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東京都市大学理工学部 機械工学科の西部光一准教授および機械システム工学科の関口和真准教授らと東急建設株式会社は、天井効果を利用することで、建築物の天井裏やピットなどの狭所空間において従来型ドローンよりも安定かつ長時間飛行が可能な「天井吸着移動型ドローン」を開発した

これまで、作業員のアクセスが困難な建築物の天井裏やピットなどの狭所空間では、ドローン近傍の上下に存在する壁面による天井効果や地面効果など、壁面とプロペラ気流の干渉によって安定した飛行が難しいことから、需要に反して狭所空間でのドローン利用が活発とは言い難い状況だったという。

限定的ながら狭所空間向けとして実用化されている手のひらサイズの「マイクロドローン」では、ペイロードが小さくバッテリー容量が不足しているため、作業員の代替として十分な調査・検査時間を確保できない問題を抱えている。

今回、この問題を解決するため、これまではドローンの安全な飛行を妨げるものと見なされていた天井効果を積極的に利用する「天井吸着移動型ドローン」を開発し、これにより、従来よりも30％長い連続飛行時間の確保に成功したという。さらに、天井にプロペラが近接する際にドローン近傍の気流が吹き上がる現象を利用して、上下壁に囲まれた狭所空間での安定飛行と気流乱れの抑制を実現した。

今後は、同研究成果が屋内環境下や屋外において構造物近傍で飛行するドローンで活用されることを期待しているという。なお、この研究成果は2023年9月11日〜14日に開催された第41回日本ロボット学会学術講演会および2023年10月7日〜8日に開催された第66回自動制御連合講演会において発表された。

研究のポイント

気流の吹上げと天井吸着を維持した直線移動や旋回が可能な機体の開発に成功天井吸着飛行によって約30%の消費電力削減効果を確認気流の吹上げを利用することで、安定飛行を妨げる気流の乱れを抑制

概要

作業員の負担軽減を目的とした建設現場での小型ドローン活用が急速に拡大しているが、作業員のアクセスが困難な建築物の天井裏やピットなどの狭所空間では、ドローン近傍の上下に存在する壁面による天井効果および地面効果など、壁面とプロペラ気流の干渉によって安定した飛行が難しく、需要に反してドローンの活用が遅れている。

限定的ながら狭所空間向けとして実用化されている手のひらサイズの「マイクロドローン」では、ペイロードが小さくバッテリー容量が不足しているため、作業員の代替として十分な調査・検査時間を確保できない問題を抱えているという。

同研究では、これらの課題解決に向けて、これまで機体上部に構造物（上壁）がある場合にドローンの安定飛行を妨げていた天井効果を積極的に利用した天井吸着移動型ドローン（図1）を開発した。

図1 天井効果を利用した天井吸着移動型ドローン
左：（b）吸着直線移動例　右：（c）吸着旋回例

図2に屋内飛行試験で確認された吸着直線移動と吸着旋回例を示し、図3（a）および（b）に機体近傍に障害物が存在しない大気中でホバリングしている場合と天井吸着飛行時のプロペラ回転数と消費電力の時間変化をそれぞれ示している。天井吸着時の方がホバリング時よりもプロペラ回転数が約10％低下することで消費電力が約30％低下し、連続飛行時間が約30％増大することが飛行実験で明らかとなった。

図2 屋内飛行試験例
左：（a）大気中ホバリング時（左）　右：（b）天井吸着時

図3 屋内飛行試験時の回転数および消費電力の時間変化（青実線：大気中ホバリング時、橙実線：天井吸着時）
左：（a）回転数　右：（b）消費電力

さらに、天井にプロペラが近接するとドローン近傍の気流が反転する現象（図4（b））が発生し、天井裏や空調のダクト内のように機体下部に壁面が存在する場合に作用する地面効果をキャンセルできることを確認したという。これにより、上下壁に囲まれ狭所空間での安定飛行と気流乱れの抑制、および飛行時間の長時間化を実現した。

図4 PIV解析で得られたドローンプロペラ近傍の速度ベクトル例
左：（a）気流吹き降ろし時　右：（b）気流吹上げ時

図5に開発機体を用いて建築物のピット内を調査するイメージが示されている。狭所空間では、オペレーターが機体を目視しながら操縦することは難しく、機体に搭載したカメラからの映像をリアルタイムで見ながら遠隔操縦する方式となることが予想されるため、これまではオペレーターには高度な操縦技能が不可欠だったという。

一方、開発した天井吸着型ドローンは、車輪駆動により天井面を移動し、気流が反転していることから、従来機体よりも操縦が容易になることが予想される。また、気流反転によって、吹き降ろし流れが生成されないことから、埃などが舞い上がらずに撮影映像の視認性が向上することも期待できるとしている。

図5 開発機体を用いた建築ピット内の調査イメージ
左：（a）大気中ホバリング時　右：（b）天井吸着時

研究の背景

東京都市大学および東急建設は、天井などの上壁面近傍で安全に飛行できるドローン技術を開発してきた。これまで、天井効果の作用によって推力上昇が確認されるプロペラ−天井間距離（以下：天井間距離）の範囲では、圧力回復孔を設けたプロペラを開発し、従来比で約20％の推力上昇抑制に成功している。

一方、同研究では天井効果を積極的に利用する技術を開発した。ドローンの飛行環境として狭所空間を想定し、より上壁に近接（天井間距離がプロペラ直径の10分の1よりも小さい）、天井効果が強く作用して気流が反転し、推力が急上昇する安定飛行が困難な領域での実用化が見込まれる天井吸着移動型ドローンの開発を試みた。具体的には、天井に吸着し、強く作用する天井効果による気流反転を利用することで、

長時間飛行高い飛行安定性撮影映像の高い視認性

を兼ね備えた新しい機体の開発に成功した。

研究成果の社会的貢献および今後の展開

上壁への吸着力が大きいことから、屋内環境下に留まらず、橋梁下などの横風による外乱の影響を受けやすい屋外構造物の点検・調査作業への利用も期待されるとしている。

共同研究者

東京都市大学理工学部機械システム工学科 講師　土方規実雄東急建設株式会社 技術研究所

研究協力者

東京都市大学大学院総合理工学研究科機械専攻　中村剛東京都市大学理工学部機械工学科　和田直人東京都市大学理工学部機械システム工学科　相田友瑚、横田祥吾

東京都市大学

東急建設