新潟県民必読!新米の魅力をギュッと紹介 「新米に恋して。」~若手農家さんインタビュー
暑さが和らぎ、新潟にも秋がやってきました。新潟の秋といえば、なんといっても新米!今回は、そんな新米のおいしさに迫ったKomachi11月号「新米に恋して。」から、新潟を代表する産地・南魚沼市で米作りを行う若手農家さんのインタビューをご紹介。米作りに対する熱い思いに注目です。
みわ農園・まつえんどん 三輪弘和さん
江戸時代から300年以上続く米農家。代々受け継いだ技術と、南魚沼の自然環境を活かした米作りを営む。魚沼地域の若手農家グループ「魚沼ブラザーズ」の一員。自社栽培の玄米を使用したベーグルなど商品開発にも尽力。
「南魚沼のお米ってやっぱりおいしい!」 その一言が聞きたくて、 米作りを続けています。
江戸時代から続く農家として新たな挑戦へ
水が張られたばかりの水田から、青々とした稲が美しい田園風景に変わり、秋を迎える頃には黄金色の稲穂が風にそよぐ。季節の移ろいを感じさせる田んぼの様子は、いかにも新潟らしい風景だと思う。
この日訪れた南魚沼では、稲刈りが行われている真っ最中だ。コンバインが規則正しく稲を刈り取る音が響くと、辺りには秋らしい匂いが漂っていた。
新潟有数の米の産地では今、若手農家が米作りに熱心に取り組んでいるという。その一人が、南魚沼で米農家を営む「みわ農園」の三輪弘和さんだ。代々続く屋号「まつえんどん」の米作り、南魚沼の米というブランドを背負う若手の想いをぜひ聞いてみたいと、三輪さんを訪ねた。
「米作りは稲穂の見た目や手触りで確認するのも大切なんです」と三輪さん。
「まつえんどん」の歴史は、江戸時代中期までさかのぼる。三輪家は300年ほど前から、南魚沼で代々米作りを続け、幾度となくこの地を襲った自然の猛威や時代の変化を乗り越えてきた。現在も屋号を受け継ぎ、三輪さんは「まつえんどん」の代表として農業を営んでいる。
「僕は農業をやるつもりはなかったんです。大学卒業後は石川県で飲食の仕事をしていて、どちらかというと料理人でした」と三輪さんは振り返る。しかし、故郷を離れて初めて実感したというのが、南魚沼産コシヒカリが持つ市場に出回らない希少性と真の価値。
「石川県の米屋で『南魚沼産コシヒカリなんて扱えるわけない』と言われたんです。そのときに初めて、地元のお米が、非常に価値のあるものだと知りました。その言葉が僕の心に火をつけたんです」。
南魚沼市美佐島にある三輪さんの圃場。コンバインを運転するのは三輪さんの父・正雄さん。
長男としての責任感、先祖代々受け継がれてきた田んぼを守りたいという使命感に突き動かされ、三輪さんは2013年にUターンを決意。本格的に家業の米作りに加わった三輪さんは、これまでの慣習を踏襲するだけでなく、その価値をもっと広く発信しようと決めたという。
「米作りは父から教わりました。市内各地にある圃場で米を作り、地元の若手農家ともつながりを作り、米作りで南魚沼の農業を盛り上げたい。その一心で気付けば12年が経っていました」。
田んぼ1反(1枚)は、20分ほどで稲刈りが終わるという。
一つとして同じものはない毎年の米作り
三輪さんが管理する田んぼは、現在コシヒカリが12町歩、全体で約23町歩もの圃場で6品種を栽培している。
もっちりとした粘りと甘みを持つ定番「コシヒカリ」、病気に強く安定した収穫が見込める「BLコシヒカリ」、大粒でしっかりとした食感の「新之助」、高温に強い「にじのきらめき」、ほかにもおにぎりに最適な強い甘みと粘りを持つ「ゆうだい21」、低アミロース米「ぴかまる」といった個性豊かな品種を数多く手がけている。
収穫時期や作業の分散化に加え、気候変動へのリスク分散、消費者の多様なニーズに応えるために、これだけの品種を扱っているそうだ。
稲穂の色や感触で、米粒の成熟度をしっかりチェック。コシヒカリの稲穂にはうっすら黄緑色が残る。
「同じ田んぼでも、毎年同じように育つことはありません。米作りは自然との対話です。近年は気候変動による水不足や高温障害といった新たな課題が、米農家を悩ませています。水不足の年は水の確保が深刻ですね。水は米作りの要ですから」。そう三輪さんが語る水とは、八海山から流れる清らかな雪解け水のこと。
盆地特有の昼夜の寒暖差も、米の甘みやうま味を高める条件になるという。南魚沼に古くからある豊かな自然が、米作りに欠かせない恵みをもたらしている。
さて、令和7年のお米の仕上がりについて尋ねると「高温や水不足といった問題はありましたが、昨年より若干良く、おいしいお米になりそうです」と三輪さん。これは期待大!
