「幻の絶品牡蠣?」有明海にだけ棲息する美味なカキ『スミノエガキ』とは
ごく一部の地域にしか生息していないレアなカキ「スミノエガキ」。知る人ぞ知る美味として美食家を虜にするカキです。
有明海の救世主カキ
九州西部にある大きな内湾・有明海。様々な海産物を育む海ですが、最も重要なものはやはり「海苔」でしょう。有明海の海苔生産量は非常に多く、数年前までは国産海苔の実に6割を占めるまでになっていました。
しかし近年、有明海の海苔生産にピンチが訪れています。ここ数年、有明海で「海苔の色落ち」と呼ばれる現象が続き、その市場価値が大きく下がってしまっているのです。
そこで救世主として注目されたのが「有明海のカキ」。海苔の色落ちは、原料であるノリと植物プランクトンが餌となる栄養塩を巡って競合し、十分な栄養が得られなくなっているのが原因であると考えられています。そこで、植物プランクトンを餌とするカキを増やすことでノリにいきわたる栄養塩の量を増やし、色落ちを解消しようという試みが行われているのです。
カキははじめ、別の海域のものが導入されましたが、有明海の特殊な環境下では思ったように増殖しませんでした。そこで同じ有明海のカキを使用したところ順調に増え、効果も期待できるようになってきたのだそうです。
幻のカキ「スミノエガキ」とは
さて、そんな「有明海のカキ」ですが、一般的に利用されているものには実は3種類います。最も有名で、他の海域でも一般的な存在であるマガキ(真牡蠣)の他に「シカメガキ」「スミノエガキ」の2種類が漁獲され、流通しているのです。
シカメガキは小型のカキで、国内ではあまり注目されていませんが。海外では「クマモトオイスター」と呼ばれて珍重されています。一方でもう一つのスミノエガキのほうは「セッカ」と呼ばれ、前海ものとしてブランド化されています。
スミノエガキは薄く長いシルエットが特徴的で、やや深いところに生息しています。大きく潮が引いたときに沖まで歩き、手でカキを摘み取るという方法で漁獲されています。
食べてみた
筆者は先日、有明海でスミノエガキを採取するチャンスに恵まれました。その日は大潮で干潮時は海底がはるか沖合まで露出するほど潮が引き、カキを採るにはもってこいだったのです。
漁業権がないことを確認し、採取したスミノエガキは大きさの割に厚みがなく、食べるところがあるかどうか不安でしたが、開いてみると予想以上に殻が薄く、可食部はサイズが有りました。
よく洗い生で啜ってみたところ(天然カキの生食は危険なのでおすすめしません)味は濃厚ながら後味に渋みや嫌味がなく、口中に甘みと爽やかな磯の香りが広がります。思った以上に味が良く「絶品」「カキ類中最高の味」と言われる理由も納得できました。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>