松本幸四郎「傑作を傑作としてこの時代に」『三月大歌舞伎』への意気込みを語る - Yahoo! JAPAN

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松本幸四郎「傑作を傑作としてこの時代に」『三月大歌舞伎』への意気込みを語る

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松本幸四郎

松本幸四郎が出演する『三月大歌舞伎』が、2020年3月20日(金・祝)~26日(木)にかけて歌舞伎座での上演が予定されている(※新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、3月2日(月)~19日(木)まで公演中止が決定)。演目は、昼の部に『雛祭り』『新薄雪物語』、夜の部に『梶原平三誉石切』、『高坏』、『沼津』。

幸四郎は『新薄雪物語』、『高坏』、『沼津』に出演する。注目は夜の部『沼津』。本作は昨年9月にも、中村吉右衛門による呉服屋十兵衛で上演された。その際、公演期間中の3日間、体調を崩した吉右衛門に代わり急きょ十兵衛役をつとめたのが幸四郎だった。幸四郎は『三月大歌舞伎』、いよいよ本興行での初役として十兵衛に挑む。開幕を前に行われた取材会で、各演目への意気込みや代演の時のエピソードを聞いた。

これぞ大歌舞伎『新薄雪物語』

──昼の部では『新薄雪物語』に出演されます。吉右衛門さんの幸崎伊賀守、仁左衛門さんの園部兵衛にはじまり、大変豪華な顔ぶれです。

これぞ大歌舞伎ですね。このような一座で、しかも通しでなければできない時代物ですから、上演回数はあまり多くありません。今回は兵衛の息子、左衛門をつとめさせていただきます。この演目に初めて出た時の役は、刎川兵蔵でした。その後、兵衛を仁左衛門のおじさまに教えていただきやらせていただき、今回は兵衛の息子です。親の役をやった後に子の役という順番は、なかなかありません。上演記録だけをみると、間違いじゃないかと思われそうです(笑)。

歌舞伎座公演に休演日が設定されたことについては「ちゃんとお休みしてくださいと言われています」「せっかくだし何かやりますか?お客さん1人の貸切歌舞伎鑑賞会とか」と幸四郎。

──左衛門を演じる時は、どのようなことを意識されますか?

左衛門は話の中核にある人物です。存在感をもち、彩りとして若い男の華やかさ、情熱的な恋、親への思いを出せればと思います。左衛門と薄雪姫は謀反の疑いをかけられますが、疑われるような人物ではまるきりありません。薄雪姫のことが本当に好きだという気持ちと、親への申し訳なさをもちつづけ、まっすぐな人物としてやれたらと思います。

下駄でタップ『高坏』とトレーニング

──夜の部では『高坏』と『沼津』に出演されます。『高坏』は次郎冠者が酒に酔った足どりで、タップダンスのように下駄で踊る振りがユニークな演目です。

日本でタップダンスが流行した頃に、歌舞伎舞踊に取り入れられた趣向の踊りですね。初演は昭和8年ですが、それ以来くり返し上演されています。『高坏』という一つの芸をお見せするものとして勤めたいです。軽やかさや楽しさも必要ですが、まずはしっかり踊れた上で、下駄をはいてタップのように。まじめに楽しいものをと思います。

──三月も昼夜で複数の演目に出演され、ハードなスケジュールですが、体づくりや体調管理のために取り組んでいることはありますか?

ジャイアンツのことを考えていると元気になりますね!(一同、笑)あと最近は、自宅に健康器具が揃ってきました。でもエアロバイクは厳しいです。こぎはじめて20分ともちません。景色が変わらないから飽きてしまって、今では飾りになっています。体幹を鍛えるマシンや自力で開脚する器具も買いました。これでいつでも鍛えられるという安心感で飾ってあります(一同、ふたたび笑)。シックスパッドは(妹の松)たか子からもらったものを充電中ですね、ずっと。自宅がジム化しているんです。実際に使っているのは……低周波マッサージくらい。

──(笑)『高坏』も含め、日本舞踊は体幹が重要だと聞きます。

体幹ですね。そこの戦いなんです。舞踊を毎日やっていればトレーニングはいらないんじゃないか。でも買ったんだからやった方がいいんじゃないか。でも歌舞伎を6歳からやってるしいらないんじゃないか。この葛藤です!(笑)

『沼津』十兵衛では色気と漢気を

──夜の部『沼津』では、「実は親子」という設定の役を、実の親子である白鸚さんと幸四郎さんでつとめます。

父の平作で十兵衛をやらせていただくことになるとは、夢にも思いませんでした。どのお芝居も大切ですが、『沼津』は特に一瞬一瞬を大事に過ごすことができればと思います。親子で平作・十兵衛をできるのは稀なこと。もちろん稽古の中で作っていくものではありますが、本当の親子でないとできない沼津をお見せできればと思います。

『沼津』呉服屋十兵衛=松本幸四郎

──呉服屋十兵衛を演じる時は、どのようなことを意識しますか?

