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Galileo Galilei『BLUE』インタビュー――何もないがある、何もしないをする

encore

──アルバム『BLUE』は、同時リリースされた前作『MANSTER』『MANTRAL』の兄弟作として位置付けられていますね。

尾崎雄貴「はい。もともと『BLUE』は、『MANSTER』『MANTRAL』の制作途中で”3部作にしたら面白いんじゃないか?”という話が出て生まれたアルバムでした。つまり最初から3枚ありきではなく、まず双子の『MANSTER』『MANTRAL』が生まれ、その後に弟分として『BLUE』が加わったイメージです」

──バンド再始動のタイミングに合わせて再録しよう、という戦略的な意図があったわけではないと?

雄貴「全くなかったですね。僕らの音楽制作って誰かと会話する感覚に近いというか。2023年の再始動後に初めてリリースした『Bee and The Whales』に収録されている「ヘイヘイ」という曲でも、<Hey, Hey 僕のそばに座れよ! ビッグで熱い与太話をしよう>と歌っているけど、『BLUE』も“そういえばさ、小学校の頃……”みたいに、ふと昔の話をする流れで“再録やってみない?”と自然に作りはじめたアルバムでした」

岩井郁人「単純に”3ってカッコいいし”みたいな話もしてたよね?(笑)」

雄貴「そうそう。”三位一体とか三体とかいいよね”とか。僕らって、ちょうど『ポケットモンスター』がレッドとグリーンの2バージョンで発売されて興奮した世代なんですよ(笑)。その後、実はブルーバージョンがあるという情報が出て、当時それを持ってるやつはちょっと特別な感じがしたんですよね。それと同じように、『MANSTER』『MANTRAL』を先に出したあと”実は『BLUE』もあるんです”という流れにすることで、リスナーに「特別感」を味わってほしかった。僕らが面白いと思うことは、きっとリスナーも面白がってくれるはずという気持ちもありました」

──再録する過去曲は、どのような基準で選んでいったのですか。

雄貴「最初は特に決まっていなかったんです。ただ、「管制塔」だけは絶対に入れよう、と。僕が初めて作ったオリジナル曲なので、これは外せない。その後、メンバーそれぞれがこれを入れたいという曲をリストアップしたんですけど、選曲の傾向がバラバラ過ぎて(笑)。例えば(尾崎)和樹は、かなりディープな曲ばかり選んで”いや、それはさすがに違うでしょ”みたいなやり取りもあり、”とりあえず録ってみようか”となったんです」

──割と行き当たりばったりというか?

雄貴「そうですね。”この曲を入れるなら、これもあったほうがいいよね”みたいな流れで決まっていったので、最初からアルバム全体の構成が見えていたわけではなくて。まるで会話をするように、録り進めていきましたね。例えば会話の流れで”この話は避けられないな……”と思って話し始めるような感じで入れた曲もある。「クライマー」とかはまさにそうですね」

岩井「選曲に関しては、僕の個人的な思い入れも反映されました。例えば「Electroland」という曲は、僕がこのバンドを脱退した直後に新曲としてライブで披露されたんですよ。それをYouTubeで観たとき、”俺がいなくてもGalileo Galileiは成り立つんじゃん……!”って、めちゃくちゃ嫉妬したんです(笑)。だからこそ今のガリレオで、この曲をアップデートしたいという思いがありました」

──なるほど。岡崎さんは、今回のレコーディングにどう向き合いましたか。

岡崎真輝「まず、『BLUE』は自由の象徴だと僕は思っています。昨年9月に『MANSTER』『MANTRAL』をリリースし、3月5日には『BLUE』が加わる。この半年間で42曲もリリースするアーティストって、なかなかいないですよね。レーベルやバンドのスタンスにもよるけど、常に僕たちはやりたいからやるという姿勢で進んできました。今回の再録も、自分たちのやりたいことをやりたいように表現できる自由の象徴。「Tour M」で演劇的なライブ演出に挑戦したこともそうですが、今の僕らは本当にのびのびと活動できていると思っていますね」

岩井「ただ、それも”俺たちは自由だ!”とことさらアピールしたいわけもなくて。さっき雄貴が言ったように、対話の中で自然に生まれたものなんですよね。そういう意味では自己中心的な自由ではなく、一緒に楽しむ自由というか」

──そういう環境があるのは、とても恵まれていますね。普通はレーベルの制約やバンドの状況で、やりたくてもできないケースが多いと思うのですが、今のGalileo Galileiはなぜそれを実現できているのでしょう?

