フリージアン 人間味あふれる楽曲と瑞々しい歌、切実な生きざまが詰まった1st EP『歌葬』制作秘話とライブ観を聞く
神戸発のロックバンド・フリージアンが、1st EP『歌葬』をリリースした。どうしようもなく人間味にあふれた楽曲、言葉がまっすぐ響いてくる瑞々しい歌。そんな彼らの持ち味や切実な生きざまが詰まった本作は、日々の暮らしに思い悩む多くのリスナーが自分に重ねて聴けるのではないかと思う。そして、熱量たっぷりのパフォーマンスが想像できる点も素晴らしい。今回のインタビューでは、新作の話についてはもちろん、関西のライブハウスシーンを中心に話題を集め、11月16日には東京・渋谷CLUB QUATTROでのワンマン公演『FREESIAN ONEMAN LIVE 2024 -TOKYO-』を行なう4人のライブ観に迫る。
──新作を聴かせてもらって、バンドの調子がすごくいいのが伝わってきました。
マエダカズシ(Vo):自信作ができましたし、昨日やったタワーレコード新宿店での発売記念のインストアライブも、お客さんの反応が温かくて嬉しかったですね(※取材は9月15日に実施)。僕らめっちゃ仲がいいので(笑)。結成した時点からずっと調子は上向きなんですけど、ここまでの約3年半をかけて、サポートしてくれる人、応援してくれる人が少しずつ増えてきた。そのおかげで、よりバンドが楽しくなってきた感じはあります。
隆之介(Ba):メンバーそれぞれが過去にバンドの解散を経験した上で始まったのがフリージアンなんですけど、この4人で組めたときに“いける”ことはほぼ確定したというか。人間性やバランスを含め、手ごたえがあったんですよね。振り返ってみても、その感触は間違ってなかったなと。
たなりょー(Dr):自分たちが思ういい曲を漠然と詰め込んだ前作のフルアルバム『FREESIAN』(2023年7月発表)に対し、今回のEP『歌葬』は僕たちの人間性がより見える作品になりました。ライブを重ねるごとにお客さん側もフリージアンがどんなバンドなのかを掴んでくれて、よりリアリティのあるアプローチに踏み込めた感じです。
MASASHI(Gt):顔も身長も性格も違うような曲がどんどんできてますね。『歌葬』の制作は生まれてきた曲に導かれて、いろんな引き出しを開けられるのが快感でした。“俺、こんなアイデア思いつくんや!”みたいな。
――フリージアンにとって、ライブはやっぱり大切なものですか?
たなりょー:欠かせないですね。結成したものの、コロナ禍の真っ只中でライブがすぐにできなかったもどかしさを味わっているので、他のバンドよりその気持ちは強いかもしれません。音源を作るのも好きなんですけど、いざ活動が始まってみたら、それだけの期間は正直しんどかったです。
隆之介:ライブバンドとしての自負はありますね。フリージアンって、ボーカルのカズシだけじゃなく、僕ら楽器隊のメンバーからも人間味のあるサウンドがすごく出てるんですよ。音楽が好きなんやなっていうのがわかると思う。ライブはそれがダイレクトに伝えられる場所なので。
マエダ:制作のほうが好きなアーティストもいると思うんですけど、僕はそっちだけだと無理ですね。あまり良くない言い方かもしれませんが、ライブをしないと承認欲求が満たされない(笑)。歌っているときにみんなが目の前で反応をくれることが、音楽をやっていてよかったなって、今までの自分は間違ってなかったんやなって、いちばん感じられる瞬間なんです。その喜びがあるからこそ、もっとがんばろうとなれる。
