【中学受験】社会 6年生の後期の追い上げ方を人気中学受験専門塾代表が解説
教育ジャーナリスト・佐野倫子さんによる「中学受験伴走」連載。中学受験専門塾「ジーニアス」代表・松本亘正先生に「社会を得意にする勉強法」を取材。今回は6年生の勉強方法について(全3回の3回目)。
人気中学受験専門塾「ジーニアス」代表が語る6年生の「社会」の勉強法とは?教育ジャーナリスト・佐野倫子です。「中学受験伴走(サポート)」連載。今回は、「社会」の勉強法について。6年生はまもなく「天王山」と呼ばれる夏休み。ここから少しずつ、直前期にむけて社会を勉強する比重が増えていきます。
合格に向けて、社会を効果的に仕上げていくために、気を付けるべきポイント、学習法を中学受験専門塾「ジーニアス」代表であり、社会科専門講師の松本亘正先生にお聞きしました。
6年生なのにこんな単語も書けない! 愕然としたときにするべきこと
──中学受験塾では、6年生になるまでに地理・歴史・公民を一通りの勉強を完了させます。さあ最終学年になり、いよいよ仕上げだ、と新6年生の保護者は思うものの、いざ子どもの解答用紙を見ると基礎的な用語、名称が書けていない! ということがよくあります……。
愕然としてしまいますが、6年生はどのように社会の学習を進めるべきでしょうか?
松本亘正先生(以下松本先生):長年指導していますが、基礎的な用語などが書けないことは特異なことではありません。私が代表を務める「ジーニアス」では、6年生の春から地理の総まとめとして、もう一度頭から繰り返しますが、上位クラスの子たちでも、重要なことを忘れています。
大切なことは、6年生の前半でそれらの忘れてしまった知識を、「呼び戻すこと」です。
──とはいえ、社会に苦手意識があった子にとっては、キーワードになるような単語さえまだあやふやだと思います。それを急ピッチで身につけたい場合の勉強方法はありますか?
松本先生:私の場合は、そういったお子さんには、前期に基礎用語の穴埋め問題プリントを作って渡しています。内容は、4年生の最初に習うようなことで、例えば地理だと「リアス式海岸、赤潮」。歴史だと「冠位十二階、大政奉還」のような超基礎知識です。
「今さら?」などと心配せず、夏休みまでは土台をどっしり作ると考えて、基礎が抜けている場合は丁寧に復習しましょう。
──実際、塾のカリキュラムについていくので精一杯で、個別に何を追加してやるべきかを親が判断するのは、正直、至難の業です……。
松本先生:そういうときこそ、塾の先生に相談してみてください。先生方はプロですから、腹を割ってやるべき教材を聞くのが得策です。
成績が振るわないと先生に面談をお願いしづらい、という保護者の方もいますが、そんな心配こそ無用。先生はこれまでたくさんのお子さんを見ていますから、どんどん頼っていきましょう!
重要なことは、現状を親御さんが把握し、目指すレベルをまず先生と共有することです。「難関校に行きたい」、「無理をしすぎずに校風重視で学校を選びたい」など、目指す方向次第で6年生の戦い方は異なります。現状と目標を先生と共有し、作戦を立てていきましょう。
社会の「詰め込み」可能説の真偽
──よく耳にするのは「社会はラストの詰め込みがきくから大丈夫」という説。実際のところ、6年生のどの時期からラストスパートをかけるイメージでしょうか?
