寝ない、飲まない赤ちゃんだった自閉症息子。「特性だったかも」と思う乳児期の行動と今の思い
監修:藤井明子
さくらキッズくりにっく院長 /小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医
睡眠が浅い……常に寝不足でヘトヘトに
たーちゃんはいわゆる、寝ない赤ちゃんでした。生後半年でも3時間程度しかまとまって寝てくれず、私と夫は常に睡眠不足でした。
新生児の頃は抱っこで寝かせても、布団に置くとすぐに起きてしまうので、抱っこしたままソファで一緒に寝たりしていました。また、少しの物音でも起きてしまうので、デリケートな子なのだなとその時から思っていました。
おくるみを嫌がって脱出!何かを身につけるのが苦手
おくるみで巻いてあげるとよく眠ってくれる……と聞いて試してみましたが、たーちゃんにはあまり効果がありませんでした。包まれることを嫌がるようにモゾモゾと動いて、すぐにおくるみから出てしまいました。
さらに、帽子、靴下、手袋、離乳食を食べさせる時に使うシリコン製のビブなど、身に着けるものをことごとく嫌がるので使いませんでした。たーちゃんには感覚過敏があると主治医からいわれているのですが、今思えば生まれてすぐから過敏なところがあったのかもしれません。
オムツが汚れても泣かない
オムツがパンパンだったり汚れていても、泣いたり嫌がったりすることがありませんでした。そのまま機嫌良く寝たり遊んだりしていたので、私や夫がオムツを取り替えることを忘れてしまうほどでした。
たーちゃんには感覚過敏がありますが、部分的に感覚鈍麻もあるのではないかと思っています。ほかにも、赤ちゃんの頃から転んだりぶつけたりしてケガをしたときにも泣かなかったので、たーちゃんは痛覚にも鈍麻があるのかもしれません。
おっぱいをうまく吸えかった
私とたーちゃんとの相性が良くなかっただけかもしれませんが、母乳を飲むことが得意ではなかったです。口を大きく開けておっぱいに吸い付くことが難しく、浅い飲み方なのでなかなか母乳を飲めませんでした。
母乳外来で相談したりしましたが、飲み方は変わることがなく、生後半年には自然と卒乳してミルクになりました。今振り返ってみると、不器用さや、自分のやり方を通したいというこだわりなどが影響していたのかもしれないなと思います。
激しい人見知りと場所見知り
生後半年くらいから人見知りと場所見知りが始まりました。何度も訪れている実母や義母の家でもずっと泣いてばかりで、私と夫は困っていました。外で会えば大丈夫かもしれないと思い、試しに公園で落ち合ってみても、たーちゃんはずっと泣きっぱなしでした。
この人見知りと場所見知りは3歳頃まで続きました。楽しそうな雰囲気のレストランや遊び場でも、入り口で「いかない!」とUターンすることも多々ありました。今でも初めての場所では緊張しやすいので、たーちゃんは不安感が強いのだろうなと思っています。
落ち着きがなく、興味が次々に移り変わる
赤ちゃんの頃に通っていた支援センターでは、飽きっぽいのか集中力がないのか、ひとつのオモチャでほんの少し遊ぶと、別のオモチャを次々と出して遊んでいました。
また、ほかの子どもが遊んでいるオモチャに興味があり、落ち着きなく走り回ってはほかの子どものオモチャを横取りしようとしていました。人への興味より、物への興味が強いのかもしれないと感じました。
ほかには、絵本を読んでいてもページを次々にめくることが好きでした。絵本の絵をじっくり見たり、読み聞かせに集中することはありませんでした。
1歳頃、歩けない赤ちゃんもいる支援センターで走り回り、危ないと感じました。言って止まってくれるわけでもないので、けがや事故につながったらと不安になって、だんだんと足が遠のいてしまいました。
ほかの子と比べたり、悩んだり。今思えば……
たーちゃんの性格や体質的なことでもあるので、全てが自閉スペクトラム症の特性であるとは言えませんが、診断された今、「もしかしたらアレって特性だったのでは……」と考えて、自分やたーちゃんのせいではないと納得することができています。
1人目の子ということもあり、ほかのお子さんと比べたり悩んだりすることもたくさんありました。しかし今思えば、将来のことを考えて不安になるより、短い赤ちゃんの頃をもっと楽しんで育児したら良かったな、と思っています。
どうしてかというと、4歳の今では、ご紹介したような私が気になっていた点は、成長と共にほとんどなくなっているからです。母乳は飲めなくてもミルクですくすく元気に育ちましたし、2歳頃で夜通し寝てくれるようになりました。感覚過敏はまだありますが、靴下も履けますし帽子も被れます。緊張する場所はあっても、泣いてパニックになることはなくなりました。
もし、当時の私に会えるなら「こんなふうに、成長と共になんとかなっているよ。大丈夫だよ」と教えてあげたいです。
執筆/みかみかん
(監修:藤井先生より)
「成長と共になんとかなっているよ、大丈夫だよ」の言葉、とても素敵です。子育てしているみなさんに聞いてほしい言葉ですね。ひょっとしたら、これからも子育ての中で悩むことがあるかもしれませんが、これまでの成長の過程を経験を振り返ることで、少し悩み事が軽くなるかもしれません。新生児期や乳児期には自閉スペクトラム症と診断するのは難しいですが、なかなか赤ちゃんが寝ないために、親御さんが睡眠不足になるほどの場合には、小児科や保健センターなどに相談されても良いのかもしれません。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。