“世界を創り紡ぐ、憑依系シンガー”佐々木李子が、枝を伸ばした先に実らせたものフルアルバム『RI PATHOS』ロングインタビュー|歩き続けていたら、いつかそれが美しく輝くときが来る――
“世界を創り紡ぐ、憑依系シンガー”として、歌手・声優の両軸で表現を追求してきた佐々木李子が、2026年6月3日(水)に全10曲すべて新曲を収録したフルアルバム『RI PATHOS』をリリースする。
『RI PATHOS』というタイトルは、Ri=「李」と、Path=「小道」を組み合わせた造語であり、自身のこれまでの歩みと、これから進んでいく未来を一本の道として表したもの。
メタル、メロコア、オルタナ、シューゲイザーなど多彩なジャンルのサウンドに自身の人生を乗せて、楽曲ごとに表情豊かな歌を響かせている。さらに、初回限定盤には、ボーナストラックとして佐々木自身が初めて作詞作曲した「てづくりのうた」も。
時にエネルギッシュに、時に繊細に紡がれる“李子道”の先に広がる景色は、彼女自身にとっても、彼女の歌と生き様に心を奪われた“虜”たちにとっても、きっと明るいものになるはず。そう予感させる、名作の誕生である。
【写真】“生きているアルバム”佐々木李子『RI PATHOS』インタビュー
改めて“佐々木李子”と向き合いたいと思った
──(インタビュー時点では)「ANISAMA in TAIPEI 2026 -DOSHA!-」の出演からほどないタイミングということで、ぜひ感想を聞かせてください。
佐々木李子さん(以下、佐々木):とにかく緊張していました。今回、佐々木李子ソロとして呼んでいただけたことが本当に嬉しかったです。1曲目が「まるでマトリョーシカ」だったんですが、現地で7弦ギターを借りて、ヘドバンをしながら歌ったのが本当に楽しくて。1曲目から緊張が一気に吹き飛びました。
──初っ端からかなり熱量の高いステージだったんですね。
佐々木:「歌でみんなの心をひとつにしたい」という思いで臨みました。「まるでマトリョーシカ」のメタルな世界にどっぷり浸って、音楽で思いをぶつけるぞ、という気持ちになれました。だから1曲目にこの曲を持ってきてよかったなと思います。
おそらく初めて聴く方も多かったと思うんですけど、一緒に音に乗って頭を振ってくださったり、じっと見入ってくださったりしていて、それがすごく嬉しかったです。また、「アニサマ」のプロデューサーである斎藤Pさんが映像にもこだわってくださっていて、「まるでマトリョーシカ」では、あえてモノクロ映像を使用することで、楽曲のかっこよさをより際立たせてくださいました。
──「アニサマ」ならではのコラボレーションもあったとうかがいました。
佐々木:「Meteor -ミーティア-」(『機動戦士ガンダムSEED』挿入歌)を森口博子さんと歌わせていただきました。番組などで何度かご一緒しお話しさせていただいたことはあったんですけど、同じステージで一緒に歌うのは初めてで、本当に夢のような時間でした。本番当日は、森口さんがすごく支えてくださって。「ここは少し動きがあってもいいかも」とステージ上での動きを細やかに提案してくださったり、「李子ちゃんなら大丈夫」と声をかけてくださったりして、とても心強かったです。さらに、ライブ後にもご連絡をくださって。お人柄も含めて本当に尊敬する方ですし、私もこういう方になりたいと思いました。
──そうしたライブを経てリリースされる今回のアルバムは、新曲10曲すべてに佐々木さん自身の生き様が詰まったものとなっています。そもそも、今回のアルバムで“李子道”をテーマにしようと思ったのは、どのようなところからだったのでしょうか。
佐々木:フルアルバムをリリースするにあたって、改めて“佐々木李子”と向き合いたいと思ったんです。自分はどうやって出来上がってきたんだろう、と。これまでの道を一つひとつ思い返して曲にすることは、今までなかったんですよね。
──でも、今回はあえて、ご自身が歩んできた道をたどるようなアルバムにしたいと思ったと。その理由は、どこにあったのでしょうか。
佐々木:生きているアルバムにしたかったというか……。これまでは、がむしゃらに生きてきた感覚が強かったんですけど、改めて振り返ると、人生において大事なターニングポイントがいくつもあったなと思って。そうやって歩んできたこの道をここで記して、忘れないようにしたかったんです。私は言葉で表現するのがあまり得意なタイプではないのですが、でも、だからこそ歌で表現できるものもあると思っています。
