「子どもの頭に10円ハゲが見つかった!」ストレスの心配よりも親が知っておくべき正しい知識とは[専門医が解説]
子どもの円形脱毛症について、なごみ皮ふ科院長・齊藤典充先生にインタビュー。第1回は、原因ときっかけについて。全3回。
【子どもの近視】とても気を配っているパパママが5割以上!〔アンケート結果〕ある日、子どもの頭を見てふと気づく、「あれ、髪の毛が一部抜けている……。これって円形脱毛症!?」 思いがけないその発見に、戸惑いや不安を感じる親御さんも多いことでしょう。大人がなるイメージが強い円形脱毛症ですが、患者の約4分の1は15歳未満であることを知っていますか。子どもにも多い円形脱毛症について、なごみ皮ふ科院長の齊藤典充先生に伺いました。
0歳から発症の可能性がある自己免疫疾患
我が子の円形脱毛に気がついたとき、「ストレスが原因?」「自分の接し方が悪かったのでは」「園や学校がつらいのかもしれない」「もっと早く気づくべきだった……」などと、親は動揺して自責しがちに。
「でも、心配しすぎないでください。まずはこの病気について知ることが第一歩です」と脱毛症の専門医である齊藤典充先生は話します。
「円形脱毛症は自己免疫疾患であり、ストレスが直接の原因ではありません。髪の毛が突然抜け広がっていくのですが、名称のとおりまるかったり、または帯状だったり、1ヵ所だけだったり複数だったりと、形や大きさにはさまざまなタイプがあります。
発症年齢は0歳から大人までと幅広く、円形脱毛症患者の約4分の1が15歳未満というデータもあります。うちの病院では小学生のお子さんが多いですが、2歳くらいのお子さんもいます。男女差はないと思っていただいていいと思います」(齊藤先生)
軽度であれば8割が1年以内に治る
円形脱毛症は痛みやかゆみもなく、全体的に髪の毛が薄くなるわけでもないので、子ども本人が自覚することができず、親によって発見されるケースが多々。例えば、親が子どもの髪をとかすとき、シャンプー時の抜け毛の量、散髪の際などです。
実際に脱毛箇所を見つけたときは、どうすればいいのでしょうか。
「まずは、皮膚科の受診をおすすめします。できれば、複数の診療科ではなく皮膚科のみを標榜(ひょうぼう)している医院であれば、より専門的な診療が受けられると思います。
もちろんすべての皮膚科医が脱毛症を得意としているわけではないですが、我々皮膚科医の中では珍しい病気ではないので、少なくとも軽い場合の対処法はみんな知っています。もし、より専門的な治療が必要となった場合でも、どの先生方も紹介先を持っているので安心してください」(齊藤先生)
病院を受診する目安は?
「見つけたらすぐ受診していただいていいと思います。円形脱毛症は、軽度であればおよそ8割が1年以内に自然に治るといわれているため、気持ちに余裕があったり、1ヵ所見つけてもそれ以上広がっていかなければ様子を見てもOK。ただし、脱毛箇所が複数ある、または増えていく場合は必ず受診してください」(齊藤先生)
なぜ、うちの子に? ──原因ときっかけ
円形脱毛症の主な原因として考えられている「自己免疫疾患」とは、どのような病気なのでしょうか。
「私たちの体には、菌やウイルスなど外部からの侵入物を攻撃し、体を守るという大事な免疫系機能が備わっています。その免疫系機能がなんらかの要因によって勘違いを起こし、自身の体の一部を異物とみなして攻撃してしまうことがあり、それを自己免疫疾患といいます。
円形脱毛症は、この自己免疫疾患のひとつです。本来自分の体を守る免疫系細胞のTリンパ球が誤って暴走し、毛根を異物としてとらえ攻撃してしまうために発症すると考えられています。
攻撃を受けた毛根は傷つき、健康な髪の毛なのに突然抜けてしまうのです。この場合、毛根は死んだわけではなく、眠った状態になります」(齊藤先生)
なぜ免疫系細胞が暴走してしまうのかはまだ明らかになっていませんが、いくつか考えられるきっかけがあるといいます。
ストレスに限らない原因とは?
●ウイルス感染
「インフルエンザや新型コロナウイルスに罹患後、円形脱毛症を発症するケースは少なくありません。ウイルスを攻撃する過程で免疫系機能に変調をきたし、発症の誘因となることが考えられます」(齊藤先生)
●アトピー素因
「アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎、気管支炎、アレルギー性鼻炎のいずれかを持っている人のこと。円形脱毛症患者の約半分がアトピー素因を持っており、なんらかの関連があるとされています。花粉症の時期にだけ円形脱毛症になる人もいます」(齊藤先生)
●遺伝的要素
「親子で発症する確率は10%ほどといわれています。10%は正直、微妙な数字です。遺伝的要素を持っていても必ずしも発症するわけではないことがわかるでしょう」(齊藤先生)
●ストレス
「ストレスは、自己免疫疾患や内分泌異常などのさまざまな疾患を誘因することもあります」(齊藤先生)
以上、考えられる主なきっかけについて挙げてもらいましたが、実際は「ほとんどの人は原因がわからない」という齊藤先生。円形脱毛症患者の中でも、上記のどれにも決めきれない、当てはまらないケースも多いということです。
円形脱毛症というとストレスが原因というイメージが強いですが、確かにストレスがきっかけとなって発症するケースもあります。
ただし、すべてがストレスによって引き起こされるわけではないことも、理解しておきたい大切な点です。原因はさまざまあり、ストレスはその中で考えられるひとつに過ぎません。
親の接し方や、日々の暮らしにストレスを感じて円形脱毛症になったとは限らないですし、だからこそ親には「自分のせいかも」と思いつめずに、適切に向き合うことが求められます。
2回目は、円形脱毛症のタイプと治療法について伺います。
取材・文/稲葉美映子
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●齊藤 典充(さいとう のりみつ)PROFILE
なごみ皮ふ科院長。医学博士。北里大学医学部卒業後、国立病院機構横浜医療センター皮膚科部長、横浜労災病院皮膚科部長を経て現職。専門は、皮膚血管炎や血行障害、脱毛症。