MASASHI:SNSでのコメントとかも嬉しいんですけど、いちばんグッとくるのは目の前にいる人の感情が動くのを見られたときですね。
マエダ:ライブの間隔が空くと、ちょっと凹んじゃいますもん。“俺、何してんねやろ……”“みんなの前で歌いたんですけど”ってなりがち。
たなりょー:尊敬するスピッツの自伝に「ライブはレコーディングのように、レコーディングはライブのように」という格言があるんですけど、それを思い出すことが近頃は増えました。ライブがなかったらもちろん困るし、レコーディングの時間がなくなっても困る。どっちもあることでバランスが取れている気がします。
――自分たちのライブの魅力だと感じる部分について、もう少し聞かせてください。
隆之介:カズシのボーカルはまっすぐで、人を惹きつけますよね。あと、シンプルに声がデカくていい(笑)。一方、バックの3人は隠し包丁みたいなフレーズをさりげなく入れていたり、僕やったらコーラスにも力を入れたり、音楽をきめ細やかに追求している。そういう大胆さと繊細さを兼ね備えたところかな。
たなりょー:“めっちゃ楽しそう!”とはよく言われます。ライブ中にメンバーを見ると、ものすごく笑ってたりするんですよね。で、こっちも嬉しくなったりする。みんな歌うのが好きだから、コーラスが入った曲、4人とも歌っている状態も多いし。
MASASHI:レコーディングはギターを何本か重ねるんですけど、ライブは1本だけなので、そのぶんを声の迫力でカバーしているというかね(笑)。
――バンドのプロフィールによると、マエダさんはギターを弾かず、手ぶらで歌いたいんですよね?
マエダ:そうです! 邪魔なんですよ(笑)。弾き語りはたまにやるんですけど、僕マルチタスクが苦手すぎて、歌詞が飛んだりしちゃうから。始めるときに“歌だけやらせてくれ!”とメンバーにお願いしました。
隆之介:こんだけガツンと歌えるんやったら、俺らも“弾かんといてくれ!”となったよ(笑)。
たなりょー:フリージアンが初めて世に出した「仰げば尊し」という曲で、サビにコーラスを2つ入れてるんですけど、あれがハマった感じがあるんですよね。邦楽ロックでサビが3声の曲とか、あまり聴いたことがなかったから。自分たちでも新鮮でした。
マエダ:その後、最初からコーラスありきで曲を作るようになったね。とりあえずガッツリ盛っておいて、徐々に削っていく感じです。
――面白いですね。コーラスってあとから足すイメージですけど。
マエダ:僕らの場合、逆ですね。先にめっちゃ入れといて、“いらんかも”と思ったら引いていく。
たなりょー:デモ段階はツインボーカルに近いくらい、ほぼ歌いっぱなしでコーラスしてるよな?
隆之介:聖歌隊ばりに入れてます(笑)。
――フリージアンの前にもバンド経験があり、さらにコロナ禍真っ只中に組んだとなると、あらかじめ強い気持ちのもとで取り組んできたことも多いですか?
マエダ:結成した頃はミーティングばっかりしてました。どういうバンドにしていきたいのかだったり、曲の方向性とかをひたすら話し合って。
たなりょー:リハスタを3~5時間押さえるんですけど、楽器に触っているのは1時間にも満たなかったね。
MASASHI:今思えば、わざわざスタジオでやらんでもよかったやんっていう(笑)。そのあとも違う場所でミーティングが続くんです。缶ビールを買って、くだらない話もしながら。
隆之介:けど、ダラダラしてるわけじゃないんよな。真面目に突破口を探してました。
マエダ:4人の向いている方向を揃える時間というのかな。どこに向かっていきたいかってことなんですけど。