──「生きているアルバム」という言葉が、まさにぴったりですね。
佐々木:まだまだ道は続いていきますし、振り返ると、どの道も決して順風満帆ではありませんでした。その時は本当にどん底に感じていたこともあります。でも、今あらためて全体を見ると、全部がつながっていて、美しいものだったんだなと思えるんです。
きっとそれは、誰しもが歩んでいる人生にも重なることだと思います。だからこのアルバムが、聴いてくださる方の心にも響いたらいいなと思っています。
──佐々木さんのその人生に、きっと多くの方が虜になっているのだと思います。
佐々木:自分としては、この人生は……なんというか「普通に生きなきゃ」と思いながら生きてきたんです。自分は不器用で、当たり前のことができなかったり、すごく悩んでしまったり、人と比べてしまったりもして「自分の道はこれで合っているのかな」と、普通に歩くこともままならないように感じることもあります。
でも、そこがいいねと言ってくださる方もいて「そういう道でもいいんだ」と思うことができました。同じように悩んでいる方が、今は迷ったり、立ち止まったりして苦しいかもしれないけれど、歩き続けていたら、いつかそれが美しく輝くときが来る。そんなメッセージも、この1枚に込められたのかなと。私のことを知らない方にも、その道を追体験するように一緒に歩んでもらえたら嬉しいですし、初期の頃から応援してくださっている方には、いろいろな時期の私を思い返してもらえると思います
作家陣を固定することで、1曲ごとの個性を際立たせる
──少し話が前後しますが、今回のテーマとなっている「李子道」という言葉は、どの段階で出てきたものだったのでしょうか。
佐々木:最初のアルバム会議のときに出ました。チームみんなで「佐々木李子の人生の1枚にするとしたら、どんな言葉が出てくるだろう」と話していた中で、「李子の道」「李子道」という言葉が出てきたんです。
──「李子道」(りこどう)の中に、“鼓動”という言葉の響きも含まれているのが素敵ですね。
佐々木:ありがとうございます。“道”でもあり、“鼓動”でもある。いろいろなダブルミーニングを込めました。
──その中で、タイトルである『RI PATHOS』という言葉はすぐに出てきたのでしょうか?
佐々木:ほかにも案はいろいろあったんです。やっぱり人生と李子がつながるようなタイトルにしたくて。いろいろな意見を聞きながら話し合った上で、『RI PATHOS』になりました。“李子のパトス”でもあり、情熱でもあり、“path”=道でもある。どの意味も、今の自分にとって大切なものだったので、一番しっくりくるタイトルだと思いました。
──アルバムはSkipjackさん、佐藤厚仁さんがほぼすべての楽曲制作に関わっていますが、そこも最初からイメージされていたのでしょうか。
佐々木:今回はアルバム全体として、佐々木李子のアーティスト性に統一感を持たせたいという思いもあったので、あえて作家陣を固定して、Skipjackさんと佐藤厚仁さんにお願いしました。その上で、1曲1曲の個性を際立たせるために、チームで時間をかけて作っていきました。
──構成に関しては、“ここまでがこれまで、ここからがこれから”というような区切りはあるのでしょうか。
佐々木:はっきり分かれているわけではなく、ミックスされています。後半の曲にもこれまでの気持ちが入っていますし、「ひとひら」にはチラシ配りをしていた頃の気持ちが込められていて。一方で、「カミガカリ」や「道」はこれからの未来にも思いを馳せて歌っていますし、完全にこれまでを歌っている曲もあれば、これまでとこれから、どちらの気持ちも入っている曲もありますね。
──「桃李成蹊」はハードコア、「花邑 -Hanamura-」はマスロック/ポストロック、「オランジェット」はオルタナティブ……と、全曲違うジャンルに挑戦されているのも特徴のひとつです。それでいて、バラバラにならず一枚の作品として一貫性があるように感じました。
佐々木:基本はロックを軸にしています。その中で、それぞれのテーマに沿った雰囲気をしっかり作り込んでいただきました。
──お話を聞いていると、佐々木さん自身が制作に深く踏み込んでいることはもちろん、制作陣も佐々木さんの思いをとても大切にされているんだなと感じます。
