亀田誠治(東京事変)音楽をあわせることの高揚感。 #5
東京事変のベーシストであり、椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、山本彩、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど、幅広いアーティストのプロデュースやアレンジを手がけてきた亀田誠治さん。
実は、音楽活動のおおもとには、個性的な少年時代の経験があるのだとか。
「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載を全10回でおとどけします。
第5回は、はじめてベースラインを弾いたときのエピソードについて。
亀田
その後、喘息も治って、僕はだんだん元気で活発になっていきます。
それで小学校5年生の時かな、これ昭和の家庭とかでよくあるんですけど、この畳の居間にソファーとかを置いちゃったりするんですよ(笑)。
それである日突然、この畳の部屋のソファーの上に、タータンチェックの布ケースに入った、通販で送られてきたクラシックギターが置かれていたんです。
いわゆる雑誌の通販広告にある「誰でも弾けるクラシックギター」みたいなセットだったと思います。「あなたにも弾ける『禁じられた遊び』」みたいな教則本とともに、いきなり届けられて。
たぶん母が、自分でやりたいと思って買ったんだと思うんです。でもこのギターが、全然ケースから出されないまま、置きっぱなしにされているんですね。
僕はもう元気になってます。相変わらず、好きなレコードとかは聴いている。喘息の期間にいろいろ触れたので、僕はもう、ませてて。レコードをいっぱい聴くようになっていました。
そして小学5年生の頃のある日、部屋でビートルズの「青盤」をかけているときに、このギターが、ふと目に入ったわけです。
「何でこのギターが置いてあるんだろう?」そう思って、僕はケースから出して、ちょっとポン、ポンって音を鳴らしてみたんです。
‥‥そのときかかっていた曲がビートルズの「Hello Goodbye」。
なんですけど僕は、曲に合わせて、なんとこのギターで「Hello Goodbye」のベースラインを弾いちゃったんです。弾けちゃったの!
会場
おおー。
亀田
自転車とかスキーとかもそうですけど、子供の頃の「できた!」って、すごい手ごたえがあるじゃないですか。だから「あれ?」って思って。
母親のタータンチェックのギターです。「あなたにも弾ける『禁じられた遊び』」です。それが「僕にも弾ける『Hello Goodbye』」になっちゃった。「えーっ!」と思って。
ベースがどういう楽器なのかもわからないまま、僕はそこからいろんな曲のベースラインを追いかけるのが好きになりました。
たぶん、その姿を見た母が、僕がベースを弾いているとは思わず「誠治がギターに興味を持ちはじめた」と思った気がするんですね。クラシックギターの先生を紹介してくれました。
亀田
今度のギターの先生は、これもう、わかる人にしかわからないんですが、『青葉城恋唄』という歌を歌っていたさとう宗幸さんにそっくりの(笑)。すごく声の低ーい、髭を生やした優しい先生でした。
その先生が『カルカッシ・ギター教則本』という本を教科書に、僕にギターを教えてくれたんです。
小学生ですから、1時間ぐらいのレッスンです。はじめの40分ぐらいで基礎を教わって、また「強く」「弱く」とか指示されて、「じゃあ、来週はここまでね」なんて。
だけど最後、帰る前の5分間に、先生が自分のクラシックギターを自分の前に置いて、叩きはじめるわけです。「♪トンタタントトト、トンタタントトト」とかやって、「じゃあ誠治くんさ、これに合わせて好きなふうにギター弾いてごらん」って言われて。
とはいえ別にそんなに弾けないから、僕も開放弦を、ジャンジャカジャンジャカ弾くだけなんですけど。
でもそれで「リズムが鳴って合奏するの、楽しいー!」みたいな。そういうことを小学校5年生のときに味わいました。
そこからその先生のレッスンについたんですけど、小学校6年生のときにまた転勤があって、東京に引っ越すんですね。
だからそのギターの先生とも1年間くらいしか一緒にいなかったんですけど、すごくその合奏?「人と音楽を合わせるのはこんなに楽しいんだ!」っていうことを、この‥‥ねえ?さとう宗幸さん似だったこと以外にもはや記憶がないんですけど(笑)、その先生から教えてもらったんです。
[日比谷音楽祭2021にて]
(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「 僕と音楽。亀田誠治|(5)ベースライン・合奏との出合い。」)
亀田誠治(かめだ・せいじ)
1964年生まれ。
これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、山本彩、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど、数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。
2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。
2007年と2015年の日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。
2021年には映画「糸」にて日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。同年、森雪之丞氏が手がけたロック・オペラ「ザ・パンデモニアム・ロック・ショー」では舞台音楽を担当。
近年では、J-POPの魅力を解説する音楽教養番組「亀田音楽専門学校(Eテレ)」シリーズが大きな話題を呼んだ。
2019年より開催している、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽体験ができるフリーイベント「日比谷音楽祭」の実行委員長を務めるなど、様々な形で音楽の素晴らしさを伝えている。