“音”が怖すぎて映画館で観ないとヤバい!集合住宅の深刻問題を最恐ホラーに仕立てた『層間騒音』
「層間騒音」って何?
「どこかで誰かが騒いでいるのかな……」なんてスルーしていたノイズ、日常生活で気に留めないようにしてきた雑音に、もっともイヤな形で“意味”や“理由”を付与してくれる韓国ホラー映画『層間騒音』が、10月10日(金)より全国公開となる。
タイトルの『層間騒音(そうかんそうおん)』は実際に韓国で使われている言葉だそうで、原題の『노이즈』はズバリ「ノイズ」と読む。イヤホン等の機能説明なんかでも使われる言葉なので馴染み深く、しかしエンタメ作品のタイトルとして多用されがちなので、四字熟語的な邦題はインパクト的には正解だろう(初見では“眉間”と読んでしまいそうだが)。
Jホラーの名作『仄暗い水の底から』(2002年)を引き合いに出されるとおり、本作は集合住宅で起こる恐怖を描いている。つまり隣人および上階/下階でトラブルの原因になりがちな生活音をテーマにしているのだが、物語の軸となるのは“音”――日常に潜む不快な騒音――が引き起こす、社会的・心理的な軋轢だ。
妹の失踪と“聴こえない騒音”の関係とは
聴覚障がいを持つソ・ジュヨンはある日、妹のジュヒが住んでいた団地から突然失踪したと知らされる。2人は以前一緒に暮らしていたが、ジュヒは騒音が聞こえると言い始め、ジュヨンには補聴器を付けてもその騒音が聞こえず、食い違いから喧嘩になったきり会っていなかった。
ジュヨンがひさしぶりにジュヒの部屋を訪れると、天井にはびっしりと防音シートが敷き詰められていた。直後、尋ねてきた下階の住人に「夜は静かにしてもらえますか、これ以上うるさくしたらその口を裂く」と脅されるジュヨン。しかし、ジュヒが失踪した後の部屋には誰も居なかったはずだ。
妹が見つかるまで部屋に泊まることにしたジュヨンだったが、補聴器を介して奇妙な音が聞こえ始める。やがて音だけでなく何かの存在も感じるようになり……これらは妹の失踪に関係しているのか、それとも――。
日常に潜む“音”の暴力的な恐怖
本作の裏主人公とも言えるのが、立体的かつテクスチャーをコロコロと変える“音”そのものだ。それは注意深く聴けば分かるといった程度のものではなく、終始映画の中心に居座り続ける。聴覚障がいを持つ主人公の視点で語られることもあって、補聴器の有無や聴者とのギャップなどによっても”音の幅”が上下左右に膨らんだり縮んだり、止まったり現れたりする。
妹ジュヒが苦しんだ騒音の正体はいったい何なのか。ジュヨンが妹の行方を探す過程で、下階の住人の異常性や団地の地下室の謎、恐ろしい幻覚(悪夢?)、そして音声認識アプリだけが反応する“聴こえない声”や貞子みのある人影などなど、スリラー/ホラー要素がじわじわ充電されていき、フィジカルに胸を圧迫する。
そして、歯ぎしりのような“キリキリキリ……”という音、骨鳴りのような”カキコキコキ……”という音、頭頂部にまでツーンと響く耳鳴り音などなど生理的嫌悪を煽りまくるノイズのオンパレードによって、層間云々を超えたストレスと恐怖を植え付けてくる。
韓国の観客が共感した騒音問題のリアリティ
Netflixの『84m²』も同じくアパートの騒音問題をモチーフにした作品だったが、韓国における“層間騒音”は日常的なテーマであり、若年層ほど敏感だと言われている。実際、本作の観客統計では20代の観客が最も多かったそうで、SNS上では「まるで自分の部屋の話のようだった」「騒音が暴力になる瞬間を初めて見た」といった声も寄せられているという。
韓国では集合住宅での騒音トラブルが暴力事件に発展するなど深刻な社会問題となっており、その背景には約98%の集合住宅が振動の伝わりやすい「壁式構造」で建てられていることがある。本作でも、ある理由から騒音問題をスルーしようとする住民たちが描かれるが、これは”持たざる者”が直面する社会的な無関心や排除のメタファーなのかもしれない。
劇場鑑賞がむしろ安心? あまりにも不快な音と恐ろしい画に要注意
本作は“音”というごく日常的な現象を通じて、社会の沈黙、孤立、そして見えない暴力を描き出す。……と堅苦しく締めたいところだが、物語終盤では疑心暗鬼が極限にまで達し、かつ廃墟侵入系動画から憑依~超常系ホラーまでごった煮状態となる本作は、最後の最後まで本気で怖い映画であることをお伝えしておきたい。
もし「配信されてから観よ~」なんて考えている方がいたら、自宅でヘッドホン鑑賞なんてした日には些細な物音ひとつで失禁してしまうかもしれないので要注意。ということで、凝りに凝った激怖サウンドを爆音で浴びせられつつ、でも周囲に同じ境遇の観客がたくさんいるし……という安心感も得られる映画館での鑑賞を、わりと本気でおすすめする。
『層間騒音』は10月10日(金)より全国公開