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【公民館がスゴいことになっていた!】沖縄「若狭公民館」子どもと大人たちが“アート“で生み出す新しい価値観とは? 

コクリコ

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」第3弾2施設めの「若狭公民館」前編(沖縄県那覇市)。子ども、若者、高齢者をつなぐ「アートな部活動」とは。同施設をライター・太田美由紀がルポ。

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沖縄・那覇市の公民館を紹介するこのシリーズ、2つ目にご紹介するのは若狭公民館です。「アート×社会教育」を軸にさまざまな分野のアーティストとの社会教育プログラムが立ち上がり、地域の人たちとのコラボレーションで新しい交流が生まれています。

子どもたちは普段あまり接することのないプロのアーティストの講座を受けることで新しい価値観と出会い、クリエイティブな活動を通してさまざま国にルーツを持つ多様な人たち、お兄さんお姉さんから高齢者まで、多世代の人たちとの触れ合いを体験することができます。

その効果とは何なのか。「アートな部活動」を中心に、子どもの育ちにとっての新しい公民館の可能性についてお伝えします。

クリエイティブな活動で人をつなぐ「アートな部活動」

若狭公民館の「アートな部活動」は、2020年夏にスタートした公民館主催の社会教育プログラム。アートによる地域コミュニティの再構築を目指した活動です。

人との接触がよくないこととされ、交流の場が激減していたコロナ禍に、それぞれが自分の好きなことに取り組み、一緒にワクワクすることで新しい関係性を生み出そうと模索が始まりました。現代アーティストの藤浩志(ふじ・ひろし)さんの「地域の部活動」という考え方を参考にしています。

スタートは「ダンボール部」「ポストポスト部」「ユーチュー部」の3つ。顧問は県内外のプロのアーティストです。子どもから大人まで幅広い世代の参加者が集まりました。

「ユーチュー部」の顧問は美術家で映画監督の藤井光(ふじい・ひかる)さん。在留外国人を含む地域の人たちが一緒に映像制作を学びながら、生活目線で撮影した街をYouTubeで発信しています。

若狭公民館の近隣は日本語学校に通う外国人留学生も多く住んでいて、一緒に活動することでお互いを知り、困ったときには助け合える関係性が生まれています(トップの写真参照)。

「ポストポスト部」の顧問は、インスタレーションやパフォーマンス、演劇などを中心に活動している平良亜弥(たいら・あや)さん。

公民館に設置したオリジナルのポストに投函されたもの(手紙での意見やアイデア、作品など)に対して、どんな変化が生み出せるかを部員で話し合います。

創意工夫を凝らして返事を考え、公民館の掲示板やウェブサイトで公開。高齢者をはじめインターネットでつながることが難しい人とも、アナログでつながることができました。

ポストポスト部。投函されるのは手紙をはじめ、イラスト、詩、作品などさまざま。  写真提供:若狭公民館

「ダンボール部」では、ダンボールを使ったステーショナリーブランド「rubodan(ルボダーン)」代表の儀間朝龍(ぎま・ともたつ)さんが顧問となり、地域の商店から廃ダンボールを集め、分解し、ノートやレターセット、ステッカーなどをつくります。

部員は創作活動や販売を通してサスティナブルな地域社会のあり方について考えています。

ダンボール部。地域で海岸清掃をしている地球ハートクラブの子どもたちとも連携し、地球環境について考えながら活動している。  写真提供:若狭公民館

また、2021年には、美術批評家の土屋誠一さんが顧問となり、「アート同好会」も立ち上がりました。

学校の美術や図工は苦手でも、アートに興味があれば大丈夫。小学校5年生以上を対象に、ポップカルチャーから現代アートの世界的な動向まで幅広くアートを読み解いています。

子どもが犠牲になった暴力団の抗争がきっかけ

前身は沖縄の現代アートを盛り上げた「前島アートセンター」

各地の公民館でも創作活動などの講座は行われていますが、さまざまな分野のプロのアーティストが講座に継続的に関わっている公民館は珍しいようです。

2006年から若狭公民館に勤務し、現在は館長を務めている宮城潤さんは、2000年代の沖縄アートシーンを牽引(けんいん)してきた「前島アートセンター」の初代理事長でもありました。

「前島アートセンター」があった前島三丁目は若狭公民館の徒歩圏内で、1990年に暴力団の抗争で高校生が銃弾の犠牲になった地域です。

「前島アートセンター」は、その事件をきっかけに廃(すた)れていく街を再び活性化すること、そして沖縄のアートシーンを盛り上げることを目指して活動していました。

まちの中のアート展「wanakio(ワナキオ)2002」の様子。okinawa(オキナワ)を並べ替えた造語で、沖縄を見つめ直し、地域と交流しながら新しい価値を作り上げていくという意味が込められている。  写真提供:宮城潤さん