たなりょー:最終的には、ちゃんとオーバーグラウンドを目指そうという結論に至りました。ずっとインディーズで、しかも関西のコアなシーンを拠点にしてきたのもあって、僕らはもともとアンダーグラウンド寄りやったんです。目の前のバンドと対決するじゃないですけど、“あっちがそう来るなら俺らはこうやる”みたいな。狭い範囲でカウンターの撃ち合いをするようなスタイルに、いつの間にか陥ってしまっていたんですよね。なので、その染みついたマインドを取り去る作業が必要だった。
MASASHI:そこのすり合わせが時間かかったね。自分たちのやりたいことをやれるようになるまでが。どういう曲を推していくのか、大衆性をどこまで持たすのかも含めて。
隆之介:凝り固まってたんですよね、みんな。
――でも、このままじゃいけないとなって。
たなりょー:変わる決め手になったのは、やっぱりカズシくんの声ですね。誰が聴いてもホッとできる感じがあるし、彼の言葉選びひとつ取っても嫌な気分にはならないじゃないですか。こういうことを歌ってくれるボーカルがいるのに、他のメンバーが凝り固まっているのはもう意味がわからへんなって。そこから広く受け入れてもらえる音楽を鳴らすようになりました。
マエダ:“滅私”っていうワードを、当時はみんなで掲げてましたから(笑)。
隆之介:そうそう。私を滅すると書いて、滅私。悪いこだわりをなくしたかった。
マエダ:“こういうのはやらへん”とアプローチを縛るんじゃなくてね。僕もちょっと恥ずかしさのある歌詞にもトライしたり。
たなりょー:“売れるのが恥ずかしい”みたいな、ようわからんプライドもあったんですよ。今となっては、そっちのほうが恥ずかしいんですけど(笑)。
――いいライブをするために心がけていることは?
マエダ:自分を曝け出すことかな。今、目の前にいる人たちのためだけに歌う。“このライブハウスで歌っている間に、世界は滅んでるんちゃう?”“もうここしか残ってへんかもしれん”くらいの気持ちで入り込むことは大切にしてます。頭の中でいろいろ組み立てる性分でもないから、ほとんど感覚重視なんですけどね。
隆之介:どう演奏したら、カズシの歌声がもっと伝わるのか。そこは考えますね。
MASASHI:いちばん届けたいのは、メンバーみんなが大好きなカズシの歌なので。
たなりょー:マエダカズシという強力な大砲の弾があって、バックの3人は砲台みたいなイメージです。どこまで遠くまで飛ばせるか、強く響かせられるかを楽しんでる。
隆之介:“俺らの演奏を見てくれ”という感じではないよな。
たなりょー:うん。お客さん全員がカズシくんを見てるほうが嬉しい。
――言葉がまっすぐ伝わる日本語で歌ってもいますからね。
マエダ:僕めっちゃアホで、勉強ができないんですよ。英語も苦手やから。
――そうなんですか? 歌詞からは、国語が得意な印象を受けたりしましたけども。
マエダ:本もほぼ読まないんです。
たなりょー:それなのに、なんでこんなに歌詞が書けるんやろうって。僕らも不思議なんです(笑)。
マエダ:漫画はたくさん読むから、そのおかげかもしれん(笑)。自分がしっくりくる言葉で無理なく書いている感じです。昨日のインストアライブでもそうだったんですけど、英語で歌ってなくても、海外の方が立ち止まって聴いてくれたりするんですよね。メロディとか、声の出し方とか、演奏とかで、何かが伝わってんねやろなという場面がよくあるので、日本語で歌うことに自信もついてきました。
――MASASHIさん、隆之介さん、たなりょーさんは、ライブでのマエダさんの歌やMCに頼もしさを感じたりしますか?
