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KID FRESINOとカネコアヤノがボーダーレスな感性で紡ぐ都市のブルース【SPICE×SONAR TRAX コラム vol.5】

SPICE

KID FRESINO×カネコアヤノ

コロナ禍によって、日常の中に潜んでいた様々な分断が白日の下にさらされる中、今僕らが聴きたいのはボーダーを軽やかに飛び越えていく音楽だ。KID FRESINOとカネコアヤノによる「Cats & Dogs」は、そんなタイミングにおいてジャストな一曲だと言える。

少しだけ振り返ると、Fla$hBackS時代からすでにヒップホップシーンでは名を轟かせていたKID FRESINOが、ジャンルにカテゴライズされる存在ではないことを最初に知らしめたのは、盟友のC.O.S.A.とともに参加したサニーデイ・サービスの「街角のファンク」であった。それと前後して、バンド編成での楽曲制作をスタートさせると、Mockyの参加も話題を呼んだ『Salve』を経て、ペトロールズの三浦淳悟、Yasei Collectiveの斎藤拓郎、Answer to Remember/CRCK/LCKSなどの石若駿、Black Boboiの小林うてな、アレンジャーとしても活躍中の佐藤優介らが参加し、トラックメイクとバンドアレンジを同居させた傑作『ài qíng』によって、強固なオリジナリティを確立。その後は逆にAnswer to RememberやYasei Collectiveの楽曲に客演で参加するなどして、活躍の場をさらに広げていた。

そんなKID FRESINOが新曲でシンガーソングライターのカネコアヤノを起用したというのはもちろん意外性もあるにはあるが、近年の開かれた活動を思えば、そこまで驚くものではないはず(サニーデイの曽我部恵一も彼女を称賛する一人)。今回の楽曲は「(KID FRESINOが)敬愛する同世代のミュージシャンであるカネコアヤノに楽曲制作を依頼し、1年の歳月をかけて完成させたもの」とのことで、実際昨年11月にリキッドルームで開催されたKID FRESINOのワンマンライブにカネコがサプライズで登場して、この曲を披露したことが一部で話題となったが、遂にその曲が音源化。ラッパーでも、R&Bのシンガーでもないカネコの起用は、現在のKID FRESINOのスタンスを改めて明確にするものだ。

サイケがかった音像に導かれるように、平熱のテンションで始まるラップパートと、軽快な歌のパートに続き、コーラスでアコギのストロークとともにカネコが伸びやかな歌を聴かせる構成は非常にポップス的。演奏は基本的に『ài qíng』のメンバーと変わらないが、ベースは三浦ではなく、カネコのバンドメンバーでもあるGateballers/ゆうらん船の本村拓磨が担当している。そしてもう一人、本作に大きな貢献を果たしているのが石若駿だろう。KID FRESINOの歌パートでは、高速でハイハットを刻んでマシンビート的な側面を見せつつ、コーラスパートではカネコの歌にしっかり寄り添ってリズムを刻んでいて、これはCRCK/LCKSはもちろん、くるりのサポートや、自身のプロジェクトであるSongbookでポップス寄りのアプローチも見せる彼ならでは。石若もまたKID FRESINOやカネコとは同世代であり、彼らのボーダーレスな感性がオリジナルな楽曲に昇華されている。

「Cats & Dogs」というタイトルは、「土砂降り」を意味する慣用句である「It’s raining cats and dogs」 から取ったそうだ。それに加え、猫好きで知られ、昨年リリースされた『燦々』でも自らの飼い猫をジャケットに登場させていたカネコを意識したものでもあると考えられるが、言葉の面でも2人の世代意識と相性の良さは強く感じられる。夏の暑さが陰りを見せ、秋の訪れを感じさせる雨の一日、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま過ごす白昼夢のような時間が綴られる「Cats & Dogs」は、まさに都市のブルース。〈今日は絶対に頑張らない/パジャマのままでいさせてよね/都市開発は進んでく/君のこと嫌いにならないように頑張ってる こちらは〉というカネコの歌詞は、本作を象徴するパンチラインだ。

KID FRESINOは『ài qíng』リリース時の取材で、自らのリリックについて「ネガティブではあってもバッドではない」と語っていて、本作からもそんなフィーリングは感じられるし、それはカネコ自身の作品の歌詞にも当てはまることのように思う。ネガティブが滲み出ているのは、シリアスな現実と真摯に向き合っていることの表れと言えるが、近年のカネコの歌詞からは一筋のポジティブさも感じられ、それは今回の曲からも感じ取れるもの。〈もうこんな時間になるんだね なるんだね/1日が終わってしまう〉という最後のラインは、「また1日を無駄にしてしまった」という後悔のようでもあり、「明日はきっといい日になる」という願いのようにも聴こえ、絶妙な温度感で楽曲を締め括っている。

緊急事態宣言はひとまず解除されたものの、すぐに外を飛び回れるわけではなく、梅雨に入って雨の日が増えたこともあって、今も部屋の中で、ベッドの上で、モヤモヤとした気持ちを抱えながら日々を過ごしている人は多いだろう。「Cats & Dogs」はそのモヤモヤを吹き飛ばそうとするのではなく、それを抱えたまま生きることを肯定してくれる。

文=金子厚武

KID FRESINO「Cats & Dogs feat. カネコアヤノ」

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