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【最新スポット】もうすぐ会える!オランウータンの森に込められた動物園の使命…お客さんがスコール体験も【札幌・円山動物園】

Sitakke

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札幌市円山動物園に、この春、新しい注目施設が誕生します。

完成までの3年の日々にHBCのカメラが独占密着しました。

降り注ぐスコール。傘をさすここは、建物の中です。

外の気温は、マイナス5度。

でも、一歩中に入ると20度の気温に、湿度は99%!

春のオープンを控えた、その名も「オランウータンとボルネオの森」。

ここは、動物園なのに、動物が見づらい!?新施設。

葉っぱのすきまからようやく姿が…

動物園が「使命」だと話す、意味と思いがあります。

「我慢して生きてきた」

2020年4月ごろのレイト

オランウータンのお母さん・レンボーと、レンボーの子・レイトは、2021年7月、住み慣れた場所からのお引越しをしました。

お引越しをした2021年7月。暑い日だったので水分補給をしながら移動

行き先は、お客さんからは見えない、動物病院です。

建設から50年が経過した類人猿館の建て替えが始まろうとしていました。

オランウータンという呼び名の意味は、「森の人」。

その名の通り、本来、生活の多くを十数メートルの木の上で過ごす動物です。

そんなオランウータンにとって、類人猿館の屋内施設は、「圧倒的に高さが足りなかった」のだといいます。

本来木の上にいることが多いオランウータンだけど…歩くのが上手になってしまったレンボー

お母さんのレンボーは、長い動物園での生活で、地面を歩くのがとっても上手になっていました。

これは、本来の姿からすると、決していいことではありません。

私たちを含む哺乳類は、非常に環境適応度が高い動物。

レンボーもレイトも、暮らす環境が、理想の状態ではなくても「適応」し、「我慢」して生き続けてきました。

札幌市ではおととし、「動物園条例」が全国で初めて制定。

動物が、ただ飼育下で生きながらえるのではなく、本来の姿で過ごしていけるように…

「動物福祉の向上」を全面に掲げています。

オランウータンが暮らす新しい施設は、この条例ができてから初めて作られる場所。

2023年5月、HBCのカメラだけが初めて工事途中の施設に入りました。

「職人技」の結集 ボルネオの森を完全再現

そこは、足場で地上6メートル。天井までで8メートル以上。

木の上で暮らすオランウータンが本来の動きができるよう、天井を高くして空間を確保しました。

その高さを支える柱に、この日、ある作業が施されていました。

阿吽の呼吸で柱が「木の幹」に仕上げられていきます。

モルタル塗装を重ね、お客さんとオランウータンから見られるすべてが、質感までしっかりと木そのものに生まれ変わります。

まさに職人技です。

工事が進む中、2度の冬を越え、動物病院での生活を続けていたレンボーとレイト。

引っ越したはじめは元気だったといいますが、仮住まいでの生活が長くなると、表情が暗くなり、下痢をするようになった時期もあったのだといいます。

ただ、そうした状況も乗り越え、建物の完成が近づくにつれ、元気になってきていました。

特に3歳になったレイトは遊びたい盛り。

木の枝でこちらの気を引こうとするレイト(当時3歳)