佐々木:本当にそうなんです。Skipjackさんは作詞内容とあわせて毎回コメントをくださるんですが、その言葉を読んだだけで泣きそうになることもあります。特に印象的だったのが、Skipjackさんが「佐々木李子さんの素顔を意識したときに、根幹に“綺麗に生きること”を心がけているように感じた」と書いてくださっていたことです。「繊細さがありながら、強く清廉に生きている佐々木李子さんの像を、より強く感じられるように歌詞を書きました」と。
それを読んだときに、すごく見透かされているような感覚がありました。確かに私は自分のいろいろな部分を隠してしまうところがあって、「まるでマトリョーシカ」の歌詞にも通じると思うんですけど、私以上に私のことを理解してくださっている方がいるんだと驚きましたし、その言葉によって、改めて「自分はこういうふうに生きているんだ」と発見できた部分もありました。
──「花邑 -Hanamura-」にも<気高くsake>という言葉がありますよね。あのフレーズも、まさに佐々木さんらしい言葉だと感じました。
佐々木:自分で作詞していたら、その言葉は出てこなかったかもしれません。私は自信がなかったり、すぐ迷ったり、人に流されてしまったりすることもあって、でも、気高く咲きたい、と思っている。それをSkipjackさんが汲み取って、言葉にしてくださったのがすごく嬉しかったです。「豪華絢爛祭」(2025年)のときも思ったのですが、すごく私のことを理解してくださっていて。いつか直接お話ししてみたいくらいです。実はまだ直接お会いしたことはないのですが、楽曲を通して、深い信頼を寄せている方です。
決意表明のリード曲「桃李成蹊」
──基本的にはSkipjackさん、佐藤厚仁さんが曲を手掛けられているなかで、1曲目でありリード曲であるハードコアナンバー「桃李成蹊(とうりせいけい)」は、the bercedes menzなどで知られる田中喉笛さんが作曲・編曲を手がけられています。
佐々木:リード曲はハードコアなサウンドを本格的に手がけている田中喉笛さんにお願いしようということになりました。自分の名前(“李”/すもも)が入っているこのタイトル通り、自分の人生を特に表している1曲なので、田中さんにお願いして本当によかったなと思っています。
──「桃李成蹊」という言葉は私はお恥ずかしながら初めて知ったのですが、すごくいい言葉ですよね。
佐々木:故事成語で、すももや桃の木の下には何も言わなくても自然と人が集まり、そこに道ができていくように、誠実な人物のもとには自然と人が集まるという意味があるんです。「私もそういう人になりたい」と思いますし、憧れでもあります。だから、この曲は決意表明のような1曲になりました。
この曲の主人公は“すももの木”なんです。なかなか実らず、冬を耐え忍んでいる姿に、自分の辛かった時期を重ねています。枝分かれしていく様子に、人生のいろいろな分岐点を思い出したり。以前、枝が多ければ多いほど植物は強く立っていられると聞いたことがあって。たとえ1本折れても、またそこからつながっていくし、枯れたとしても、また伸びると信じて立っていられると。それにすごく共感するものがあって。
それこそ、私は自分の道に簡単に花を咲かせることができたわけではなくて、私もこれまで何度もくじけそうになりながら、それでも諦めずに立ってきました。いつか終わりは来るかもしれないけれど、その先に必ず残るものがあると思うんです。音楽も残るだろうし、自分の思いや夢が、また誰かにつながっていくこともある。そういうスケールの大きさを、この曲では歌っているんだと思います。
──「桃李成蹊」にある<ここまで来るだけでも果てしなく遠かった>という言葉も、とても印象的でした。
佐々木:本当に、その通りだなと思います。ただ花を咲かせるだけでもだめなんですよね。今も、ずっと悩んでいることではあるんですけど、うまく歌うことだけがすべてではないし、成功だけがすべてでもないし……失敗したことや、夢に破れたことも全部抱きしめながら、それでも自分を受け入れて生きていく。そういうことを歌えるようになったのは嬉しいです。
──ハードコアやパンクには“生き様”という言葉がよく使われますけど、まさにそういう曲だと感じます。
