「動物の権利を問う展覧会」アテネで開催中 人間中心主義を鋭く批判
「なぜ動物を見るのか?」が提起する倫理的問い
Maarten Vanden Eynde Homo stupidus stupidus, 2008. Private collection, Slovenia | Nabil Boutros, Celebrities / Ovine Condition, 2014.
アテネの国立現代美術館(EMST)で、2026年2月15日まで開催されている『Why Look at Animals? A Case for the Rights of Non-Human Lives』。この展覧会では、動物の権利と人間社会の関係性について根本的な問いを投げかけている。
約60名のアーティストが参加するこの大規模展は、美術批評家ジョン・バージャーが1980年に発表したエッセー『Why Look at Animals?(なぜ動物を見るのか?)』から着想を得たもの。
かつて人間の生活に深く溶け込んでいた動物たちが、どのように距離を置かれ、モノ扱いされ、商品化されてきたかを探るとともに、人間社会と動物の関係における倫理を正面から問題にしている。
工業化社会と動物搾取の構造を可視化
Ang Siew Ching High-Rise Pigs, 2025 (installation view) Single channel video, colour, sound, 18’ 6”
展覧会は美術館の地下1階からスタートし、植民地主義、産業主義、技術的「進歩」が、最初の大規模な生息地破壊と動物の暴力的搾取につながった歴史を検証していく。
中国湖北省にある26階建て養豚ビルを映した、アン・シュー・チンの2025年の映像作品『High-Rise Pigs』は、工場型畜産の実態を鋭く映し出す。閉鎖されたサイクルの中で、豚が生まれ、育てられ、屠殺される様子は、現代の動物利用が抱える構造的問題をあらわにする。
マーク・ディオンの1998年の作品『Men and Game』は、世界各地で死んだ獲物と笑顔でポーズを取る男性たち(主に白人)の写真を壁一面に展示している。ヨナス・スタールの2023年の『Exo-Ecologies』は、初期の宇宙探査で実験に使われ、ほとんどが命を落としたマウス、ウサギ、犬、サルたちを追悼する作品だ。
リン・ハーシュマン・リーソンの2014年の『The Infinity Engine』は、遺伝子実験で生まれた光るマウスなどの画像を提示し、自然をコントロールしようとする人間の無謀さを示唆している。
新たな共存のビジョンを模索
Mark Dion Men and Game, 1998. Courtesy of the artist and Tanya Bonakdar Gallery, New York, Los Angeles | Rossella Biscotti, Clara, 2016.
ただ、展覧会は明るい未来を感じられる内容も盛り込まれている。
美術館の4階まで上がると、展覧会のトーンが変化する。ここでは詩的表現、エコフェミニズム、アニミズム、遊び、動物の創造性、ユーモアが交差し、動物たちが尊厳を取り戻す。より調和がとれ、種を超えた共存と協力が実現される未来を想像するよう促される。
動物研究の進歩により、人間以外の多くの動物が知性と感性を持ち、喜び、痛み、悲しみ、恐怖を感じることがわかってきている。この展覧会は人間だけが特別だという考え方に疑問を投げかけ、動物に対する日常的で制度化された暴力という、隠されてきた大きな問題に立ち向かおうとしている。
気候正義や環境保護に本気で取り組むなら、動物たちも不可欠な要素として含めるべきであると、この展覧会は訴えている。
※参考
WHY LOOK AT ANIMALS?|EMST
Why Look At Animals? Because We Say So|ArtReview