「業界や職種が決まっていないと転職活動がスタートできない」という大誤解【27歳からのキャリア戦略】
これまでより難易度の高い仕事を任されることが増え、ライフイベントも押し寄せてくるのが、20代後半から30代前半の時期。この年齢層にあたる方は、これからの仕事や働き方について、改めて思いを巡らせているのではないでしょうか。
一つの場所で5年以上経験を積むと、これまで学んだことや得られたものへの思い入れが強くなってしまうもの。今後のキャリアについてフラットに考えようと思っても、無意識のうちに自分の可能性を狭めていることも少なくありません。
そこで今回、転職サイト「リクナビNEXT」の編集長を務め、現在は独立してミドル世代向けの転職支援サービス・キャリア相談サービスを運営する黒田真行さんにインタビューを実施。「自分の可能性を潰さない、今後のキャリアの考え方」をテーマに、詳しくお話を伺いました。
転職活動では、希望業界・職種を無理やり絞る必要はない!
Q. 入社から5年を過ぎて転職を現実的に考え始めたとき、業界や職種、年収などの条件を整理するうえでのポイントはありますか?
まず、 「転職活動を始めるのに、希望する業界や職種、年収を明確にしておかなければ」という思い込みを捨てていただきたい です。たしかに転職サイトや転職エージェントに登録する際には、希望する職種や年収を最初に聞かれるケースが一般的ですが、それらを決めなければ転職活動ができないわけではありません。
もちろん、職種や年収にこだわりがあれば、転職活動の軸にすればいいのですが、そうでなければ無理やり条件を絞ろうとしなくても良いのです。少し抽象度を上げて、例えば「世の中にない価値を生み出したい」とか「人に感謝される仕事がしたい」というように、転職によって自分自身が得たいものを軸にする方法もあります。
「今まで営業をやってきたから、次の会社でも営業職に就くべき」などの思い込みは、自分の可能性を狭めてしまいます。若ければ若いほど、これからのキャリアには無限の可能性がありますから、わざわざ自分を特定の枠に閉じ込める必要はないはずです。
Q. 自分の可能性を決めつけず、「転職で何を得たいか」をもとに条件を整理しても良いのですね。
そうです。社会人として5年くらいの経験を積むと、「せっかくここまでやってきたのだから」と、それまで費やした時間や労力を惜しむ気持ちも湧いてくるのですが、実はその思いが自分の可能性を潰すリスクになってしまいます。
また、特に希望職種は変化が生じやすい条件でもあります。例えば総合職として転職した企業にそのまま長く勤め続けたとすると、当然いつかは異動や役職の変化が訪れます。するとそのタイミングで、自分の携わる業務内容が大きく変わることもあり得ます。
そのため、転職で得たいものについて「変化しやすい条件」と「変化しにくい条件」を分けて考えるのも手です。この2軸に加えて、「重視度の高いもの」「重視度の低いもの」という2軸を加えれば、4つの象限で考えることもできます。転職活動では特に「変化しにくく、重視度が高い条件」は何か、明確にしておくことが大切です。
Q. 「変化しにくく、重視度が高い条件」は、例えば「穏やかなメンバーに囲まれて働きたい」といった職場環境なども含めて良いのでしょうか?
人によって多様な価値観がありますから、どのような内容でも、それがご自身の中で強い希望であり、しばらくは変わらないと思える価値観なのであれば、「変化しにくく、重視度が高い条件」に当てはまります。
こうした条件を考えるうえでは、私が2005年にリクルートで行った調査結果も参考にしていただければと思います。個人が働くことに対して感じる「魅力因子」の分析を行ったのですが、魅力因子は大きく分けて「仕事・職務についての魅力因子」と「組織・職場についての魅力因子」に分類され、それぞれ32項目、全64項目で構成されていることが明らかになりました。
この調査結果では、1つの魅力因子に対して、1つの質問項目を明示しています。この質問に対する自分の答えを考えてみることで、ご自身が仕事に求める価値観を洗い出しやすくなると思います。
転職の目的は「自分が機嫌よく働き続けられる場所」を探すこと
Q. 自分が仕事に求める価値観をクリアにしてから、転職活動に臨むということですね。
先ほどお話した考え方を使って価値観を洗い出して、それに合致する職種候補群の中から、特に自分の考えや思いにマッチするものを3~5個選んで転職活動にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。自分に合いそうな仕事が、たとえ未経験の業界・業種だったとしても、ゼロベースでチャレンジすれば良いと思います。
Q. 実際に転職エージェントを利用する際に気をつけることはありますか?
ご自身の考えていることを、そのまま包み隠さずキャリアアドバイザーに話してみるといいと思います。力のあるキャリアアドバイザーであれば、みなさんの価値観にマッチする職種の可能性を提案してくれるはずです。逆に言えば、価値観や転職に求めるものを伝えても、希望業界や職種にこだわって話を進めてくる転職エージェントは、自分に合わない可能性があります。
転職活動を行う際は、複数のエージェントを利用して構いません。 複数のキャリアアドバイザーと話をして、本当に合うエージェントを見極めてください。転職はご自身が幸せになるために行うもの。キャリアアドバイザーの都合や力量に合わせて活動をする必要はないのです。
抽象度の高い条件や価値観、自分の思考の背景をエージェントに理解してもらったうえで、職種や業界の名前ではなく、企業のタイプや経営者のキャラクターなども踏まえて仕事を探してもらう。そんな転職活動の進め方もできることを、覚えておいていただければと思います。
Q. 最後に、転職を考えている読者に向けてメッセージをお願いいたします。
転職活動は、あくまでも手段です。転職で最も大切な目的は、「自分が『ご機嫌』で働き続けられる場所をいかに見つけるか」ということですから、希望業界や職種という些末な条件にあまり振り回されないでいただきたいと思います。
機嫌よく働き続けるための条件は、人によってさまざまなものがあるはずです。人間関係が大切だという方もいれば、収入やスキルアップできる環境が大切だという方もいらっしゃるでしょう。絶対的な正解はありませんから、ご自身の個性やキャラクターから考えたとき、どのような職場や働き方であれば居心地よく働き続けられるのかを、改めて考えてみてください。「希望業界や職種は、それらを構成する要素の一つにすぎない」と余裕を持った考え方をしていただけると、より満足度の高い働き方や仕事が見つかるのではないかと思います。
プロフィール
黒田 真行
ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役
1988年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、 リクルートエージェント HRプラットフォーム事業部部長、株式会社リクルートメディカルキャリア取締役を歴任した後、2014年にルーセントドアーズを設立。35歳以上向け転職支援サービス「Career Release40」を運営している。 2019年、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を開始。
代表著書 『35歳からの後悔しない転職ノート』『転職に向いている人 転職してはいけない人』