佐々木:本当に、ままならない人生というか。夢って、叶わないことのほうが多いと思うんです。でも、叶ったことと叶わなかったこと、その絶妙なバランスで成り立っている果樹園の中で、それでも生きていくという決意・覚悟を持って歌えるようになりました。
この曲を聴いてくださる方の中に、夢がある方はもちろん、今はまだ夢がないという方もいると思うんです。そういう方が聴いたときに、「それでもいい」と少しでも思ってもらえたら嬉しいですし、夢に破れた方も、夢がまだない方も、その先に時間は流れているから、とにかく自分の木を育て続けてほしいなって。そんなことを考えながら歌った曲です。
──<腐った夢が夢を救うまでは>という言葉が、まさにぐさりと刺さりました。
佐々木:私もあの部分がすごく好きです。一度挫折した夢が、また違う夢を持たせてくれるきっかけになることもあるんですよね。この歌詞は、初めて見たときに泣きました。「早く歌いたい」、と思いましたね。
──以前「詩をまく者」で<枯れない想い 何が実るんだろう鼓動は続いていく>と歌われていましたが、そこから今この「桃李成蹊」を歌うことにも、ひとつのステップを感じました。
佐々木:確かにそうですね。「詩をまく者」を歌ったころも“枯れない想い”はもちろんありましたが、以前の自分とはまた違う、一皮むけた自分になれたからこそ、今この曲を歌えているのだと思います。
歌手と声優、どちらも大切だから歌えた「オランジェット」
──先行配信第一弾として「まるでマトリョーシカ」がリリースされ、そこから5ヵ月連続でアルバム収録曲が届けられていきました。トリコ(ファンの呼称)の反応をどのように見ていましたか?
佐々木:エゴサーチしてめちゃくちゃ見ていました(笑)。反応は本当にさまざまでしたね。例えば、最初に「まるでマトリョーシカ」が配信されたときは、「りこちのこんな一面を知れるんだ」「こんな歌詞を歌うんだ」「佐々木李子のメタルはこういう感じなんだ」と驚いている方もいました。曲でしか知れない私の一面もあると思うので、驚いてくださる方もいれば、「やっぱり、りこちはこういう気持ちを秘めているよね、知ってたよ」と納得してくださる方もいて。皆さんが1曲1曲を楽しんでくださっているのが嬉しかったです。
──なかには「魂の麻辣湯」といったユニークな曲もあって。佐々木さんは何事もストイックに突き詰めている一方で、すごくチャーミングなところもあると思っていて。そういう一面も、このユニークな楽曲にも詰まっているのではないかと感じました。
佐々木:確かに、自分の好きなものを突き詰めて、究極の麻辣湯を探すという曲なので(笑)。ただ、歌詞にもある通り、<レシピ通り作ればいいわけじゃない>し、<ピッチ通り歌えばいいわけじゃない>。この曲も、自分の歌手人生と重ねながら歌える一曲なんです。遊び心があって、とんちきソングではあるんですけど(笑)、共感する部分もたくさん散りばめられていて、私もすごくお気に入りです。
私は結構、人に教わりたがりというか、すぐにレッスンを受けたくなってしまうタイプなんです。教えられたことがすべてだと思い込んでしまうところもあって。でも「魂の麻辣湯」では、最後に師匠が、“お前にゃもう教えることはない”。探したってない。本当は自分の心の中にあると言ってくれて。そこがすごく刺さりました。たとえ本場の味ではなくても、自分が「これだ」と思って魂を燃やしたものが本物なんだ、というところがすごく好きです。
──そう考えると、今回のアルバムは全曲燃えていますよね。遊び心がありつつ、すごく熱量のある曲が多い印象です。
佐々木:本当にそうですね。「レクイエムボンファイヤー」とか「カミガカリ」とかも。“憑依系シンガー”をテーマにした「カミガカリ」はライブで盛り上がる曲を作りたいねというところからはじまって。タオル曲にしたいと思っていたんです。
──タオル曲に! 爽やかな疾走感のある曲なので盛り上がりそうです。
佐々木:メロコアのスピード感も大切にしたかったので、ただ聴かせるだけではなく、沸かせるような歌にしたいと思っていたんです。自分なりの“神がかった佐々木李子”に憑依して歌いました。
──5曲目の「極超新星(ハイパーノヴァ)」もライブで盛り上がりそうな曲ですよね。ど頭からシンガロングで。