「アーティストやミュージシャン、演劇人のほかにも、建築家、都市計画や街づくり関係の教育者など、社会に課題意識を持つ幅広い分野の人たちが出入りしていました。

夏休みには子どもを対象にワークショップもしていました。私も最初は作品を作っていましたが、だんだん場づくりや企画運営のほうがおもしろくなっていったんです」

生きづらさを抱える人たちが公民館に来ていないのはなぜか

前島アートセンターで活動を続けながら、アルバイトのような形で若狭公民館に関わり始めた当初、宮城さんはある違和感を感じていました。

「アートセンターには、生きづらそうにしていた人たちとの出会いが多くありました。

ギャラリーの外には昼間から酔いつぶれて寝ている人もいたし、保護者が帰ってくる夜遅い時間までカフェで軽食を食べている小学生がいるのも日常でした。

演劇やダンスの練習をしている高校生たちは、きっと学校の価値観に収まらないアウトローだった。でも、公民館に行ったら、そういう人と出会うことがなかった」

公民館を利用するのは、時間的にも経済的にもゆとりのある高齢者が多く、生活基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中で生きづらさを抱える人たち、子どもや若者たちも公民館では見られなかったのです。

「税金を投入した公的な施設である公民館に、生きづらい人たちが来ていないのはなぜなのか。生きづらさを抱える人、若い人が来られるような工夫や努力をなぜしないのか。そこに憤りを感じました。

アートセンターはほとんど持ち出しで活動していましたから、予算のある公民館の中にいる人が本気になればなんでもできるじゃないか、公民館をちゃんと機能させたいと思ったんです」

宮城さんは、学生のころにバイク事故で松葉杖生活を余儀なくされたとき、あることに気がつきハッとしたと言います。

「自分が松葉杖で生活していると、今まで気づかなかった松葉杖や車椅子の人に気づくようになりました。妻が妊娠してはじめて、世の中に妊婦さんってこんなにいたのか、と気づきました。

自分には見えていない世界があるということをわきまえながら、常に想像力を働かせるようにしていないと気づかないことがあるんだと思います」

若狭公民館では、館長の宮城さんが前島アートセンターでつちかったネットワークを使いながら、多文化共生、防災、子どもの居場所と体験活動、高齢者の居場所など一つひとつの取り組みをていねいに組み立て、発信にも力を入れています。

アートは価値観が更新され「新しい自分に出会う」体験ができる

「アートの良さは、必ずしも結果に焦点を当てないところです。取り組むプロセスにおいてさまざまな変化に柔軟に対応できるしなやかさと包摂(ほうせつ)性を備えています。さらに、生涯学習と深く関わっているのです」(宮城さん)

若狭公民館はNPO法人地域サポートわかさが2010年度から業務委託、2015年度から指定管理者となって運営。館長の宮城さん(写真右)はNPO法人の理事も務めている。  写真提供:若狭公民館

「生涯学習」の理念として、教育基本法第3条には次のように規定されています。

〈国民一人一人が自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。〉

「人によってとらえ方も変わると思いますが、私は、アートとは感性が揺さぶられ、価値観が更新され、新しい自分に出会う体験を与えてくれるものだととらえています。

公民館は、『生涯学習』の拠点です。アートに触れることで起こる体験は、生涯学習で起こることに近い。

異なる他者やものに出会い、価値観が揺さぶられるのは少し不安もありますが、それによって新しい自分に出会う体験をおもしろがることができるといいですよね」

若狭公民館がある地域は、琉球王国時代から中国を中心にアジアの商人や職人が行き交う国際色豊かな港町でしたが、第二次世界大戦後、住んでいた人は土地を接収されました。

その後、何もなくなった土地にあらゆる地域から多様な人たちが流れ込み、観光客も増え、今のような歓楽街になりました。

コミュニティで同じ価値観や文化が積み重なっていくだけでは、「こうあるべき」が強化されていきます。そのような地域では、しがらみや煩わしさが居心地の悪さにつながってしまうこともありますが、館長の宮城さんは、アートにより価値観が揺さぶられる場をつくることで、多様な人たちが共に生きていく地域を育むことができると考えています。

「アート(芸術)と文化は裏表のようなところがあります。公民館は地域のコミュニティを育む場所ですが、その前提として一人ひとり違う存在であることがなおざりにされてはならない。

一人ひとり違う存在が集まってコミュニティ=文化をつくっていく。そこを大事にしています」

子どもたちは、既成の価値観の中に合うように生きていくのではなく、価値観を更新して社会をつくる存在です。

学校では出会えないさまざまな年代の多様な文化を持つ人たちとの交流拠点として、地域に新しい価値を生み出す創造拠点として、あなたの街の公民館を見直してみませんか。

第4回は、引き続き「若狭公民館」のお話です。生活圏に公民館がない地区のニーズに応え、パラソル一つから生まれた「パーラー公民館」をご紹介します。

取材・文/太田美由紀

子どもが「自ら学ぶ力」を存分に発揮できる学校とは? 先進的全国の学校を取材した、教育学者・汐見稔幸(東京大学名誉教授)とライター太田美由紀の共著『学校とは何か 子どもの学びにとって一番大切なこと』(河出書房新書)

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