のヒゲクジラ類
横浜市では、1998年以降に2回、ミンククジラの漂流・漂着が目撃されています。本種はヒゲクジラのなかでは比較的小型ですが、それでも体長は2回とも4m前後ありました。
同じく比較的小型のヒゲクジラであるコククジラは、2005年に千葉県袖ケ浦市に体長約8mの個体が迷い込み、2017年には横浜市でも目撃されています。
2013年~2014年にかけては、東京都品川区・江東区や神奈川県川崎市で、体長12m~14m前後のイワシクジラの漂着・漂流が相次ぎました。
「寛政の鯨」
江戸時代だった1789年、品川沖に巨大なクジラが迷い込みました。「寛政の鯨」と呼ばれ、11代将軍・徳川家斉も見物する大騒ぎになったと伝えられています。このクジラは体長約16.7mに及ぶナガスクジラだったようです。
ナガスクジラは近年も、2012年には東京都江東区に、2013年には千葉県市原市になんと体長約22mの巨大な個体が漂着しています。
また東京湾ではありませんが2018年、相模湾沿いの神奈川県鎌倉市にシロナガスクジラが漂着。シロナガスクジラは大きな個体は体長30mを超える、現在の地球で最大の生物です。漂着したのは赤ちゃんにもかかわらず、体長は約10.5mで、確実な記録ではこれが国内初の漂着例とか。
東京湾での海生哺乳類目撃報告は増えている
今この瞬間も、首都圏のすぐ近くにある東京湾を、雄大な生物たちが泳いでいるのかもしれません。
東京湾の海生哺乳類目撃報告は、近年特に多くなっています。これはもちろん、観測体制や情報発信力が強まっている影響もあるでしょう。もしくは海の環境変化が影響しているのかもしれません。
理由は明確には分かりませんが、かつて顧みられなかった海の環境が改善し資源量が増え、捕食者である海生哺乳類たちが集まりやすくなっている……と信じたいところです。
(サカナトライター:浅川千)