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野木萌葱(作)×シライケイタ(演出)が語る KAAT『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』~新鮮味あふれるハードボイルドなタッグ

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野木萌葱(左)とシライケイタ

2021年度からKAAT神奈川芸術劇場の新芸術監督に就任した長塚圭史。その采配の特色の一つは、シーズン制の導入だ。1年目の2021年8月~2022年3月、テーマは「冒(ぼう)」だそう。そのオープニングを飾る『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび〜しんそう、さんにんきちさ。)は、歌舞伎の人気狂言『三人吉三』をモチーフにした現代劇だ。劇作は、東京裁判、大逆事件、グリコ森永事件などの歴史や事件を題材に大胆な想像力と緻密な筆致で脚本を紡ぐパラドックス定数、野木萌葱。演出は、はぐれ者の曲げられない生き様を描く劇団温泉ドラゴン、シライケイタ。なんだか刺激的なタッグが実現した。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。」トレイラー ロングver.


KAAT初登場の二人で、「冒」の幕開け

 始まりは野木のもとにあった芸術監督・長塚から連絡。

「喫茶店で長塚さんとお会いしまして、“KAATで作品を書いていただけませんか”とおっしゃられたときは、本当(マジ)かな?と驚きまして。驚きのあまり、何をお話しさせていただいたかは思い出せないんです。私も別の公演の真っただ中だったのもあり、その場はごにょごにょとお茶を濁すようなお返事をしてしまいました。『三人吉三』という提案は、長塚さんからいただきました。実は私、歌舞伎に興味がなかったので、『三人吉三』も初めて読んだのですが、“時の流れ”を印象的に感じました」

 シライに連絡があったのは、その数カ月後のこと。

「たぶん、2020年始めだったと思います。KAATの制作担当の方から“野木さんが歌舞伎の『三人吉三』を題材に書き下ろしてくださるんですけど、演出をお願いできませんか”と連絡をいただいたんです。その後で、長塚さんやKAATの制作陣の皆さんとやはり喫茶店でお会いしていろいろお話しさせていただきました。その時が長塚さんとの初めての出会いでした。そこでは、どんな思いで演劇をつくってきたか、どんなことをやってきたかをお話しさせていただきました。長塚さんと僕の相性を見る時間だったのでしょう(笑)、その後に正式にやりましょうということになりました」

 二人は、2020年2月、韓国で行われた第9回現代日本戯曲朗読公演2020(現代日本戯曲リーディング)で一緒になっていた。野木は芸術と政治の不協和音に立ち向かう世界最高レベルのオーケストラ指揮者と団員たちの苦悩を描いた『Das Orchester』を、シライはそれぞれの事情を抱えて「オレオレ詐欺」を始めた4人の男たちの愛を求め、運命に翻弄される姿を描いた『BIRTH』を引っさげて。

野木萌葱

シライ あの時はまだ打診の段階だったので、話したい気持ちもありましたが、韓国でお会いしてももちろん押さえていました(笑)。

野木 私、韓国に『三人吉三』の本を持っていったのを覚えています。そして韓国で初めてシライさんの作品を拝見したんです。

シライ ありがとうございます。僕も野木さんの作品は数作しか見ていません。ただ言葉に無駄がない戯曲を書かれる方だという印象は持っていました。その点は、同世代の劇作家とは一線を画しているように思います。野木さんは、戯曲を書くときに、登場人物に何を語らせたい、自分の思いを誰かに投影したい、とか考えるのではなく、とにかく人物の言葉に耳を澄ませるのだそうです。

野木 歴史や事件に、関わってしまった人、関わらざるを得なくなった人たちの言葉に耳を澄ますようにしているんです。私が戯曲を書く原動力は、「わからんなあ」ということ。それは題材に惹かれていることの裏返しでもあるんですけど、今回も『三人吉三』そのものに縛られないようにと思って書いています。そして先ほど申し上げた“時間”を感じ、登場する3人の若きアウトローたちからどんな言葉が発せられるかに耳を傾けていました。

シライケイタ

全てを丸呑みにするような街で躍動する悪党たち

 河竹黙阿弥による『三人吉三』は、悪事を重ねて生きていく和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三という3人が、節分の晩に出会い、盗まれた名刀庚申丸と百両をめぐって、糸がからまるように引き寄せられていく因果応報の物語。

 そして野木が書いた『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』もまた、因果がめぐる物語。時は現代のようないつか。舞台は“湊町・横濱”にある鯨楼という古びたホテル。悪食な鯨のようなホテルには、ひと癖ふた癖、いや三癖もありそうな人間たちが集まってくる。主人は人形師、客を迎えるのは人形(ひとがた)というのも不可思議だ。ヤクザと裏でつながっている警察の柄沢正次(渡辺哲)、街を仕切る大物ヤクザの弁財三郎(山本亨)、小さな組織の組長である矢部野光男(ラサール石井)。そして彼らの写し鏡のような子どもたち、若手の警官でありながらヤクザに取引を求める柄沢純(玉城裕規)、麻薬取引で小金を稼ぐ弁財瞳(岡本玲)、瞳の手下を装って何かを企らむ矢部野晶(森優作)。親たちの腐れ縁の隙間で行方が分からなくなった5億円を巡って、物語が動き始める気配がする――

野木萌葱

シライ 『三人吉三』の物語を追いかけると迷路にハマってしまいます。野木さんのオリジナルの物語です。人生に迷って、生きる場所を、生き方を探している人たちの物語。そんな人間たちが鯨楼という場所の磁場に惹かれるように集まり、それぞれが言葉を変えて苦悩を語っていく。

野木 『三人吉三』は若きアウトロー3人の物語。『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』では親世代も悪いやつらの三人組。そんな設定が生まれたのは、やはり“時間”でしょうね。時間が親子という形になったのだと思います。私は横浜で生まれ育ちました。私が幼いころは横浜は怖い街だった。特にこのKAATのあるあたりは。赤レンガ倉庫に商業施設が入る前、まだ一部を倉庫として使っていたころ、子どもだった私は探検に出たのですが、港湾労働者の方に怒鳴られて逃げ出したこともありました。私にとっての横浜は猥雑で、何でもあったよ、何でもできたよ、すべて丸呑みするよという街でした。それがすっかり綺麗に整備されて、おしゃれになって。この物語を書くときに、特に意識したわけではありませんが、そういう個人的な思いが自然に投影されているかもしれませんね。

俳優が輝いている芝居にしたい

シライケイタ

 演出のシライに、「どのようにでも料理してください」と野木。そんな野木に「料理をしようなんて思っていません。野木さんの描いた戯曲から立ち上がってくるイメージを、僕というフィルターを通して描くだけです。直感を大事に」と答えるシライ。

 そして最後にこう結んだ。

「これはいろんなところでしゃべっているんですけど、今、日本の演劇界から看板俳優という言葉が消えてしまった。この話を僕が教えている大学の学生にすると、看板俳優って何ですか?と聞かれます。もう言葉を知らないんです。僕の好きな演劇からすると、とても悲しい状況。かつては劇団の公演でも、劇作家、演出家の名前が立ちつつも、看板俳優という存在も際立っていて、その人の振る舞いを見にお客様は来ていた。それを良い悪いと言うつもりはないけれど、僕が見せたいのは、俳優が輝いている芝居。この作品のキャスティングをするときに、そこは非常に意識しました。俳優が面白かったと思われる作品にしたい。役者さんを見にきたと堂々と言える芝居に」

取材・文:いまいこういち

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