お盆を投げてみたり、木の枝でこちらの気を引こうとしたり…。

つばを吹きかけてくることも。

「ぷっぷっ」とつばを飛ばしてきます

そのころ新施設では、お客さんが実際に歩くエリアの工事が進んでいました。

こうした工事は、すべて、模型を基に作られています。

岩場や滝も平面図からは見えてこないリアルな姿を、ミリ単位のこだわりで形にしていきます。

岡三リビックの椎木絢菜デザイナーは「図面上の細かい寸法では表現しきれない部分があるので、模型がすべて」だと重要性を話してくれました。

全員のイメージを統一し、立体として作り上げるために欠かせない模型

動物園側と100回以上のやりとりをして、作り上げた模型。

岡三リビック・大川浩さんは「模型を見ながら、職人たちと共通の認識で『ボルネオ』というイメージを作り上げていった」と話します。

木の苔の表現ひとつ、岩の質感ひとつも「南国」のイメージをしっかり意識しました。

目指すのはオランウータンが暮らすふるさと・東南アジアのボルネオ島の森を完全に再現することです。

そして、職人たちが数か月をかけて作ったこの場所が、今度は森になっていきます。

李泳斉飼育員も「実際にボルネオ島に生息する植物を入れた瞬間、息吹が、一気に建物に命が入った」と感動。

注目なのは、その植えられ方です。


「見えない」意図は

オランウータンが入る檻の前に葉っぱが生い茂り、中がよく見えません。

これも、動物園があえて、そうしているもの。

「森の中に、人間がちょっとお邪魔して、そこにオランウータンがいる」

「動物の中に人が入っていく」

ここはもう、オランウータンを見る施設ではなく、オランウータンが暮らす環境まるごとを全身で体感できる場所。

東南アジアの森に誘われると、そこは湿度90%を超える熱帯の世界です。

お客さんがいるときでも、屋内にスコールが降り注ぎます。

飼育員さんの作業にも変化をもたらします。

オランウータンではなく、植物の世話に精を出す、飼育員の李さんの姿が。

こんなことまで…大変じゃないのでしょうか。

すると、笑顔で「大変さは感じていない。ずっとここにいたいです」という答え。

「屋内空間で、ボルネオに生息する植物がしっかりと育成する環境を整えるっていうことは、すなわちオランウータンがより良い快適な空間で過ごすことに直結するんです」

また、植物は、環境に「慣れる」動物とは違い、合わなければすぐに枯れてしまいます。

どうしたら本来の環境を整えられるのか。

李さんは「植物にも教えてもらっている」と話しました。

そして、雪景色になった2023年12月下旬。

ついに、2年半の仮住まいの生活を終えて、レンボーとレイトが新しい施設にやってきました。


バックヤードまでこだわり

檻の中に入っている二頭。

動物園では、より安全・安心に引っ越しをするため、「なるべく麻酔は使わずにいきたい」という思いがありました。

そのため、3週間前から檻の中に入る練習をしたのだとか。

すると…レンボーはすぐに状況を理解したといいます。

李さんは「わかってるんです。本当にわかっている。『ここ(動物病院)から出られるんだ』って。そこから実は表情が違うんです」

こうして、麻酔も使わず、元気に新たな施設にやってきたレンボーとレイト。

最初に入ったのは、お客さんからは見えない、寝床や健康チェックをする場所「バックヤード」です。

実は、このバックヤードまで、この施設は「動物福祉の向上」に配慮して作られています。

お客さんから見えない場所は、本来「効率性」を重視するといいますが…

「なるべく前の獣舎に、構造も、壁の色まで似せている。早く慣れるように、ストレスがかからないようにしているんです」

すべてを新しくするのではなく、いいものは受け継ぎ残していく。

そうして、「動物中心」にこだわっているんです。

そして、2月7日。

ついに、バックヤードのドアが開く日がやってきました。


まさに「森の人」

まず出てきたのは、お母さんのレンボー。

地面を歩くのが上手だったレンボーが、上空をつたい大きな動きを見せます。

まさに「森の人」、オランウータン。

工事に携わった関係者、飼育員、獣医師、たくさんのスタッフが、8メートルの上空を見上げ、木をかきわけるようにその姿を追います。

どこだ…?木をかき分け上空を見上げて「森の人」を探す

円山動物園が、動物たちと向き合ってきた70年以上の歴史。
この新施設には、その答えがつまっています。

李さんは「一番重要なのは、動物とともに成熟していく施設であるということ」だと話します。

「人間が作った時点が100じゃなくて0。動植物に教わりながら手入れをして、建物自体は50年ほどで朽ちていくけど、その中身は50年後が一番よくしていくように私たちは取り組んでいく」

熱帯のボルネオの森が育ち、「森の人」が暮らす場所。

北海道の地で、まるごと体感できる日まであと少しです。

文:Sitakke編集部あい

※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2024年3月1日)の情報に基づきます。

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