雄貴「僕らは10代でデビューして、最初は本当に小さな規模で音楽をやっていました。でも急に注目され、いろんな大人たちの思惑も絡むようになり、その中で自分の人格も形成されていった感覚があります。例えば「管制塔」を作った頃の自分と今の自分が対峙しても、きっと会話が成り立たないと思うんですよ(笑)。そうやってバンドの中で成長や変化を重ね、その姿をずっとファンの前に曝け出してきた。そして、そういう過程を見守ってくれるファンがいるからこそ、今回の再録も実現できたんです。レーベルが”もうここまでやったんだから、好きにやれよ”と柔軟に対応してくれたのも、長年の関係性があるからこそ。Galileo Galileiを中心に、いい意味で特殊な界隈ができあがっていて、それが今の自由な活動につながっていると思います」

岩井「本当に、チーム全体が通じ合えている感じがある。雄貴って、どんな人とも腹を割って話すんですよ。だからこそ深くつながる人もいれば、去っていく人もいる。その積み重ねが今のGalileo Galileiの形になっているんじゃないかな」

──和樹さんはどうですか。

尾崎和樹「過去曲の再録が決まったとき、”当時はどんな雰囲気でレコーディングしたんだっけ?”ということを考えましたね。音楽を続ける中で得たものはたくさんあるけど、同時に失ったものもあって。だからこそ、この曲の何が魅力だったのか?それをどう再現するのか?を改めて深く考える機会になりました。例えば『PORTAL』に収録されている「Good Shoes」という曲。当時の音は、今と比べると軽くて薄い感じがするんですよ。でも、それは僕らが技術的に成長したからそう感じるだけで、あの頃の自分たちにとってはちょうどいいサウンドだったのかもしれない。だからこそ今の技術でより良い音にするか、それとも当時の雰囲気を残すのか。そのバランスをどう取るかはすごく悩みました」

──では、『BLUE』に収録された新曲「あおにもどる」には、どんな想いを込めましたか。

雄貴「「あおにもどる」はGalileo Galileiについて歌っているわけではなく、自分自身の生き方や日々目の前に広がる風景を表現したくて書いた個人的な楽曲です。これまでもパーソナルな曲はいくつかありますが、「あおにもどる」は特に書きたいと強く思った珍しいタイプの曲ですね。ただ、そういう曲ほどファンにとっては特別な曲にならないことも多いのですが(笑)」

──個人的な楽曲というのは、具体的にはどんなところが?

雄貴「”自分はどこにいるのか?”ということですね。2016年リリースの『Sea and The Darkness』を制作していた頃から、自分の中には常に闇の中にいるという感覚があったんです。それを初めて言葉として明確にできたのもあのアルバムでした。故郷の稚内にいても、一度上京したときも、ずっと”俺はどこにいるんだろう?”と考えていて。それは『BLUE』を作りながら過去を振り返り、未来に目を向けても変わらず自分の中に残っている問いなんですよね」

──「あおにもどる」というタイトルにも、その感覚が反映されているわけですね。

雄貴「そうですね。青に戻りたくても戻れないというか。僕が今、一番興味を持っていることが”人はどうやって自分の闇と向き合うのか?”ということなんです。最近SNSで”あなたの生き様を教えてほしい”と呼びかけたら、驚くほど多くのメッセージが届いて、その一つ一つがまるで大切な手紙のように言語化されていることに圧倒されたんです。そして、それらを読みながら改めて自分は闇の中にいると再認識したんです。バンドの活動とは関係なく、自分という人間として、ずっとそこにいる。その上で、”君はどう思う?”とリスナーに問いかけるような曲になったと思っています」

