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「この本が生き残り戦略を教えてくれた」トップエンジニアたちが推薦! 三冊の“学びの羅針盤 ”

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「この本が生き残り戦略を教えてくれた」トップエンジニアたちが推薦! 三冊の“学びの羅針盤 ”

キャリアで壁にぶつかったとき、仕事でミスをしたとき、自分のスキルの伸び悩みを感じたとき……ふと手にした本や目に留まった一節が、新たな気付きを与えてくれることもある。

今回は広木大地さん、伊藤淳一さん、古川陽介さん、三人のトップエンジニアが「キャリアや仕事の悩みを解消するきっかけになった」と語る本を紹介しよう。

彼らはその一冊のどこに感銘を受け、どんな学びを得たのか。それぞれの視点から解説してもらった。

目次

広木大地「アーキテクチャ設計は、アートに近い領域だと気付かされた」伊藤淳一「エンジニアとして生き残る上で、大事な指針を教えてくれた」古川陽介「技術の細部にこそ宿る、面白さがあると知った」

広木大地「アーキテクチャ設計は、アートに近い領域だと気付かされた」

日本CTO協会の理事であり、『エンジニアリング組織論への招待』(技術評論社)の著者としても知られる広木大地さん。

彼が「テックリード時代にこの本があれば、もっとうまく立ち回れたのではないか」と語る一冊が、アーキテクチャ設計の実務を丁寧に解説した『Design It! -プログラマーのためのアーキテクティング入門』(オライリー・ジャパン)だ。

広木さんはかつて、大規模開発で頻発するチームの衝突や障害リスクに対し、その原因を「個人のエンジニアリングスキル」に求めていたという。しかし『Design It!』が説く「デザイン思考的プロセス」が、その視点を180度転換させた。

広木さん:注意深く開発チームやプロダクトマネジャーたちを観察してみると、組織全体がどうにもならない『ジレンマ』に陥っていることに気が付きました。機能の大きさとその影響範囲が大きくなる度に、プロセスが鈍重になり、そのせいでプロジェクトをより大きくせざるを得ない状態にあったのです。

まずは共感し理解するところから始めると、その問題の本質が見えてきます。このケースでは『開発段階における影響範囲のコントロールの難しさ』が、本来解くべき課題だと理解できました。

そして本質的な課題を見定めたことで、「障害影響範囲のコントロール」や「段階的なリリース」といった、本当に解決すべきビジネス要求が自ずと浮かび上がってきたという。

広木さん:これらの要求を一手にコントロールできる『DI(依存性注入)のアーキテクチャ』を設計し、システムに組み込むことにしました。

私自身がそのようなことを考えついたのは、単に技術的な知識を持っていたからではありません。アーキテクトとして、人々を観察し、共感し、解決策を探求するという『デザイン思考的プロセス』を取ることができたからだと考えています。

広木さん:本書は、ソフトウエアアーキテクチャ設計の本質を捉え、実践的な手法を提示してくれる良書です。この本で得た知識やノウハウを、今後のアーキテクチャ設計に活かしていきたいと考えています。

アーキテクチャ設計に携わる全ての人に、自信を持ってお勧めできる一冊です。「孤独な作業になりがち」広木大地がテックリード時代に知りたかった、アーキテクチャ設計の実践的手法とは?https://type.jp/et/feature/26761/

株式会社レクター代表取締役
一般社団法人日本CTO協会理事
広木大地さん(

@hiroki_daichi

1983年生まれ。筑波大学大学院を卒業後、2008年に新卒第1期として株式会社ミクシィに入社。同社のアーキテクトとして、技術戦略から組織構築などに携わる。同社メディア開発部長、開発部部長、サービス本部長執行役員を務めた後、2015年退社。現在は、株式会社レクターを創業し、技術と経営をつなぐ技術組織のアドバイザリーとして、多数の会社の経営支援を行っている。著書『エンジニアリング組織論への招待~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタング』が第6回ブクログ大賞・ビジネス書部門大賞、翔泳社ITエンジニアに読んでほしい技術書大賞2019・技術書大賞受賞。一般社団法人日本CTO協会理事。朝日新聞社社外CTO。

伊藤淳一「エンジニアとして生き残る上で、大事な指針を教えてくれた」

『プロを目指す人のためのRuby入門』(技術評論社)の著者、株式会社ソニックガーデンのプログラマー・伊藤淳一さん。

彼は「この業界でエンジニアとして生き残っていきたいと考えていた新人時代に、大事な指針を教えてくれた一冊」として、『MY JOB WENT TO INDIA』(オーム社)という書籍を紹介してくれた。

本書は、ソフトウエア開発者でありミュージシャンでもあるChad Fowlerのエッセイ集となっている。中でも「業界で名前を売ろう」というタイトルのエッセイは、「もしかすると、私がエンジニアとして生き残るために一番役に立った内容かもしれない」と、伊藤さんは言う。

伊藤さん:技術者として自分の腕を磨くのはとても大事です。しかし技術者として一生生きていくなら、特定の会社の中でしか役に立たないスキルよりも、社外でも通用するスキルを身につけた方が生存確率が上がります。

いや、別に有名でなくてもいいんです。例えばネットをその人の名前で検索したときに、その人が持っているスキルや人となりが事前にある程度分かった方が、採用する側もきっと安心できるはずです。