佐々木:初めてリリースイベントで歌ったときに、みんなが歌ってくれて感動しました。ここが私の宇宙だ!と思うくらい、みんなそれぞれが輝き合って、それが連鎖していくように感じてすごく嬉しかったですね。この曲は、自分がこういう存在になりたいという憧れを詰め込んだ曲でもあって。すごく強気な歌詞なんですけど、終わりを覚悟しているからこそ光を放つことができる。スーパーノヴァを凌駕するハイパーノヴァの領域まで行きたい、輝くぞ、という思いで歌いました。最後のフレーズの<本当は心が凍らないように燃えているに過ぎない>には、特に自分らしさが出ていると思います。ワンマンで歌ったときに、どんな景色やエネルギーが見えるのか、今から楽しみです。
──さらに少し戻りますが、3曲目「オランジェット」は、甘さとほろ苦さをあわせ持つお菓子のオランジェットのように、歌手としての佐々木さん、声優としての佐々木さん、その両方の表現が入っている曲ですね。
佐々木:この曲は、歌手と声優、どちらの味も楽しんでね、という曲なんです。二刀流でやっているからこそ歌えた曲だと思います。「歌手と声優、どちらの比重が大きいですか?」と聞かれることも多いんですけど、一生懸命考えても決められないくらい、どちらも大切なんです。アプローチは違っても、芯はひとつ通っていて、最終的にはつながっている。そういう思いを「オランジェット」に込めました。“ひとくちで二度おいしい”という部分は少しポップに、でも揺るがない思いも込めて歌っています。私自身、実際にお菓子のオランジェットが好きです(笑)。
原点を描いた「ひとひら」から、歩みを刻む「道」へ
──さきほど少し話題に上がった「ひとひら」は、佐々木さんが作詞・作曲を手がけています。
佐々木:上京したての頃にチラシ配りをしていたときの気持ちを思い出して作った曲です。当時の情景や、自分がどう感じていたのかを、ちゃんと思い出したことがなかった気がして。
というのも、自分の中では、少ししんどい時期というイメージが強かったんですよね。チラシ配りに向かうときに足取りが重くなったり、「この1枚に意味はあるのかな」と考え込んでしまったりすることもありました。でも、しっかり向き合ってみると、その時の自分がいなかったら、そこを乗り越えていなかったら、今は絶対にないと思って。だから、その時のチラシ配りの気持ちと、チラシ目線のようなものも少し入れながら歌詞を書きました。曲のリズム感も、少し重心を後ろに感じるようなものにしていて、当時の重い足取りを表しています。全体としても、少し暗さのある、ドリーミーなシューゲイザー的な質感を意識しました。
──「ひとひら」という言葉も素敵ですよね。
佐々木:嬉しいです。「ひとひら」って軽い印象のある言葉だと思うんですけど、その1枚の紙切れは、自分にとってものすごく重く、大切なものでした。ひらひらと揺れ動く心の中をメロディーラインにも織り交ぜています。当時を知っている方にも、知らない方にも、「こういう時期があったんだ」と伝わったら嬉しいです。
──これから歌手を目指す人や、今なにかを頑張っている人も勇気をもらえる曲だと思います。
佐々木:本当に小さな積み重ねって、その時は「これに意味があるのかな」と思ってしまうこともあると思うんです。でも、絶対に無駄ではないし、必ず積み重なっていく。たとえ失敗してしまったとしても、その経験は自分の中に残って息づいていくものだと思うので、一生懸命なにかを頑張っている人に届いてほしいです。
──ところで、この曲は一人称が「僕」になっていますよね。
佐々木:私、作詞作曲すると「僕」になりがちなんです。なぜなんでしょうね(笑)。でも、「僕」のほうが気持ちを込めやすいのかもしれません。自分で曲を作るときは、物語や主人公を一度頭の中で作ってから歌詞を書き始めることが多いんですけど、「ひとひら」は主人公のイメージが“僕”でした。チラシ目線でも書いているので、そのイメージもあって。(佐々木さんが作詞・作曲している)「君と僕の星」もそうでしたし、深層心理なのかもしれません。自分でも分析してみます(笑)。
──そして、その「ひとひら」からつながるのが、アルバム本編のラストナンバー「道」。今回のテーマに直結するロック・バラードです。
佐々木:この曲は、昔の自分と未来の自分が対話しているような、自分への手紙を読んでいるような気持ちで歌いました。自分の心の中を解放する曲もたくさんありますけど、「道」は語りかけるような曲なんです。自分の中にある覚悟を、改めて確認するような気持ちといいますか。これまでを一つひとつ噛みしめながら、また改めて一歩ずつ歩いていくような気持ちで歌いました。