MASASHI:ホンマに頼もしくて、それ前提で組んだところがありますね。歌の魅力はもちろん、カズシが作る詞もメロディもストライクゾーンにドンと来る。僕、インディーズの音楽にかなり疎くて、売れてるポップスが好きなタイプやったんですけど、そんな自分に刺さるバンドのボーカリストってたぶん初めてなんですよ。
隆之介:ボソボソしゃべるようなフロントマンというタイプじゃなくて、カズシは絶対にMCをサボったりしない。
マエダ:逆に、しゃべりすぎちゃうんですけどね(笑)。
たなりょー:カズシくんは話が上手いわけじゃないんやけど、すごく一生懸命で、“こいつがしゃべってんのやったら聞こか”という気分にさせてくれるんです。
――求心力があるというか。
MASASHI:そうそう。昔から人を惹きつけるところがあったらしくて、漫画の主人公みたいなエピソードが多いんですよ。
隆之介:フロントマン気質なんやと思います。
マエダ:転校したばかりやった中学のとき、女の子から“めっちゃ歌上手いらしいやん! ゆず歌ってみて”と急に頼まれたんです。廊下で歌ったら、すごい人だかりができちゃって。
隆之介:そんなことないで、なかなか(笑)。
マエダ:そのときに歌が得意なことをちゃんと自覚できて、音楽により興味を持ち始めたんです。
――主人公っぽい。
たなりょー:大学のときも、ひとりで軽音楽部に乗り込んだらしいです。“バンド組みたいです”“自作の曲あります!”くらいの勢いで。
マエダ:しかも、入学式の日やったんですよ。普通に考えたら、練習やってるわけないじゃないですか。先輩たちも飲みに行くようなムードの中、やたらと気合の入った僕が現れたから、“ヤバいやつが来た!”みたいな扱いになっていたらしくて。
MASASHI:あははは(笑)。
隆之介:そりゃそうやわ!
マエダ:その日は当然“やってないよ”と言われて帰るんですけど、次の日からも同じように押しかけるんですよ。ボロボロのズボンとサンダルを履いた、髪バッサバサのやつが(笑)。
たなりょー:楽器もできへんのに、そのガッツはマジですごい。
マエダ:“じゃあ、演奏してあげるから、とりあえず歌ってみな”という感じでどうにか先輩たちが折れてくれました。で、聴いてもらったあとは“お前、めっちゃええやん!”“一緒にオリジナルのバンドやろう!”と、びっくりするくらい話が急展開したんです。
MASASHI:ボーカルがブッ飛んでるところも、フリージアンの魅力やと思います。
たなりょー:カズシくんの音楽的な知識って、たぶんそのときからあまり変わってないんですよ。
マエダ:覚えられへんのよ(笑)。音楽用語とか拍子とか。
――本当に感覚型なんですね。
MASASHI:“ハネる”とか言っても通じへんしな(笑)。ギターを弾かないのもそうですけど、理論うんぬんに関してもカズシはやらないでOK。
たなりょー:そのままでいいと思ってるから、あえて教えないんです。
隆之介:コードをどうするかだったりは、他の3人に任せればいい。そうしたほうが、理論から外れた面白いアイデアをカズシも出してくれるので。
マエダ:フリージアンはこういうバランスで成り立ってます。
――新作EPの『歌葬』も、ライブ映えする楽曲が揃ってます。
たなりょー:リード曲の「青瞬」がいいリアクションをいただけていて、MVの再生回数も伸びているんですよ。風景のみがスライドする、僕らの演奏シーンはないシンプルな映像なんですけど、それでも反響があるってことは、曲のクオリティが上がってるのかなと思ったりしますね。リリース直後のインストアライブでお客さんが泣いてくださっていたのも初めての経験で、今後どのくらい広がるのかが純粋に楽しみです。
マエダ:「青瞬」は自分で自分を救っている感覚があって、僕も泣きながら歌詞を書きました。EPに関しても、ミュージシャンの仲間たちからもたくさん褒めてもらえて、“いい作品ができたんやな”と思えてます。
――歌を葬ると書く『歌葬』というタイトルが付いてますけど、ひとつの区切りみたいな感覚がある作品ってことですか?