──闇の中にいるからこそ、光の輪郭がはっきりするというか……

雄貴「そうですね。生きていればもちろん、幸せな時間が訪れることもある。だけど、その只中では気づけないことも多いじゃないですか。辛い時期を乗り越えた後に”あの頃は大変だったけど、こうすればよかったよね”と振り返ることはできても、苦しさの中にいるときはただただ辛いとしか思えないし(笑)、未来のアドバイスなんて響かないんですよね。でも、音楽や芸術は、そうした捉えようのない、生きづらさをも表現できると信じている。むしろ、それこそが音楽や芸術の役割なんじゃないか、と。自分は人生を使ってそういうことを表現してきたし、これからもそうしたいのだなと今なら言えますね」

──今回のアルバム『BLUE』は、次のライブとも連動していると考えていいのでしょうか。

雄貴「『MANSTER』『MANTRAL』そして今回の『BLUE』の3枚のアルバムを通して伝えたいテーマや概念があり、それを今後の活動でも表現していきたいと思っています。ライブに来た人が”『あおにもどる』ってこういうことか”と、言葉にしなくても感覚で受け取れるような体験を味わってもらえたらなと」

──ライブのポスターにも、これまでのガリレオの軌跡を彷彿とさせるようなモチーフがたくさん散りばめられています。ある種の謎解きのような要素も感じました。

雄貴「これまで言ってきたとおり、僕は音楽を作るときも、ミュージシャンとして活動するときも、リスナーとの対話をすごく大切にしています。既存のファンだけでなく、まだ僕らの音楽を知らない人ともコミュニケーションを続けていきたい。だからこそ、すべてを説明するよりも、受け手の解釈に委ねる部分を残しておきたいんです。ポスターも同じで、僕らの中ではいろいろな意図や仕掛けを考えていますが、それをすべて明かすことはしたくない。それこそ、リスナー自身に考察してもらいたいし、自由に感じ取ってもらえる余白を残しておきたい。たとえ解釈が違っても、それはそれでいいと思っています」

岩井「「Tour M」ではやりたいことをやり切ったので(笑)、今度のライブはその真逆をやりたいですね。僕らは常に新しいことに挑戦したいという気持ちがありますが、その一方でただ単純に、でっかい音を鳴らしたいという欲求もあって」

雄貴「あはは!確かに」

岩井「今回は、新しい演出や驚きを狙うのではなく、純粋にバンドサウンドを届けるライブにしたいと思っています」

岡崎「今回の『あおにもどる』ガーデンシアター公演は、演奏そのものをじっくり聴いてもらうライブになりそうな気がしていますね。僕たち自身も楽しみながら、ファンの皆さんにとっても特別な時間になればいいなと思っています」

和樹「今回の『BLUE』を通じて、ファンの方々が改めてGalileo Galileiに出会い直すような感覚になるかもしれないなと。BBHFになってからもずっと追い続けてくれた人はもちろん、高校生の頃は聴いていたけど、今は聴いてないなという人にも、あらためてGalileo Galileiと再会できる場になってほしい。ライブのコンセプトを同窓会にしてもいいくらい」

雄貴「最近、メンバーとよく話しているのが、『くまのプーさん』でプーさんが言う”何もしないことは最高の何かにつながる(Doing nothing often leads to the very best something)”という言葉。実際にやろうとするとなかなか難しいのですが、今回のガーデンシアターのライブでは、それを少し実践してみたいなと思っています」

岩井「え……音も出さないってこと?(笑)」

雄貴「いや、それは前衛的すぎるでしょ(笑)。そういえば今回の「あおにもどる」のMV撮影で、僕の地元・稚内に行ったんです。そこで見た景色が本当にすごくて。スノーランドという場所があるんですが、冬になると沼が完全に凍ってしまい、見渡す限り真っ白な世界になるんです。建物も何もなくて、まさに「何もないがある場所」。これって稚内の観光スローガンにもなりそうじゃない?」

一同「あはは!」

雄貴「でも実際、そうやって音楽を通じていろんな場所に思いを馳せたり、自分が見たことのない景色を想像したりする体験を、これからも大事にしたいんです。音楽って、旅をするツールにもなり得ると思うし、今後も「何もしないをする」を大切にしながら、音楽と共に新しい景色や場所を探し続けていきたいですね」

(おわり)

取材・文/黒田隆憲
写真提供/Suzume Studios

2025年3月15日(土)東京ガーデンシアター

Galileo Galilei "あおにもどる"

2025年3月5日(水)配信
Virgin Music Label & Artist Services

Galileo Galilei『BLUE』

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