若き担い手たちの挑戦「魚沼ブラザーズ」
「南魚沼や魚沼の農業は、僕一人だけのものではありません。最近は心強い農家の仲間たちと、米作りに励んでいます」と笑顔で語る三輪さん。
その仲間たちとは、魚沼市、南魚沼市、十日町市、津南町、長岡市川口で農業を営む13人の若手農家、その名も「魚沼ブラザーズ」。三輪さんは立ち上げメンバーの一人だ。
魚沼ブラザーズはいわゆる組合のような形態で、若手農家が互いの技術や知識を共有し、共に学び、切磋琢磨することで、南魚沼の米作りの未来を切り拓くことを目的としている。「お米のコンクールで賞を取る」という明確な目標を掲げて、各々のメンバーが米作りに取り組んでいるという。
若手農家で活動する「魚沼ブラザーズ」。有志でおいしい米作りに励む。
「お互いの圃場を巡回して生産方法やこだわりについて話すなど、刺激を受けることだらけです。若手農家の皆は、コンクールで良い結果を出してもなお、高みを目指し続けています。どうすればもっとおいしいお米が作れるかを、あらゆる角度から考えているんです」と三輪さん。
時には県外の米農家を訪ねるなど、メンバーは日々研究・研さんに励んでいる。その熱意と情熱が、魚沼産コシヒカリというトップブランドの品質を、さらに高いレベルへと引き上げているのだろう。魚沼ブラザーズのメンバーは、互いにライバルであり、良き仲間たちというわけだ。
「お米のネット通販や直販も積極的に行う人や、お店を構えている人もいます。お米という農産物としてだけでなく、作り手である人もブランド化しながら、一人一人が米作りを極めていきたいですね」。
9月には、「ジェイアール名古屋タカシマヤ」の催事で新米を販売。県外への出店にも積極的。
南魚沼のお米から今までにない価値創造を
三輪さんの挑戦は、米作りだけにとどまらない。お米の価値を多角的に広げたいと、自社農園の商品開発にも取り組んできた。それは、ミネラルが豊富な魚沼の水、自社で栽培した南魚沼産無農薬玄米と国産小麦粉、酵母で作る「玄米ベーグル」だ。
この玄米ベーグルは、炊いた玄米を使用する特許製法と、卵や乳製品など動物由来の食材を使用しないヴィーガン認証も取得。玄米の香ばしさともちもちとした食感で、お米の新しい楽しみ方を提案している。
炊いた玄米を国産小麦の生地に練り込んで作る自社製品の「玄米ベーグル」。プレーン、いちじく、レーズンなどの味があり、ネットで通年販売中。
「僕が追求したいのは、価格に見合ったお米の品質と可能性です。首都圏の百貨店などでの催事にも出店していますが、そこでお米を売るだけでなく、僕たちの米作りへの想いやこだわりを伝えていきたいと思っているんです」と三輪さん。
お米を通じて食の喜びを伝え、人と人をつなぎ、次世代へと受け継がれる南魚沼らしい農業のカタチを創造していく。それが三輪さんの描く米作りの未来であり目標だ。
「僕らが作るお米を食べた人が、『南魚沼のお米、また食べたいな』『こんな食べ方や味もあるんだ』と関心を持ってくれる、それがモチベーションになっています」。「まつえんどん」の屋号が先祖代々続いてきたように、三輪さんの挑戦は、これからも続いていく。
稲が刈り取られて脱穀が終わると、コンバインに溜まった籾殻が排出される。
三輪さんのおいしいお米ができるまで
誰もがうなるおいしい味わいは、1日にして成らず。約半年間の地道な作業が至高の味を生む!
4月: 催芽機で芽出し&浸種
玄米黒酢を使って強い苗を育成。残った玄米黒酢も土壌改良に活用。
5月:田んぼに栄養を! 稲の赤ちゃん誕生
苗が丈夫に育つよう、大胆に苗を踏む苗ふみを行う。その後、田んぼに米ぬかをまいて微生物を育てつつ、田植えを開始。田植えは6月中旬まで続く。
6月:田植え終了! 雑草との戦いへ
田植え後の美しい光景。夏に向けては人力で雑草を抜いていく。大変!
8月: いよいよ出穂! 寒暖差と玄米黒酢が肝に
お米が甘くおいしく育つために欠かせないのが10℃近い昼夜の寒暖差。さらに、登熟促進とアミノ酸によってお米のうま味を引き出すために玄米黒酢を散布。
9月:夏の終わりには黄金の世界へ! 待ちに待った収穫期
田んぼは美しい黄金色に。収穫前にはスタッフ総出で雑草除去を行う。台風で稲が倒れたり、ぬかるむなど作業が困難になることもあるが、一年で最も充実した季節。
店舗情報
店舗名:
みわ農園・まつえんどん
住所:
南魚沼市美佐島972
TEL:
025-775-7401
外部リンク:
https://miwanouen.net/
新米が秋の恵みとして私たちの食卓に並ぶまでには、多くの時間と労力が注がれています。厳しい自然と向き合いながら手をかけ、ようやく届く一膳。あらためて農家さんに感謝しながら、大切に味わいたいと思います。
(文/Komachi編集部 山崎)