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手、脳、心を、動かす。新時代のアート鑑賞「ヨックモックミュージアム」へ

Harumari

手、脳、心を、動かす。新時代のアート鑑賞「ヨックモックミュージアム」へ

南青山に2020年秋にオープンした「ヨックモックミュージアム」。コロナ禍のオープンとあって静かな船出となったが、ピカソのセラミック作品を間近で堪能できるなんとも貴重な美術館だ。天才の衝撃的な作品や映像を堪能するだけにとどまらず、臨床美術を取り入れたワークショップや、刺激された感性を使うカフェメニューなど、鑑賞者自身がアウトプットするクリエイティブな行動を喚起してくれる、まさに今、注目のスポットだ。

「臨床美術」という言葉が日本でも広がりつつある。

絵やオブジェなどの作品を楽しみながら作ることによって脳を活性化させ、ストレス緩和などのメンタルヘルスケアや感性教育などに効果が期待されている、芸術療法のひとつだ。ストレス社会のいま、その注目度は高い。

どこか「研究分野」での話のような感覚だが、そのアプローチを自然に取り入れている先進的な美術館が登場した。

日本でこういったアプローチでワークショップが行われている美術館は珍しい。その舞台は南青山の閑静な住宅地のなか、突如現れるヨックモックミュージアムだ。

ヨックモックのコーポレートカラーでもある鮮やかなブルーのタイルや屋根瓦。ピカソがセラミック制作の拠点とした南仏のリゾートを思わせる印象的な外観だ。

臨床美術をベースにしたアートセラピー・ワークショップ

ヨックモックミュージアムでは、臨床美術を基礎とした「YMアートセッション」と呼ばれるワークショップが定期的に開催されている。4月のアートセッションは「木漏れ日ボトル」と題された、コラージュ作品の制作だ。

講師となるのは臨床美術士の資格を取得したヨックモックミュージアムのスタッフだ。セッションに参加した初対面の人同士に自己紹介をすすめたりと、空気を和ませながら、ワークショップを進めてくれる。

今回のプログラムでは、シンメトリーな透明のボトルを透明素材のアクリルに描くことで、ボトルの透明感を表現。春のやさしい木漏れ日は、パステルカラーのトレーシングペーパーや和紙、新聞紙などを使ってコラージュする。「正確に、うまく描かなくていいんです!」という講師の方のアドバイスをもとに、それぞれが好きなように、思うがまま一心不乱に制作をすすめていく。

思えば紙を手で破いたり、糊で貼ったりなどしばらくしていなかった気がする。無心で何かに打ち込むのはシンプルに気持ちがいい。

「カンニングもOKなんですよ」といわれ、隣の人の作品を覗き込んだり、先生のお手本を眺めたりする。そうやって、いいなと思うアイデアを取り入れたり、違う感性に触れたりするのも自分に小さな刺激をくれる。

ヨックモックミュージアムのアートセッションが面白いのは、「作品を作るだけじゃない」ということだ。
制作後、参加者たちそれぞれが、仕上がった作品を自由に鑑賞し、思い思いに印象を語る時間が設けられている。
「これはどうしてこんな感じにしたんですか?」と作品工程について聞かれる。無邪気に作ったもののはずだが、それを言語化するのは意外と難しい。だが自分の行動と脳内の世界のつながりを言葉にする行為そのものが、デトックスしているような心地良さを感じる。喋りながら「ああ、自分はこういうことを考えていたんだな」と脳内が整理されていくようだ。

そして、違う相手の作品について感想を求められるが、素直に印象を伝えることができる雰囲気がこのアートセッションにはある。
だいたいの人はおそらく「褒めるポイント」を探すだろう。それ自体がとてもポジティブな行動だ。加えて、自分と違う感性を持つ人の脳内に想いを馳せる……これもきっと自分と他者との関係という観点において、非常に意味のある行為に思える。

ワークショップそのものがシンプルに楽しいのだが、アートセラピーの要素が盛り込まれていることによって、スッキリ、ポジティブな気持ちになるのを実感した。
これも臨床美術士がしっかりプログラムを組んでくれているヨックモックミュージアムならではだ。

もちろん、自分で制作した作品自体は持ち帰れるので自宅でもう一度鑑賞して楽しむこともできる。

誰がどう見てもピカソの世界、そのストーリーにどっぷり浸かる

舞台となっている「ヨックモックミュージアム」はピカソのセラミック作品に特化したミュージアムだ。ピカソといえば、モダンアートの巨匠。《ゲルニカ》や《アヴィニヨンの娘たち》《泣く女》などの抽象的な絵画が世界的に有名だ。アートに興味がない人でも、その名を知らぬ人はいない。

だがピカソが絵画制作の合間にたくさんのセラミック作品を制作していたことはあまり知られていない。本ミュージアムはそんなピカソの「立体作品」に魅せられたヨックモックの現会長であり、ミュージアムの館長でもある藤縄利康が精選した作品群を公開している。

絵画でなく立体のセラミック作品。だがその作品のどれをとっても「ピカソの作品だ」とすぐわかる。その多くを制作したといわれている南仏のリゾートを思わせる楽しそうなモチーフ、柄、色づかい。世界中から評価されるピカソの独特なクリエイティブは、絵画ではない作品でも健在なのだ。

実はピカソはまだ没後50年も経っていない。そのため、貴少ではあるが制作風景が動画で残されている。短いフィルムのなかからも天才のクリエイティブに触れられるのは必見だ。

企画展のエリアは、じっくり集中して作品を堪能できるようにと、ライトで作品を際立たせる暗い照明になっているのに対して、上階の常設エリアは自然光が柔らかく差し込む空間。その対比が実に面白い。

たっぷりと飾られたピカソの作品(こちらももちろんセラミック)とともに、時の流れを忘れさせてくれる空間を楽しめるようになっている。

叶うならば、ひとりきりで貸し切りで堪能したくなる、贅沢なスペースだ。ここが南青山だなんて、本当に信じられない。

洋菓子メーカーならではの高クオリティ。カフェでもアートする

ミュージアムの出口にあたる場所には、自然光が気持ちいい中庭を囲むようにカフェ「ヴァローリス」が併設されている。ちなみに先ほどのアートセッションもここの一部で行われている。

ヨックモックグループの中で最もハイエンドなブランドである「UN GRAIN(アン グラン )」からデリバリーされるスイーツはまるで宝石のようだ。さすが洋菓子メーカーが手がけるミュージアムカフェ。美しく繊細でおいしいスイーツが食べられるのが嬉しい。

そして、ミュージアムでピカソのクリエイティビティを全身で浴びた後におすすめしたいメニューが「art for café」だ。

ドリンクとアートキットがセットになったここだけのカフェメニュー。現在は「世界で1つだけのコースターを作ろう」と題し、コーヒーとスイーツを楽しみながら、“制作”ができる。

もちろんお土産として買って帰るのもいいが、ミュージアム帰りの感性が刺激された直後にトライするのもいい。

まるでピカソの家に来たかのような、小さな小さな美術館。その中には貴重なピカソの作品が溢れており驚きの連続だ。アートセッションに参加すれば、自らのクリエイティビティの向上や、今の自分のデトックスにもなる。不安の多いこの時代にぴったりのアートスポットだ。

南青山エリアは意外と静か。駅から歩いていくその時間も含めて、ゆっくりと、自分に向き合おう。ニューノーマルなアート鑑賞はもう、見るだけじゃない。

※編集部注釈
『臨床美術』『臨床美術士』は、日本における(株)芸術造形研究所の登録商標となっている

撮影:yoshimi

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