何かしらの形で自分の名前が業界内で認知されるような行動を取った方が、エンジニアとしての生存確率を高められる。その前提の下、伊藤さんは本書で紹介されている「業界内で名前を売るための具体的な施策」に心血を注いでいった。

伊藤さん:Chad Fowlerは本書の中で、ブログを書いたり、講演したりすることを勧めています。私が実際にブログを書き始めるのは本書を読んでから2〜3年経った後ですが、ブログは書かずとも、社内ではなく「業界内」で通用する技術者になるためにはどういった技術を習得すべきかを考えて行動していきました。

そして自分のブログを開設してからは、他の人に役立つ記事や人から面白いと思ってもらえそうな記事を執筆することを心掛けています。そのおかげか、私は徐々に日本のIT業界内での認知度を高めていくことができました。

伊藤さん:繰り返しになりますが、エンジニアとして技術力を磨くことは大事です。またエンジニアとして企業に勤めているなら、社内での評価も大事です。

しかしエンジニアとして長く生きていきたいのであれば、社内ではなく業界内での評価も大事になります。そのためには、意識的に自分で自分の名前を売っていく必要があります。

「業界内で名前を売ろう」というこのエッセイは、この業界でエンジニアとして生き残っていきたいと考えていた新人時代の私にとって、大事な指針を教えてくれました。コードを書かない管理職にはなりたくない、生涯プログラマー希望者のバイブル【ソニックガーデン・伊藤淳一】https://type.jp/et/feature/26948/

書籍『プロを目指す人のためのRuby入門』(技術評論社)著者
株式会社ソニックガーデン プログラマー / 顧問CTO
伊藤淳一さん(

@jnchito

1977年生まれ。SIer、外資系半導体メーカーの社内SEを経て、2012年ソニックガーデンに入社。保守性、拡張性の高いシンプルなコードを追求するプログラマであり、プログラミングスクール「フィヨルドブートキャンプ」でメンターも務める。将来の夢はプログラマーをみんなの憧れの職業にすること

古川陽介「技術の細部にこそ宿る、面白さがあると知った」

ニジボックスで開発組織をリードする古川陽介さんは、Google Chrome Advisory Boardや数社での技術顧問を務めるなど、界隈でその技術力を高く評価されているエンジニアだ。

彼は『ハイパフォーマンスブラウザネットワーキング』(オライリー・ジャパン)という書籍との出会いで「本当の意味での技術の面白さと出会った」と語る。

古川さん:私は本書を読んだことで「ブラウザがどう動いているのか」に俄然興味が湧きました。

ブラウザの仕組みは一見シンプルな構造のように思えます。ただ実際には、それぞれの技術が内包する構造は非常に複雑です。

例えば、HTTPは「TCP」というプロトコルの上に成り立ち、その下には「IP」やさらに下層の「データリンク層」や「物理層」があります。HTMLやCSSの描画処理では、単に内容を読み込んで画面に表示するだけでなく、「レンダリングエンジン」が各ステップで処理を割り込み、効率的に描画する工夫がされています。

こうした工夫の中でも、古川さんは特に通信の根幹をなす「TCP」の仕組みに強く惹かれたという。本書を読むと「特にTCPの接続にかかるコストがいかに大きく、なぜ接続を切らしてはダメなのかが分かる」と前置きした上で、こう語る。

古川さん:TCP接続が一度切れると、再接続の際に最初からやり直す必要があり、これまでの送受信パケットによる「ウィンドウサイズ」の計算も無駄になります。

HTTP/1.0の時代には、リクエストとレスポンスのやり取りのたびに接続を切断していたため、効率が悪かったことがよく分かります。接続を維持する戦略が重要であることは言うまでもありません。

さらに、複数のTCP接続を持つこと自体もコストが高いため、少ない接続数でリクエストを効率的に処理する方法が必要不可欠なのです。

古川さん:「技術の細部に隠された工夫」を知ることで、「技術の面白さ」がさらに深く感じられるようになりました。加えてこのような「原理原則の学び」は、パフォーマンスチューニングやデバッグを効率よく実行する際にとても有用です。

もちろんそれらを理解せずとも、「lighthouse」や「page speed insight」といったツールを使うことで、チューニングのヒントは得られます。

ただ、これらのツールが何を基準にチューニングのヒントを出しているのかは、本書で解説されている基礎を知ることでその一部を理解できる。その基礎知識があれば、より幅広い解決策を提供できるようになります。

一見当たり前に動いているシステムの裏側にある、先人たちの工夫と試行錯誤の歴史。その「細部」を知ることは、エンジニアにとって、日々の業務で向き合う技術への解像度を上げ、探究する喜びを再発見させてくれるはずだ。

表面的なテクニックより「基礎基本の重要性」に気付かされた一冊【Node.js 日本ユーザーグループ代表・古川陽介】https://type.jp/et/feature/27190/

株式会社ニジボックス
デベロップメント室 室長
古川陽介さん(

@yosuke_furukawa

複合機メーカーやゲーム会社を経て2016年にリクルートへ入社し、プロダクト開発室でアプリ基盤の改善や運用、各種開発支援ツールの開発、エンジニアの支援や育成までを行い、現在ニジボックスのデベロップメント室で室長を兼務。Node.js日本ユーザーグループの代表。

編集/今中康達(編集部)

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