松本先生:そうですね。最後の1ヵ月は、いわゆる社会の詰め込みラストスパートの時期といえます。これは参考にならない例ではありますが、過去に関西に引っ越す前提のお子さんで、灘に不合格となり、そこから2週間しかないけれど、麻布に挑戦したいと私のところに来た方がいらっしゃいました。関西の私立中学は国算理の3科目入試の学校も多く、灘もそのひとつです。
彼は5年生まで社会を塾で勉強していましたが、その後は社会をやっていません。
最後の2週間、社会の基礎をずっと勉強して、「呼び起こして叩き込む」という作戦です。結果、もちろん他の科目に引っ張られている形ですが、麻布に合格しました。
記述重視の学校でもあり、基礎だけ叩き込んでなんとか社会でつけられる差を最低限に抑えられたということなのですが、それだけ最後に集中して勉強することは効果があるということです。これは極端な例でしたが、中間層ほど最後の2週間の過ごし方は重要ですよ。結果は変わります。
しかし一方で、私は冬期講習が終わるまではバランスよく、4科目を勉強していくことが大切だと考えています
──なるほど、中学受験で鍵になるのは配点も高く成績を上げるために時間を要する算数であるとはよく言われることですが、いわゆるラストスパートの最後の詰め込みタイムが社会は冬期講習よりも後。
それは、「短期記憶の勝負」という最後の飛び道具と考えて、結局それまでは極端な勉強に偏らないほうがベターですね。
松本先生:はい、そう考えます。もちろん秋から理科社会の時間が増えてくるのは確かです。
夏は、算数:国語:理科:社会を2:1:1:1で勉強していたのが、本番に近づくにつれて等分になり、本当の直前期は得意不得意や仕上がり具合によって変わっていくでしょう。でもたとえ得意科目でも放置してOKということはありません。粘り強く4科目取り組むことが大切です。
また、6年生になって志望校が固まってきたとき、知識系の難問がでるのか、記述系の難問が出るのかということを知れば、勉強内容は変わってきます。
──では、イメージができるようにそれぞれ代表的な学校を教えていただけますか?
松本先生:知識系の最上位は聖光学院や開成、桜蔭などです。最近では本郷もこのゾーンに近づいてきました。
思考・記述系最上位は麻布、武蔵、駒場東邦などです。女子学院は知識系、スピード勝負のイメージがありますが、社会は思考系です。
早慶はおおまかにいえば知識系、共立や大妻などの女子校は基礎知識をきちんと身につければ十分対応することができると思います。
親御さんは過去問を6年生前半で確認しておきましょう。わからなければ塾に相談すれば傾向を教えてくれるはずですから、頭に入れたうえで勉強を進めてください。夏休みあたりからは特に意識して、志望校に沿った勉強を始めましょう。
志望校が固まったあとの社会の勉強量は?
──志望校が固まったあと、社会の過去問はどのくらいやるべきでしょうか?
松本先生:例えば、麻布などの傾向が長年変わらない学校は、過去問を5年ではなく、10年以上さかのぼってやるのも作戦のひとつです。
一方で、標準的な学校は、トレンドや時事も変わりますので3~5年分取り組むことでOKだと思います。
ちなみに過去問を取り組みだすのは、9月以降が目安。あまり早くやっても、まだ知識が定着していないと不正解のほうが多くなり、子どももがっかりしてしまいますからね。
12歳の受験ですから、モチベーション、やる気がとても大切です。
大人はつい、「難しい問題に慣れたほうがいい」「少しでも多く過去問を解いたほうがいい」「間違えた問題だけを集めて効率よくやらせたい」などと考えますが、それが正しいとは限りません。子どもがモチベーションを高く持てるかという視点を忘れないようにしてください。
──時事問題に関してはいかがでしょう? 秋になると、その年の重大ニュースを集めた本が各塾から出ますが、それが結構なボリュームで……。直前期に投入するのに苦労した経験があります。
松本先生:実際に入試では出ない、もしくは出ても数問なので、あまりたくさんの時間を割くのは得策ではりません。気に入った時事問題の本を選んだら、読み物のように隙間時間に読んでおく。
それよりおすすめなのは、新6年生の春夏から1日10分程度、毎日テレビでニュースを見ることです。2025年だと万国博覧会、キャッシュレス決済、ミニマムアクセス。そんな用語が自然に頭に入ると思います。
時事問題は、そこまで深い知識を求められることは稀で、たいていはキーワードと背景を知っていれば書けますし、選択できます。そういう意識でカバーしていけば大丈夫ですよ。
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焦りがちな6年生の伴走ですが、改めて土台を固めて、一歩一歩進んでいくこと。そして子どもが少しでも前向きに最終学年を完走できるように、保護者の方はサポートを心掛けていきたいですね。松本先生、ありがとうございました。
撮影/日下部真紀
取材・文/佐野倫子
『改訂版 合格する地理の授業 47都道府県編』著:松本亘正(実務教育出版)
『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』著:佐野倫子(イカロス出版)