の役は叔父(二代目吉右衛門)に教えていただきました。十兵衛は商人ですが、漢気のある人物です。2時間の大作の前半で色気を。そして話が進む中で、漢気ある男の部分を出していきます。

同時に、十兵衛は常に「親に会いたい」という気持ちをもつ男だとも教わりました。平作が登場して十兵衛に「荷物を持たせてくれ」と言った時、十兵衛ははじめ断ります。当時、街道沿いではこのような人足に声をかけられることはいくらでもありましたから、そっけなくあしらうんです。けれど「親父もこのくらいの年だろう」と思ったことから気持ちが変わり、平作に荷物を持たせることにする。「親に会いたい」という気持ちがありつづけるんですね。

──十兵衛という役、沼津という作品に、どのような魅力を感じますか?

傑作だと感じています。序幕をどれだけ楽しく賑やかにできるかで、後半の悲劇にもっていけるかが変わります。平作を親と知らない時の十兵衛は、面と向かって平作と喋っているし笑ってもいたのに、実の親と分かってからは、提灯をもらう時に一瞬見るだけ。会いたいと思いつづけてようやく会えたのに、会ったことで悲劇になる。親と分かるまで、分かった時、分かってからのドラマですね。悲しい運命ですが、素敵な芝居です。親子に強い絆があるということを強く感じます。

──平作をつとめる白鸚さんも、今回初役です。喜寿を迎えられても、変わらずエネルギッシュですね。

白鸚になるにあたっては、父も考えるところがあったと思います。名前が単純に変わっただけではないように見えました。幸四郎としてやってきたものを、ある意味では新たに白鸚として。今またスタートをしている。そのエネルギーは凄いものだなと、漠然と感じます。

傑作を傑作として、この時代にみせる役目

──昨年9月の秀山祭についてお聞きします。公演期間のうち3日間、吉右衛門さんに代わり『沼津』の十兵衛役をつとめられました。代役を引き受けた時、どのようなことを考えていましたか。

歌舞伎は、厳密にアンダースタディ(万が一に備えて代演の準備をしている役者)が決まっているわけではありませんが、一座で何かが起きたときでも、千穐楽まで無事に終えなければいけません。話を聞いた時には、さすがに驚きましたが、でも、十兵衛は、いつかはと目指す中でも上位の上位に入る憧れの役です。いつでもできなければいけないという思いは常にあり、その意識があれば勉強も必要になります。これはきっと、どこの世界でも言えることですね。

──日ごろからの積み重ねですね。

その後すぐに、叔父は復帰しました。「もう代役をしたくない」という意味ではなく、これはもう二度とないことです。叔父はいつも元気に、これからもずっと舞台に立ちつづけていただく存在です。その意味で一生に一度のことだったと思っています。

──そのような経験を経て、本興行での十兵衛役です。

話を聞いた時は、ただただ嬉しかったです。決して「自分がそこにたどり着いた」という気持ちではなく、「実現するんだ」という嬉しさです。代役でやらせていただいたことは忘れていました。

──プレッシャーはありますか?

この傑作を傑作として、この世代この時代に見ていただく役目を担ったということ。憧れていた役であり、縁ある演目でもある。叔父が大事に大事に受け継いできたものを教えていただき、やらせていただくという責任もある。でもやはり、こんな幸せはないという思いが大きいです。その幸せを噛みしめられるよう、稽古で鍛え舞台に立てるといいですね。十兵衛をやらせていただけることも、父が平作をやり、十兵衛を僕にやらせることも、本当に嬉しいです。

長男の染五郎が最近ベースを、長女が電子ドラムを始めたこと、さらに染五郎が三味線の稽古を始めていることに触れ、「そこに鼓で入り込んでいって…。僕も松本流家元ですから!」と笑顔を見せる一幕も。

幸四郎が出演する『三月大歌舞伎』は、歌舞伎座にて2020年3月20日(金・祝)~26日(木)の開催だ。

※『三月大歌舞伎』は、2月26日(水)、安倍首相の要請を受け、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、3月2日(月)~19日(木)まで公演中止が決定いたしました。該当期間チケットの払い戻しに関しましては、公式ホームページをご確認ください。

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