マエダ:そうですね。パッと出てきた言葉でもあるんです。ここから次に進んでいくという区切りの意味もありつつ、聴いてくれた人が感情をリセットできる、モヤモヤを浄化できるような作品になったらいいなと。最近はそんなことも思ってますね。字面的には怖く見えるかもしれないですけど、めっちゃポジティブなEPです。
――1曲目の「夕暮れとオレンジ」から明るい印象でした。
マエダ:そうなんですよ。ギャップがあるというか、想像以上にパワフルに始まるんで(笑)。
たなりょー:歌詞に死生観が垣間見られたりもするんですけど、楽曲が持っているテーマやメッセージはすごくポジティブなんですよね。そういう作品にしっくりくるタイトルやなと思います。
――ジャケットのヒガンバナもいいですね。9月のリリースと開花時期がちょうど合っていて。
マエダ:そこまでは考えてなかったんですけど、偶然にもマッチしたんですよね。デザイナーのシーラカンス宇野さんがいくつか出してくれた案の中にヒガンバナがあって、僕が直感で選んだのがこのジャケやったんです。
――デザイナーさんには曲を聴いてもらったんですか?
マエダ:はい、音源をもとにイメージしていただきました。話を聞いたら、僕が描いた絵のオマージュらしいんです。以前、SNSに花のイラストをアップしたことがあるんですけど、それを踏まえてくださったみたいで。
――ヒガンバナって怖い印象を抱かれがちですけど、“情熱”や“再生”といった花言葉もあるんですよね。
マエダ:そうなんです。ちょっと荒れた海の上に咲いているヒガンバナ、冷たさと温かさが思い浮かぶ青と赤の構図が、収録曲のムードに合っていて。タイトルもジャケもなるようにしてなった感じがします。
――ライブという観点で、思い入れの強い曲を教えてほしいです。
たなりょー:僕は「お願いダーリン」。カズシくんの前身バンド(逢マイミーマインズ)の曲で、そのときにお客さんとして聴いた思い出があったり、フリージアンの初ワンマンで演奏した思い出があったり、今は彼の後ろでドラムを叩いていて。何かと感慨深いんです。
マエダ:10年くらい前に書いた歌詞なので、あどけなさがありますね。
――EPのラストに「月に咲く」「お願いダーリン」とラブソングが並んでますけど、マエダさんが書く歌詞の変化や時間の経過が感じられて味わい深いなと思いました。
隆之介:ですよね。大人になったなあ。
マエダ:自分でもそう思う(笑)。あんなに妄想を膨らませていた自分が、今はもっと大きな愛を歌うようになっていて。
――マエダさんはどうでしょう?
マエダ:僕は「怪物」かな。6月に開催した大阪 Music Club JANUSでのワンマンで初めて演奏したとき、普段以上に自分を曝け出せた気がしたんですよね。こういう“思うところあります!”みたいな曲はあまりやってこなかったんですけど、お客さんがすごく楽しそうな反応を返してくれたのが新鮮で。
――《「ありのままの姿みせるのよ」 なんて幸せな人たち》の部分とか、ユーモアがありますよね。
マエダ:あれが流行ってるとき、ホンマに思ってたんですよ。みんながその考え方じゃ世界は犯罪まみれやし、ぜんぜんカッコよくないというか。人と人の関係性はそうじゃなく、ずっと一緒にいたい誰かのために自分を変えていくことだったりが美しいやんって。
――「青瞬」と「怪物」の並びも好きですね。「青瞬」のBメロの《俯いてばっかいらんないね》《牙剥いてばっかいらんないね》と歌われる、自分に向けたエールが心地よくて。“ん”という言い方も含め、押しつけがましくないトーンが、「怪物」の愛らしい世界観にスッと繋がっているように感じたんです。
マエダ:はーっ、嬉しい感想ですね。ありがとうございます!
――たとえば、「青瞬」のBメロで“明日は晴れるよ”とか“俯かずにがんばれ”みたいな言葉が来たら、めっちゃ冷めるんですよ。
全員:わはははは(笑)!
