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美しく保存される北海道・添牛内駅の駅舎。深名線廃止30年の節目で人々が集った日

さんたつ

_9030074添牛内駅

北海道・旧JR深名(しんめい)線の添牛内(そえうしない)駅には、2023年の訪問以来2年ぶりに訪れました。地元有志を中心に保存活動が行われており、廃止30年の節目では道外からも人が集まりました。

30年ぶりの訪問でも美しさは変わらなかった

先月は3度にわたって、廃止30年を経過した旧JR深名線の廃線跡をたどりました。前回は天塩弥生駅を紹介しましたが、今回は地元有志の手で保存されている添牛内駅へ訪れます(駅跡と表現するとくどいので、ここでは添牛内駅と記します)。

添牛内駅は残された駅舎が農業倉庫として使用されたのち、半ば廃屋に近い状態で朽ちかけていましたが、地元有志を中心として保存活動が行われ、クラウドファンディングを募って補修費用を調達し、見違えるように美しい姿となりました。その時の模様は2年前に訪問した際に紹介しています。今回は久しぶりの再訪となりました。

2年ぶりに出会った添牛内駅舎。もう30年も見続けているが、近年は見るたびに美しくなってきていてうれしい。

添牛内駅は2025年9月3日と4日、深名線廃止日から30年の節目でイベントを開催しました。以前にも駅舎内を開放するなどイベントを行ってきており、今回も駅舎内開放日となり、中へ入ることができます。

廃止30年を記念した開放日だけあって、駅舎の前は鉄道ファンの姿が20人はいるかと思えるほどにぎわっていました。こんなににぎわっている姿を見るのは、1995年の廃止時以来ではないかと感じました。

参加者の一人が深名線廃止時のヘッドマークをアレンジした絵を描いてくれた。
2日間は駅舎開放日となり、道内外から深名線へ思い入れのある写真家の作品を展示した。僭越ながら私もその一人であったのだ(笑)。

グッズを販売するお店もあれば、近くに住む方が家族総出でやる出店もあり、ちょっとしたお祭りのよう。「久しぶり!」とファン同士が声をかけ合って話が弾む光景があり、深名線の廃止時を体験した者たちが、東西南北、道内、道外から自然と集まっていました。まるで同窓会の光景です。

駅名標は幌加内(ほろかない)町から借りてきて展示したとのこと。添牛内駅の看板は現役時代からあったものだ。

駅舎は2年前に訪れたときと変わらずの美しさを保っています。雪深い地であるから、冬季の雪下ろしやメンテナンスも大変かと察しますが、ひょっとしたら現役時代より美しいのではと思ってしまうほど、美しく整っている駅舎です。これも地元の方々と有志による継続的な保存活動のおかげですね。

駅舎内は広い空間となっていた

駅舎内へ入ったのは廃止以来、30年ぶりとなります。ちょっと驚いたのは、駅事務室との壁が取り払われていました。廃止後に農業用倉庫となっていた際、この壁が撤去されたとのことです。

駅事務室(奥)と待合室部分には壁で遮られていたが農業倉庫となって撤去されたらしい。今後この中心部分の補強がネックとなってくるかもしれない。

「建物中心部の柱が無くなっているから少し心配なんです」

と、近所に住まわれている男性が話してくれました。空間が広くなっているのは開放的で良いかもと感じましたが、中心部に柱が無いととくに積雪時が心配になってきます。保存会の山本昭仁さんに伺うと、修繕に関わった大工さんの見解では、駅舎は梁と壁面の柱が支えているため、中心の柱は重要ではないとのことです。

中心部の柱は25年ほど前に撤去されてから積雪などでも耐えてきたため、ひとまずは現状のままで保存されていきます。

駅舎を抜けてホーム側へと行くと、もちろん線路は無いものの、ホームはしっかりと残っており、イベントのために駅名標も展示されていたために、現役のあの頃の情景が戻ってきました。仮に線路があれば現役時代と錯覚してしまいそうです。

駅舎の周囲へと回ってみると、駅舎脇にホームの跡が残っていました。現役時代から私の記憶にはないホーム跡は、最近になって伸び放題だった草木をきれいに刈って現れたものだといいます。これは明らかに貨物用ホームの痕跡で、添牛内駅が貨物を取り扱っていたとき、貨車から積み出されたものがこのホームの上で山積みになっていたのでしょうね。

手前のコンクリート構造物が貨物用ホームの痕跡。
駅舎を抜けてホーム側へ。出札口を振り返ると、現役時代のことを思い出す。
駅事務室があった側。出っ張っている箇所は信号の扱いなどをやった場所で、その傍らには腕木式信号機とポイントを転換するレバーがあった。

この日の添牛内駅は平日なのに多くの鉄道ファンが訪れて笑顔が絶えませんでした。普段のこの連載「廃なるものを求めて」は、1人でしみじみと「廃」と出会って静かな時に包まれながらひと時を堪能しますが、同窓会のように自然と集まったファンでにぎわう廃駅舎の姿は幸せそうに見えます。添牛内駅は昭和6年(1931)の開業から今年(2025年)で94年となりますが、駅舎が美しく保たれているのも良いですね。

駅名標が取り付けられると現役感が増してくる。駅名標はこのイベント時のみの取り付けであった。
ホーム側から駅舎を仰ぎ見る。手前のホームは残されたまま。このホームに列車が到着して私はこの駅へ降り立ったのだ。

10月末、添牛内駅は年内の展示を終えて冬仕舞いとなりました。と、さっそく雪が降り、これからしばらくは積雪と雪下ろしの繰り返しで、再び開放されるのは2026年のイベント開催時となる予定です。

添牛内駅近くの跨線橋から駅を望む。当然ながら現役時代は草木が刈られていたが、30年も経つと路盤は没してしまっている。

取材・文・撮影=吉永陽一

吉永陽一
写真家・フォトグラファー
鉄道の空撮「空鉄(そらてつ)」を日々発表しているが、実は学生時代から廃墟や廃線跡などの「廃もの」を愛し、廃墟が最大級の人生の癒やしである。廃鉱の大判写真を寝床の傍らに飾り、廃墟で寝起きする疑似体験を20数年間行なっている。部屋に荷物が多すぎ、だんだんと部屋が廃墟になりつつあり、居心地が良い。

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