──<もうさ建前やめな/本音が泣いてる>という歌詞も、すごい言葉だなと思いました。
佐々木:昔の自分に戻って言いたい言葉ですね。強がってしまったり、心の開き方がわからなかったりした自分に向けた言葉です。
──本編ラストの「道」でぎゅっと締めくくられたあと、ボーナストラックとして「てづくりのうた」が収録されています。佐々木さん自身が最初に作った曲だとか。
佐々木:2019年に初めて歌った曲です。もともとは誰に見せるでもなく、メモや日記に書いていた言葉があって。それを形にした曲でした。
実はその前の2017年頃から「作詞作曲してみない?」と言っていただいていたのですが、当時は見せる勇気がなくて、ずっとあたためてしまっていました。作詞作曲をしたことがなかったので、「自分にいい曲が作れるのかな」「名曲って作れるのかな」と怖くなってしまって。
でも、その悩んでいるところも歌にしてしまおうと思ったんです。周りのスタッフさんも優しくて、「どんな李子ちゃんの曲でも、どんとこい」と構えてくださっていたので、すごく緊張しながらも、ありのままを一度書いてみようと思って作りました。
──その時の貴重な曲が、今回こうして音源として聴けるのは嬉しいですね。
佐々木:これまではイベントでしか歌ったことがなかったんですけど、覚えてくださっている方が意外とたくさんいて。「また聴けたらいいな」「いつ音源になりますか」と言ってくださる方もいたんです。だから、満を持してというか。自分の人生の中で一番最初に作詞作曲した曲として、佐々木李子の手作り感満載の1曲を、ボーナストラックに入れました。
──歌詞は当時のままなんですか?
佐々木:はい。当時のままです。
──<人が生きていく道は>という言葉がありますが、ということは、当時から「道」という言葉が入っていたんですね。なんだか運命的というか。
佐々木:あ、確かに……。変わらないところはずっと変わらないんだなと思いました。その頃はかっこつけがちで、肩肘を張って作った曲もたくさんあったんです。
でも、やっぱり自分は自然に出てきた言葉を大切にしたい。そのほうが気持ちは伝わると思って、飾らずに歌詞を書きました。ライブで歌ったときは、間奏でみんなでクラップしたりして、一つになれる場所も作っています。
──まさに、これまでの歩みを象徴するような曲ですよね。このアルバムを作り終えた今、佐々木さんにはどのような景色が見えていますか?
佐々木:私にしか作れない景色を、みんなと一緒に見に行きたいと思っています。この前のアニサマで初めて佐々木李子として立った景色もすごくキラキラ輝いていました。でも、私じゃないと歌えない歌や、私じゃないと作れない景色を、これからもっと生み出していきたいです。もっと自由に表現したいですし、その景色を自分で作っていきたいと思っています。
「まだ未完成」5つのすももに込めた分岐点
──ジャケットのコンセプトについても伺いたいです。
佐々木:今回は、すももや枝で人生を表現しています。一筋縄ではいかない人生で、一見ぐちゃぐちゃに見える道も、しっかりひとつにつながっているといいますか。そこに描かれた5つのすももは、人生で出会った象徴的な分岐点を表しています。アルバムは10曲入りですが、あえてその半分の5つにすることで、まだ未完成で、途中の道を歩んでいる自分自身も表現できたかなと思っています。
──その5つの分岐点というのは、具体的に言葉にできるものなのでしょうか。
佐々木:たとえば、初めて夢を持ったときや、好きなものを見つけたときの“衝動”。いろいろな人や作品との“出会い”。それから“迷い”です。進学の際に、普通科の高校に行くか、音楽科のある学校に行くか悩んだ時期もありましたし、歌手と声優の狭間で悩んだこともありました。あとは“挫折”です。歌うのが怖くなってしまった時期もありましたし、いろいろな後悔もあります。まだまだ未熟なところもたくさんあって、人に迷惑をかけてしまったこともありました。
でも、そういうものを経て、自分を受け入れて、変わりたいと思えた“決意”もあります。その5つの要素を、このジャケットに込めました。
──では、次のアルバムではすももが1個、2個くらい増えているかもしれないですね……!
