満を持してG1クライマックス参戦を果たしたAEWの大器、”竹下幸之介”に刮目せよ!
”ジ・アルファ=比類なき才能を持った男”のキャッチフレーズで、ファミリーのドン・キャラスと共に入場する竹下幸之介(写真)。 – 2024年5月22日(現地時間)カリフォルニア州ベーカーズフィールド メカニクスバンク・アリーナ –
プロレスファンにとって”夏の風物詩”といえば、新日本プロレスが毎年7月から8月にかけて開催する”G1クライマックス”であることに、もはや異論をさし挟む方はいないことだろう(以下、新日本、G1)。選ばれたトップレスラーがいくつかのブロックに分かれ、総当たり戦形式で勝ち点を競い合い、やがて選ばれたファイナリスト同士がその年の頂点を賭けて闘う由緒あるシリーズイベントだ。今年で通算34回目数えるそのG1に、AEW所属選手として初参戦を果たした日本人がいる。それが竹下幸之介、その人だ。
竹下がデビューから所属していたのはDDTという団体であり、かつてのケニー・オメガ、あるいは飯伏幸太が在籍していたことでも知られる。奇しくもこの両者ともがG1での優勝を果たしており、特にケニーは外国人参加選手による初参加にして初優勝という快挙を成し遂げたことでも知られる。
といってDDTは、新日本に匹敵する規模の団体ではなく、どちらかと言えばマイナー、プロレス用語的に言えば”インディー”として認知されるのが一般的だ。本格的なレスリングスタイルというよりはむしろ、リング上でのコミカルなパフォーマンスなどを売りにした、ショー的要素をふんだんに取り入れた試合が多い。所属レスラーによる試合の他にも、芸能人のLilicoがレスラーとしてリングに上がったり、山里亮太による”肛門爆破”イベントを行うなど、いわば”なんでもありなエンタメ系プロレス団体”というジャンルと考えていいだろう。
そんなDDTでレスラーとしての実績を積んだ竹下は2022年5月、AEWへの移籍を果たす。だが、当初は日本人離れした体格がゆえに「大柄のジャパニーズレスラー」として負け役の立場に甘んじる、いわば前座の盛り上げ役としての試合が続く。同年11月にはゲスト参戦の扱いから正式にAEWの所属選手とはなったものの、相変わらず団体のプッシュを受けて大舞台に抜擢されるといったようなことはなかった。
だが、これがアメリカンプロレス、すなわちアメプロのアメプロたる所以だろうか。
それまでの試合の経緯とは何の脈絡もなく、とあるドラマパートのストーリーに絡んだ瞬間から、竹下のスター街道は音を立ててその加速度を増していく。そのパートは、バックステージで失意のうちに日本に帰国するべきか本気で悩んでいる竹下のもとへ一人の男が現れ、名刺を渡して去るという、映像的にはちっとも冴えない実に取るに立らないシーンではあった。だが、この名刺を渡した男=ドン・キャラスによって竹下は、スターダムへの階段を、一気に押し上げられるきっかけを与えられることになる。
ドン・キャラスも元はレスラーだったのだが、現在はセコンドの立場で選手の試合に帯同する、いわゆる”悪徳マネージャー”的立ち位置の人物だ。それまで行動を共にしていたケニー・オメガとの間に不協和音が生じて敵対関係となった際に、新たに目を付けたのが竹下というわけだ。幾度かの懐柔シーンが放送された後、正式にキャラスをセコンドにつけた竹下は、ケニーに敵対するヒールの役割を得ることで、水を得た魚の如く番組のメインストリームへと徐々に踊り出していく。
ケニーが出場する試合に幾度も乱入して勝利を妨害するなどといったヒットマンキャラを確立させた後、遂に因縁の決着戦として組まれた2023年9月のPPV大会での試合において、観客を大いに魅了する名勝負を繰り広げた上で、見事ケニーを倒してスリーカウントを奪ってみせたのだ。その後も竹下は、キャラス率いる”ドン・キャラス・ファミリー”において、「類稀なき才能を持った男」の意味を持つ”ジ・アルファ”の称号を引っ提げ、前述したジョン・モクスリーや新日本からAEWへと移籍したウィル・オスプレイとも、PPVでのシングルマッチをブッキングされるまでになった。今現在の竹下は、もはやAEWのシーンを語るのに欠かせない存在へと上り詰めているのである。
そんな竹下が、今年5月に日本武道館で開催され、メインイベンターを務めた能登地震復興チャリティー大会「ALL TOGETHER」に引き続き、新日本のG1クライマックスに初参戦を果たす。しかも開幕戦は竹下の地元大阪にて、新日本内の人気ユニットであるロス・インゴ・ベルナブレス・デ・ハポンで売り出し中の若手の筆頭蕪、辻陽太との一戦が、いきなり組まれるという猛プッシュぶりなのだ。「海外で活躍する日本人レスラー」という、一種の顔見世凱旋といったお祭り的雰囲気などではなく、AEWが送り込んだ外敵として、新日本が誇るトップレスラー達と堂々渡り合うであろう竹下幸之介のG1での一挙手一投足から、断じてこの夏は目を離してはならないのである。
岩下 英幸
(いわした・ひでゆき)
AEWインフルエンサー。ゲームクリエイター。1970年、千葉県生まれ。幼い頃からゲームセンターやファミコンに親しみ、それが高じてゲーム業界入り。プロレスを題材に開発した「バーチャル・プロレスリング」シリーズが国内外で高い評価を獲得し、米ゲームエキスポ「E3」では、格闘ゲーム部門の最優秀賞を2年連続で受賞する快挙を達成。現在、奥深いプロレス知識をもとにAEWにまつわる執筆活動中。最新作は2023年製作の「AEW : FIGHT FOREVER」。