「完全に予想を覆された」はどう英語に訳す? 【北村一真 月曜日の「英借文」】#16
北村一真さんによる英作文トレーニング! #16
英語学習者から大きな支持を得ている英語学者、北村一真さん。英文読解についての著作の多い北村さんですが、自身の英語力の基礎は、英作文によってつくられたと言います。
真の英会話力を効率的に身につけるには、「英借文」というコンセプトで英作文のトレーニングをするのがいちばん。数々の英語学習者を「上級」に導いてきた北村一真さんの指導で、毎週英借文のトレーニングをしてみましょう!
※「NHK出版 本がひらく」より
「英借文」のコンセプトについては第0回をお読みください。
トレーニング開始!
まずは【例題】の和文英訳問題に独力で挑戦してみて下さい。この時点では瞬時に訳す必要はなく、少し時間をかけても大丈夫です。ひとまず英文ができたら、[解答・解説]に進んで、ポイントとなる表現を確認しましょう。解説を一通り理解したら、【練習問題】に取り組んでみましょう。
【例題】以下の和文を英語に訳しましょう。
彼女が勝つとは思ってなかったが、完全に予想を覆された。
[解答・解説]
I didn’t think she would win, but she proved me completely wrong.
ポイントは後半にあります。「完全に予想を覆された」というのは、直訳だとMy expectations were completely overturned.といった感じになりそうです。もちろん、この英文が間違っているわけではありません。しかし、今回の日本語のようにある人物に対する予想や予測が、その人物の行動や振る舞いによって覆されたり、裏切られたりといったことを表現する場合、シンプルに人物prove me wrongという形を使うことができます。人物prove me wrongという表現は、「(その人物が)私が間違っているということを言葉で証明する」というよりも、「(その人物の行動が)結果として私が間違っているということの証明になる」という意味で使用されることが多く、結果、「予想を覆す、裏切る」の訳として最適です。5月に新しいローマ教皇レオ14世が選出された際、彼の兄がメディアのインタビューに答えるというものが何件か見られましたが、その中の1つのABCニュースで先代教皇のフランシスコとの違いについて問われ、次のように答えるシーンがありました。
…so I don’t know that there’ll be much difference. He might prove me wrong, but I don’t see there’ll be much of a break in the tradition of Pope Francis.
「だから、大きな違いはないんじゃないかと思います。もちろん、この予想は裏切られるかもしれませんが、でも、フランシスコ教皇の伝統から大きく外れることはないんじゃないかと」
このprove me wrongも教皇が兄に対し「そんなことはない」と間違いを指摘してくるというよりも、教皇の今後の動向が結果として兄の予想を裏切ることになる、というニュアンスであることが読み取れますね。なお、本例では予想を裏切った結果がよいものとなるか悪いものとなるかについては中立的と言えますが、この表現は【例題】のように「予想を裏切って想像以上の成果を出す」というポジティブなニュアンスで使われることが格段に多いという点についても知っておくとよいでしょう。言い換えると「いい意味で予想を裏切る」という言葉の英訳にも適しているというわけですね。
【練習問題】
彼のマネージャーとしての能力については懐疑的だったが、予想を覆された。
[解答]
I was skeptical about his abilities as a manager, but he proved me wrong.
I had doubts about his skills as a manager, but he proved me wrong.
ポイント:いずれの解答例も後半はprove me wrongを使った言い回しになっています。彼の能力が予想以上に高かったというニュアンスで解釈できるので、まさにprove me wrongが適しているケースですね。前半部について言うと、1つ目の解答例はbe skeptical about…という日本語の直訳に近い表現を、2つ目では「…に対して疑いを抱いていた」と解釈して、have doubts about…という言い回しを用いています。
この1週間、【例題】【練習問題】の日本語を見て瞬時に英語に訳せるまで練習してみましょう。
プロフィール
北村一真(きたむら・かずま)
1982年生れ。2010年慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大学受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、09年杏林大学外国語学部助教、15年より同大学准教授。著書『英文解体新書』『英文解体新書2』(ともに研究社)、『英語の読み方』『英語の読み方 リスニング篇』(ともに中公新書)、『英文読解を極める』(NHK出版新書)、『文法知識と読解力を高める上級英文解釈クイズ60』(左右社)。共著『上級英単語 LOGOPHILIA』(アスク)など。
ヘッダーデザイン:明石すみれ