放デイ選びに失敗!?運動が苦手な自閉症娘の放課後等デイサービス探し。利用の2つのポイントは【読者体験談】
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
DCD(発達性協調運動症)娘は、走るのが遅いことをからかわれ学校を休みたがるように…
現在9歳の娘は、3歳の時にASD(自閉スペクトラム症)とDCD(発達性協調運動症)と診断を受けました。DCD(発達性協調運動症)については、「この子の場合、身体的な機能の問題というより、経験不足による不器用さ」だと主治医から説明を受けました。
幼児期から外遊びを嫌がる傾向が強く、体を動かす機会が少なかった娘。就学前までは主治医のいる病院内で粗大運動を中心に作業療法を受け、年長の終わりに作業療法は終了となりました(通院先の作業療法は未就学児のみ対象でした)。
しかし就学後、体育の時に走るのが遅いことをからかわれてからは学校を休みたがり、「みんなの声がうるさいから」と体育を見学するようになってしまいました。私は静かな環境で運動の経験を積んだ方が良いのかもしれないと思い、運動療育の放課後等デイサービスに通うことにしたのです。
そんなわが家が2つの事業所を経験して感じたエピソードをご紹介します。
個々に応じたプログラムとは?体験の時と支援の内容が違って……
初めに通った放課後等デイサービスでは、体験時の話と実際に通い出してからの「違い」を感じました。
体験の時は娘の安心材料であるぬいぐるみの持参が可能であること、独自の能力テストによって娘の発達段階をはかりそれに応じたプログラムを提案され、本人も「通いたい」とのことで通所を決めました。ですが、実際にはぬいぐるみの持参は禁止され、毎回似たようなプログラム……。娘は飽きはじめてしまい、私も契約時に示された個々に応じたプログラムを踏まえた支援はしてもらえていないのでは?と疑問を抱くようになりました。
スタッフの方に「娘が飽きはじめている」と伝えたものの「教具が娘さんの体のサイズに合っていないから」との返答。この事業所は児童発達支援と併設されているせいか、小学生の娘の身長に対してトランポリンやバランスボールが小さく、教具や療育内容が娘に合っていないようでした。また体験時の話と支援内容の違いを伝えても「うちにはうちのやり方がある」の一点張り……もやもやが募りました。
この事業所については、対象となるお子さんの幅が狭く、それに娘があっていなかったのだろうと思います。
そんな時、空き待ちしていた別の放課後等デイサービスから入室可能との連絡がきたため、娘はそちらへも通うことになったのです。
ステップアップしていった個別トレーニングで、ついにDCD(発達性協調運動症)の診断が外れた!
新しい事業所は、それまでとは全く異なりました。短期目標計画の面談は書面や電話対応でも可能などフレキシブルで保護者の都合に合わせてもらえました。また、臨床心理士さんや作業療法士さんが娘の発達段階を見極めた療育内容を考えてくれました。
体育を想定した跳び箱や鉄棒、ボール投げ、縄跳びを個別でトレーニングをしていただきました。成長が見られるようになると個別ではできない集団でのドッチボールやサッカーの練習をするために少人数でのトレーニングを提案されました。
本人が集団に慣れるペースを考慮し、同じ時間枠で個別トレーニングをしていたお子さんと指導員さんとのペア同士でドッチボールをする時間を設けてもらい、個別から集団への移行をゆっくり進めていただきました。跳び箱や縄跳びができるようになると、娘は学校の体育も嫌がらずに参加できるようになりました。そしてついにはDCD(発達性協調運動症)の診断がなくなったのです。
そのほかにも面談では不安に感じていることを否定せずに傾聴してくれ、「他害や多動といった分かりやすい問題行動がないおとなしい子は困り事が分かりにくく、支援が受けにくい傾向があります。学校や家庭での様子をなんでも教えてください」と言っていただけ、ホッとしたのを覚えています。
経験して思った、わが家の放課後等デイサービスを利用のポイント
事業所が違うだけで、ここまで対応が違うとは思いませんでした。このような経験をして放課後等デイサービスに通う際に気をつけておけばよかったと思ったことは2つあります。
1、通所時に子どもの気持ちが切り替わる場所かチェックする
特性にあった療育内容はもちろん大事ですが、時にははっきりした理由が本人にも分からずに嫌がる時もあります。相性がいい指導員さん、好きなおもちゃや本、レクリエーションなどがあり、子ども自身がデイに通うことを楽しめているか、また通所時に前向きな気持ちに切り替わるような場所であるかは、見極めのポイントの一つになるのかなと思いました。
2、疑問を感じたら無理に通い続けない
子どもが通いたいと言っても事業所の対応に疑問を感じたら、無理に通い続ける必要はないと感じました。もちろん事業所との話し合いなどで疑問を解決できることが一番良いのですが、不信感を感じているところに通い続けていると保護者のストレスも溜まってしまいます。
今も楽しく放課後等デイサービスに通っている娘。これからも社会とつながりをもちながら、楽しくのびのびと成長してもらえればと思っています。
イラスト/keiko
※エピソード参考者のお名前はご希望により非公開とさせていただきます。
(監修:新美先生より)
運動療育系の放課後等デイサービス探しについてのエピソードを教えていただきありがとうございます。
DCD(発達性協調運動症)というのは、目から入る情報、触覚や自分の体の部分の位置や動き、力の入れ具合を感じる感覚などの情報を統合し、目的に合わせて対応、修正しながら体を動かす「協調運動」がスムーズにいかず、体の動かし方が極端に不器用になる発達障害の一つです。ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)などのほかの発達障害に合併することも多いです。
ASD(自閉スペクトラム症)にDCD(発達性協調運動症)が合併すると、慎重さや、興味の偏りと相まって、体を動かす遊びに興味を示さなかったり、怖がったりするために、体を動かすことの経験不足も重なり、さらに運動が苦手になるという悪循環が起きやすいです。特に学校の体育の一斉授業では、活動のテンポが早かったり、集団の指示が分かりづらかったり、他者におくれを取ってコンプレックスが高まったりしてとても苦痛に感じやすいでしょう。
病院などの作業療法といったリハビリで、本人の発達段階に応じて個別療育が受けられる機会があるとよいですが、枠などの制限があることはどこの地域でも多いです。放課後等デイサービスの中には「運動療育」「個別療育」をウリにしているところもあります。発達特性に理解のある事業所で、個別~少人数で運動療育を行うことで、本人のペースで体を動かす経験を積んで、楽しいと感じたり、自信をつけたりできるのは理想です。
ただ、注意したいこともあります。放課後等デイサービスは学校が終わってから、または子どもにとって貴重なお休みに行く場所です。平日の日中、学校生活で十分疲れているところに、苦手に感じている運動の活動を行うのが本人の負担にならないかということです。このため訓練意識の強いところや、発達特性・本人の意思に無頓着なところはNGだと思います。
大切なのは、本人がそれほどの負担なく、楽しんで通えるところです。記事にもあったように、通ってみて、疑問に感じることがあり、話し合っても解決しなければ、別のところを探す(ほかのところが見つからなくても、いったんやめる)という決断もとても大事だと思います。娘さんが大事にしたいぬいぐるみを、初めの見学では持っていけるといったのに、実際には持参を禁じられたというエピソードだけでも、疑問に感じるのは十分だったと思います。別のよいところを見つけられてよかったですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。