MASASHI:ああー、わかるかもしれないです。
マエダ:それだと、感動させにいってますもんね。
隆之介:柔らかい響きや繊細さがよかったりするんやろうな。
――「怪物」では、それこそ《明日には変われるのよ なんて幸せな人たち》とも歌っていて、むやみにポジティブな表現をしないマエダさんの真摯さが見えた感じがしました。
マエダ:自分としては思いつくままに書いてたけど、素直な歌詞が書けたってことかな。
たなりょー:ちなみに「青瞬」のBメロでテンポを落としてタメを作るところは、the pillowsの「Crazy Sunshine」のBメロを意識しました。
隆之介:僕ら、ピロウズ大好きなんです。
――「青瞬」の《俺なんていないように回るこの街が居場所なんて》と歌う冒頭部は、ピロウズの「Funny Bunny」を彷彿とさせますね。
マエダ:確かに、ニュアンスが近いかも。明日(9月16日)やるライブでは、ベルマインツと一緒に、ピロウズの「ハイブリッド レインボウ」をカバーするんですよ。
――MASASHIさんはどうですか?
MASASHI:「一撃の歌」です。ライブでめっちゃ強い曲やから。
マエダ:腕力の歌と言ってもいいもんね。
MASASHI:でっかいバズーカで攻撃を喰らわす感じ。タイトルどおり、歌もすごいから。
隆之介:ハイトーンで、消費カロリー高いもんな(笑)。
MASASHI:カズシの歌に鼓舞されて、演奏もアガるんです。
たなりょー:全員がユニゾンで歌うから、曲終わりに水飲みたくなります(笑)。
――まさに、ライブで真価を発揮しそうな曲ですね。
たなりょー:必殺技っぽい。
MASASHI:消費も激しいけど、それ以上に楽しいなと感じてます。
――隆之介さんは?
隆之介:やり甲斐があるという点で「蒼く染まって」ですね。フリージアンの中では、非常にシュッとした曲。いつもと違った装いで挑む感じがあるので、どう演奏したら最高になるのかを模索中なんです。
MASASHI:演奏する側として、ワクワクの度合いが高いですね。
――情熱とは真逆の、人間の冷たい部分にスポットを当てたような。
マエダ:そう、ダークなイメージの曲です。僕、明け方に窓の向こう側を見るのが好きで。あの時間って、2つの感情があるじゃないですか。一日が始まったときの清々しさと、始まってしまったときのやるせなさ。微妙な揺れを歌いたかったんですよね。
たなりょー:これからライブで育てていく曲やね。
隆之介:うん。演奏するうちにベストな表現が見つかっていくんやろうな。
MASASHI:「海から」もそうやけど、セットリストのどこに入るんかね?
隆之介:その点も探っていきたいです。
たなりょー:「海から」は、MASASHIがギターをたくさん重ねたオケを作ってきてくれて、そこに歌、ベース、ドラムを入れたっていう特殊な作り方の曲なんですけど、これもどうなるのか楽しみにしていてください。
――そして11月16日には、東京・渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブが控えてます。
マエダ:僕ら史上最大のキャパシティになる挑戦です。2024年の活動は、すべてこの日のためにあるくらい。どれだけの人が足を運んでくれるのかも楽しみですね。普段は動員とかあまり気にしないタイプなんですけど、今回は多くの方に来てほしいなと思ってます。
たなりょー:『歌葬』の曲を演奏するのも楽しみやし、渋谷クアトロに出るのも初めてなので。
マエダ:クアトロでワンマンってすごいことやもんな。
隆之介:決して当たり前のことじゃないよ。毎日埋まるような人気のハコに、自分たちが立てるなんて。そういう謙虚な想いとクアトロのステージに挑戦できる感謝が渦巻いてますね。
マエダ:あの規模で大合唱とか起こったら、どうなっちゃうんやろな?
MASASHI:考えただけでヤバいな。曲いっぱいできるのが嬉しい。もう、今までの全部やりたいですよ。
――どんなライブができたら成功ですか?
マエダ:フリージアンらしく全力でやれれば、それだけで大丈夫。
MASASHI:いつもどおり楽しんでやるだけ。そこがブレないことが大切やな。
隆之介:うんうん。
たなりょー:ライブがどんどん良くなってきてるので、ぜひ観に来てほしいです!
取材・文=田山雄士 撮影=菊池貴裕