佐々木:ありえますね!(笑)。まだまだ人生は長いので、これからもいろいろなものを見つけて、自分でも実らせていきたいです。
──「桃李成蹊」のMVについても伺いたいです。枯れ木や、モノトーンになる瞬間もあり、いろいろな表情が描かれていました。
佐々木:歌詞に〈まるで冬木立のような今日〉という言葉がありますが、この曲には冬木立ちのイメージを重ねているんです。耐え忍ぶ時間というか。私自身も、うまくいかず、なかなか実らず、時間をかけながら、コツコツと栄養を蓄えてきた感覚があるんです。枯れそうな気持ちになるときもありましたが、それでも夢を持つことを忘れずに、つぼみを咲かせて。でも、そこからさらに一段階、自分で殻を破るのもすごく大変で……。
MVでは、薄い布やベールのようなものをかぶり、そこから抜け出そうともがくシーンがあります。色のないモノトーンの世界の中で、不安や葛藤を抱えながらも、それでも前へ進もうとする姿を表現しました。枝が印象的に映る場面は「道」にも重なるなって。また、映像のブレやぼやけた表現で、自分の悩んでいる部分も表してくださっています。その後、鮮やかなすももの色で、自分なりの花を開花させるシーンでは、解放されたような感覚があります。ままならぬ人生だけど、それがすももなんだと気づいたからこそ強くなれた。そういう段階や過程を、しっかり描きながら表現しました。
──ところで、「すもも」にしかり、佐々木さんには花や植物、自然の風景のような、みずみずしいモチーフがとても似合う印象があります。ご自身では、その理由をどのように感じていますか。
佐々木:確かに、自然の中にいるときの自分は、すごくナチュラルになれるというか、開放される感じがあります。もともとお花も好きで、実家も植物に囲まれた家だったんです。秋田出身なので、見渡せば山々がある環境でもありました。だから東京にいても、自然を感じたくなる瞬間は日常的にあります。毎月お花屋さんに行って、「今月はこの気持ちだから、この色のお花にしよう」と選んだり、観葉植物を育てたりもしています。
そう考えると、自然にちなんだモチーフは多いですね。「Windshifter」も風ですし、「Palette Days」や「Majestic Catastrophe」にも、空や色彩、風景の広がりが含まれていますし……。
──そうした佐々木さんならではの世界を、今度はステージでどう届けていくのかも楽しみです。今後「Animelo Summer Live 2026 -Messenger-」や「RI PATHOS LIVE in OSAKA/TOKYO」も控えています。これからへの意気込みを聞かせてください。
佐々木:とにかく、すべてにぶつけたいです。自分の想いも、覚悟も、夢も。このアルバムは音源だけでは完成しないものだと思っているので、ライブで直接、曲のメッセージを受け取っていただきたいなと。もちろん、音源も作り込んで、しっかり想いを込めていますが、人生と同じように、曲たちもライブを重ねることで熟成されていくと思うんです。直接一人ひとりの心に語りかけたり、ぶつけたりするように歌うので、ぜひライブに来ていただきたいです。
これまでを経て、これからの道にもいろいろなことがあると思います。それでも一歩一歩踏みしめて歩んでいくので、皆さんにも、この“李子道”を自分の人生に重ねながら、一緒に歩んでいただけたら嬉しいです。でも、ここがゴールではなくて、あくまで途中の道。これから先も、いろいろな分岐点を経ながら、自分自身をもっともっと深く構築していきたいと思います。
[文・逆井マリ]